やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている   作:ichika

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比企谷八幡は迫られる 其の三

noside

 

京華がムエルトに助けられてから数十分後、八幡達はアストレイの店内に駆け込んだ。

 

その理由としては、ムエルトが逃げ込めと勧めたためでもあり、一夏達に情報を伝える為でもあった。

 

その発案者であるムエルトは、侵略者呼ばわりされた瞬間に八幡達とは無関係であると言う事を示すため、一目散に何処かへ走って行ってしまい、今は行方さえ分からなくなっていた。

 

「酷い事になったな・・・、いや、致し方ないか・・・。」

 

アストレイの店内に、八幡達からの報告を聞いた一夏の沈痛な言葉が、何処か虚しく響いた。

 

大まかな事は把握したとはいえ、彼自身、受け止めきれない心情があるのだろう。

 

無理も無い。

何が正しい事かなど分かり切っている筈なのに、偏見で物事を歪めてしまう。

 

それが人間のやる事と言われている様で、元人間である彼も、自身の過去に思う処があるのだろう。

 

「まさか、京華ちゃんが助けられるところ、見られちゃったなんて、ね・・・。」

 

一夏の言葉に同意しつつ、京華を寝かしつけたシャルロットが表情を顰めて呟いた。

 

その言葉に、八幡と沙希、京華への非難や、ムエルトの行動を否定する様な色は無い。

だが、それでも遣る瀬無い感情を堪え切れないと言わんばかりの言葉だった。

 

「すみません・・・、俺が、もっとしっかり見ていれば、こんな事には・・・。」

 

京華を見ていなかったせいでムエルトが謂われのない迫害を受ける事と成り得る状況に責任を感じているのだろう、八幡は自分を責める様な表情で頭を垂れた。

 

「その程度の不注意なんて誰だってある、ムエルトも見られる事を覚悟で京華ちゃんを助けたんだ、善意だけでも素直に受け取って置け、責任を感じる位なら、な・・・。」

 

そんな八幡の頭を軽く撫でつつ、コートニーは少しだけ柔らかい表情でフォローしつつ、それでも気にかかる事が外にあるのだろう、意識は外に向いていた。

 

この店も、ムエルトを一度とはいえ店内に招き入れている。

何処で誰に見られて、関係を曲解されて宇宙人のアジト扱いされる恐れだってある。

 

そうなれば、恐怖に目が曇り、それに煽られた暴徒が雪崩れ込んでくる可能性もあるのだ。

 

それを退ける事、排除する事は彼等にとって何の労力にもなりはしないが、ウルトラマンと言う存在が、人間の姿で生活していると露呈する事も避けなければならない。

 

何せ、一般人とアストレイのメンバーの身体能力の差は凄まじいものが有り、手を出せば相手は半殺し程度では済まないのだから、そこから彼等も侵略者扱いを受ける訳にはいかないのだ。

 

「今戻った、町中宇宙人がいる、怪獣が出るって大騒ぎだ。」

 

重い空気が支配する店内に、偵察に出ていた宗吾達が戻ってくる。

 

店の東西南北それぞれに出向き、市内の様子を見て来たのだろうが、彼等が想像するより早く、噂は広まっているらしい。

 

「悪い方向に話が歪曲されて伝わっちゃってる、警察にも通報が入ってたみたい。」

 

宗吾の報告を裏付けるように、リーカもまたタメ息を吐きつつ状況を報告していた。

 

既に公的機関にまで事態が伝わったとなると、すぐに機動隊に準ずるものが動き出すかの言うせいだってあるのだ。

 

「最悪、ですわね・・・、あの時、断ってしまったから、でしょうか・・・。」

 

「まぁ、断ってなかったら京華ちゃんは間違いなくあの世逝きだったわけだし、どっちが正しかったか何て分からないわよ。」

 

ムエルトが理由の無い悪意に晒されているのは、京華を助けた善意のせいだと考えてしまえば、セシリアは彼の提案を断ってしまった自身の言葉を思い返して苦い顔をする。

 

しかし、玲奈は絶対的に正しい判断など無いと否定した。

 

もし、あの時ムエルトを封印していたら、京華は間違いなくトラックに轢かれるか撥ねられるかして命を落としていた筈だ。

どちらが正しかったなど、誰にもわからないのだから。

 

「でも、まずはムエルトの行方を捜しましょう、彼を保護し、県外へ逃がすのです。」

 

しかし、今の状況を静観している訳にもいかないと、セシリアはメンバー全員を見渡し、今すべき事を伝える。

 

「了解、八幡君と沙希ちゃんは一旦家に戻れ、彩加君や大和君達にも伝えておいてくれ、協力を仰ぐと。」

 

「「は、はい・・・!」」

 

宗吾はその指示に頷きつつ、八幡と沙希に一旦帰宅するように伝えた。

 

今は大人しくしていて、アストレイでも手が余る様な状態になれば、連れて逃げるのは彼等の役目という事を、暗に感じ取ったのだろう。

 

沙希はシャルロットの膝の上で眠っていた京華を負ぶり、八幡と共に自宅への帰路に就いた。

 

彼等の気配が店から遠退くのを確かめたアストレイのメンバーは表情を硬くし、向き合った。

 

「また、この世界でも、か・・・。」

 

一夏がどことなく悔しい様な、悲しい様な表情を見せるが、何処か諦めた様な声色で呟いていた。

 

まるで、またしても見たくもないモノを見せられたと言わんばかりの呟きに、周りのメンバーも唇を噛み締めた。

 

「迫害される謂われも、罪も無い者が、宇宙人と言う理由だけで迫害され、殺される、か・・・。」

 

「何度見ても、何度経験しても嫌な事はあるものだな・・・、本当に、嫌にもなる・・・。」

 

宗吾とコートニーも、彼に同意するように頷きつつも、苦いモノを堪える様な表情をしていた。

 

それだけ、過去に見て来た地球人と異星人の間に起こった悲劇を、何度も何度も、目の前で経験してきたが故の苦しみが、彼等にはあった。

 

「数えてみる?その数だけ、まーたアタシ等人間嫌いになるけど?」

 

「やめようよ・・・、センセイにどんだけ叱られて、どんだけ説得されたと思ってるのさ。」

 

玲奈の皮肉に、シャルロットはげんなりとした風に答えた。

 

どれ程の数の裏切りと、どれ程の数の悲劇に直面し、それでも尚、今こうして人間たちと共に戦えるか、彼等の想いがそこにはあった

 

「でも、友達助けるのに、そんな理由はいらない、でしょ?」

 

そんな昏い雰囲気を断ち切らんと、リーカは友達だから助けるという事を提案する。

 

地球人と異星人の関係を取り持つのは自分達の役目では無い、今はただ、友を優先して助けるべきだと。

 

その解を知っているからこそ、一夏達の瞳に意志が戻り、皆一様に頷き、それぞれのバイクのキーを取って店外へと駆けていった。

 

過去の事など関係ない、今すべきは友を救う事。

 

悲劇を、自分達が訪れた別の地球に起きた事を、この地球でもさせないと誓って・・・。

 

sideout

 

noside

 

「と、言う事だ・・・、見かけたら、すぐに先生や俺達に連絡してほしいんだ。」

 

その夜、八幡は大和と連絡を取り合っていた。

 

帰宅後すぐに、八幡は彩加や大和、南にメッセージを送り、事の詳細を伝えていた。

 

事情を知っていて、尚且つ噂を聞いていた大和は、自分に出来る事はないかと、律儀に八幡に電話を掛けてきていたのだ。

 

『分かった、俺の方でも出来る限りやってみるよ、戸塚君もそう言ってたし。』

 

「お前、ホントに彩加と仲良くなったなぁ、まぁ、当然か。」

 

大和の言葉に、そう言えばコンビで行動する事多かったよなぁと思う八幡であったが、協力体制が強化されるのは悪い事では無いし、交友関係があるならそれでいいかと流した。

 

『まぁ、俺は兎も角、南さんが如何思うかだよね、彼女、まだ操られてから日が浅いし、警戒心は俺より強いと思うよ?』

 

「そうだよなぁ、まぁ、フォローは頼むよ、お前なら何とかしてくれるだろ?」

 

『簡単に言わないでくれよ、いや、フォローするつもりなんだけどさ。』

 

南へのフォローは必ずすると言う大和の言葉に苦笑しつつ、八幡はそれならいいと言い、一言二言言葉を交わして、どちらからともなく通話を切った。

 

携帯をベッドに投げ出し、自室の窓を開けて外の様子を窺った。

 

今だ降り続く雨が叩き付けられる音に混じり、時折サイレンも聞こえてくる辺り、警察などの組織が動いている事が分かった。

 

「一体、どうなるか・・・、ギンガ、俺は何をすればいい?」

 

懐からギンガスパークを取り出し、何時かと同じ様に問い掛けた。

 

「どうする事が、正解なんだろうな・・・?」

 

師の意向を無視してでもムエルトの依頼を受けるべきか、受けざるべきか。

 

どちらに転んでも、多かれ少なかれ悲しみやしこりは残る。

 

だとすれば、自分は何をすべきか、二者択一のはずなのに、こうも難しいかと苦笑する以外なかった。

 

だが、問いかけたとしても、答えは返ってくると期待している訳では無い。

だが、それでも問わずにはいられなかったのだ。

 

自分が前に進むためにも、その答えが知りたかったのだ・・・。

 

sideout

 

noside

 

『比企谷君からはムエルトさんを見付けたら教えてくれ、だってさ、って、もう聞いてるかな?』

 

「うん、さっきウルトラサインで大まかに話はしたよ、でも、大変な事になっちゃったね・・・。」

 

八幡が物思いに耽っていた頃、彩加は、八幡との通話を終えた大和と電話していた。

 

話の内容としては、八幡と話していた内容とほとんど同じだったが、既に大まかな事は八幡や沙希から聞いていたのだろう、簡単な確認だけに留まっていた。

 

『そうだね・・・、川崎さんの妹さんを助けるために正体を現したって言うんだから、何と言うか、救われないよね・・・。』

 

「そう、だね・・・、でも、ムエルトさんは、後悔してないと思う、思いたいな・・・。」

 

大和の言葉に頷きつつも、彩加は自信なさ気に呟いた。

 

無理も無い。

図らずも人間を助けてしまった事で、それ以外の人間から迫害を受ける事となっているのだ。

 

しかも、その助けられた人物が、親友の妹であるのならば、尚更何とも言えない感情が渦巻いて当然だった。

 

『俺もそう思う、思いたい・・・、だから、どうにかしてムエルトさんを助けよう、それが、俺達が出来る恩返しだよ。』

 

「ははっ、八幡と沙希ちゃんが聞いてたら泣いて喜びそうだね。」

 

八幡と沙希の間の事柄を、そこまで恩義に感じてくれていると知り、彩加は大和に対して感謝の念を抱いた。

 

まるで自分が受けた恩のように、それを受け止めている大和の人の好さに、彼自身救われているのだろう。

 

何せ、大和は一度、異星人の魔の手に掛かり、怪獣化させられた経験があり、それを他の異星人に向けるかも知れないと言う、彩加なりの懸念があったのだろう。

 

それが晴れて、安心したと言わんばかりに、彩加の表情にも光が指した。

 

その後、今後の対応についてもう一度確認した後、彼等はどちらからともなく通話を切った。

 

彩加は、自身の携帯を机に置き、代わりにエクスデバイザーを手に取って、中にいるXに語りかけた。

 

「ホント、どうなっちゃうんだろうね・・・。」

 

『あぁ、私も何度か、異なる惑星に住む種族同士の争いを見た事はある、だが、こうも一方的に排除しようとしているなんて・・・。』

 

彩加の呟きに、Xも思う処があるのだろう、嘗て自身が経験してきた事を語りつつも、今の様な事はあまり無かったと言葉を濁した。

 

いや、無理も無い。

Xが見て来たのは、それこそ侵略戦争であり、害意を持った異星人を、責められた星に住む生命体が迎え撃った、いわば戦争の様なモノだった。

 

無論、戦争と言うだけでとんでもない事態だが、今回の件は、戦争では無い。

 

害意も無く、ただ地球を訪れただけの異星人が、異星人と言う理由だけで迫害の対象とされ、謂われのない責めを受けている状態だ。

 

「これじゃあ、僕はウルトラマンとして、どうすれば良いのかな・・・?」

 

それ自体に憤りを感じ、その先に待つ結末に気付いていた彩加は、自分は如何すべきなのだと問う。

 

もし、もしもだ。

この先、ムエルトが地球人の手に掛かり、命を落とす様な事が有れば、地底に眠るゾアムルチは活動を始め、この街を破壊し、多くの命を奪う事となるだろう。

 

しかし、アストレイのメンバーは、その怪獣と戦う事を是とするだろうか?

 

それなりの付き合いで、そして、鍛えて貰ったからこそ理解も出来るのだろう。

彼は、彼等が仲間に対して非常に義理堅い、そして、仲間に手を出せば方法の如何を問わず、報復やそれに準ずる行動を取ると、心の何処かで理解してしまっていたのだ。

 

だから、もしムエルトが命を落とせば、一夏達は躊躇いなくゾアムルチの行う破壊活動を黙認するだろう事が想像できてしまった。

 

そうなったとき、自分はどう対処すれば良いのか、師の思惑と反した行動を取ってしまって良いのか、何が正解なのか分からなくなってしまったのだ。

 

『彩加、君は君のやりたいと思った事をすれば良い。』

 

そんな彩加の惑いを、Xは肯定しながらも諭す。

 

その声は、これまでよりも優しく、それでいて頼もしいモノに聞こえた。

 

『もし、彼が命を落とす原因が地球人に在ったとして、護りたくないと思うなら私とユナイトしなければいい、今回の件だけという事も、私は認める。』

 

「X・・・?」

 

護りたくないなら護らなくていい、それは、ウルトラマンが地球人を見放す発言とも取れたため、彩加は驚いてその真意を問う。

 

何せ、Xは純粋なウルトラマンであり、一夏達アストレイとは異なった存在だったからだ。

 

一夏達がウルトラマンになった経緯は知らないが、彼等は元は人間であったと言う。

 

故に、地球人嫌いと言われた事からも、地球人へ見切りをつけるのも容易だった。

 

しかし、Xはそうではない。

 

数カ月前、千葉村であった虐めの件にも心を痛める様な様子を見せている辺り、地球人の事を本当に信頼し、愛している様子が伝わって来た。

 

だから、その発言が信じられなかったのだ。

 

『君が、自分が信じられない物の為に戦う必要は無いんだ、私と共に戦う事も義務では無い、ただ私が頼んでいる事だ、よっぽどの事で無い限り、私は戦いを強いるつもりはない。』

 

その疑問に、Xは真っ直ぐ答えた。

 

義務では無い、戦うための真っ直ぐな想いがあるから戦える、そう伝えていた。

 

彩加も、その言葉の真意に気付いた様だ。

 

『義務では無く、ただ、護りたいという想いを支えに戦うと良い、それがきっと、虹の光となって我々を導いてくれる筈だ。』

 

だから、義務では無く、自分が護りたいモノの為に戦えと、Xは彼の背を押した。

 

ウルトラマンだからこそできる寄り添い方に、彩加は思わず笑みを零した。

 

どう戦うか、それは自分で決める事が出来る、そう言われていると気付けたのだろう。

 

「分かったよ、X・・・、もう少し、ううん、その時が来るまでずっと考えてみる、まだ、何が正しいか分からないから。」

 

『あぁ、それで良い、だけど、後悔だけはしないようにな。』

 

「ありがとう。」

 

彩加は、Xに礼を言いつつも思考を続けていた。

 

この先、どういう展開が待ち受けていても、自分の想いに従った行動が取れる様にと。

 

それが、必ず悔いの残らない唯一の方法だと、信じて・・・。

 

sideout

 




次回予告

日に日に悪化していく街の悪意に、遂にムエルトが絡め取られようとしていた。

その時、八幡達が取るべき行動とは・・・?


次回やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている

比企谷八幡は迫られる 其の四

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