やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている 作:ichika
noside
突然訪れた客人、メイツ星人ムエルトの依頼に、アストレイの店内の雰囲気が一気に凍り付く。
新人たちや普通の人間でしかない大和と南は兎も角、歴戦の覇者である一夏達アストレイのメンバーも皆、一様に驚愕の表情を浮かべていた。
そんな彼等の心情を代弁するように、外の雨は勢いを増して降り注ぎ、叩き付ける様な音を立てていた。
「どういう、事だ・・・?俺達に友達を封印しろ、だと・・・?」
漸く衝撃から立ち直ったのか、一夏は震えを抑えきれないままに問いかける。
戦闘になれば非情に徹する事が出来る彼だったが、それでもこれまで、友人を手に掛けると言う業はこれまで犯した事の無い所業だった。
それを犯してくれと依頼されているのだ、幾ら律しても心中は穏やかではないだろう。
「言葉の通りです、私の意識を残したまま、闇の支配者が施した、スパークドールズへ私を封じて下さい。」
「こ、答えになってない・・・!り、理由を教えてよ・・・!」
平然と答えるムエルトに、玲奈もまた震えながらも理由を問う。
見れば、アストレイのメンバー全員が皆、一様に衝撃を受けた表情をしており、その理由を知りたがっていた。
友がそんな事を頼む理由を知りたいのだろう、そうでなければ、そこまで彼等は取り乱さないのだから。
「・・・、理由、ですか・・・、貴方方でも、まだ、気付いておられないのですね・・・。」
「何の事だ・・・?」
一夏達アストレイでさえ気付いていないか、と少々落胆した様に話す彼の言葉に、コートニーは腑に落ちないと言わんばかりに問い返す。
答えを知らねば動けないのは当たり前、だが、それを教えてくれないのも気味が悪いのだろう。
「この世界に、怪獣が生まれました、この宇宙に存在しなかった怪獣です・・・、恐らくは・・・。」
「なに・・・?だが、それが何の関係が・・・?」
怪獣が生まれてしまった事は、言い方は悪いが想定の内だった。
この世界には闇の支配者、ダーク・ルギエルの存在もあり、元々住んでいた生物が何らかの拍子に怪獣化する可能性は、多少なりともあった。
それに加え、アストレイのメンバーは、別の宇宙で、その宇宙の地球に住む生物が人間のエゴのせいで狂暴化、怪獣化した事例を何度も見て来て、必然とも考えていたのだ。
だが、それをムエルトが懸念する事かと問われると、否と首を傾げるモノだったに違いない。
何せ、生まれてしまったなら、それが害を齎すモノなら排斥すればいいし、そうでなければ追放というやり方がある。
取り立てて、ムエルトと結びつける要因が見当たらないのだ。
「その怪獣は、ゾアムルチです・・・、別の宇宙では、我々メイツ星人が生み出した怪獣なのです。」
その言葉に、ムエルトは痛みを堪えるように話す。
ムエルト自身も望んでいない、雰囲気がそう物語っていた。
「そんな・・・、まさか・・。」
その意味をはっきり理解したリーカが、苦いモノを堪える様な表情を隠さずに呟いた。
八幡達新人には判らない事だったが、一夏達はその意味を知っていた。
ゾアムルチの基となった怪獣、ムルチは地球の環境汚染が生み出した怪獣であり、その地球を調査の為に訪れていたメイツ星人とも関わりがあった、ある意味で関わりが深い怪獣だった。
その話の真相は、メイツ星においても禁忌扱いとなり、歴史の闇に葬られていたが、一夏達はムエルトの協力もあり、その真相を調べ、全て知っていたのだ。
それが、彼等の絶望を深めたことは想像に難くなかったが、今は関係の無い事だった。
「だが、責任感じる事じゃない、この地球が生み出した怪獣に、メイツ星やお前に責はない。」
だが、それとこれとは話が違うと、一夏にしては珍しく、擁護の言葉を話す。
彼のいう事は、正論でしかなかった。
何せ、この地球に生まれたのは、この地球のゾアムルチであり、メイツ星が作り出した個体では無い。
メイツ星人がどうこう思う義理など、第三者から見ればないと言わざるを得ないのだから。
「そうじゃないんです、あの地球で起こった、同胞の悲劇をこの地球でも起こさない様に、私は出来る事をしたいのです。」
だが、ムエルトはそうではないと口にする。
彼もまた、真相を知っている者の一人であるし、
悲劇を繰り返させない、彼もまた、出来る事をしようとした。
「だから、ゾアムルチを自分の力で封じて、それを永続化させるためにスパークドールズにしてほしい、って事で言いのかな?」
スパークドールズ化を望む理由が分かったシャルロットは、何処か憂いを帯びた声色で尋ねた。
本音としては、理由が分かった所でやりたくはないが、それでも断る理由もあまりないというのも事実だった。
「はい、どうか、過ちが起きてしまう前に、私を封じて下さい、そうでないと・・・。」
続く言葉を呑み込むムエルトは、苦い表情のまま俯いた。
彼も、この地球でもあの事件の二の舞が起こる事を憂いているのだろう。
だからこそ、自分を無の時間の中に閉じ込めてでも、悲劇を回避させたいのだろう。
だが・・・。
「話は分かりましたが、それで承知した、とは言えませんわね。」
セシリアはまだ、依頼を受けるのを渋る様な発言をする。
それが分かっているのだろう、八幡達がアストレイのメンバーの表情を見ると、一夏とコートニー、シャルロットは受けないと言わんばかりに険しい表情を、宗吾と玲奈、リーカも決めあぐねていると言わんばかりに眉間に皺を寄せていた。
「お生憎様、私達はその様な事で仲間を、友をみすみす犠牲にする様な真似は致しません、それが関係ない者の為なら、尚更ですわ。」
アストレイのメンバーは、自分達が着けるべき落とし前と言うモノや、一宿一飯の恩が無い限り、介入を避ける世捨て人的なスタンスも持ち合わせており、それを長く続けて来ていた。
言い方は悪いが、この世界に起きている、大流星群の夜に連なる事象には責任の一端があり、それを帳消しにするためだけにこの地球に留まっているのだ。
ムエルトが無関係の地球の、ごく一部の為だけに犠牲になると言う事は承服しかねる事だった。
「他の方法を考えろ、ムエルトが命投げ出す案件じゃない、ゾアムルチの処遇についてはこっちも考える。」
一夏の言葉には、ハッキリとその依頼を受けないと言う意思が籠められていた。
この地域の人間には悪いが、それでも友を手に掛けるなど冗談ではないと、彼等は結論付けたのだ。
その答えに、八幡達は何も言えずに押し黙るばかりだった。
言外に、一夏が言わんとしている事が何となく分かったのだろう。
この地球に生きる自分達が、怪獣の処遇を決めろと・・・。
「そう、ですか・・・。」
友と見込んでの依頼を断られる事も見越していたのか、ムエルトは少しだけ気落ちした様に呟いていた。
だが、それもすぐに終わり、真っ直ぐアストレイ達と、八幡達を見据えた。
「今日の所は、一旦諦めましょう、ですが、時間はあまり残っていない事を、お忘れなきよう・・・。」
そう言い残し、席から立ったムエルトは一礼しつつフードをかぶり直し、店から出て行った。
外の雨は一層強さを増し、激しい雨が打ちつける音だけが響いていた。
その雨音は、彼等の心情を代弁するかのような、何処か痛ましいモノに聞こえてならなかった・・・。
sideout
noside
「それで、どうするつもり?」
翌日、八幡と沙希は京華を連れて買い物に出掛けていた道すがら、ムエルトの依頼の件で話し合っていた。
唐突に舞い込んだ話とは言え、一夏達の友人の話とは言えど、彼等にとっても無関係では無かったのだから、気になるのも致し方あるまい。
沙希が発した質問は、これから如何すると言わんばかりに、少々不安が滲んだ物だった。
「俺は、先生達が受けないっていう雰囲気な以上、受けるべきじゃないと思うがなぁ・・・。」
その質問に、八幡難しいとは思いながらも、それでも受けるべきではないと話す。
自分達でやるべき事は、自分達で考えて行うという心積もりであるが、師の友人からの依頼で、師が断るという態度を崩していない。
そんな中で、自分達が『じゃあやります』と手を挙げる訳にもいかない。
それをしてしまえば、この世で最も信頼している先達である師への裏切りに他ならないのだから。
「だよねぇ・・・、あたしもそう思うよ。」
まったくもってその通りと、沙希も頷いた。
師を裏切る事など出来ない、沙希もその想いは同じだった。
「だけど、ゾアムルチってヤツがどれほどの奴かは分からないから、警戒だけはしとかないとな。」
「うん。」
しかし、脅威があるのは事実。
故に、備えを万全にしておく必要があった。
「はーちゃんもさーちゃんも、なんのお話してるの~?」
そんな義兄(仮)と姉のやり取りの意味が分からなかったのだろう、京華は純粋な瞳で彼等に問うた。
興味と言うより、自分も混ぜて欲しいと言わんばかりの表情だった。
「ん?何でもないよ、仲間はずれにしちゃってごめんな~。」
そんな義妹(仮)の表情が、愛らしくてたまらなかった八幡は、沙希に向けるモノとはまた異なった優しい笑みを浮かべながらも、京華の頭を撫でた。
「えへへ~♪」
撫でられて嬉しいのか、京華はにぱぁっとはにかんだ。
「「(天使か・・・。)」」
その様子に、シスコンバカップルの意識がTAKE ME HIGHERされそうになっていたが、いかんいかんと首を横に振るって意識を平静に保った。
「さ、買い物に行こうか、絵本買いに行こうね。」
「やった~!早くいこ~!」
沙希が絵本を買ってあげると言うと、京華は飛び跳ねるように歓び、本屋の方へ駆け出した。
「あ、けーちゃん、飛び出しちゃ・・・!!」
その本屋はそれなりに交通量のある通りに面した場所に店を構えており、横断歩道の無い場所でもあったため、京華は上がったテンションのまま、左右の確認すらせずに通りを横切ろうとした。
だが、タイミングが悪かった。
京華が車道に飛び出した瞬間、大型トラックが走ってくる。
「え・・・?」
ほんの僅かに距離があったからか、京華は訳が分からないと言った様な表情で、その場に立ち竦んでしまう。
その間にも、トラックは京華との距離をどんどん詰め、最早避ける事も止まる事も出来ない程になっていた。
「「ッ・・・!!」」
それを理解した八幡と沙希は、何とか助けようと動くが、今は衆人観衆の目もあり、ウルトラマンの力を使う事を一瞬躊躇してしまう。
その迷いが仇となった、トラックは京華の目と鼻の先まで迫っていた。
「「京華・・・!!」」
最悪の場面を想像した二人は目を背ける事すら出来ず、周りにいた者達も悲鳴を上げるだけで、その瞬間を待つ事しか出来なかった。
だが・・・。
「え・・・?」
その瞬間はやって来なかった。
トラックの車体が浮き上がり、京華の頭上数十センチの所を通り過ぎていく。
まるで魔法、そうとしか形容できない様な光景に、皆呆然とその事の成り行きを見守る事しか出来なかった。
そして、京華の頭上からトラックの車体が外れて数秒後、トラックは静かに地に降り、何事も無かったように走り去って行った。
「ッ・・・!け、京華!!」
呆然自失の状態だった沙希だが、京華が助かったと悟ると、一目散に妹に駆け寄り、怪我がないか確かめるように抱き締めた。
「さーちゃぁぁぁん・・・!」
余程怖かったのだろう、京華は堰を切った様に泣きじゃくり、沙希の胸に飛び込んで声を上げた。
「怪我無い・・・!?良かったぁ・・・。」
沙希も沙希で、京華に大事が無い事を悟って薄らと涙を流していた。
大事な家族と別れる事は何よりも苦しい物であるし、それが避けられたならば、良かったとしか言いようがないのだろう。
「良かったな・・・、けど、一体誰が・・・?」
八幡もほっとした様な表情を浮かべていたが、一体誰がトラックを浮かせたのか。
ウルトラ念力を使えばその程度の事など造作もないが、生憎取り乱していた八幡と沙希にはそれが出来る筈も無く、他の者がそれに類するモノを使った事になる。
だが、この近くに彼ら以外のウルトラマンの気配は無かったため、ウルトラ念力ではないと察した様だ。
では誰が・・・?
その答えは、現れた男の言葉で知る事となる。
「お怪我は有りませんか?」
「貴方は、ムエルト・・・?」
黒尽くめの男、ムエルトが京華に話しかけ、それに驚いた八幡が声を上げた。
「おや、貴方は先日の、ティガのお弟子さんでしたか・・・、そうですか、いやはや、御無事で何よりです。」
ムエルトも、まさか知り合いの関係者だとは思ってもみなかったのだろう、少し驚いた様な表情をしていたが、それもすぐに消え、何処か切羽詰まった様な表情を見せる。
「って、そんな事より、こんな所で力を使ったら・・・!!」
それは八幡も分かっているのだろう、どうするつもりだと小声で問い掛けた。
「・・・。」
それに応える事無く、ムエルトは踵を返し、彼等から離れようとした。
正にその時だった。
「宇宙人だ!侵略者がいたぞぉ!!」
誰が叫んだのか、その言葉に、周囲には敵意と緊張に満ちた。
それに気付き、八幡達は今の自分達の状況が如何に良く無い事か認識し、表情を歪めた。
これから起こり得る事態の事を、何も考えていなかった故の、苦悩だったに違いない。
だが、後悔してももう遅い。
この一件が、彼等に訪れる選択の幕開けとなり、未来さえ変えてしまう事になるなど、人間の悪意の根幹を知らない八幡達には、予想する事など出来なかった・・・。
sideout
次回予告
露呈したメイツ星人ムエルトの存在と、地底に眠るゾアムルチの存在。
それを曲解した住民たちはムエルトの迫害を始める。
その時、八幡達が取った行動とは・・・。
次回 やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている
比企谷八幡は迫られる 其の三
お楽しみに