やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている   作:ichika

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川崎沙希は眠れない 中編

side沙希

 

「ん・・・んんっ・・・!?」

 

一体どれだけの時間が流れたか、あたしは眠りの園から帰還し、飛び起きながらも周囲を見渡す。

 

何が起きて、何をされて眠らされたのか、その原因を突き止めようとしたけど、民家や田んぼ、それから山が見えるだけで他は何も見当たらなかった。

 

「逃げた・・・?」

 

逃げたにしては、気配が近くにある様な気もする。

だとすれば、このままここにいるのは些かマズイ、か・・・!!

 

「コートニーさん!!リーカさん!小町!!起きて!!」

 

まだ眠りの中に落ちている皆を揺すって起こそうと試みる。

 

小町は兎も角、アストレイの人達にはこの近くにいるヤツの正体を聞いておきたい、そうじゃなきゃ戦いどころじゃないしね。

 

「う・・・、くっ・・・!」

 

コートニーさんはあたしが揺するとすぐに目を覚まし、飛び起きて辺りを見渡す。

 

その動作の一つ一つに無駄は一切なく、闘気だけで全てを呑み込みそうなほどのプレッシャーを醸し出している。

 

流石にこれだけの気を受けるのも数度目とは言っても、まだまだひよっこなあたしは、自分の足が震えているのが分かった。

 

その気に当てられたか、近くにいた小町や眠っていた村人までが目を覚まして飛び起きた。

 

凄いねホント・・・、まだまだあたしじゃ及びそうもない。

 

っていうか、リーカさん、まだ寝てるなんて一体どんな神経してるですかね・・・。

 

敵が見当たらない事と、村人たちが目を覚ました事に気付いて、その闘気を引っ込めた。

 

怯えられたら話だって出来ないからね、流石の判断ですね。

 

「な、なんじゃあアンタ等・・・!?」

 

「が、外人さんかぇ?こんな村に何の用じゃぁ?」

 

起きて来た御爺さんや御婆さんがあたし達を取り囲むように、わらわらと集まってくる。

 

確かにいきなり余所者が自分達の村に来てたら驚くし、排除されないだけ遥かにマシだね。

 

「いきなりすみません、俺達はこの村の方に隕石が落ちていくのを見まして、興味本位と言っちゃなんですが来てしまいました。」

 

そんな爺様婆様たちに、コートニーさんは人当たりの良い笑みを作って対応していた。

 

ホント、変わり身凄いよね、アストレイの皆さんって・・・。

 

「ほぇぇ~、日本語うめぇなぁ~、よう来たなぁ~。」

 

「お嬢ちゃん達もよう来たなぁ、飯まだか?」

 

田舎ゆえの大らかさか、すぐさまあたし達の事を受け入れてくれる。

 

なんというか、良い雰囲気だね。

学校の事とか仕事の事の悩みが無かったら、引っ越しても良いと思える位には。

 

「あと、仲間が数人山の方に隕石が落ちていないか見に行っています、不法に立ち入っている事をお詫びします、一度、呼び戻してもよろしいでしょうか?」

 

「えぇぞ!もう日も暮れるから、飯でも食べて行きんさい!」

 

「え、えっと、それは流石に・・・。」

 

い、田舎村は怖い。

こうも持成されたらこっちが気を遣ってしまう。

 

「ありがとうございます、そろそろ戻ってくる頃かと・・・。」

 

受け入れちゃうのかと思いつつ、コートニーさんの言葉に苦笑していた、まさにその時だった。

 

妙な地鳴りが聞こえてくる。

 

まるで、巨人が戦っている様な・・・。

 

「「「ッ・・・!?」」」

 

その正体に気付き、コートニーさんと小町と一緒に振り向くと、村の南側に位置する山にもたれ掛る様に、その怪獣はひょっこりと顔をのぞかせた。

 

ブルドックの様な、何処か抜けた顔をした、眠たそうな瞼が印象に残る、何とも言えない奴だった。

 

今までにみた怪獣の中で、近い存在を上げろと言われて思い出したのが、サイズは違ってもハネジローだった事は、何の因果だろうか・・・。

 

「ば、バオーン・・・!!」

 

「や、やべぇぇ・・・!!」

 

何時の間に起きたのか、リーカさんとコートニーさんがいつになく取り乱した様な表情を見せていた。

 

あ、アストレイのメンバーが焦っている・・・!?

その事実だけでも驚愕に値すると言うのに、それを成しているのがあの間抜け面の怪獣だと考えると、あたし達に一体どうしろと・・・!?

 

小町も雰囲気だけでヤバいという事を察したんだろう、一気に顔が青ざめていく。

 

ヤバい、死ぬ事覚悟で行かないといけないのか・・・!

 

そう覚悟してビクトリーランサーを取り出そうとした、その時だった。

 

先生のウルトラサインが空に瞬く。

 

内容は・・・。

 

『アイツはバオーン、泣き声で相手を眠らせるだけの善良な怪獣だ。』

 

「「え、えぇー・・・。」」

 

恐らく近くにいないあたしと小町に向けている様で、何とも拍子抜けで、何とも訳の分からない説明に、あたしと小町は肩透かしを喰らった様な気持ちになって膝の力が抜けそうになる。

 

いや、仕方ないじゃん。

あんだけ焦ったのにオチが善良って・・・。

 

ん?だとすればなんでコートニーさん達は焦ったのか?

 

それを教えてもらうために、あたしと小町は師匠であるコートニーさんに目を向ける。

 

それを察したか、コートニーさんは焦りの表情から一転、胃が痛そうな表情を見せる。

 

「アイツの鳴き声には、人間だろうがウルトラマンだろうが構わずに眠らせる能力がある、そのほかには破壊の意思や人間への害意は一切ない、んだが・・・。」

 

「だが・・・?」

 

えらく歯切れの悪いセリフだね。

害意が無いなら焦らなくても・・・。

 

「子供じみていると言うか、犬猫みたいなやつと言うか、遊んでほしいみたいで時々相撲相手を探すんだ、俺達が相手した時は、色んな意味で大変だった。」

 

「えぇぇ・・・。」

 

な、なんてめんどくさい・・・。

しかも、その先に想像がついてしまっていが痛くなる。

 

相手にされないと思って鳴かれたら・・・。

 

「一夏が特に大人げなくて、情報が無かったとはいえ、バオーンに挑まれた相撲に全部勝っちまいやがったから、いじけて泣くわ、近くにあった集落に行きそうになるわ・・・、あぁホント、思い出したくない・・・。」

 

「だ、大惨事・・・!!」

 

止められる戦力も全て眠ってしまったら、あの怪獣はいじけてそこら中に当たる事間違い無し。

 

それだけで足元にいる人間にはとばっちりも良いトコロじゃないか・・・!!

 

ていうか、あの先生は何やってんです!?

 

と、兎に角今はそんな事を考えてる場合じゃない・・・!何とか人のいない方に誘き出して・・・。

 

「だが、悪意はないから濫りに攻撃して刺激したくはない、奴も、ただ知らない土地で迷子になっているだけだからな。」

 

「あの子、刺激せずに遊んだらいい子なの、だから、せめてスパークドールズには・・・。」

 

何時もの戦い方をしようとしたあたしに、コートニーさんとリーカさんは何処か寂しげにつぶやき、どうか倒さないでやってほしいとばかりの表情を見せた。

 

「コートニーさん、リーカさん・・・。」

 

それを見て、小町は察したんだろうね、分かりましたと言う様に頷く。

 

「沙希さん、少し、此処お願いしますね。」

 

小町はそう言い残し、喧騒に紛れて何処かへ消えていく。

 

ホント、猫みたいな子だね。

その足の速さ、八幡が違う意味で褒めてただけはある。

 

それから暫くしない内に、蒼い光の柱と共にアグルが現れ、バオーンを釘づけにしてから一気に急接近する。

 

攻撃でもするのかと思ったあたしの目の前で、アグルはバオーンの目の前で猫騙しを繰り出し、驚いて怯んだ隙に催眠作用のある光線を放つ。

 

因みにこの光線、セシリアさんが独自に編み出した技だそうだが、使いどころがないと苦笑してたっけ・・・。

 

それを受けたバオーンは、眠そうな瞼が落ち、遂には大の字になって眠ってしまった。

 

結構大きないびきに似た声が聞こえるあたり、本気で寝入っているのが分かった。

 

あぁ、なんていうかホント、めんどくさいヤツなんだな。

 

さて、これからどうなるか、皆と話し合わないとね・・・。

 

そんな事を考えつつも、変に疲れた気がしてタメ息が零れたのはナイショだ・・・。

 

sideout

 

noside

 

その後、村の住人に促されるまま、一行は集会場にもなっている神社に集合、何故か櫓まで出る程のお祭り騒ぎに巻き込まれていた。

 

「なぁにこれぇ・・・。」

 

「俺に聞くな・・・。」

 

勧められるがまま、杯に地酒を注がれる一夏は困惑の表情を浮かべてコートニーを見るが、当のコートニーも困ったと言わんばかりに酒を呷っていた。

 

無理もない、粗相のないように挨拶したら熱烈な歓迎を受けているのだ、余程の厚顔無恥でない限り、困惑して然るべき状況なのだ。

 

とは言え、美味い空気と美味い酒、出される食事の旨さと好意には抗う事が出来ず、結局は御馳走になっているのだ。

 

「兄ちゃんたち、良う呑むなぁ~!もっと呑め呑め!!」

 

そんな一行の、特に一夏とコートニー、そして喋ってはいないが宗吾の見事なまでの呑みっぷりに感心した村の老人たちは、気を良くしたかどんどん酒を振舞って行く。

 

それにつられて、女性陣たちまでもが尋常ではない呑みっぷりを見せ付けていた。

 

因みに、八幡達学生陣は村で採れた米や野菜と、自分達がバーベキュー用に持って来ていた肉を合わせて使い、とり損ねた昼食の分もと言わんばかりにがっついていた。

 

ウルトラマンになってから代謝も上がっているのだろう、その喰いっぷりも下品ではないが、それでも尋常ではない食事量だった。

 

村人たちはそれに驚きこそすれど、誰もそれを咎めず、寧ろもっと呑めもっと食えと言わんばかりに煽って行った。

 

そんなお祭り騒ぎの渦中で、漸くタイミングを見付けた一行は、村人たちに聞かれない様に配慮しつつ、対策と対応の検討会に入った。

 

「で、あの寝坊助はどうする・・・、流石の俺でも、問答無用でスパークドールズにとは言えんぞ・・・。」

 

「それはそうだけど・・・、でも、近くの町や村も危なくない?」

 

一夏の、出来る事なら封印や爆殺などはせず、穏便に追い払いたい旨を孕んだ言葉に、玲奈はその通りだと同意しながらも、それでも脅威がある以上、ある程度の武力行使も辞さないという構えを崩せなかった。

 

目の前にいるそれが嘗て会った存在か、それとも同種かは分からないが、過去に対峙したバオーンの様子から推察し、その二つの意見が出て来たのだろう。

 

他のアストレイメンバーも、二人の意見のほかには何も提示できず、その両極端のどちらかで対応を決めるべきだという表情を浮かべていた。

 

強制送還か、それとも止まった時への封印か、その二択を迫られていた。

 

「あぁ・・・、とは言え、戦えるウルトラマンを考えたら、蒼い身体を持つウルトラマンが望ましいな、アイツは赤いものに引き寄せられる、下手に刺激する訳にはいかないからな・・・。」

 

宗吾はそれに同意しつつ、どちらにしてもウルトラマンにならねば対処できない事を念頭に置き、対処に当たるに望ましいメンバーを考慮する。

 

現在、青い身体を持つウルトラマンはナイト、アグル、コスモス、タイプチェンジ後のダイナやネクサス、そしてビクトリーナイトが揃っており、経験豊富なメンバーもいるため、対処には困らないと判断された。

 

「あの時の小町さんの判断には助けられましたわね、まさか、私の技をあそこまで巧く使うとは思いもしませんでした。」

 

「い、いえ・・・!あの時は必死だったんで・・・!」

 

ついひと月前に師事したばかりの師に手放しで称賛される事が少なかったのか、小町は何処か慌てて謙遜していた。

 

まぁ仕方あるまい、成功したから良いものの、下手を打てばそれこそ大惨事につながりかねない状況だったのだ、セシリアが褒めていたとしても、状況を分かっている小町は素直に受け入れがたい物なのだろう。

 

それはさて置き・・・。

 

「アストレイの総意としては、穏やかで善良な怪獣、その中でも行動のせいで被害が齎される奴については隔離、別の星や土地まで送る事にしている、出来る事ならバオーンも新しい星を見付けてやりたいが、生憎、今は時空を超える力が戻ってないんだ。」

 

「それに、この星は、この世界は君達が住む世界で、僕達は部外者、怪獣の生き死にをどうこう出来る立場じゃない。」

 

「だから決めてくれ、望む望まないにかかわらず、生殺与奪を握らされるのも、力を持つ者の定めだ。」

 

せめて他の土地へ移そうとする考えがあることも、そして、そこで暴れる事となる怪獣の生き死にを決めるのは八幡達、この世界に生きる者だと言う事も伝えた。

 

確かに怪獣がこの世界に現れる遠因を作ったのは、アストレイにも責任の一端はある。

しかし、その原因を止める事が課せられた責任で、無辜の怪獣を消すつもりは毛頭ない、暗にそう言っている様だった。

 

それが礼儀だと言う様に、彼等の目は、飲酒による酩酊など無いかのように真剣其のものだった。

 

「・・・、あの技の効果って、どれぐらい持ちますか・・・?」

 

その真剣さに、食事の手を止めて八幡は真っ直ぐ問うた。

 

今すぐか、それとも時間がもらえるのか。

その為の問いなのだろう。

 

その気持ちは、沙希も大志も、そして小町も同じだった。

ここにいる以上、ウルトラマンとしてやることの一つとして、向き合う覚悟を決めていた。

 

「小町さんの技の練度は、修練の期間から考えれば上等と言うべきでしょうが、それでも長くは持ちませんわね、恐らくは、明日の明朝には目を覚ますでしょう。」

 

セシリアは御猪口に注がれた清酒を一口で呷り、小町を讃える言葉と共にタイムリミットを告げた。

 

「そうですか・・・、じゃあ、一晩、考えさせてもらいます。」

 

考えられる時間があると知った八幡は、同意するように頷く沙希達と共にしっかりと師を見据え、今は答えを急がないと言う過程を示す。

 

焦って答えを出す事で、後悔する結果にしたくない。

その眼は、しっかりとそう語っていた。

 

「あぁ、そうすると良い、時間があると言う事は、それだけ話し合えるんだ、だから、よく考えろ、たとえ、俺達と違う答えに辿り着いたとしても、な・・・。」

 

その眼を真っ直ぐ見据え、一夏達は微笑んだ。

 

彼等には分かっているのだ。

今だ、八幡達に告げていない、自分達の過去の出来事がある事。

それを知って尚、八幡達が自分達と同じ思想になる確率が、5分5分である事も分かっていた。

 

だから、そうならなかった時、どの様な答えに彼等が行きついたとしても、一夏達はそれを受け入れる覚悟だった。

 

どの様な道を歩もうとも、自分達の弟子である事には変わりはない。

だから、彼等がアストレイと同じ答えを得るのではなく、アストレイから得た教えと、自分達の経験から得た答えを得て欲しい。

 

何時か自分達がいなくなっても歩めるように・・・。

 

そうした想いを肴に、アストレイの面々は静かに酒を呷った。

 

人知れず、弟子にさえ悟らせる事なく・・・。

 

sideout




次回予告

目覚めたバオーンは、はしゃぐ子供のように跳ね回る。
しかし、それは足元にいる小さな人間にとって脅威であるなど、知らぬままに・・・。

次回やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている

川崎沙希は眠れない 後編

お楽しみに

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