やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている   作:ichika

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川崎京華は見つけ出す 後編

side沙希

 

先生達が買い出しから帰って来て、あたし達は悶絶の淵から何とか帰って来れた。

 

事情が呑み込めなかった先生達だったけど、京華が抱いていた黄色い小動物に憶えがあったのか、全員が驚きと苦笑が入り混じった様な表情をして、呆れながらもあたし達に活を入れていた。

 

そのお陰でなんとか帰って来れたけど、何時またトリップしても可笑しくない状況に変わりは無かった。

 

いや、仕方ないじゃん、あの申し訳程度の羽が付いた黄色い小動物と、うちの天使、京華がじゃれてるんだよ?

可愛すぎるじゃないか、他に形容できないって・・・。

 

「パム~?」

 

『パ~ム~♪』

 

「パムパム~!」

 

で、現在、京華は黄色い小動物、先生達はハネジローと呼んでいた、をいたく気に入ったか、鳴きまねをしながら行儀よく子供用の椅子に座って、料理が出てくるのを待っていた。

 

小首を傾げたり、手を振る様なしぐさも入るから、圧倒的な可愛さに、あたし達はもう正気を保っている事さえ難しくなってきた。

 

その様子が堪らなく可愛くて、あたしや小町、それから相模や果てにはアストレイの女性陣はトキメキMAXで、その様子を写メに収めていく。

 

仕方ないね、可愛いは正義だもんね。

 

それをアイコンタクトで小町に送ると凄い勢いで首肯され、相模に至っては握手を求めてくるぐらいだ。

 

それにしっかりと応じ、あたしは相模と頷き合う。

これぞ、シンパシー、ってヤツだね。

 

「しかし、まさかまたハネジローに出会うとは思いもしなかったな。」

 

「そうだな、前は確か、ファントン星の近くを通りかかった時に見かけたぐらいか。」

 

そんなあたし達を他所に、レタスやトマトを切り分け、サラダボウルにぶち込みながらも、先生と宗吾さんは何処か懐かしげに話していた。

 

聞いた事の無い様な星の名前が出て来たけど、彼等の旅の途中で立ち寄った場所だと考えたら、それはそれで納得出来た。

 

まぁ、見た目年齢≠実年齢じゃないのは聞いてるし、今更、俺は1000歳を超えているとか渋い声で言われても、別に驚きはしないけど。

 

「だが一夏、もうあんなコト言うなよ、特に、ファビラス星人の前では。」

 

「分かってるって、本気でどうなるか分からなかったよな、アレ。」

 

コートニーさん、あの、先生は一体何を言ったんですか?

しかもまた聞いた事の無い様な星人の名前出て来てるし・・・。

 

皆さんはどんだけ宇宙レベルなんですかね・・・。

 

「あの、ハネジローっていう名前なんですか?あの黄色いの?」

 

そんな先生達に、八幡は気になっていた事を尋ねていた。

 

まぁ、あたしも気になっていたところだけどさ。

 

「あいつの種族名はムーキット、ファビラス星人の間では守り神のように崇められていた存在だ、まぁ、ハネジローという名は、何処かの誰かがペットに着ける様な感じで着けたんだろうな。」

 

「「ま、守り神・・・!?」」

 

そんなに凄い存在だったの・・・!?

 

驚愕のあまり、あたしと八幡はハネジローを二度見してしまう。

 

京華とじゃれている今の様子を見ると、とてもじゃないけど、守り神とかいう大層なものには思えなかった。

 

というかどこの誰だ、そんな凄い存在に、気軽く名前付けたりしたのは・・・。

 

多分、『羽が付いてるから、ハネジローで良いか』みたいな感じだろうなって、何となく想像できてしまうあたり、会った事ある様な気がするし、もしかしたら別次元の同一体かもしれないけど。

 

「まぁ、ムーキット自体にそんな意志が在るかどうかは分からんが、俺達も何度か導かれたから、強ち間違っていないけどな。」

 

イマイチ要領を得ない答えだけど、それでもハネジローがそういう存在だって、人間に対して友好的な怪獣だって事だけは分かった。

 

「はぁ・・・、それはそうと、先生はファビラス星人になんて言ったんですか?」

 

それは兎も角、ハネジローを守り神と呼ぶファビラス星人になんて言ったのか気になる所だ。

 

何せ、ファビラス星人をキレさせる位の言葉だったんだ、とんでもない事だろうし、もしそのファビラス星人に会った時、知ってたら険悪にならずに済むだろうしね。

 

「んー・・・、あれは俺達7人ともう一人ウルトラマンが一緒に行動してた時だったかな、俺達の所にハネジローが転がり込んでた時期があったんだ。」

 

それって相当昔の話の様な気がしてきた・・・。

だって、そんな話初耳だったし・・・。

 

「で、たまたま故郷から離れたファビラス星人の一向に出会って話をしてたんだがな・・・、酔ってたのかなんだったのかは憶えてないが・・・、言っちまったんだよ。」

 

何を言ったんですか・・・?

 

それが気になってしょうがないあたしと八幡と、よくよく見れば大志や彩加に、大和たちも身を乗り出してその話の続きを聞きたがっていた。

 

「・・・、丁度2ヶ月くらい飯食ってなかった時でさ、非常食って言っちまったんだよ・・・。」

 

『サイテー!!』

 

師匠相手に礼を欠いてる事は百も承知、だけど言わずにはいられなかったので、ついつい女性メンバー一同で叫んでしまう。

 

ファビラス星人もぶちギレて正解だよ・・・!!

 

八幡達男子陣も、流石にそれは無いと顔を顰めていた。

 

「あんな可愛いハネジローになんて事を!!」

 

「人でなし!!」

 

「鬼!」

 

「悪魔!」

 

「一夏!!」

 

おい最後の誰だ、先生を呼び捨てにするのは流石にマズイって・・・。

 

「君らホントに俺に遠慮しなくなって来たよね、俺は別に、戦えと煽る様な黄緑女じゃ・・・、まぁ、別に良いけどさ。」

 

そんな非難の雨霰に苦笑するだけで、先生は気に留める事無く、テーブルの上に出来上がった料理をどんどん並べていくだけだった。

 

ホント、この人の腹積もりはまだまだ掴めない所も多い。

一体何を思って行動しているのか、何を目的として計画を練っているのか。

 

知ったら火傷だけですまないだろうから、深入りだけは避けようとしても、気になってしまうのは、それだけあたしが先生の事を信じて、知りたいと思っているからだろうけど。

 

無論、そう思っているのはあたしだけじゃなく、八幡達もそうだろうけどさ。

 

「まぁそれよりも、さっさと飲み物ぐらい注いどけ、乾杯するぞ。」

 

その先を考えさせない様に、先生はあたし達の目の前に数多のボトルを並べながらも促してくる。

 

いけないいけない、今はパーティーの準備してるんだったっけ、余計な事考える前に、準備位はしなくちゃ。

 

そう思いながらも、あたしは全員に取り皿を配りつつ、京華の前に置かれた子供用のコップにオレンジジュースを注ぐ。

 

ついでに、と言っちゃなんだけど、少し深みのある器を用意して、ミルクを注いでハネジローの前に差し出した。

 

「さーちゃんありがと~♪」

 

『パ~ム~♪』

 

あたしにお礼を言う京華と、それに合わせてお辞儀をする様に頭を揺らしながらなくハネジローに、またしても膝から崩れ落ちそうになるけど、何とか踏ん張る。

 

何せ、今手に持ってるのはオレンジジュースにミルクと、後始末に困るモノだ。

ぶちまけたらそれこそ、大惨事になる事間違いなしだ。

 

そんな事を考えてる間にも準備は進み、全員が其々が好む飲み物を注いだグラスを持ち、音頭を待っていた。

 

「それじゃあ、セシリア、音頭よろしく。」

 

今回はアストレイの開店1周年記念を兼ねている事から、先生はセシリアさんに音頭を任せる。

 

家族とは言え、自分が直接的に関わっていない事にはある意味で一歩引いた態度を見せる、だけど情はしっかりあるという、一見矛盾した様な関係に、あたしは思わず笑みを零した。

 

だけど、嫌いじゃない。

寧ろ、あぁいう自然体な夫婦になりたいとさえ思う。

 

だって、それがあたしと八幡の夢だから。

 

「それでは・・・、皆様のお陰で、アストレイが1年続いた事に感謝を表します、これからも、共に戦ってまいりましょう、乾杯!」

 

『乾杯~!!』

 

セシリアさんの音頭に、店内にいた全員が勇んで応じ、各々の咽にドリンクを流し込んで行く。

 

こういう雰囲気も嫌いじゃない。

 

そんな心地良い感傷を抱きながらも、あたしは京華や八幡の小皿に料理を盛って行く。

 

この雰囲気を、大好きな人達と共に楽しむために・・・。

 

sideout

 

noside

 

パーティーとは名ばかりな宴会が始まって暫くして、南は店の隅に寄って、一人盛ってきた料理を食していた。

 

別段、このフレンドリーと言うか、身内のみが集まる騒ぎが嫌いという訳ではないが、そこに自分がいて良いのかという疑問だけは常々抱いている事だ。

 

無理もない、彼女のしでかした事を考えれば、此処に居るすべての者からバッシングを受けても仕方が無いし、彼女自身もそれを甘んじて受けるつもりでいた。

 

ところがどうした、バッシングはおろか、八幡も沙希も、果てには一夏達大人も彼女を責めようとはせず、只管に、飲めや食えや騒げやと、彼女を迎え入れようとしている様子だったのだ。

 

覚悟していた南からしていれば、肩透かしを喰らった様な心地にもなったが、そう言われて、ハイ分かりましたと混じって行ける程、今の彼女は蒙昧では無かった。

 

だからというべきか、一応の知り合いで、それなりに話した事のある大和や彩加の傍で出される食事に手を付けていたが、会話が途切れた時に妙な疎外感を感じて、こっそりと輪から抜けてきたという所であった。

 

一人になってみて、改めて外からグループと言うモノを見て、彼女は様々な事を感じた。

 

学校でのグループは、南の行動で半ば分解の状態になってしまった。

 

南の独りよがりで文化祭を崩壊させかけた事は、全校生徒の前でけじめとして詫びた事も多少あるだろうが、それでも、彼女が友人だと思っていた数名の者達は、関わりたくないと言う様な雰囲気で距離を置いてきた事は記憶に新しい。

 

無論、自分のバカな行いが元凶だと知っていた南はそれを受け入れたし、今も陰口に晒されているが、それさえも甘んじて受け入れていた。

 

だが、それでも、友情とは何か、グループとは何か、友とは一体なんだったか、自問したくなるのも無理は無かった。

 

それに対して、この店で笑い合う八幡達のグループには、嘗て諍いを起こしていたという雰囲気を感じさせない何かが有った。

 

その理由を聞いた事は無い、だが、南にはある種確信めいたものが有った。

 

きっと、自分の様な間違いを犯しても、それを乗り越えて、もう一度手を取り合い、裏切らないと誓い合ったのだと。

 

言葉にしてみれば容易い事だろうが、それが実行できることが何よりも驚きだった。

 

それを羨ましく思うと同時に、自分が如何すべきなのか分からなくなっていた。

 

「相模さん、どうしたの?」

 

そんな時だった、そんな南を見付けた大和が、一夏に作って貰ったノンアルコールカクテルを持って寄って来た。

 

純粋に気になったのであろう、彼の表情には、思春期男子が女子に対して思っている様な下心は一切なく、そこには突き抜けた人の良さがにじみ出ていた。

 

「あ、うん・・・、ちょっと、慣れなくて・・・。」

 

それに安堵したか、気を許したか、彼女は取り繕う事の無い本音を吐露する。

 

それに気付き、南自身も驚いているのか、少しだけ目を見開いた。

 

「まぁ無理もないさ、俺だって最初に混ざった時はアウェー感凄かったしさ。」

 

そんな南に、大和はカラカラと笑いながらも仕方ないと割り切れと言う。

 

まぁ、それ以外に方法が無いのも事実だが、それを受け入れられた大和に、南は興味を持った。

 

「・・・、大和君って、凄いね・・・。」

 

「ん?何が?」

 

小さく呟いたつもりだったのに、大和の耳にはしっかり届いていた様だ、それに気付いた南はしまったという表情をしながらも、出してしまった以上、その先を聞く覚悟を決めた。

 

「だってさ、ウチみたいに怪獣になって、暴れちゃったのに、どうしてここにいる皆と打ち解けられたのかなって、普通出来ないじゃん?」

 

南が言った事に、大和はそんな事かと笑う。

 

だが、それは笑い飛ばすと言うよりも、苦笑に近いものだったが・・・。

 

「まぁ、後悔して寝れなかった日もあったよ、だけど、そんなに凹んでもやっちゃったことは事実なんだ、だったら、どう活かすのかって言うのを、俺は教えて貰ったんだ。」

 

そう言いつつ彼は、一夏達に乗せられる形で沙希と料理を食べさせ合っている八幡に目を向ける。

 

照れで耳まで真っ赤になっていて、更に弄られていながらも、二人の表情にはただただ、気を許している仲間にしか見せない色があった。

 

「間違いを抱えて前を向く、難しいけどそれをやって乗り越えた人達が、そうしようとする俺を認めてくれたんだ、応えなきゃ嘘になっちゃうからさ、素直に生きたい、そう思っただけだよ。」

 

ただ素直に生きたい、そう答えた大和の言葉と瞳に、一切の曇りは無かった。

 

熱を帯びたその表情に、南は釘付けとなる。

 

容姿が優れている訳でも無い、目立った成果を残している訳でも無い。

それでも、今の大和の姿は、そんなモノよりも尊く、カッコよく見えたのだろう。

 

「だから、難しい事じゃない、信じてくれる人の背中だけ見て、我武者羅に走れば良い、一人じゃ無理でも、隣にいる誰かと腕組んで行けばいいさ。」

 

その言葉と共に差し出された大和の手を、南は知らず知らずの内にとっていた。

 

何故そうしたかは、その瞬間は自分でも理解した。

 

だが、それでも、八幡達の下へ大和と共に歩いて行く最中、南は確信めいた想いを抱いた。

 

これが、本当の絆、何度断ち切ろうとも、只では切れてくれない繋がりを、自分は求めていたのだと。

 

だから、自分もそう成れるように、自分と彼等に正直に生きよう。

 

それが、間違いを乗り越える唯一の事だと、そう思えたから・・・。

 

sideout




次回予告

飽きも深まって行く中、それは唐突に空から落ちてくる。
それが齎すのは、破壊か、それとも安寧か・・・。

次回やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている

川崎沙希は眠れない

お楽しみに

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