やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている 作:ichika
noside
「おっでかっけ♪おっでかっけ♪楽しいなぁ~♪」
「けーちゃん、先に行かないの。」
文化祭から数日が経過したその日、川崎沙希の弟である大志は、妹の京華と共に在る場所を目指していた。
京華は散歩のつもりなのか、姉である沙希に良く似た髪を揺らしながらもルンルン気分でずいずい進んで行くが、大志はその目的が別のあると知っていた。
その原因の話は、2日程前に遡る。
文化祭の打ち上げも兼ねて、アストレイ開店1周年記念のホームパーティーに、比企谷兄弟と川崎姉弟、そして彩加や大和に、今回の事件に関わった南が招かれたのだ。
表向きは親睦会や、反省会もあるだろうが、それは単なる建前でしかなく、結局は騒ぎたいだけの大人に巻き込まれる形になったのだろう事は、想像に難くなかった。
それを分かっていながらも、八幡も沙希も、そして大志自身も特に嫌な感情を抱かなかったのは、それだけ師である一夏達の事を敬愛しているからなのだろう。
そう言う訳で、ホームパーティーに参加する事になったのだが、どういう訳か、川崎家の末妹、京華がどうしても一緒に行きたいと言うのだ。
昼間の喫茶店としてのアストレイにならば連れて行っても然程問題はないが、京華の様な、まだ小学校にもいっていない子供が行って楽しめるのかも甚だ疑問だった。
しかし、それでも可愛い妹の懇願を断れなかった沙希の配慮により、準備が終わった後に来ることで落ち着き、御昼前の時間に、大志と共にアストレイまでの道を辿っている所だった。
「だってだって!さーちゃんの彼氏?に会えるんだよ~?」
「夏休みにも会ってただろ~、そっか、半分寝てたっけ・・・。」
京華が何故はしゃぐのか漸く合点が行ったのだろう、大志はなるほどなぁと目を細める。
確かに京華は一度、沙希が八幡と付き合った日に大志が無理やり連れて来た八幡と会っている。
その際、時間が遅かった事もあり、川崎家で起きていたのは両親と長女長男だけであり、京華は寝る前にほんの少しだけ姿を見た程度だった。
故に知らなかったのだろうが、既に八幡と沙希の関係は家族公認のものとなっているのだが、それはまた別の話だった。
「でねでね~、さーちゃんのどこが一番好きか聞く~!」
「それ気になるなぁ、先生達にも弄って貰わないと。」
純粋無垢な瞳で放たれた言葉に、大志は悪い笑みを浮かべていた。
これから数十分後に、アストレイの店内で行われる、恒例のバカップル弄りの光景を思い浮かべて、楽しみでしょうがないのだろう。
自身が何れ、義兄と呼ぶ事になるであろう少年の、顔を朱くして慌てるトコロを想い、彼はクスリと笑っていた。
そんな時だった。
彼等の目の前を、小さくて黄色い、羽の生えた何かが横切って行った。
「・・・、えっ・・・?」
あまりにも常識からかけ離れたその生物と思しきモノに、大志は口をあんぐり開けて固まってしまう。
怪獣にしては小さすぎるし、だとしても猫や犬が小さい羽根をぱたつかせて飛ぶなんて事も考えられなかった。
ではあれは何か、考えようにも、大志の経験と知識だけでは特定することさえ出来なかった、
「あーっ!待ってぇ~!」
そんな時だった、京華がはしゃぐ様に声を上げ、その黄色い何かを追い駆けて、その何かが入って行った路地裏へと入って行ってしまう。
無邪気に小動物が前を通ったとだけ思ったか、それとも別の何かか・・・。
「京華ッ!!ま、待て・・・!!」
嫌な予感がしたからか、大志は声を上げ、ナイトブレスを右腕に具現化させながらも駆けだす。
ナイトブレスの変身プロセスに用いる短剣は、そのまま人間時の護身用にも使えるため、彼は左手に短剣を握り、せめて追い払うぐらいはと意気込む。
今は何よりも妹を護る。
ただそれだけの使命感に突き動かされていた。
「京華っ・・・!!」
妹の名を叫びながらも路地裏の奥に広がる光景を見た大志は、目を見開き、そして、膝から崩れ落ちたのであった・・・。
sideout
noside
「大和君、次こっちの飾りつけしちゃおっか。」
「了解だよ戸塚君、すぐ行くよ。」
アストレイの店内では、八幡達学生組と、一夏を含めたアストレイメンバーが記念パーティーの準備を行っていた。
八幡と彩加、そして大和と南が飾りつけを担当し、沙希と小町はセシリアと玲奈を手伝う形で厨房に入り、他のメンバーは買い出しや食器や飲み物の準備を行うなど、それぞれが役割を持って動いていた。
久方ぶりの宴会に心が沸き立っているのだろう、一部を除いてその表情は輝いていた。
「あ、あの・・・、本当に呼ばれて良かったの、ウチ・・・?」
そんな中、今回呼ばれたメンバーの中で、一番の異分子と呼ばれるべき南は、本当に自分が居ても良いモノかと困惑の表情を浮かべていた。
それも仕方あるまい。
つい数日前まで、ウルトラマンの正体が人間だと言う事など知らなかった少女が、いきなりウルトラマンに変身する者だけが集まる所に呼び寄せられ、尚且つ食事まで馳走してくれるとなると、ある意味恐怖心を抱いて当然だった。
寧ろ、まだ怯えが見えるとは言え、何とか混ざれているのは彼女のある意味での豪胆があればこそだと言えるだろう。
「恐けりゃ帰って良いぞ、此処の兄さん姐さんは、ある意味おっかないからな・・・。」
そんな彼女に、八幡は少し青い顔をしながらも退転を勧めた。
無理にいても楽しくないのは当然の事ながら、ここのメンバーの弄りはとてもではないが南に耐えきれるものではないと、一番の標的である彼は推測したのだ。
「それされるの、八幡と沙希ちゃんだけだよ、愛されてるね。」
「「と、戸塚君・・・。」」
あっけらかんとした調子でバッサリ切り捨てた彩加に、大和と南は苦笑を禁じ得なかった。
彩加が裏表も遠慮も無い人物になっているのは知っていたが、こうもばっさり行くとは思いもしなかったのだろう。
それを分かっているからこそ、八幡もがくりと肩を落とした。
友人や師にからかわれるのも愛されているからと解釈できる様になったとはいえ、まだまだ慣れない部分が多い八幡らしい反応だった。
「まぁ、無理だけはしないでね、僕達は兎も角、この店の人達は怪獣関連には厳し過ぎる人ばっかりだから、覚悟だけはしておいた方が良いよ。」
「ッ・・・。」
彩加の言葉に、南は表情を硬くする。
後から聞いた話になるが、一夏達アストレイは八幡達よりも長く戦い続けた戦士であり、それこそ戦いに関する事においては一切の容赦を持ち込まないと。
故に、その矛先が自分に向けられて、果たして平静を保っていられるだろうかと、更に恐怖心が沸き上がった。
「そうだな、あんだけ派手にやらかしたらどうなるか分かったものでは無いってのは確かだ。」
彩加に同意するように、八幡もまた言葉を紡ぐ。
そこには非難の色は無く、ただ淡々と事実だけを語っていた。
「でも、間違いを犯したってのが分かって、それを修正するために行動を起こしたのなら、もう咎める必要はない筈だ、俺もそうだったからな。」
自分もそうだったと語る八幡の目には、ある意味での羞恥が浮かんでいた。
それもそうだろう。
今は恋人同士とは言え、一時は互いを知らず知らずの内に傷付け合った過去もあるのだ、それを間違いと言わずして何と言うのだろうか。
だが、それを乗り越える為の行動を起こせたからこそ、今の彼は本物を手にする事が出来た。
それだけは、偽らざる現実であった。
「ま、頑張れよ、俺はそうしたからな。」
自分はそうした、お前は如何したいと言い、八幡は笑って見せた。
「比企谷君って、ホント捻くれてる。」
そんな彼の言葉を可笑しく思いながらも、南はおかしそうに笑った。
素直じゃないけど、優しさや温かさが滲む言葉が嬉しかったのだろうか。
「つまみは出来たよ、それにしても、大志と京華はまだ来てないの?」
そんな雰囲気の中、厨房から出て来た沙希は、まだ来ていない自身の弟妹を案ずるように声を上げた。
準備があるから先に出たものの、大志は兎も角、まだ小さい京華は目が離せないほど心配なのだろう。
「京華って事は、沙希の小さい妹か、この前は挨拶も出来なかったっけ。」
「(比企谷君、川崎さんの家に上がった事あるのか・・・・。)」
思い返す様に語る八幡の言葉に、大和は軽い驚きと羨望を籠めた感想を抱いた。
自分にはまだそう言う相手がいないと言うのもあるが、それでも彼女の家に既に上がっているなどと考えると、思春期男子にとってはこれ以上ないスペックと言えるだろう。
だが、既に八幡も大和も、そう言った体裁に関するスペックなどどうでも良くなっており、大和も、ただ心の底から信頼し、愛し合える相手が欲しいという羨望だけを抱いていた。
それはさて置き・・・。
「まぁ、大志が一緒なら大丈夫だろ、人間相手なら囲まれても楽に勝てるし、宇宙人やヤプールの気配がありゃ流石に俺達も出るしな。」
「そう、だけどさ・・・。」
「「(川崎さん、実はシスコン・・・?)」」
八幡の大丈夫だと言う言葉に、安心するどころかまだまだ不安げな表情を浮かべる沙希に、彩加は優しい表情で見守り、大和と南はギャップに驚いていた。
それなりに付き合いのある大和は兎も角、南は学校での沙希の、特に春先の誰も近付けなかったイメージが今だにあり、それ以外の表情を見れた事に驚きを禁じ得なかった。
それも、人と言う物をちゃんと見詰めた結果だと考えると、なんだか得をした気分になる南だったが、絶対に口には出さない事にした。
だって、後々恐そうだから。
そんな時だった。
店のドアが開かれ、彼等が待っていた仲間が入ってくる。
「大志君、遅かった、ね・・・?」
バディを組む事の多い彩加が相方の到着に気付くが、違和感を覚えた様に言葉が濁る。
店に入って来た大志の足取りは覚束無く、右手で顔を覆って今にも倒れそうだったのだ。
「さ、彩加さん・・・、皆さん・・・。」
「どうした大志君・・・!?」
「な、なにかあったの・・・!?」
膝を付いた大志に、大和と南が駆け寄って何があったのかを問い質す。
尋常ではないその様子に、恐れていた事態が起こったのではと感じたのだろう。
「どうしたの!?」
その騒ぎを聞き付けたのか、シャルロットやセシリアが厨房から血相を変えて飛び出してくる。
一体何があった、敵かと言わんばかりで、各々の変身アイテムを取り出して、今にも変身しようとスタンバっていた。
「そ、外に京華待たせてるんですけど、この店、動物OKですか・・・?」
今にも溢れんばかりのリビドーを抑える事に必死なのだろうか、大志は鼻と口元を抑えながらも扉の外を指差した。
一緒に入ってくればいいのに、何故待たせているのかは分からないが、動物を連れていると言うのならば、店の主の許可がいるだろう。
「あら・・・、今日は特にお客様を入れる予定はありませんので、皆さんがよろしければ構いませんわよ?」
店長であるセシリアは、今日は特別という事で許可を出していた。
それに同意するように、その場にいる者達は皆、異存はないと言わんばかりに頷いた。
店長であるセシリアが良いと言ったなら、何も言う必要は無いとでも言うのだろうか・・・。
「け、京華~、入ってきていいぞ・・・。」
扉の外に呼びかけると、元気な返事が返って来て、彼等の妹である京華が入ってくる。
その腕には黄色い何かが抱かれており、それ以外に変わった様子は見られなかった。
「えへへ~♪こんにちはっ!」
「はいこんにちは、沙希さんの妹さんですか、よく似ておられますわね。」
「えへへ~♪」
元気よくあいさつした京華に、セシリアは親戚の娘を見る様な優しい目になり、京華も大好きな姉と並べられて嬉しいのか、天真爛漫な笑みを浮かべていた。
そんなセシリアの後ろでは、シャルロットが今にも母性本能スパーキングしようとしていたが、玲奈の冷たい目に制されていた。
ある意味で、シャルロットのそれは、気持ち悪い領域に入りかけると知っているからの事だった。
「ところで・・・、それは・・・。」
しかし、それだけでは終わらなかった。
セシリアは京華が抱いている何かに気付いた様だ、訝しむ様に尋ねていた。
猫や犬にしてはやたらと黄色い体毛を持っていたため、疑問に思っていたのだろう。
「この子、すっごく可愛いの~♪」
愛らしい笑顔で見せて来たそれに、アストレイの店員たちは驚愕に目を見開いた。
『パムパム~♪』
「「「は、ハネジロー!?」」」
よく知った存在だったからか、その表情は驚愕から喜色へと変わって行った。
そんな彼女達の前で、京華の手から離れたそれは、小さな羽をぱたつかせ店内を飛び回った。
「「「か、怪獣・・・!?」」」
八幡達新人ウルトラマン3人は、目の前で起きている光景に身構え、大和と南は理解が追い付かずに呆然としていた。
それだけ、今の光景が信じられないのだろう。
「あーっ!待って待ってぇ~!」
京華はそれを追いかけ、店内を走り回る。
『パム~?』
京華の呼びかけに、その黄色い小動物は首を傾げながらも鳴き、彼女の下まで戻って来て腕の中に納まった。
「あはは~っ♪」
『パ~ム~♪』
京華に懐いているのか、それは彼女に頭をこすり付けるようにして甘え、京華も天真爛漫な笑みを浮かべてそれを撫でていた。
天使の戯れ、まさにそう評するのが正しかった。
その眩さに、尊さに、店内にいた者全てが顔を抑えて悶絶し、膝から崩れ落ちた。
それは、買い出しに出ていた一夏達が戻ってくるまで続き、状況を呑み込めない一夏達は、頭に?マークを浮かべる事しか出来なかった・・・。
sideout
次回予告
過去との関わり、今との繋がり、それらが混在する場所で、彼等が見るモノとは何か・・・。
次回やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている
川崎京華は見つけ出す 後編
お楽しみに