やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている 作:ichika
noside
「うっ・・・?」
「相模さん!気が付いたんだな・・・!」
戦闘が終わって数分後、南の意識はぼんやりと覚醒していく。
それに気付き、大和は良かったと声をあげた。
制服のブレザーを脱ぎ、彼女の頭の下に枕代わりとして挟んでいる辺り、容態の心配もしていたのだろう。
「目が覚めたんだ、大丈夫?」
そんな彼とは対照的に、彩加はやっとかと言わんばかりに声を掛ける。
心配している様ではあったが、それでも冷たいトーンだったため、相当苛立っている事が窺えた。
無理も無い、一夏達が持たせると言った20分は既に経過しており、今すぐにでも戻らなければ間に合わない
因みに、小町と大志は、学校側から見れば部外者でしかないと言う彩加の判断により、戦闘終結後に撤退し、現在は家路についていると思われた。
それはさて置き・・・。
「や、大和君・・・?戸塚君まで・・・?」
そんな彼等に気付いた南は、漸くしっかりと覚醒した様だ、ゆっくりと起き上がりながらも辺りを見た。
「ッ・・・!」
そこで漸く何をしたのか思い出したのだろう、愕然とした表情を浮かべながらも、あまりの絶望感に膝を付いた。
Xがバリアドームを使ったお陰で被害はさほど大きくは無い。
だが、問題はそこでは無い。
自らの劣等感と嫉妬からくる闇に付け込まれ、関係の無い全てを破壊しようとした。
冷静になった今、それがどれほど大きな罪かを理解することは容易かった。
「ち、違う・・・!う、ウチはあんなコトするつもりなんて・・・!」
思い出してしまたのだ、止めようとしてくれた大和を振り切って闇に落ち、怪獣の力に取り込まれ、関係の無い、自分の住む街を壊そうとした事を。
未然に防がれたとはいえど、それは間違いと、罪と呼ぶべき行為でしかなかった。
「う、ウチはただ・・・!目立ちたくて、それで・・・!!」
「相模さん・・・。」
取り乱し、支離滅裂な言葉で叫ぶ南に、大和は同情を禁じ得なかった。
同じ、そう、同じなのだ。
大和も嘗て、誰よりも目立つために、他者を貶める様な事をし、それが原因で闇に取り込まれた経験があった。
だから、南の心情は誰よりも分かるし、同じ心地を抱いた者としてのフォローも行いたいと思う。
だが・・・。
「だからどうしたの?君が望んだ事じゃないの?」
「ッ・・・!!」
「戸塚君・・・!!」
それが如何したと言わんばかりに突き放す彩加の言葉に、南の表情が絶望に強張った。
そんな彼を咎めるように、大和は非難の声を上げた。
何をそこまで言わなくても良い、フォローが必要なんじゃないのか、大和の言葉からはそんな気色が窺い知れた。
しかし、彩加はそんな二人を無視して言葉を続けた。
「相模さんが選んだから怪獣になったんだ、僕が止めたのは文実の委員としての義務があったからだよ、それが無かったら、そこから飛び降りて貰いたいぐらいだよ。」
自分が助けたのは義務だったから、南自身を助ける気はこれっぽっちも無かったと、彩加は吐き捨てるように話す。
それだけ、彼が苛立っている事を端的に表している様でもあったが・・・。
「でもさ、そんなことしても、こっちのは何の得も無いんだよ、だから、早く体育館に戻って、自分の仕事してきなよ。」
だが、それでもまだ、やるべき事を示してやる辺り、彩加も彩加で甘いトコロはあるが、それが果たして、今までの、自分が一番可愛いと思っている南に届いたかどうか・・・。
それが分かってしまったため、大和もタメ息を吐くだけで、最初の制止以上に止めようとはしなかった。
自分も、結局は同じ穴の貉だと分かっていたから・・・。
「な、なんで・・・!?今そんな事しろって言うの・・・!?」
南から帰って来た言葉に、彩加と大和はやはりかと言う表情を浮かべた。
所詮、自分の罪を慰めて欲しいだけ。
自分は悪くない、そう言って欲しいだけ。
語らずとも、その考えが表に出てきている以上、最早救いようがないとでも思ったのだろう。
だが・・・。
「君のちっぽけなプライドのせいで、僕達文実が最低って言われるよりは遥かにマシだよ。」
彩加はそんな小さなプライドなど否定する。
何せ・・・。
「プライドが無きゃ生きてけない様じゃ、君は何時まで経っても成長なんて出来ないよ、僕は、それを教えて貰った。」
彼は知っていた。
プライドを捨ててでも、責任を果たそうとした、彼の師の背中と覚悟を。
そこから生まれる生きざまと凄み、それを知れただけで、彼は新たな一歩への切っ掛けを掴んだのだから。
「俺もそうだ、今の相模さんみたく、変に目立とうとして、あの闇に利用されて怪獣になった事が有る。」
彩加だけに言わせては置けない、大和もまた、自分の罪を告白する。
それが、今の南にどう取られたとしても、変わらない過去なのだから。
「や、大和君も・・・?」
まさかの告白に、南は目を丸くして彼を見た。
この夏休みが明けてからというもの、大和の表情が変わった事、彩加や八幡などと一緒にいると言う事には南も気付いていた。
何故そんなに楽しそうに、裏表なく笑えるのか分からなかった。
何故、彩加は兎も角、クラス内でも浮いた存在だった八幡と沙希と対等に話せたのか。
その答えが分からず、自分がトップカーストから貶められた事で苛立っていた南はそんな大和に理不尽な感情を抱いた事もあった。
その原因が、大和自身が犯した罪の結果だとは思いもしなかったのだ。
「俺を助けてくれた人に教わったんだ、そんな汚いコトしなくても、受け入れてくれる人達と居たいって事を、失敗も間違いも全部受け止めて、一緒に進んで行ける人達と居たいって事を。」
喩え一度間違えたとしても、それを悪意を持った行為で広めるのではなく、ただ単純に受け止めて癒す様に寄り添う相手がいる。
ただ慰め合うよりももっと先の、喩え離れてもずっと友と言い合えるような存在がいてくれる。
それだけで、どんな失敗も間違いも超える事が出来、成長できると大和は確信していた。
「だから、相模さんも立ち上がるんだ、こんな所でウダウダやってても誰も君を見ちゃくれない、どれだけ怖くても、踏み出さなきゃ何も始まらないじゃないか。」
だから、今度は自分が、迷ってばかりの南に道を示す番なのだ。
自分が、八幡と一夏に示してもらった様に、やってみせろと言う様に。
そんな彼の表情に、自分を追い込む気がないと悟ったのか、南は躊躇う様に、差し出された大和の手を取ろうとした。
その時だった。
「やっと見つけたよ、相模さん。」
随分捜し回ったと言わんばかりの様子で、学年の王子サマ、葉山隼人が屋上に姿を現した。
まるで、タイミングを見計らっていた様な間で来たモノだから、彩加と大和は何処か不審げに彼を見た。
一体何処から見ていた、聞いていた?
言葉にせずとも、彼等の雰囲気はそう問うていた。
「は、葉山君・・・。」
「さぁ、皆の所に戻ろう、皆が君を待っているんだ。」
戸惑う南に、隼人は優しげな笑みを貼り付けながらも手を差し出す。
それはまるで、絵本の中にいる様な、囚われの姫を救い出す王子様のようにも見えなくは無かった。
「ッ・・・!」
自分を探しに来てくれた、最初はそう思い、大和の手から隼人の手へと移ろうとした。
自分だけを見てくれている様な気がした、自分を助けてくれる物だと思った。
つい先程までの、罪を曝け出す前の彼女ならそう感じただろう。
だが、途中でその手は止まった。
何か、嫌な予感が拭えないのだろうか、それとも別の何かを感じたからなのかは分からないが・・・。
「相模さん・・・?」
そんな南の様子が解せなかったのだろう、隼人は頭の上に疑問符を浮かべながらも彼女に声を掛ける。
一体、何を躊躇っているのか、もう時間が無いと言うのに。
そんな焦りと苛立ちが、僅かに表に出たのを、彩加も大和も、そして南さえも見逃さなかった。
「早く行こう、もう時間が無いんだ。」
取り繕う事も出来ない程に焦っているのだろう、その言葉には時間を気にする様な気配があり、南の事など気に掛けていない様にさえ見えた。
それを聞いた彩加は、その違和感に顔を顰めた。
「葉山君、流石に急いでるのは分かるけど、まずどうしてここにいるのか聞くのが先じゃない?」
如何に逃げたとは言っても、何か事情があるかもしれないのだ、せめて、彼女自身を案ずるような声掛けをした方が良いに決まっている。
隼人の対応が悪いと言う訳では無いが、それでも異様に思えるのも事実だった。
「そ、そうだね・・・、なにがあったんだい?」
「・・・。」
言われてから慌てて取り繕うその態度に、南は以前に抱いた熱が急速に冷めていくのを感じた。
そして、同時に気付いてしまった。
所詮自分は、彼に本当の意味で見て貰っていなかった、寧ろ体よく利用されていただけなのだと。
だとしたら、自分は何と愚かなのだ。
乗せられて舞い上がって、何でもできると思い込んで委員長に立候補したら、今度は雪乃が仕事を掻っ攫い、更には陽乃に乗せられて文実を混乱させ、仕事に支障をきたした。
そこで止まっていればよかったのに、自分は周りを、優秀すぎる雪乃を、告発して自分以外をも悪と晒した彩加を、妬んでしまった。
妬んで、自分がみじめに過ぎて、逃げ出してしまった。
だけど、それを直視できず、理想を追いかけてしまったから、あんな訳の分からない力に惑わされ、怪獣となって故郷である街を壊そうとした。
何と愚かで救いようが無い事か、本当ならば、もう人間として死んでもおかしくない状況だったのだと、今更感じて、南は大きく溜め息を吐いた。
この罪は重く、何を以て灌げばいいかは分からない。
だが、まず、自分が何をしなければならないのか、それだけは、大和が道を示してくれた今なら、はっきりと理解する事が出来た。
「大丈夫、一人で立てるよ。」
二人から差し出された手を無視し、南は自分の脚で立ちあがる。
今は助けなど必要ない、語らずとも雰囲気がそう言っていた。
「戸塚君、大和君、ウチ、行ってくるね。」
二人に対して静かにそう告げる南の表情に、最早迷いと言う物は無かった。
今為すべき事をしに行く、その覚悟と決意に満ちた顔で笑い、その場を去って行く。
「そっか、いってらっしゃい。」
その覚悟を垣間見た大和は微笑み返し、ただ一言、いってらっしゃいと送り出す。
今迄の自分にサヨナラして来い、そんな想いが見て取れるような一言だった。
彩加もまた、彼女の決意に水を差す事無く、静かに頷いて屋上から去って行く彼女を見送った。
「大和君、少し時間空けてから体育館に戻ろっか。」
「そうだね。」
彩加の言葉に同意し、大和は頷きながらも、彼と共に屋上を後にする。
大和は、彩加が遠回しに何を言わんとしたかに気付いたのだろう。
南が一人で戻って来たと印象付ける為に、わざと遠回りをしてから文実に戻ると言う作戦を執るつもりだった。
何せ、そうしなければ、結局誰かに頼った事となり、周囲に変化を印象付ける事が出来ないのだから。
それを言わずとも理解しあった二人を見送り、一人屋上に残された隼人は、ただ茫然とする以外何も出来なかった。
何故、南は自分の手を取らずに一人で立ったのか。
何故、大和は嘗ての罪でさえ、人を進ませるための物として話せるのか。
何故、彩加も彼等がした事を責めないのか、その全てが理解不能だった。
全てが自分の思う通りにならない。
自分は間違った手筈は踏んでいない筈、だと言うのに、何故、彼等は自分の予想を超えていくのか、その理由が分からなかった。
「分からないって顔してるな。」
「ッ・・・。」
訳が分からずにいた隼人の背に、唐突に声が掛けられる。
ハッと我に返った隼人が振り向くと、そこには腕を組みながらも彼を見る、ステージに上がっていた時に来ていた軍服に身を包んだ一夏が、真っ直ぐ彼を見据えていた。
何時も、その表情の裏から感じるプレッシャーはなりを潜め、何処か若い者を見る様な、年寄り臭い雰囲気を感じ取れる辺り、純粋に隼人を案じている様でもあった。
「織斑先生・・・。」
「誰しも、人の思い通りに動く程簡単じゃない、単純に見えても、予想外の事をしでかす事もある。」
一夏の言葉を、隼人はただただ何も言わずに聞いていた。
それぐらい理解出来る。
だが、それが正しいとは、どうしても思えないだけだった。
今苦しまない方法なんて幾らでもある筈なのに、それを選ばないなど、彼は考えられなかった。
それが、彩加や大和、八幡に近い者達との決定的な違いだとは、彼も気付けぬ事だっただろうが・・・。
その言葉の意味を問おうと彼を見据える隼人だったが、それを遮り、一夏は笑った。
「ま、建前はどうでも良い、この事は、他言無用で頼むよ、俺も君も、困る結果にしかならないから、な・・・?」
先程までの案ずる雰囲気は何処へやら、それとも見ていた事を知っていたからこそなのか、雰囲気を180度変えた一夏の言葉に、隼人は心臓を鷲掴みにされたような衝撃を受けた。
何時もの優しげな笑みも、本性を隠す為の隠れ蓑でしかない、そう考えてしまったのだろう。
「早く体育館に戻りたまえ、そろそろ、閉会式が始まるからな。」
その雰囲気を消し去り、何も無かったと言わんばかりの笑みを浮かべ、一夏は隼人を置いて屋上から去って行く。
人の裏側を見せられたような心地に、恐怖を抱いた隼人は、ただただ、恐怖に打ちひしがれるように膝を付いた。
その表情には、自分の無力さを呪う怒りと、そこから生まれる、力への渇望と言う名の、闇だけが浮かんでいた。
これが、彼と、彼の周りに大きな変化を齎す闇となるなど、彼自身、想像すら出来なかった・・・。
sideout
次回予告
波乱の文化祭も幕を閉じ、八幡達とアストレイに何時もと変わらぬ日常が戻って来た。
だが、そんな彼等の下に、新たな訪問者が訪れる。
次回やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている。
川崎京華は見つけ出す