やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている 作:ichika
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一夏からの依頼を受けた彩加と大和は、文実の委員長である南を探すべく、校舎内を直走っていた。
走り始めて最早数分となるだろうが、目的である南は見つからなかった。
二人は通りがかる同学年の生徒や教員に行方を尋ねたり、思いつく場所を手分けして回っていた。
学校内にいるのかさえ怪しいが、流石に出て行けば誰かからの連絡はあると考え、学校内を重点的に探していたのだ。
「戸塚君!どうだった!?」
「離れの校舎にもいなかったよ・・・!」
途中、水分補給も兼ねて自販機前で落ち合った二人は、乱れに乱れた呼吸を整えて報告し合った。
大和は部活棟を、彩加は特別授業や移動教室などで使われる別棟を捜し回ったが、それでも見当たらなかった。
無理も無い、いくら他の文実のメンバーや教師陣が動いているとはいえ、学内はそれなりに広いし、死角も増えるし鍵も掛けられる場所も当然ながらある。
それらを全てくまなく見て回り、尚且つ三十分と無い時間内で見つけ出せと言う方が無茶があるのだ。
だが、彼等は引き受けてしまった以上、どれだけ無茶であろうとやり遂げなければならない責任がある。
それを放棄すれば、彼等も文実の他のトップ陣と何ら変わりないコトになってしまう、それだけは、プライドが許さなかった。
「見つけて欲しくは無いってか・・・!いい加減に迷惑かけてるって事に気付けっての・・・!!」
自販機で買った水を煽りながらも、大和は悪態を吐く。
普段は穏便に事を運ぶよう八幡達に進言している彼しては珍しく、余程気が立っているのか、語気は荒かった。
同じく水を煽りながらも、彩加はそれを咎める様な事はしなかった。
何せ、彼も大和と同じ心境である事は変わりないのだから。
「八幡なら、思考トレースは得意だから何とかできそうだけど、生憎、僕達じゃ・・・。」
「だね・・・、相模さんがどこに行くか、考えろってことか・・・。」
彩加と大和は、南がどこに行ったか、皆目見当が付かないと言わんばかりにタメ息を吐いた。
八幡ならば、相模の思考から逆算して、行きそうなところに大まかな目星をつけ、目撃情報や状況から特定する事は容易い事なのだろう。
しかし、それは元ボッチであるが故の、逃道を知っている彼だからこそ出来る訳で、それを今だ深く理解し切れていない彩加達には、到底不可能である行為でしかなった。
「でも、やってみようじゃないか、どうせ時間も無いんだし。」
だが、それでもやってみせると彩加は表情を引き締め、思考トレースを開始する。
どうせ、文句を言っていても時間はただ過ぎていくだけ。
それなら、少しでも足掻いてみせる。
それが、彩加が得た答えの一つだったのだ。
「(相模さんのプライドの高さと、今の状況を鑑みて・・・、相当苛立っているのは分かる、でも、だからと言ってこんな逃げで済むと思ってるんだろうか・・・?)」
南が何を考えて行動していたか、彩加には手に取る様に分かる、というほどでは無いが、それでもその根源を読む事は出来た。
南は元々、ある意味での自己顕示欲求が強く、他者を踏み台にしてでも自分の立場を保ちたいと言う感情が強い。
故に、誰かよりも目立てないと癪に障るし、気に入らないという感情が出てくる事も、想像に難くない。
だからこそ、隼人の勧めもあって、文実の委員長と言う、何よりも目立つポジションに着いた。
しかし、蓋を開けてみればどうだ、仕事の一切合切は雪乃が仕切り、彼女が為した事は何一つなく、それどころか文実にサボりと言う害悪まで持ち込む始末。
罵詈雑言は飛んできても、称賛されない状況に、彼女は耐えきれなくなったのだろう、
それぐらい、少しでも頭のまわる者が考えればすぐに辿り着く答えでもあったが、彩加はその一歩先を考える。
もし、それが彼女に耐え切れなかったとして、逃げたとして如何してほしいと言うのだ。
原稿を持って逃げれば、更に風当たりは強くなるし、それこそ何の意味さえ持たない。
そう、それが関わりの無い者だったり、彼女自身が気にも留めない相手からならば、だ・・・。
「なるほど、そういう事か・・・!」
「彩加君?」
その先に辿り着いた彩加は、クソッタレと言わんばかりに表情を顰め、その場所へと走る。
何故中途半端な、まるで探してくれと言わんばかりに、誰も知らない情報を持って消えたのか。
応えは至極単純だった。
逃げた自分を白馬にまたがる王子様が見つけ出し、慰めの言葉と共に助けてほしいという願望から出た行動なのだと。
そして、見付けてもらうには、ある程度見つけづらく、完全には隠れられない場所へ行く必要がある。
その場所とは、彼等もよく使うあの場所しかなかった。
「屋上だよ、どんだけ構ってちゃんなんだろうね、あの人はっ!!」
大和に向けて叫びながらも、彩加は憤りを隠す事無く吐き捨て、屋上への道を直走る。
そこに、目的の女がいると確信して。
やり遂げなければならない使命を果たすために・・・。
sideout
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「なんで・・・!なんでっ・・・!!」
その女、相模南は、八つ当たりする様にフェンスをガシャガシャと揺すり、憤りを隠す事無く吐き出していた。
何故こうなったのか。
自分は、一年前のように、一番になりたかった。
そうなれるポジションである文実の委員長と言うポジションに立候補し、それなりにやって来たつもりだった。
だと言うのに、結局目立ったのは雪ノ下雪乃だけで、自分は陽乃と戸塚彩加のせいで文実を滅茶苦茶にした張本人と言う、望んでさえいない結果になった。
一体何処で間違えた?何が悪かった?
そう考えるよりも先に、彼女の脳裏には自分を貶めた人物達の姿が去来し、更にその心を掻き乱していく。
「どうしてウチがこんな目に合わなきゃなんないのッ・・・!?」
その憤りは留まる所を知らず、その表情に、その瞳に強い憎悪の炎をともしている程だった。
だが、今回の一件を知る者は誰も、自ら進んで彼女を擁護しようとはしないだろう。
何せ、彼女の置かれている状況は、自分自身の甘さと身勝手が招いた、自業自得でしかないのだから・・・。
しかし、この年頃の少女が、舞い上がっていたとは言え、自分のせいだと簡単に認める事は出来ないだろう。
何せ、そうするやり方を知らないのだから・・・。
「憎いっ・・・!こうなったら、全部滅茶苦茶になれば良い・・・!!」
だから、彼女は逃げたのだ。
自分以外の誰も知らぬ、各部門の受賞者が記されたメモを持ち出し、全てを破綻させてやらんとして・・・。
尤も、それでも結局、何の解決になっていないのだが、それに気付ける程、彼女は冷静では無かった。
『憎いか・・・?壊したいか・・・?』
「えっ・・・?」
その時だった、彼女の背後で囁く様な声がし、南は小さく息を漏らしながらも振り向く。
そこには、黒いローブを被り、歪んだ三日月のように口元を釣り上げて笑う女の姿があった。
何時の間にそこにいた?何時から自分の話を聞いていた?
何から問えばよいのか分からぬ南は、ただ、目の前にいる、異質その者と呼ぶべき存在に視線を奪われた。
『憎いだろう?お前を追い遣った者達が、お前を苦しめる全てが?』
その女は、南に音も立てずに近付き、試す様に問いかけてくる。
その言葉は南のささくれ立った心に突き刺さり、彼女の興味を惹くには十分すぎるモノだった。
『この力を使うと良い、お前の望みを叶えてくれる、素晴らしい道具だ。』
食いつき始めた事に気付き、女は浮かべていた笑みを更に深くしながらも、闇に包まれたダミースパークと、一体のスパークドールズを南に手渡そうとした。
「こ、これは・・・。」
『これを取れ、そうすれば、お前の望みは叶うだろう。」
「ッ・・・!!」
躊躇う南に顔を近づけた女の言葉に、彼女は不審は何処へやら、目の色を変えた。
これで自分の望みが叶う。
それはつまり、今の状況を打開し、自分を頂点へと運んでくれる箱舟だとでも思ったのだろう。
その結論に至った南は、その手を伸ばし、ダミースパークと怪獣のスパークドールズを取った。
「相模さん!!」
「ッ・・・!」
その時だった、彩加と大和が屋上に辿り着く。
かなりの距離を走ったのだろうか、両名とも息を切らし、必死の形相をしていた。
しかし、南にはその表情が、別のモノにしか見えなかった。
怒りに満ちた、自分を貶めようとする敵意、そう解釈してしまったようだ。
「こ、来ないで・・・!う、ウチは何もダメな事してないのにッ・・・!!」
「何を言ってるんだ!?っていうか、それは・・・!?」
支離滅裂な事を口走る南に戸惑いながらも、大和は彼女が握るソレに気が付いた。
それは嘗て、自分も取り込まれた闇の具現化・・・。
「それを取っちゃダメだ!!全て失っちまうぞ!!」
「違うッ!!取り戻すんだ・・・!アタシが望んだ、全てを・・・!!」
何をしようとしているのか理解した大和は、南を止めるべく必死の形相で駆け寄ろうとするが、もう遅い。
南は勢いに任せ、ダミースパークにスパークドールズを読み込ませ、ダークライブのプロセスに入った。
『ダークライブ!ゴルドラス!』
「ア、アァァァァッ!!」
その瞬間、彼女の身体は闇に包まれ、悲鳴のような絶叫と共に怪獣の姿へと変わって行った。
その怪獣はゴルドラス、亜空間に潜む怪獣であり、時空を歪める能力を持つ非常に厄介な存在だった。
「相模さん・・・!!」
『ハーッハッハッハッ!!またしても簡単に墜ちるとは!人間とは何と浅ましい!!』
その光景を見た大和は止められなかった悔しさに歯を食いしばり、それをみた女、ダークルギエルは哄笑を挙げた。
愉快痛快、その女の声色からはその感情しか窺う事が出来なかった。
「ダークルギエルッ・・・!今日こそッ!!」
止められなかった悔しさと怒りを籠め、彩加は女に殴り掛かる様にして飛び掛った。
一夏達アストレイに鍛えられただけ在り、その速さと力強さは、同年代の男子数名を圧倒できるほどの物になっていた。
だが・・・。
『フッ・・・、ティガに教わったか、良い動きだ、だが・・・。』
薄い笑みを浮かべた女は、まるで霧のように存在をぼかし、彩加の跳び蹴りをすり抜けさせることで躱した。
「なっ・・・!・」
『あの男と比べると若すぎる、それに、お前の相手は我では無い筈だ、無駄な時間を過ごさぬ様、忠告しておいてやろう。』
「ま、待てっ・・・!!」
攻撃が外れた事に驚愕する彩加に、挑発とも取れる言葉を残し、その女は黒い霧の様なものとなって消え去った。
それは、ルギエルがこの場から逃げ去った証に他ならなかった。
「戸塚君!今はそれどころじゃない!!早く変身を!!」
それでもルギエルを追おうとした彩加に、大和はそんな場合じゃないと変身を促す。
このままでは、怪獣の存在が講堂内にいる者達にも知れてしまい、大パニックを引き起こす事など、少し考えれば分かる事だった。
彩加もそれに気付き、唇を噛みながらもエクスデバイザーを取り出し、プロセスに入る。
「X!ユナイト、行くよ!!」
『合点承知!!ユナイトだ!!』
Xとの掛け合いと共に光に包まれ、彩加は光の巨人となる。
『彩加、まずは被害を抑えるためにも、アレを使うぞ!』
『うん、特訓の成果、見せよう!!』
言うが早いか、Xはゴルドラスとの距離を詰め、カラータイマーから放出した光を右腕に纏わせる。
それは、彼等の師であるコートニーが変身する、ネクサスが周囲の被害を考慮して使った技に、とてもよく似ていた。
『Xバリアドーム!!』
光の壁と呼べるモノがXとゴルドラスの周囲を取り囲み、二体を隔離するように閉じ込めた。
外からはうかがい知る事は出来ないが、内部はそれなりに余裕があるらしい。
だが、大和にはそんな事などどうでも良かった。
彩加が無事に帰ってくる事、そして、南が彩加との戦いで救われてくる事、それだけが、彼が望む事だった。
ウルトラマンと言う超人などでは無い、何の力も持たない非力な自分はただ祈るだけ。
そう分かっているからこそ、彼は友を信じて祈った。
彩加ならばきっと、その光で闇を照らして悪を討ってくれる、と・・・。
だから、彼はバリアドームの中を見ようと、屋上から逃げる事無く、ただ見つめるだけだった。
それを見ている、第三者がいるコトに、彼自身気付かぬままに・・・。
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次回予告
過去を振り返る事は悪しき事では無い。
だが、立ち止まっては、未来は来ないのだ。
次回やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている
相模南は光を見る
お楽しみに