やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている 作:ichika
noside
「で、何やってんだお前等・・・?」
やたらと人が殺到する店があると言うタレコミを聞きつけ、その現場に駆け付けた一夏が見たのは、彼の身内が、彼の弟子を嬉々として弄り倒している現場だった。
その笑みは、完全にサディスティックな物にも見えたし、弟妹を可愛がる兄姉のモノにも見えたが、彼にとっては頭の痛いモノでしかなかった。
彼等が出向いてくる事など、何一つ聞かされていないし、出て来られてはある意味で収拾がつかない事態を引き起こしているのだ。
ここは多感な思春期男女が集う高校、そんな場所に人種豊かかつ、超が付く程の美男美女が現れればどうなるか、想像に難くなかった。
現に、コートニーと宗吾の接客にのぼせた女子が、何人も頬を紅潮させて身体を抱き、セシリアとシャルロットの囁きで注文を尋ねられた男子が、何人も前かがみになるなど、その被害は甚大に過ぎた。
その被害の大きさに、いや、それを分かっていて楽しんでいる嫌な大人達に呆れつつも、彼は教師として怒るべく、レイスタの店内に踏み込んだのだ。
そして現在、一旦営業を止められた店の床に、アストレイメンバー全員が正座させられ、一夏はそんな彼等を睥睨する。
無論、彼等の正体を知る者以外は完全に締め出され、誰も入れない様に人払いされていた。
「半年前にさ、全員で乗り込んだら目立つからって、俺が一番馴染みやすいからって潜入したんだぞ?分かってる?」
呆れ口調ながらも、かなり苛立っているのだろう、一夏は勘弁してくれと言わんばかりにまくし立てる。
折角今まで、学校中を巻き込むほど目立った騒ぎにはなっていなかったのに、こうも目立ってしまったらどうなる事か、考えるだけで頭が痛い所だろう。
「あ、あの、一夏・・・、ぼ、僕は反対したんだよ・・・?」
「一番乗ってたくせに良く言うよ・・・。」
正座が辛くなってきたか、シャルロットが少し涙目で反論する。
そんな彼女の隣にいた宗吾が、呆れた様に突っ込んでいた。
一番乗りノリで男子高校生を欲情させていたくせに、反対していたとはよく言えたものだと言いたいのだろう。
そういう彼も、女子高生の面食いを利用して、ホスト紛いの事をしていた事は棚上げしている様でもあったが・・・。
「まぁまぁ一夏、アンタだけこんな楽しい所にいるなんてズルいじゃないの、アタシもたまにはハジケたいわよ。」
「玲奈は何時もハジケてる様な・・・・。」
お前だけズルいだろと言わんばかりに唇を尖らせる玲奈に、リーカは苦笑しながらも突っ込んでいた。
お前が言うなと。
「言いたい事はそれだけか?」
しかし、そんな茶番など一夏には通じない。
彼は睨みを利かせるように眉間に皺を寄せる。
『すみませんでした。』
睨まれたアストレイメンバーも、たとえ力を失っているとはいえ、真のリーダーには頭が上がらないのだろう。
「本当にお前等は・・・、まったく・・・。」
それでもまだ何か言いたいのだろうか、一夏は表情を顰めながらも呟いた。
この場では教師としての体面を保たなければならないが、永年連れ添ってきた仲間の頼みも聞いてやりたいのが人情と言う物だ。
何か、どちらの面目も保てるものが有ればいいのだが・・・。
「先生、良かったらこの写真を。」
その時だった、嫌に良い笑顔を浮かべた彩加が彼に近付き、何やら一枚の写真を彼に見せた。
それを受け取った一夏の表情が、徐々に笑いを堪える物へと変わって行く。
「さ、彩加君に免じて、今回は赦す・・・!ふふっ・・・!!」
許しの言葉を絞り出し、一夏は堪え切れなくなったか、らしくもない噴き出し方をして部屋の隅に蹲った。
小刻みに肩が震えている事から、相当ツボに入っているのだろう。
何を隠そう、その写真とは先程、八幡と沙希が顔を真っ赤にしながらも、一つのケバブに一緒にかぶりついている瞬間を捉えたものだった。
嵌められている事に気付いていながらも乗せられてしまった、ある種の鈍感さがこれ以上なく愛おしいのだろう。
「分けて食べれば良いじゃないか・・・!こんな公衆の面前なんて、俺もした事ないぞ・・・!」
「「もうやめて・・・!勘弁してください・・・!!」」
正座をやめ、背伸びをしながらも笑う宗吾に、八幡と沙希はこれ以上ないほどまでに朱くなり、顔を覆って俯いてしまった。
今、素面に戻って思い返せば、何とも恥ずかしい事を臆面も無くやっていたモノだと、改めて恥ずかしく思ってしまっているのだろう。
「はぁ・・・、良いもん見せて貰った、君達のイチャイチャでこの店は救われた、感謝しろよお前等。」
これ以上何かを言うのも野暮だと感じたのだろう、一夏は目じりに浮かんだ笑涙を拭って、店の扉を開けて外へ出る。
そんな師の行動を恨めしく思いながらも、羞恥で動けないバカップルは、最早どうとでもなれと言わんばかりにぐったりしていた。
「待たせたな皆、改めてレイスタのオープンだ!楽しんで行けよ!!」
その顔は教師の物であると同時に、アストレイメンバーとしての表情も表にだし、店の前で待っていた客に開店を宣言した。
「ま、待ってましたーーー!!」
その先頭にいた一人の女が、待ちきれなかったと言わんばかりに、一夏を押しのけんばかりの勢いで店内に駆け込んできた。
「うぉぉっ・・・!?なんだぁ・・・!?」
あまりにも機敏に、まるでネズミが駆ける様な速さだったモノだから、流石の一夏も思わず飛びのく程だった。
「い、いたぁ・・・!」
「「あっ・・・!?」」
「う、わぁ・・・。」
その女は、店に入った途端に在る人物を見付け、表情を輝かせる。
その反応に対し、真っ先に反応したのは、コートニーとリーカ、そして、彩加であった。
コートニーとリーカは、なんで来たと言わんばかりに、彩加は来ちゃったよとげんなりするように、その顔を顰めていた。
「こ、コートニーさんがお店出してるって、後輩から聞いて飛んできました!!」
「そ、そうか・・・、そうかぁ・・・。」
その女、雪ノ下陽乃は、少し息を切らしながらも、紅潮した顔でコートニーに詰め寄って行く。
表情こそ笑みを取り繕っているが、コートニーは内心冷や汗が止まらなかった。
何せ、彼の背後には、絶対零度の殺気と怒りを放つリーカの存在がいるからだ。
「「「(えぇ・・・、なにこれ・・・。)」」」
『(誰・・・?)』
八幡と沙希、そして大和は、目の前で起こっている珍事が理解出来ず、ただただ硬直し、そして、残るアストレイメンバー5人は、自分達と面識のない陽乃に、何故コートニーに寄って行くのか理解出来ず、ただただ呆然とする以外なかった。
「(彩加君、あれ誰?知り合い?)」
一夏は、そんな状況の中でも冷静に、嫌そうに状況を見ていた彩加に、その女の正体を問うた。
「(雪ノ下陽乃、あの雪ノ下さんのお姉さんで、相模さんを唆した張本人です。)」
「(なんだと・・・、だが、あの様子は・・・。)」
彩加からの答えを聞いた一夏は、陽乃を排すべき敵だと一瞬認識するが、コートニーに対する彼女の表情に見覚えがあったため、一体どうしていいモノか、判断しかねているのだろう。
「凄く良い雰囲気・・・!夜の方とも遜色ないですね・・・!」
「ひ、昼の喫茶をベースにしている、そこは俺じゃ無く、あそこの男が仕切ってるんだ・・・!」
店の雰囲気から、遠回しに夜の店を担当しているコートニーを褒める陽乃に対し、彼は何とか矛先を逸らそうと、昼の喫茶店営業の責任者である宗吾を指した。
「や、やめろ・・・!俺を巻き込むな・・・!!」
唐突な親友の裏切りに驚き、宗吾は一瞬仰け反り、とばっちりを受けない様に一夏の背後に隠れた。
「何故俺に隠れる!?」
更にとばっちりを受ける形となった一夏は、柄にもなく声を張り上げて狼狽えた。
此処で巻き込まれれば、自分の女達から何を言われるか分かった物では無い。
何せ、傍から見ればそうでもないが、彼等の実年齢を鑑みれば、ロリコンなどと言うレベルでは済まされない程なのだから。
『(このバカ夫共は・・・。)』
そんな男共のやり取りを見ていたアストレイの女達は、何処か冷めた目で見ていた。
こんな子供じみた事をやっていて、何処か楽し気なのだから何と言えば良いのか分からないのだろう。
「え・・・!?」
だが、そんな大人たちの雰囲気など知らぬ存ぜぬ、陽乃は眼中に入って来た一夏と宗吾の纏う雰囲気に驚く。
人目を惹く程に整ったルックスに気が向かない程、彼女は2人が纏う雰囲気に呑みこまれていた。
幾度も修羅場を潜り抜けて来た者にしか纏えぬ覇気と、その圧倒的なまでの存在感から、彼女は嘗て目の前で見た巨人の姿を連想した。
「そっか・・・、ここの人達は、みんな・・・!」
コートニーとリーカがそうであったように、この店内にいた者達もまた、光の巨人であると・・・。
それに気付き、だからこそ引けないと言わんばかりに、彼女は瞳を怪しく光らせた。
「えへへ~!それじゃあ、コートニーさんお借りしていきますね!」
視線が一夏と宗吾に集中した隙に、陽乃はコートニーの腕を掴んで店から出ようとする。
「ひ、人の旦那を取らないでよっ・・・!!」
それに気付いたリーカも、飛び掛る様にしてコートニーの左腕に抱き着き、自分のモノだと言わんばかりに身体を寄せていた。
リーカもリーカで、独占欲と愛情が深いため、結構面倒な事に陥りやすい事は、メンバーも周知の事だった。
「き、休憩入ります・・・!!」
被害を自分だけに収めるつもりなのだろうか、コートニーは店を離れる旨を告げ、引き摺られるように出て行った。
その姿からは、ドナドナのメロディーが聞こえてくる様で、一夏と宗吾だけでなく、八幡と大和、そして彩加もまた無言の敬礼でその背を見送った。
彼の悲哀に満ちた背中に、男としてある意味、同情するしかなかったのだろう。
『(この男共は何やってるんだろう・・・。)』
男の悲哀を理解出来なかったか、沙希も含めた女性陣は、更に冷たい目で彼等を見詰めるしかなかった。
「はぁ・・・、それじゃあ、俺達そろそろ違うトコ行きますね・・・・。」
そんな空気を察したか、八幡は大きなタメ息を一つ吐き、沙希の手を取って立ち上がる。
どれ程恥ずかしくて混乱していても、大切な人の手は離さない、少しだけ前に進んだ彼の姿だった。
「ん、此処だけにいるのも面白くないだろう、色々見に行って来い。」
そんな彼等に、一夏は微笑みと共に行って来いと手を振った。
彼の言葉に同意するように、アストレイの面々もまた微笑み、手を振って彼等を見送る。
そんな彼等に、八幡と沙希も頷き、二人連れ添ってレイスタの店内から出て行った。
その後姿は互いに寄り添い、そこに在る感情を慈しみ、育む様に、優しさに包まれた何かが、確かに存在していた・・・。
sideout
noside
その頃、その少女はただ独り、誰もいない場所見付けるべく、息を切らしながらも走っていた。
その姿はまるで、腹に抱えた黒い想いを吐き出す場所を探している様にも見て取れた。
彼女の表情は困惑と悲哀、そして、何よりも深い嫉妬と怒りに塗れていた。
先程の、有志が出していた喫茶店内で見せ付けられた、彼と、忌々しい女の、その睦まじい光景が、彼女の頭から離れる事無く、今もまた、悪しきイメージのようにリフレインし続ける。
何故こうなったのか。
何故、彼はあぁも幸せそうに笑っているのか。
あの女よりも先に、彼に救われ、彼を想っていたのは、紛れも無く自分だった。
なのに何故、自分は、彼に振り向いて貰えないどころか、怒りを向けられなければならないのだ。
理由を考えれば、自分にも非がある事と分かり切っている事だが、今の彼女には、彼の行動、言動、そして、今置かれている環境そのものが、全て理不尽に見えて仕方が無かった。
彼の隣にいれるのは自分だけ、彼女はそう信じて疑う事は無かった。
だから、そう在るためにも、彼女は自分が為すべき事へ、その頭で考え始めていた。
あの女を排せば、必ず彼は自分を見てくれる。
根拠も無く、彼女はそう確信していた。
喩え、どう思われようが、きっと成ると信じて、彼女は歩みを止めるつもりはなかった。
それが、どれ程深い闇に落ちていく事と知らないままに・・・。
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次回予告
何を間違えたのか、何故間違えたのか。
その理由に気付けぬ少女は、ただ叫ぶ事しか出来なかった、
次回やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている
相模南は慟哭する 前編
お楽しみに