やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている   作:ichika

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戸塚彩加は戦っている

side八幡

 

「ってコト、やっちゃった♪」

 

「「そ、そっか・・・。」」

 

文実で彩加がやらかした事を聞かされた俺と沙希は、矢鱈と良い笑顔で報告する彩加に少し、いや、結構引いてしまっていた。

 

この日、俺達は大和も含めた四人で昼食を取るついでに、前日に起こった事を報告していた。

 

だが、彩加の悪魔のような天使の笑みと、やった事のえげつなさに物も言えず、俺と沙希は何も言えずに、ただ引き攣った笑みしか浮かべられなかった。

 

何せ、言いだしっぺの相模だけではなく、実際にサボりを行った奴等全員を糾弾対象にする事で脅し、責任を与えてやる事で、仕事に出て来させるように仕向けるなんて・・・。

 

昔の俺なら兎も角、今の俺には考えもつかない程にえげつないやり方だった。

 

「あれは見ててハラハラしたよ・・・、戸塚君、目ぇ笑ってなかったもん・・・。」

 

そのやり方を見ていた大和は、もう嫌だと言わんばかりの表情で、げんなりと呟いた。

 

分かるぞその気持ち、俺も生で見ていたらそう思わざるを得ないだろうからな・・・。

 

「いやぁ、言いたいコトが全部言えて、僕は満足だよ~♪」

 

「いや、まぁ・・・、戸塚君が良いなら、俺は何も言わないよ・・・。」

 

あははと笑い、一切後ろめたい感情を出さない彩加に、もう何も言えないと分かったか、大和はタメ息を吐いて苦笑するばかりだった。

 

しかし、俺と沙希は知っている。

 

先生が彩加に頼まれた情報を持ってきた際、大和がその集められた情報の中から、必要最低限以上のダメージがあり、尚且つ公にしていい情報を選んでいた事を。

 

俺と沙希は、取り敢えずインパクトがあるモノとをと、新聞記者の様な選び方をしていた。

 

だが、大和はその上を行っていた。

 

ダメージを的確に与えられるものを選びつつも、公表されてしまえば社会的に抹殺されかねない情報は、出来る限り除外していた。

 

その理由を聞けば、『罪と咎のバランスは考えないといけない』、大和はそう答えた。

 

その瞬間だけは首を傾げたが、よくよく考えれば単純に分かる事だった。

 

如何に咎められる様な行動を取っていたとはいえ、今後の学校生活に支障が出る程のダメージを与えてしまえば、文実どころか学校にさえ出て来ない奴だって出てくる可能性がある。

 

そうなれば、彼等は迷惑を掛けた加害者では無く、生活を奪われた被害者に転じる事となる。

そこまでダメージを与える事は、彩加にとっても望ましい物では無いだろう。

 

改めてそれを見ると、彩加の苛烈さに埋もれつつあった優しさが、理性的に動ける大和の優しさに期待した結果なんだろうなとさえ思えちまうよ・・・。

 

尤も、進学校故に問題視されるまでガラが悪い奴はいないし、大きな問題を起こす奴もいなかったのが不幸中の幸いだったな。

 

居たとすれば、とある男子の委員が、不純異性交際目的でそういう宿泊施設を利用していた事と、とある女子委員が援助交際を行っていた事ぐらいだな。

 

別にその辺りについては、口に出すつもりはない。

だが、学校側から見れば指導を行わざるを得ない事案である事は間違いない。

 

この辺を公開しない、若しくはある程度だけ仄めかすに留めたのも、その辺りの影響を考慮した結果だと考えると、俺は頭の下がる思いだった。

 

「でもまぁ、これで万事うまく行くと良いね、雪ノ下にも貸しを作れたし、良いんじゃないか?」

 

話を纏めるように、沙希が万事OKと言わんばかりに頷いて、セシリアさん直伝の紅茶に口を付けていた。

 

冷めてもおいしいアイスティーだけに、今の時期にはありがたい飲み物だな。

 

そういえば、この前の放課後、校門の前で宗吾さんを見かけたけど、一体何しに来てたんだ・・・?

 

まぁ、何かするつもりなんだろうけど、先生も大体把握してるだろうし、今は考えなくていいか。

 

って、今はそんな話はどうでも良いか。

 

「そうだな、・・・、で、何時までそこにいるつもりだ?」

 

つい先程から感じる、俺達とは違う気がすぐ近く、正確に言えば屋上の入口の陰になっている所にそれはいる。

 

無論、気のせいなどでは無い。

大和は兎も角、沙希も彩加もそれには気付いているのだから。

 

「・・・、やぁ・・・。」

 

俺の声に応じて、入り口の陰からその男、葉山隼人が現れる。

 

だが、その表情には何時もの、貼り付けた様な笑みは無く、何処か鋭い雰囲気さえ窺えた。

 

まぁ、無理も無い。

昨日の、場を掻き乱すだけ掻き乱していく方法を、この男は好まないのだろうからな。

 

「何の用だ?依頼なら奉仕部に行けよ。」

 

だが、俺とてコイツの事をあまり良く思っていないのも事実だ。

 

何せ、文実の崩壊の遠因を、コイツは作っているのだから。

 

「少し、君達に話を聞きたくてね、特に戸塚君、君には驚かされるばかりだ。」

 

なるほど、彩加に入れ知恵したとでも思われてるという訳か。

まぁ、思いついたのは彩加だし、それを実行段階まで持って行ったのは先生と大和だから、そう思われても筋違いでしかないんだけどな。

 

「何故、昨日はあんなことをしたんだ・・・、あんな、脅しみたいなことをして・・・。」

 

脅しや皮肉の本当の目的が分かっていて、それでもあのやり方が気に入らない、か・・・。

 

確かに、見ていて気分のいいものではないだろう事は推測できるが、それでも食って掛かる程の事じゃない。

 

それに、悪いのは脅される原因を作った奴等だろうに・・・。

糾弾するつもりなら、彩加にするのはお門違いにも程があるだろう。

 

「大したことしてないよ、あのままだと文化祭どころじゃなかったからね。」

 

「そういう事を聞きたいんじゃない。」

 

その思惑を知ってか知らずか、笑ってやり過ごそうとする彩加に、奴は何処か苛立ったような、激情の様な色を僅かに表に出して問う。

 

よっぽど気に喰わないらしいが、何の為に怒っているのか、その理由に皆目見当も付かなかった。

 

「君は、自分が報復の対象になっても良いのか?もっと、誰も傷付かなくていい方法があっただろ?」

 

なるほど、自分が敵視される事も厭わず、ただ文実の膿を出し切った事に理解に苦しんでいるのだろうな。

 

皆仲良く、誰も傷付かない、なんていい響きなんだろうな、反吐が出るぜ。

 

「そんな方法あったの?」

 

俺と同じ感想だったのだろう、彩加は心底ウンザリしたと言わんばかりに吐き捨てる。

 

彼とて分かってしまっている。

悪を、闇を切り捨てなければ、淘汰せねば光のある道には戻せない。

 

彩加はそれを、ウルトラマンとして戦っているからこそ、誰よりも身に染みて分かっているのだろう。

 

自分も傷付いて、それでも正しい者の為に悪しき者を倒すと。

まぁ、あの文実が正しいかと聞かれると、それはそれで首を傾げたくなるけどな。

 

「ねぇ葉山君、文実を無茶苦茶にしたのは誰?仕事を滞らせたのは誰?」

 

「そ、それは・・・。」

 

彩加の抉る様な問いに、葉山はその相手を思い浮かべたか、僅かに口籠る。

 

実際答えられんだろうさ、何せ、彩加が糾弾したのは皆咎人、本来切り捨てなければならない相手だからだ。

 

「そんな人達が傷付かないで、今まで仕事を押し付けられてた人達は不公平と思わないかな?」

 

彩加の言っている事は尤もだ。

 

仮に葉山の言う通り、他のやり方、サボって来た奴も傷付かないやり方があったとしよう。

 

別にサボって来た奴が何と思おうと知った事では無い。

 

だが、今迄散々サボってた奴が、作業が終わりかけの頃にノコノコやって来て、雀の涙ほどの手伝いだけで自分の手柄ですって顔をしているとなると、徹頭徹尾真面目に働いていた奴の心情は、それはもう不愉快極まり無いモノになる事間違いなしだ。

 

だからこそ、今戻って来るなら懺悔してからだという意味も込めて、あのやり方になったんだ。

それを批判する事は、対案も出さずにいたお前にも、当然その場にいなかった俺と沙希にも出来る筈も無い。

 

「っ・・・!だ、だが・・・!」

 

「隼人君、そこまでだよ。」

 

それでもまだ食い下がろうとする葉山を、大和が少し重みを伴った声色で制する。

 

「やり方はどうであれ、戸塚君は文実の歪みを正したんだ、何も出来なかった俺達に、批判する権利なんてないよ。」

 

「大和・・・。」

 

「これ以上、何か言うなら流石に黙ってられないよ、一応、戸塚君も隼人君も友達だと思ってるんだ、穏便に行こうよ?」

 

自分達の無力さを、そして、彩加の功績を認め、大和は黙っていろとヤツを制した。

 

批判する権利も無い、それは俺と沙希にも言える事だな。

 

尤も、俺も沙希も、やると決めた奴のやり方を、親友の決断を間違いだなんて謂わねぇけどな。

 

「・・・、分かった・・・、お昼ご飯、邪魔しちゃったね。」

 

それが効いたかどうかは定かではないが、葉山は言葉を呑み込んで俺達の前から去って行った。

 

学年1のモテ男に、よく啖呵を切れたもんだ。

スゲェよ大和、俺達とは違う光を、お前から感じられるぐらいに。

 

俺達みたいに突っ撥ねるやり方じゃ無く、相手の弱さも、自分の弱さも認められる、そんなやり方を、俺は純粋に羨ましくさえ思えた。

 

「はぁ・・・、まぁ、これで良いかな。」

 

「ゴメンね大和君、気を遣わせちゃって。」

 

タメ息を一つ吐きながら苦笑する大和の表情は、何処か清々したような何かを感じ取る事さえ出来た。

 

まるで、欺瞞を晴らした達成感のような、晴れやかな表情だった。

 

「良いよ、まぁ、これからまた大変な事が起きるかもだけど、君達なら乗り越えられるって、俺は信じてるから。」

 

そう言って笑いつつ、大和は沙希に戻ると言って立ち上がり、俺の弁当箱から卵焼きを奪って去って行った。

 

まぁ、今回の感謝賃として大目に見ておこう。

 

「分かってるさ、乗り越えてみせるよ、俺達5人と、お前も含めたチームでな。」

 

信じて貰えたからには、それに応える事もウルトラマンに選ばれた、俺達の役目だ。

 

それを信じて、これからも戦って行こうじゃないか。

 

俺達に出来る事が、その道に在るのなら・・・。

 

sideout

 

noside

 

それから何事も、陽乃の横槍も無く、文実の作業は滞りなく進み、無事に文化祭の開催当日まで漕ぎ着けた。

 

彩加の脅しの効力は非常に強く、誰も休む事無く仕事を熟し、遅れていた分の作業を一気に取り戻すほどだった。

 

無論、仕事の勝手を知らなかった者達が居た訳だが、その他のメンバーが事前にフォローしていた様で、大きなミスも無く、彩加は安堵のタメ息を吐いたほどだった。

 

八幡と沙希は初の文化祭デートを楽しみたいと言っていたそうで、沙希に至っては前日から気合入れて弁当を作っていると聞いている。

 

それを聞いた彩加は、それはそれは良い笑顔で『砂糖吐きたい』と大和に愚痴ったそうだ。

 

そんな話はどうでも良いとして・・・。

 

「やってきたぞ文化祭ーーーッ!!」

 

文化祭開会セレモニーのために満員となった体育館に、司会を務めるめぐりの煽りが響き渡る。

 

その煽りに、全校生徒は大いに沸き立ち、会場は熱気に包まれていた。

 

「行くぞ皆ーーーッ!!同じ阿保ならぁ!?」

 

『踊らにゃSING A SONG―――ッ!!』

 

漸く決まったスローガンのコール&レスポンスに、彩加はゴロ悪いなぁとか思いながらも、タイムキーパーの仕事を淡々とこなしていた。

 

彩加の手腕と、裏の実力者として名を馳せたためか、極一部を除き、彼が仕事を一部取り仕切る事に異論を唱える者はいなかった。

 

それはさておき・・・。

そんな彼の前で、開会セレモニーは進んで行く。

 

長ったらしい校長や理事の挨拶が淡々と済まされて行き、遂に式は実行委員長の閉会の言葉で締めくくられる段階まで来た。

 

「それじゃあ、委員長の相模さん、閉会の挨拶お願いします。」

 

だが・・・。

 

壇上に上がる南の足取りは重く、何処か躊躇う様な、怯える様な様子が窺う事が出来た。

 

そして、マイクの前に立った時、それは起こった。

 

「え、えー・・・、ご、ご紹介に・・・!」

 

マイクとの距離が近すぎたか、上擦った声を捉えきれなかったか、マイクがハウリングを起こす。

 

リハーサルでは起こる事など無かった不手際に、会場全体がざわめく。

 

純粋に面白いと言うだけの笑い声、嘲る様な笑い、応援する様な声があちこちから湧き上がるが、当の南に、それは如何聞こえただろうか・・・。

 

「(これは、マズイかな・・・)相模さん、巻きでいくから、会終わらせて。」

 

その状況を良くないとみて、彩加はインカムで南に指示を出す。

 

早めに場を終わらせ、南をこの場から遠ざけてやる、それが最善と判断したのだろう。

 

「い、委員長の相模です、ぶ、文化祭、楽しみましょう・・・!」

 

彩加の助け船を受け、南は詰まりそうになりながらも、何とか挨拶を終わらせ、一礼して逃げるように壇上から降りた。

 

だが、それが良くなかった。

彼女に追い打ちを掛けるように、一際嘲笑が響いている様にも思えた。

 

「(何やってるんだ・・・、これじゃあ嗤ってくれと言ってるもんだぜ・・。)」

 

客席からそれを見ていた大和も、今の雰囲気が良くない事を感じ取っていた。

 

どれだけ詰まろうとも、どれだけ噛もうとも、堂々としていれば特に謂われる事は無い。

 

しかし、今の南の様子では、自分の醜態から逃げているようにしか映らない。

 

それは、委員長である南には在るべき姿では無い事など、考えるまでも無かった。

 

「「(嫌な予感がする・・・、それも途轍もなく・・・。)」」

 

二人は全く同じ事を考え、これから来るであろう闇に対して危機感を抱いていた。

 

熱を増す文化祭にも、闇は、刻一刻と迫って来ていると・・・。

 

sideout




次回予告

人生初の文化祭デートに高揚する八幡と沙希の前に、悪戯好きな超人は笑いかけていく。
それは祝福かからかいか、それとも・・・。

次回やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている

八幡と沙希は手を繋ぐ

お楽しみに

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