やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている   作:ichika

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比企谷八幡はその力を見る

side八幡

 

翌日の昼休み、俺達奉仕部と織斑先生、そして、依頼主である天使・・・、間違えた、戸塚はジャージに着替えてテニスコートに集まっていた。

 

なんで織斑先生まで一緒なのかというと、平塚先生が果たさない監督責任を代理で行う事を建前にここに居るらしい。

 

なるほど、それなら誰も文句は言えない、言ってきたとしてもイチャモンだからな。

 

「それじゃあ、よろしくね八幡!」

 

「おう!まずは筋トレからだな!大丈夫だ、メニューは昨日の内に考えて来たからな!」

 

「ヒッキ―気合入りすぎだしっ!?メニュー考えて来たってやる気出し過ぎでキモい!!」

 

黙れ由比ヶ浜、これが普通だ、戸塚の為にメニュー作る位普通だバカヤロー。

 

というより、なんで由比ヶ浜と雪ノ下がここに居るんだよ。

お前等いらねぇって言われてただろうが・・・。

 

まぁ、何があるか分かったもんじゃないからいて貰った方が楽だけどな。

 

で、バーで貰っていた先生のメアドで連絡を取り合い、一日に熟すべきメニューを聞いて考案してきた。

 

準備運動10分、50Mダッシュ×5セット、筋トレは雨の日メニューに入れる事で落ち着いた。

 

脚力はランニングと走り込みで、腕力は普段の練習と軽いダンベル運動で賄う事で、短時間ながらもある程度効率よくトレーニングが出来る様に考案されている。

 

先生曰く、放課後のように限られた時間でやるにはトコトン効率を突き詰めないと身にならないという事で、ウォームアップは最低限に留めているとの事らしい。

 

でもって、俺も一緒に付き合ってみたが、そんなにキツくはないし、柔軟体操とかに比重を置いてるから身体が硬くて動かないなんて事も無い。

 

予備校終った後に聞いといて正解だ、そうでなかったら足を引っ張ってた所だよ。

 

「それじゃ、八幡君、戸塚君とラリーやってくれるか?なるべくコート全部使ってな。」

 

「はい!」

 

「分かりました。」

 

先生の指示に従い、俺と戸塚はコートの反対側にそれぞれ入る。

最初のサーブは戸塚からで、俺が打ち返すという形である。

 

「行くよー!」

 

戸塚のラケットがボールを打ち、軽い弧を描いて俺の方のコートに落ちる。

 

「おう!」

 

ボールに追いつき、なるべく後ろの方を狙って打ち返す。

 

テニスなんて中学の頃の授業で触ったきりだったから出来るかどうか不安だったが、戸塚が上手く打ち返してくれるのと、俺の中にいるギンガのおかげか、そこまで苦しくは感じなかった。

 

寧ろ余裕を感じるまである。

 

どうやら、ウルトラマンと融合した事で身体能力が上がったんだろうな。

 

なにそれ、聞いてない。

 

「やっぱ上手いなぁ、流石現役!」

 

「えへへっ!それ程でもないよっ!」

 

ぐぉぉぉ!笑い方が女子以上に可愛い男なんてほんとにいんのかよ!?

キラキラしてて玉が霞む・・・!!

 

「流石、体育の成績は4なだけはある、まぁ、それだけじゃないけどな。」

 

ボールを一度逸らした時、俺の耳に織斑先生のつぶやきが入る。

 

あの人、本当に俺の事調べてるんだな、体育の成績なんて誰も見ねぇよ・・・!

 

まぁ、そこまで目立つほど動いてる訳じゃ無し、今はやり過ぎない様に抑えて動いてるから、少し運動が出来る人間程度にしか映らないだろう。

 

「八幡凄いね!こんなに上手だなんて、ビックリしたよ!!」

 

戸塚がネットの向こうから声を掛けてくる。

そうか、凄いか!なんか誇らしいじゃねぇか!!

 

「ははは、ありがとな!身体動かすのは好きだからな、じゃあ、もう一回やるか?」

 

「うん!よろしくね!!」

 

軽い確認を交わしつつ、俺はもう一度ラケットを握り直し、自分からサーブを繰り出す。

 

そこまで凝った技は打てないが、筋力頼みの打ち方なら出来る。

まぁ、テニス経験者の目から見れば、こけおどしも良い所だけどな。

 

「そこっ!」

 

戸塚は俺が打ったサーブに追い付き、あっさりとスマッシュで打ち返す。

 

「うぉっ!?」

 

追い付いたのは良いが、あまりに強烈なショットに対応しきれず、ラケットが弾き飛ばされる、ように見せかける。

 

打ち返せなくは無かったが、本職が負けてちゃ立つ瀬ないだろうしな。

 

俺の目論見どおり、ボールはネットにすら届かず、俺の側に点々と転がって行った。

 

「いってぇ~・・・、流石だなぁ・・・!」

 

手が痺れた振りをしつつ、俺は織斑先生から投げ渡されたタオルで顔を拭く。

 

「ううん、今のは一発で決める良い練習になったよ、他の部員じゃ、中々ね・・・。」

 

レベルが合わないとか、そんな実力的な問題じゃない。

出て来てくれないから練習する事さえ難しい、か・・・。

 

孤独、慣れない人間にとってそれは只、刃になるだけに過ぎない。

 

俺みたいに当たり前と化せば気にも留めなくなる、だが、そうじゃない奴の方が多い。

だからこそ、戸塚のように誰かに助けを求めるのだろう。

 

「まぁ・・・、俺も暇な時は手伝うよ、だけどな・・・。」

 

でも、強くなる事で部が盛り返すかと問われればそうじゃない、肝心な事を忘れている。

 

それは・・・。

 

「お前一人だけが強くて、本当に部が盛り返すか・・・?」

 

「えっ・・・?」

 

俺の言葉に、戸塚だけでなく雪ノ下と由比ヶ浜まで驚いた様な顔をしていた。

 

織斑先生は俺の言葉に期待していたのだろう、少し楽しげに俺達を見ていた。

くっ・・・!気付いてたならさっさと言ってくれればいいのに・・・!!

 

けど、そんな恨み言を言っても何も始まらないのは百も承知、言ってやるぜ!

 

「へぇ、テニスしてんだ、あーしらも混ぜてよ、結衣?」

 

だがしかし、その矢先に投げかけられた言葉に、俺の決意は止められてしまう。

テニスコートの入り口を見るや、俺のもっとも苦手とする奴らがテニスコートに入ってくる。

 

煉獄の女王 三浦優美子を筆頭に、イケメンリア充 葉山隼人の一行だ。

他の奴等の名前は・・・、確か、茶髪ロン毛のお調子者そうなのが、戸部って苗字だったか・・・。

後は知らん。

 

つーか、コイツ等はあれか、由比ヶ浜の姿が見えたから寄って来たのか・・・。

あれだな、こんな事になるって分かってたら、意地でも由比ヶ浜と雪ノ下を退かせてたんだけどなぁ・・・。

 

「あっ、優美子、それから隼人君も!やっはろー!」

 

このバカビッチが・・・!ここで挨拶返すって事がどういう意味になるのか分からないのか・・・。

 

それに気付いてる雪ノ下は頭が痛そうにタメ息を吐き、織斑先生は少々悪だくみを考える様な表情をしていた。

 

・・・、いや待って!?織斑先生動いたら、草も生えない状況になるから!?

 

「うーっす、で、あーしらも参加していいんよね?」

 

「え、えっと・・・。」

 

三浦を前にして、戸塚は怯えるではないにしろ、困った様な表情を見せた。

 

人の良い戸塚の事だ、申し出を断れるはずもない。

それに、相手はトップカーストに属する奴等だ、影響力は計り知れん。

 

断り方を間違えれば、それこそ何されるか分かったもんじゃない。

 

「それは受け入れられないわ、戸塚君は部活動の一環として取り組んでいるの、邪魔なのは分かっているでしょう?」

 

雪ノ下、それは確かに正しい言い分かもしれない、だが、今は昼休みだ。

部活動なんて言葉に意味は無い。

 

それに、そんな理由でコイツ等が止まるなんてことは無いだろうよ。

 

「は?アンタには聞いてないし、それに、人数多い方がダブルスとかも出来んじゃん。」

 

三浦の言う通り、シングルスでな出来ない戦術だってあるし、俺には分からんが仲間とのコミュニケーションも必要となってくるだろう。

 

今の人数では出来ることも限られるし、何時までもシングルスだけで良いとは言えないだろう。

 

とは言え、戸塚がシングルス専任ならダブルスの練習は必要ないと言える。

 

故に、ここで受け入れるべきか否かは、優しい戸塚に委ねられてしまうのだ。

 

だが、忘れてはいけない、ここにはもう一人、俺ら学生なんか足元にも及ばない究極の男がいるのだから。

 

「まぁ待ちなさい、二人とも自分が無茶な事を言っているか分からないかな?」

 

睨み合う雪ノ下と三浦の間に割って入る織斑先生の顔には、凄まじく悪い企みを企てている色が見て取れる。

もうだめだぁ・・・、御終いだぁ・・・。

 

「お、織斑先生・・・、な、殴り合いはしないし!」

 

おい三浦、完全に顔が引き攣ってる、先週のあれが効いてんのか。

雪ノ下、ドヤ顔してるけどお前なんもしてないからな?

 

「スポーツに暴力は御法度さ、それよりも、スポーツ内で起きた揉め事はスポーツで解決するが一番良い。」

 

先生はベンチに置いてあった予備のラケットとボールを手に取り、葉山のグループメンバーに手渡した。

 

「今現在、ここの監督責任者は俺だ、テニス部顧問の寺井先生とも話は着けてある、よって、昼休みにここを使おうと思うなら俺の許可を取らねばならない。」

 

先生のいう事は御尤もだ、確かに奉仕部とテニス部が共同して取ってはいるが、奉仕部は所詮非公式の部活、そして、テニス部だって元々は昼休みに使う事はまず想定されていない。

 

そして、今日このコートが使えているのも、織斑先生が昨日から手を回してくれているからに他ならない、自分が監督者として同席するという条件の下、今回の許可が下りているのだ。

 

よって、彼ならこういうだろう。

 

「よって、テニスで俺を下せば、昼休みのテニスコートの使用権をテニス部以外の生徒にも開放しよう、もし、負ければ授業以外でここを使う事は許さん、それでも良いなら、かかって来い。」

 

挑発的な笑みを浮かべ、彼はラケットで三浦達を指した。

 

なるほど・・・、これなら後腐れは無い。

放課後はテニス部が使う、だが、その使用権が曖昧な昼休みの時のルールを明確化できる。

 

正に、全員がリスクとリターンを負うという、究極の二者択一だ。

 

瞬時に話を決着に導くには、これが最良手だ。

 

「良いじゃん!やってやるし!!あーし、中学の頃はテニスで結構良い線行ってたんだよね!」

 

挑発とリターンに乗せられて、三浦がラケットを持ってさっさとコートに入ってしまう。

 

負けても自分達がテニスコートを使えないというだけで他にリスクは少ない、よって、分の良い賭けだと確信しているだろう。

 

だけど、織斑一夏と言うジョーカーが、その賭けを崩壊させていると、この場にいる織斑一夏と言う異次元の存在を知らぬ人間が気付く筈も無い。

 

だが、俺は何も言えない。

これ以上人間を巻き込むと、間違いなく良い事は起きない。

寧ろ、事態が悪化してしまうまである。

 

「ハンデは必要かな?そもそも、着替えなくていいのか?」

 

「必要ないし!」

 

あぁ、若さ故の傲慢か、それともただの自信家なのか・・・。

まぁ、助ける義理はねぇか・・・。

 

「良いだろう、時間も無い事だ、6点先取で決着だ。」

 

情けをかける気が無いのか、それとも、女を泣かす趣味がある生粋のサディストか、織斑先生は軽い屈伸運動をして、ジャージの上着を脱いだ。

 

インナーが軽く盛り上がる位に鍛え上げられた胸板や、半袖から覗く腕は太く、筋肉に覆われていた。

 

すっげぇな・・・、スーツを着てる時は目立たないのに、脱いだら凄いんですってやつ・・・?

 

「戸塚君、比企谷君、審判を頼むよ、彼女のは甘めに判定してくれても構わんよ。」

 

俺と戸塚にそう耳打ちした後、彼は三浦とは反対側のコートに入り、ラケットを構える。

 

サーブは三浦から、つまり、自分から攻めなくても勝てると言いたいのだろう。

 

「サービスエース!貰うかんねっ!!」

 

高く挙げられたボールがラケットで打ちつけられ、ネットを超えて織斑先生のサービスコートの後ろの方で跳ねる。

 

「ふん。」

 

しかし、織斑先生は軽くラケットを横薙ぎしてボールを打ち返し、打ち返せそうなギリギリのラインに落とす。

 

三浦もそれに反応して打ち返し、ボールは先生の顔面付近に跳ぶ。

しかし、彼は僅かに後退すると同時に後ろに跳びながらも一回転、全身の捻りを加えた強烈なショットを放つ。

 

「なっ!?」

 

予想外の対処に反応が一瞬遅れた三浦の真横でボールが跳ね、勢いそのままにコートの外に飛び出して行く。

 

すげぇ・・・、あの人の身体、完全に浮いてたよな・・・。

あの状態からどうやってあのパワーを出せんだよ・・・?

 

それに、あの人のウルトラマンは今分離しちまってる筈だ。

なのにどうして、あんな超人めいた動きが平然とできるのか・・・。

 

「良い球だ、相手の顔を狙うのも、嫌いじゃない。」

 

あちゃ~・・・、完全に闘争本能に火が着いてる・・・。

あの人、やっぱこの世界にいちゃいけない人だわ・・・。

 

俺達の住む世界をラノベに例えると、最近怪獣が出始めた事を除けば単なる日常系の世界観でしかない。

つまり、良くも悪くも平和だと言える。

 

しかし、俺の目の前にいる織斑一夏という男は、戦争の絶えない世界においても名のある人だそうで、それに見合うだけの能力も持っている。

 

・・・、あれ?三浦死ぬんじゃね?

あの人、多分サイズが同じならレッドキング殴り殺せるよ?

 

「まずは一本だな、ハンデだ、サーブはそっちからで良いよ。」

 

完全に優位性を持っているからか、彼は酷薄な笑みを浮かべてボールを投げ渡した。

 

その行為は三浦を完全に挑発する意図と、彼女を試す意図があった。

 

ここで勝てない事を悟って大人しく引き下がるか、挑発に乗って続けるか・・・。

 

どちらに転んでも、彼には三浦優美子を知る事が出来るというメリットしかないのだ。

 

「くっ・・・!やってやるし!まだ逆転できるし!!」

 

だが、彼女はそれに気付かない、織斑一夏という男の腹の内を知らないから・・・。

 

「良いねぇ、その眼、俺の嫁さんの若い頃を思い出す。」

 

おっと・・・、それ以外の楽しみ方も有ったのか・・・。

なんというか・・・、意地悪な人だこって・・・。

 

だけどまぁ・・・、ここから先の展開は見なくても分かる。

 

なので、俺は雪ノ下に審判を任せ、彼用のドリンクを買いに行くことにした。

 

テニスコートと自販機はそれほど離れていないから、二分ほどで帰って来れる。

 

そう思って離れてみれば・・・。

 

「ゲームセット、俺の勝ちだ。」

 

スポーツドリンクを買って戻ると、既に勝負は着いていた。

 

結果は先生が6点を取って勝利、一点取られているという事は、ボールを見逃してやるなどのハンデをこっそり付けていたが、それすら勝負を覆す要因にはならなかったみたいだな。

 

「さぁ、これで昼休みのテニスコートの使用権は決した、授業始まるからさっさと戻りたまえ。」

 

彼が指した方向にある時計を見ると、昼休み終了の三分前を指していた。

 

予鈴があるとはいえ、戻って準備していればちょうど良い時間になるだろう。

 

「くっ・・・!分かったし・・・、邪魔したねっ!」

 

「おう、次は平塚さんの現国だ、遅刻でもしたら鉄拳だぞー。」

 

軽く睨む三浦の威圧を何ともないという風に受け流し、先生はラケットを片付け、戸塚から渡されたタオルで汗を拭っていた。

 

だが、呼吸は全く乱れておらず、ただ軽く散歩した後の様にも見えた。

 

すっげぇスタミナだな、圧倒しておいて更に余裕がある。

俺も見習いたいものだな。

 

「お疲れ様っす、先生、疲れてませんね?」

 

「まぁな、訓練の方が何十倍もキツイ事やってるし。」

 

そんな彼にスポーツドリンクを手渡したが、彼は如何という事は無いと言わんばかりに笑い飛ばした。

 

恐いよなぁ、この人がマジになったら、俺死ねるんじゃね?

 

「それで、八幡君、彼女達が来る前に戸塚君に伝えようとした事の実例を示したけど、これで良かったかな?」

 

「えっ・・・?」

 

げっ・・・!忘れられてなかった!

しかも実例まで示してくれるなんて・・・!?

 

戸塚も憶えてるか怪しい感じだったのに、なんでこうも状況を逆手に取れるんだ?

 

「どういう事なの・・・?八幡・・・?」

 

あー・・・、これ、言わなきゃダメな流れか・・・。

 

雪ノ下や由比ヶ浜まで気になっている様な表情してるし・・・。

 

「あー・・・、三浦達が来る前、俺は戸塚だけが強くなる事が本当に部の為になるのかって聞いたよな?」

 

「うん、でも、僕が強くなったら、それだけ盛り上がるんじゃないの・・・?」

 

俺の言葉に首を傾げる戸塚は、本当に分からないと言った表情で俺を見ていた。

 

ぐぉぉぉ・・・!?光ってる!ウルトラマンクラスに輝いてる!!

天使!女神!彩加!!

 

うん、今はそんな事を言ってる場合じゃないね。

 

「今の織斑先生がやっていた試合、見ただろ?あんなの見せられたら、やる気失くすんじゃないか?俺なんかがやってもって、お前一人いれば良いじぇねぇかって・・・。」

 

「あっ・・・。」

 

この説明だけで分かってくれるあたり、戸塚は賢い、それでいて、純粋すぎるくらいだ。

俺なんかよりもよっぽどウルトラマンに向いてる輝きだな。

 

だけど、その純粋さ故に一つの答えを見つけると、それで留まりがちになってしまう。

自分が強くなればと言うのも善意からなのかもしれない。

 

しかし、言い方や見方を変えれば、周りを見ていないとも取れる。

 

だから、彼は気付いてほしかったのだろう、単独プレーの、力を誇示するだけのやり方の危うさに・・・。

 

「だからさ、雰囲気から変えていくってのはどうだ?俺は部活に入った事ねぇし、強制入部させられてる身だから何とも言えないけど、出て来たくなる雰囲気があれば、少しずつ戻って来てくれるさ。」

 

「俺が言えた義理じゃないけど、人間急に変わるなんて度台無理な話だ、強くなるのも手段に有っても良い、けど、他の可能性も見付けてくれ、君達は若い、大人ほど重い責任を負ってる訳では無いから何だって出来る。」

 

俺の言葉に続ける様に、上着を羽織った織斑先生が言葉を続ける。

 

彼の表情は、試合の時とは打って変わった穏やかな物で、何処か諭す様な色さえ見て取れる。

 

教師としてでは無く、ただ、人生の先輩として話しておきたい想いが有ったのだろう。

 

「だから、可能性を捨てないでくれ、答えは一つじゃない、最良じゃなくったって良い、最適じゃなくても良い、後で後悔したって良い、それはきっと、成長するための大きな糧だよ。」

 

彼は立ち上がりつつ肩を回し、遠くを見る様にを細めていた。

 

思う過去があるのか、彼の表情には一抹の寂しさが浮かんでいた。

 

これが演技なら、彼は大した役者だ。

けれど、俺はそれがどうしても偽りには思えなかった。

 

捻くれた思考が演技だと思わせようと働いても、何処かで彼が嘘を吐いていないと確信させる何かがあった。

 

「はい・・・!」

 

戸塚は彼の話に胸打たれたか、感激した様に瞳を輝かせていた。

 

さて、これで依頼も達成出来た事だ、俺達も戻るか・・・。

 

 

そう思った時だった、俺達の足元が大きく揺れ始めたのであった・・・。

 

sideout




次回予告

何故現れる、何故戦う、その答えを知らぬまま、彼は戦い続ける。

次回やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている。

比企谷八幡はギンガを知る

お楽しみに。

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