やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている   作:ichika

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戸塚彩加は人を見る

noside

 

「と、言う事なんだけど・・・。」

 

「そ、そうか・・・。」

 

翌日、休み時間に八幡と沙希を人気の少ない空き教室に呼び出した大和は、彩加からの伝言を、文実の歪みを正すための頼み事を伝えた。

 

大和の表情は、『ヤベェよ、ヤベェよ・・・』と言わんばかりに沈んだ物になっていた。

 

それを見た八幡と沙希も、彩加の黒い部分を見たと言わんばかりに表情を引き攣らせていた。

 

その依頼の内容があまりにもぶっ飛んでいたからか、それとも、途轍もなく難しい事なのかは判別は着かないが・・・。

 

「けどさ、あたしにゃその頼みは難しいかな・・・。」

 

「俺もだ・・・、一日二日でどうにかなるもんじゃない。」

 

しかし、その推測を肯定する様に、八幡と沙希は揃って渋面を作る。

 

その依頼は、かなりの人手を要するものであり、校内にこれと言った人脈の無い八幡と沙希には荷が重いどころか、遂行不可能なものであった。

 

「うん・・・、俺も一応後輩とか隼人君とか戸部君のツテか・・・、最悪織斑先生を頼ってみるけど・・・、戸塚君が望む結果になるかどうか・・・。」

 

八幡達がある意味で孤高の存在であると知っている大和はそれに頷きながらも、どうするかと頭を悩ませる。

 

選択肢の一つとして一夏に頼むと言う事もあるだろうが、下手をすればアストレイ総出にて容疑者たちの身辺捜査と、必要以上の証拠を集めてしまう恐れもある。

 

つまり、必要以上に傷を与え、再起不能者まで出す事は望ましい物では無く、傷はしっかりと残しつつも浅く済ませ、文実に出てくるように仕向けたいと言うのが本音だ。

 

「どうかなぁ・・・、彩加君、案外黒いしな。」

 

「「「ですよねぇ・・・。って、先生・・・!?」」」

 

「彩加君に頼まれて来てみれば、何やってんだ君達は。」

 

唐突に掛けられた声に一瞬同意するが、その声の主が今しがた話題に上がった人物、織斑一夏がそこにいた。

 

何時の間に来たの!?といわんばかりに驚き、後ずさる三人を無視し、一夏はその手に持っていた紙の束を三人の前で広げてみせた。

 

「まぁいい、これを君達に渡せとお願いされたんだ、弟子の頼みには、応えてやらないとね。」

 

「はぁ・・・、って、これ・・・!」

 

適当に一夏が差し出した紙の一枚を受け取った八幡は、曖昧な返事をする八幡だったが、そこに書かれていた内容に、驚愕の表情に彩られた。

 

そこには、文実の委員に選ばれた生徒の名前と、雪ノ下陽乃が文実に訪れた日以降の大まかな行動が記されていた。

 

「せ、先生・・・!?ど、どうやってこんなものを・・・!?」

 

予想が当たってしまった事に愕然としつつも、大和はどうやって集めたのかと言わんばかりに尋ねる。

 

いや、考えなくても分かる事なのだろう、予想していた事が現実に起こってしまった事への恐怖が隠し切れていなかった。

 

「なぁに、ウチの店は色んな客が使うんだ、宗吾やセシリアに頼めば、勝手に情報は集まる。」

 

その事に、何を今さらな事を聞くと言わんばかりな一夏は、運動不足で肩でも凝るとでも言うつもりなのか、首を左右に回すだけだった。

 

まるで、大したことはしていない、ただ適当に見つけただけだと言う調子だった。

 

「(それだけじゃないだろうなぁ・・・。)」

 

だが、それだけで済ませる程一夏が甘くない事を誰よりも分かっている八幡は、自ら標的となった愚か者たちに内心合掌する。

 

彼等は知らなさ過ぎたのだ、織斑一夏と、彼の後ろにいる歴戦の猛者達の存在を、その圧倒的なまでの手腕を・・・。

 

「まぁ気にするな、今君達がやるべき事は只一つ、選べ、それだけ。」

 

「選ぶって、何をです・・・?」

 

その先を想像できなかった大和は、これをどう選ぶのかと問う。

 

選ぶと言ったって、結局は人を振り分ける事しか出来ない訳で、それ以上どうこうしようとするのも難しいのだ。

 

しかしだ、一夏の言葉にはそれ以上の先がある事を仄めかしている。

その理由に全く合点が行かないのだ。

 

「気にするな、俺が大まかに振るいにかけてやるし、効果的なやり方も教えてやる、プロが教えた方が巧くできるだろうしな。」

 

「「「(貴方は一体何のプロだよ・・・。)」」」

 

プロを自称する一夏の大まかな経歴を聞き及んでいる三人は、皆一様に何とも言えない表情を作った。

 

何せ、一夏程の能力があれば、なんだってプロ以上の腕を手に入れる事さえ不可能では無いに違いないのだから。

 

「それに、粗探しを十八番としてる男が、俺の相棒にはいるんでね、今頃、文実は混乱してるだろうぜ。」

 

「「「(あ、悪魔だ・・・。)」」」

 

中々にあくどい笑みを浮かべながらもクツクツわらう一夏に、八幡達は嫌な予感が軒並み的中している事を悟った。

 

だが、この時点での彼等はまだ知らなかった。

目の前にいる悪魔よりも、更に残酷な天使が存在している事を・・・。

 

sideout

 

noside

 

翌日の放課後、文実が行われている教室は、昨日までとは異なった雰囲気を醸し出していた。

 

昨日までの閑散とした集いとは異なり、今回は全委員と教師陣に加え、大和や隼人など有志代表も集まっていた。

 

「えっと、それじゃあ、今日はスローガンを改めて決めたいと思います・・・。」

 

司会進行を務める生徒会長のめぐりは、何処か意気消沈した様に呟く。

 

どうやら、相当なトラブルが起こったのだろう、その表情は冴えなかった。

 

「昨日、学外に公開してたスローガンが、あるお菓子のキャッチコピーそのままだっていう事に質問が来てね、このままじゃ、後々クレームの対象になるから、変更しようと思うんだ・・・。」

 

めぐりの発言の基となった事件は、前日に遡る事となる。

 

それは匿名で寄せられた質問状であったが、文化祭のスローガンの是非を問い質す強い語調で綴られていた。

 

それを受けてめぐり達が調べた結果、文化祭のスローガンがとあるスナック菓子のキャッチコピーそのままだったのだ。

 

このままではあらぬ所から苦情が寄せられる事が予想できたため、ただでさえ遅れている作業を更に遅滞させる事を承知の上で、全委員を招集、この度スローガンを決める為の集まりを設けたのだ。

 

「それじゃあ、皆にお願いしておいたスローガンの候補を、今から上げていくね。」

 

覇気のない声で、めぐりはホワイトボードに向かい、ブラックマーカーで自分のアイデアをまず書き込む。

 

それに倣い、他の委員達も自分が考えて来たスローガンのアイデアを発表していく。

 

だが、所詮は高校生が考える物なのか、何処かで見た事、聞いた事が有る様なフレーズが乗る辺り、それは仕方の無い事かも知れない。

 

その中でも、彩加が特に顔を顰めたのは、『~絆~』とだけ書かれたスローガン案だった。

 

それを挙げた本人がどういった心境で書いたかは知らないが、まるで、この文実に、文化祭に絆があったかのような物言いだと感じた。

 

バカを言うな、この文実に絆と言う物があったなら、こんなにも業務は滞らなかっただろうし、バカみたいなサボりを出す事も無かっただろう。

 

「俺はOne For Allって言葉、良いと思うな、一人は皆の為にって・・・。」

 

それを見ていた隼人は、良い事言うなぁと言わんばかりに呟いていた。

彼が如何思っているのかは分からないが、皆が纏まる事を純粋に正しいとでも思っているのだろう。

 

しかし、そんな彼の隣にいた大和は、彩加が別の案に対して抱いていた事と同じ心持でいたため、冗談言うなと言わんばかりに顔を顰めていた。

 

この文化祭のメンバーが、一人は皆の為にと行動をしただろうかという疑念により、首を縦に振る事など出来る筈も無かった。

 

「本気で言ってるなら、ピュリファイウェーブ使わないと・・・。」

 

「戸塚君、君最近疲れてるの・・・?」

 

物騒な発言ばかりが目立つ彩加を心配しつつ、大和はタメ息を吐きながらも進んで行く会議の流れに意識を向けた。

 

そして、これから起こる恐怖へのトンネルに差し掛かっている事に、気分が沈む様な心地を抱かざるを得なかった。

 

「えっと、もう案はないかな~・・・?」

 

なるべく早く終わらせたいと言う雰囲気が漂うめぐりがメンバーを見渡していく。

 

その言葉に、遂にこの時が来たと言わんばかりに彩加は挙手、発言権を求める。

 

「はい、戸塚君。」

 

指名された彩加は立ち上がり、ポケットに入れていた紙を取り出して一息。

 

そして・・・。

 

「僕からのスローガンは・・・、『人~良く見れば片方楽してる~』ですね。」

 

誰しもが凍り付く言葉を、普段と何ら変わらぬ笑みで言ってのけた。

 

その波紋は瞬く間に委員達の間を駆け巡り、次第にそのざわめきを大きくして行った。

 

「何処かのTV番組の先生が、人と言う漢字は人と人が支え合っている、なんて言ってますけど、よく見たら、上の人は乗っかってるだけで踏ん張ってないですよね。」

 

それを無視して、彩加は言葉を続ける。

 

有名な話ではあるが、人と言う漢字は人と人が支え合っていると言う文句があるが、実際のところ、下の人間だけが頑張って、上の人間は寄りかかって身体を預けているだけという風にも取れる。

 

見方の問題ではあるが、それでも意見の一つとしてはある意味で正しいし、ある意味では、今のこの文実の腐敗を指摘している皮肉でもあった。

 

「この言葉って本当にそうだと思いませんか?だって、実例示してくれてる人達までいるんですから。」

 

彩加の言葉の真意に皆気付いたのだろう、更に表情を硬くし、互いを見渡していた。

 

「支え合っているって言うのに、自分は成長したいとか言っておいて、結局サボってばかりって言うのはどうかと思うなぁ、その成長の為に、ここまで作業を妨害されたら堪ったもんじゃないよ。」

 

自分の一つ前のスローガンをあげていた南を見据えつつ、彩加は何処か底冷えする様に冷たい笑みを向けながらも言葉を紡ぐ。

 

その圧倒的な存在感は、師である織斑一夏に通ずるものが有り、敵を徹底的に追い詰める、冷たく重い雰囲気を醸し出していた。

 

そんな彼の言葉に、南は向けられる敵視の視線に堪え切れずに歯がみし、俯くばかりであった。

 

まるで、お前が悪い、どう責任を取るつもりだと言わんばかりに、その視線は雄弁に語っていた。

しかし仕方あるまい、この混乱の元凶は他でもない南自身だ、一番糾弾されてしかるべきものだ。

 

だが・・・。

 

「あれ~?もしかして、皆さん、自分は悪くないって思ってますか?でも、サボってた人も当然いますよね?そんな目をしても、貴方方も同罪ですよ?」

 

元凶だけがこの惨禍を引き起こした訳では無い、連鎖的に流された者が、文実を崩壊させたこともまた事実。

故に、彼はその者達も纏めて糾弾する。

 

「そこの貴女、確か二年E組の中村さんですよね。」

 

「そ、そうですけど・・・。」

 

笑みを浮かべる彩加に指名された、彼とは違うクラスの実行委員の少女は、何処か引きながらも返事を返す。

 

彩加の瞳が、全く笑っていない事に気付き、恐怖しているのだろう。

 

「貴女は確か、そこの委員長がクラスに行って良いと言った次の日から委員会を休んでましたよね、何をされていたんですか?」

 

「え、えっと・・・、クラスの出し物の手伝いをしてましたけど、それがなにか・・・?」

 

彩加の問いに、少女は僅かに目を逸らしながら答える。

自分に落ち度は無い、そう言いたいのだろうか・・・。

 

だが、そんな虚勢など、全てを知る彩加には無意味だった。

 

「ウソはいけませんよ?聞きましたよ、貴女がクラスにさえ顔を出さず、あまつさえ部活にすら出てないって事もね?」

 

「ッ・・・!?」

 

笑いながら放たれた言葉に、少女は一気に顔を青くして押し黙る。

 

嘘をついていた事、批判する様な態度を取っていたくせに、結局自分もサボっていた事実を暴露され、少女に非難の視線が向く。

 

だが、周囲も気付いた様に顔を青くし、彩加と目を合わせないようにしている者もチラホラと見受けられた。

 

彼等も恐れているのだ、自分が糾弾される事に・・・。

 

「まだいますよね、三年A組の坂本先輩は、クラスに出てたみたいですけど、手伝いすらしないで喋ってただけみたいですね、一年D組の阿部君は部活ですかぁ、優先順位間違えてますよね、それから・・・。」

 

一人一人を糾弾していく彩加の言葉に、次は自分が糾弾されるかもしれないと言う恐怖に耐えかねた者達が、口々にもうやめてくれと声を上げる。

 

無理も無い、名を出されれば、それだけで自分は文実のメンバーにとっての敵、異分子になってしまうのだ。

そうなればどんな仕打ちが待っているか、想像すらしたくないだろう。

 

それを見た彩加は何処か満足した様に笑み、何処からか書類の束の様なものを取り出して全員に見せ付けるように掲げた。

 

「ここに文実の皆さんの今日までの行動が記載されています、公開するのは簡単だけど、困っちゃいますよね?」

 

それは、彩加が一夏達に依頼して集めていた情報が書き記されたモノであり、今日のこの告発を行うにあたっての元ネタとなった物だった。

 

そこには文実のメンバーの行動の逐一が記載されており、公表すれば校内外からの批判が殺到し、最低の文化祭の実行委員会とさえ呼ばれる結末さえ実現できる。

 

だが、彩加もそこまでは望んでいない、何せ、自分まで最低と言われるなど、腹立たしいを通り越し、暴れる理性を抑えられないだろう。

 

「僕だって最低の烙印なんて要りませんから、穏便に行きたいんですが、どうですか?」

 

だが、そうならない道も当然ながらまだ残されている。

 

故に、彩加は逃れるための道を、彼等に提案する。

 

「今この瞬間から文化祭が終わるまでの間、皆さんが真面目に文化祭の準備に、文実の仕事に取り組んでくれるなら、文化祭が終わった後、この秘密を焼却処分しましょう、約束して頂けますよね?」

 

黙っておいてやるから真面目に働け、その言葉に、主にサボりを行っていた者達は無言で、しかし勢いよく首肯する。

 

真面目に仕事に打ち込むだけで、針のむしろから解放されるなら安い物だと感じたのだろう。

 

尤も、罪と言う物は一切赦されていない事に気付いている者がどれほどいるのだろうか。

無論彩加も、証拠を破棄するつもりなど一切合切無い。

 

何せ、無くなれば攻撃される事は目に見えているし、最低限身を護る手段は持っておいて損は無い。

 

それに気付かない、言葉の表面を信じ切ってしまうほど追いつめられた彼等は、哀れにも彩加の掌で踊らされるばかりだったのだ・・・。

 

その後、その日に行われた会議はこれまで以上に紛糾し、かつてない活気に溢れるものとなり、雪乃もまた自分のペースを取り戻せたか仕事を順調に熟すなど、文実は立て直りつつあるように見えた。

 

怒りの表情を浮かべ、彩加を睨む南と、困惑と怒りの混在した瞳で、全てを見ていた隼人を除いて・・・。

 

sideout




次回予告

彩加の行った告発に戸惑いを隠せない隼人は、彩加達にその真意を問う。
しかし、彩加はその問いにさえ立ち止まる事は無かった。

次回やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている

戸塚彩加は戦っている

お楽しみに

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