やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている   作:ichika

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戸塚彩加は合掌する 後編

noside

 

陽乃が文実に現れてから数日の後、彼女が遺して行った嵐の傷跡が浮き彫りになり始めていた。

 

陽乃に乗せられた南が発した、『クラスや部活の事を優先させても良い』という通達がメンバーに伝わり、数日としない内に、クラスの作業を手伝うと言う名目で委員会を休むメンバーが次々に出て来たのだ。

 

いや、この場合はサボりと言った方が良いだろうか。

何せ、部活動自体を行っていないはずの者でさえこの場にいないのだから。

 

残ったメンバーは委員長補佐である雪乃や雑務の彩加、そして生徒会メンバーなど、特に意識の高い者や、離れ損ねた者など、既に半数ほどしか残っていなかった

 

元々期日が短かった事もあり、余裕を持たせるために急ピッチで行ってきたが、ここに来てまさかの人員不足により、運営業務が滞る結果に陥る事となってしまった。

 

そのせいで残ったメンバーにはしわ寄せが行き、一人が二人分以上の仕事を熟さねばならなくなっていた。

 

だが、それだけで済むほど、今、この世界が置かれている状況は良くないらしい。

 

何せこの世界は、あの大流星群の夜に遭遇しているのだから・・・。

 

『『エクシード!エェェェックスッ!!』』

 

今日もまた怪獣が現れ、ウルトラマンXとユナイトしている彩加は、文実を抜け出して、親友である八幡と共に迎撃に当たっていた。

 

その怪獣は、鳥の様な首を二つ持ち、棘のようにささくれ立った赤い体表を持っている、パンドンと呼ばれる宇宙怪獣だった。

 

格闘戦能力もさることながら、2つの口から吐き出される火球攻撃は非常に強力であった。

 

だが、それ以外に特殊な力を持たないため、ただ強力な怪獣でしかないと言うのが、鍛えられた彩加や八幡の本音だっただろう。

 

二体のウルトラマンの拳がパンドンの顔面を捉えて怯ませ、その隙に同時に放たれた蹴りが腹部に襲い掛かる。

 

ギンガとXの息のあったコンビネーションが、ジワジワとパンドンを追いこんでいた。

 

エクシードXへと進化したXと彩加はエクスラッガーのスライドパネルに指を2回滑らせ、トリガーを引く。

 

『『エクシードイリュージョン!!』』

 

その瞬間、Xの身体が虹の輝きを放ち、赤、黄、水、紫の体色を持った分身を作り出し、怪獣へと迫って行く。

 

『オォォッ!!』

 

裂帛した気合と共に、4体のXはパンドンの身体に立て続けに斬撃を叩き込む。

 

その威力は凄まじく、パンドンは大きく吹き飛ばされて地に倒れ伏した。

 

いや、それだけでは無い。

しっかりと手の内を締める事で力を余す事無く伝えられている彩加の力量にも、夏休みに行われた修行の成果がしっかりと現れていた。

 

『次は俺だ!!』

 

その隙にギンガスパークランスを展開したギンガが走り、立ち上がろうとするパンドンに追撃を行う。

 

フラフラになりながらも、必死の抵抗を見せるパンドンは二つの口から連続して火球を放つが、その悉くがギンガスパークランスに払われ、一切のダメージを与える事すら叶わなかった。

 

八幡は特に槍捌きに力を入れて学んだため、武器を、ギンガスパークランスを用いて行う戦闘では無類の強さを誇っていた。

 

そんな彼が繰り出す突き、薙ぎ、払いはパンドンの弱所へ的確に打ち込まれ、体勢を崩していく。

 

その隙を見計らい、トドメとして回し蹴りが叩き込まれ、大きなダメージを与えた。

 

『行くぞ彩加!!』

 

『うん!!』

 

トドメだと言わんばかりの八幡の言葉に反応し、ノーマル形態に戻った彩加は飛び上がり、手足を身体の中心へと畳み、炎のエネルギーを集める。

 

それと同時に、八幡もまた天に右腕を掲げ、雷のエネルギーを円形に集めていく。

 

『『『アタッカーギンガエックスッ!!!』』』

 

ギンガサンダーボルトとアタッカーXの重ね技が炸裂し、パンドンはその強力な威力に耐え切れずに爆散、青い光の粒子となってスパークドールズへと封印された。

 

『よっしゃぁ!!』

 

『これで一段落、だね・・・。』

 

勝鬨を挙げる八幡とは対照的に、彩加は疲労困憊と言わんばかりのトーンでタメ息を吐きながらも変身を解き、誰にも気付かれない様に総武高校の屋上へと戻る。

 

「大丈夫か彩加?ただでさえ忙しいのに、無理はしないでくれよ?」

 

疲労が滲む彩加に、八幡は本気で心配しているのだろう、肩を担いで手近な段差に彼を座らせる。

 

無理も無い。

彩加はウルトラマンとしてだけでは無く、文化祭の実行委員としても膨大な仕事を熟す立場におり、更にはテニス部の次期主将としても動かねばならない立場なのだ。

 

幾ら鍛えられたとはいえ、その小さな身体には過ぎた荷なのかもしれない。

 

そうなってしまっているのが、自分を護るためだと知っている八幡は、何とも言えない表情で無理をするなと言う以上を言えなかった。

 

「大丈夫だよ・・・、これぐらいで弱音吐いたら、負けた感じがして悔しいじゃないか。」

 

だが、彩加も彩加で負けず嫌いであり、それ以上に義理堅い男だった。

 

自分から護ると言っておいて、疲れたからやめるなどカッコ付かないし、友に対する裏切り行為にしかならない事は分かり切った事だった。

 

だから、彼は自分の行動に嘘は吐きたくなかったし、友への想いを嘘にはしたくなかった。

 

だから、それほど辛くても、疲労に足を取られようとも、貫き通すと決めたのだ。

 

「・・・、分かった、なら、俺は何も言わないさ・・・、だが、入れ知恵ぐらいならいくらだってさせてもらうぜ、彩加ばっかり苦労する意味なんて無いからな。」

 

その想いを酌み、八幡はそれ以上を言う事をやめ、自分も向き合う事を宣言する。

 

今更文実に口出しできる立場に居ない八幡だが、それでも彩加の負担を軽くするべく暗躍する事は出来る。

それが有形でなくとも、文実を巧く動かすための材料を集める事も出来る。

 

現在、大和は彩加を助ける為に有志の代表として文実の業務の一部を肩代わりしており、ほんの少しだが業務の停滞を避ける事が出来ていた。

 

とはいえ、焼け石に水である事には変わりなく、根本をどうにかしない限り、解決とは言えないのだ。

 

その根本とは、雪乃の意固地さと南の職務放棄を何とかしなければならない。

 

「ありがとう八幡、頼りにしてるね。」

 

友の言葉に礼を述べ、彩加は何とか立ち上がり、仕事に戻るべく屋上より去って行った。

 

その背を見送りつつ、八幡もまたタメ息を吐き、怪獣性質との戦闘の惨禍へと目を向けた。

 

戦う事しか出来ない、今の自分に、何かを思う様に・・・。

 

sideout

 

noside

 

「戸塚君、有志団体のリストアップ終わったよ、次の指示頼む。」

 

その後、避難から戻った文実メンバーは後れを取り戻そうと死に物狂いで作業に取り組んでいた。

 

南が提案したクラスを優先させると言う流れに乗ってしまった者達が、怪獣が現れた事に便乗して今日もまた委員会に出席していなかった。

 

だが、それならそれで結構と言わんばかりな、元々士気が高いメンバーのみが戻ったからか、誰も無駄口を叩く事無く一心不乱に書類作成や広告作成に向かい合っていた。

 

だが、それでも人数の不足を補う事は出来ず、遂に作業は締切限界にまで追い込まれていた。

 

故に、文実は葉山隼人や大和を中心とした有志参加者からの協力を仰ぎ、雑務のフォローを行ってもらっていた。

その中でも、有志代表として参加した大和の活躍は目を見張るものが有り、彩加とのタッグで次々に仕事を終わらせていった。

 

「ありがとう、次は配布資料のまとめに入ってくれるかな?クラスの演劇は良いの?」

 

リストを受け取った彩加は代わりの仕事を手渡しながらも、クラスの方は如何なのかと確認を取る。

 

確かに手伝ってくれるのはありがたいが、それとこれとは話が違う。

クラスの出し物自体が成り立たねば、如何に文実が手を回したところで意味が無い事も確かだった。

 

メインは各クラスや部活動の出し物なのだから、それを疎かにしてもらっては困ると言うのも本音だった。

 

「大丈夫だよ、隼人くんや戸部君もいるんだし、俺の出番は全部覚えたから良いさ、それに、俺の恩人を助ける為ならちょっとばかしの無茶ぐらい、してやらないとな。」

 

「ゴメンね・・・、気を遣わせちゃったかな・・・。」

 

本来なら部外者である大和に気を遣わせてしまったと、彩加は申し訳なさそうに笑った。

 

だが、それ以上に苛立ってもいた。

部外者に頼らねばならない程に軟弱な委員会の、主にサボりを助長しているメンバー達に対して、恥ずかしくないのかという怒りさえ抱いていた。

 

立候補では無く、他推で選ばれた者も中には居るだろう。

しかし、それでもこの場に来たからにはやり遂げる義務と責任がある、そう思わずにはいられなかった。

 

だがそれ以上に、自ら委員長に立候補しながらも、率先してサボっている南に対する怒りは、最早留まる所を知らなかった。

 

何が成長したいだ、何が興味があっただ、それが本当なら、今この場にいて誰よりも真面目に仕事をしているだろう。

 

なのに、その本人が今この場に居らず、文実の状況も把握できていないのは、職務放棄にも程があるのではないかと思わずにはいられなかった。

 

それに加え、この事態になっても咎めに動こうともしない静たち教師陣にも、彩加は静かな怒りを燃やしていた。

 

教師に頼ってばかりいるのもどうかと思うが、それでも教師には教師の立場がある。

崩れそうになっている委員会を支えていく必要だってあるし、口を出す権利も立場を持ち合わせている、如何に学生主体であるとしても、それだけは不変の事実だった。

 

だと言うのに、此処まで放置している事は不自然極まりなかった。

 

まるで、静はこうなる事を予見し、此処に来るはずだった彼にこの状況を何とかさせようとしていたのではないかと、彩加に邪推させるだけの状況を作り上げていたのだ。

 

そう考えると、彩加の胸には止め処ない怒りが去来し、事を荒立ててはいけないと言う戒めを今にも破らせようとしている程だった。

 

「大和君・・・、この状況、どう思う?」

 

「うん・・・、良くは無いよな・・・。」

 

その怒りを抑え込み、大和に尋ねる彩加の言葉に、大和もまた渋面を作って山積みの問題に目を向けた。

 

だが、その瞳に燃える怒りを見透かす事は、大和でさえ簡単な事だった。

 

「これは、そろそろお灸を据えないとダメ、かな・・・?」

 

「と、戸塚君・・・?」

 

その時、小さく昏い声で呟く彩加の声に、大和は少し驚いた様に後ずさる。

 

その声のトーンが、何処か敵を見据えた時の、葬る覚悟を決めた時の声のように聞こえたからだろうか・・・。

 

「大和君・・・、この空気を換えるには、どうすれば良いでしょうか・・・?」

 

「と、戸塚君・・・!お、落ち着こう・・・!早まっちゃダメだ・・・!!」

 

唐突に黒い事を言い出した彩加に、大和は錯乱したかと言わんばかりに宥めに入る。

 

トラウマを相手に、主に南にそれを与えると言う最悪の手段に手を出す事を想像したのか、その取り乱しようは相当ひどいモノだった。

 

「あはは・・・、そんなことしないさ・・・、でもね、サボった皆に罪はあると思うんだ、だから、そこを咎めないと、ね・・・。」

 

「こ、怖いよ戸塚君・・・、でも、その通り、なんだよね・・・。」

 

彩加のいう事が尤もである事は、大和でさえ納得できるものだった。

 

如何にトップがクラスに行っても良いと達しを出しているとはいえ、それで出てくる出て来ないを決めるのは各個人の判断なのだから。

 

「大和君。」

 

「は、はい!!」

 

短く呼ばれただけなのに、大和は背筋を正して彩加を見る。

 

その瞳には、どうなっても構わないと言った強い意志が見え、最早誰に何と言われようともやり遂げると言う強い想いだけが感じ取れた。

 

「八幡と葉山君の所に行ってお願いして来てくれないかな?」

 

「え、い、良いけど・・・、なにを・・・?」

 

謂われなくても大まかに察しはつくが、それでも聞かねば行動に移せないのだろう、彩加の次の言葉を息を呑んで待った。

 

そんな彼の目の前で、彩加は手を合わせて笑った。

 

文実が機能するなら、そこにいる人間がどんな目に遭おうと知った事では無い。

その確固たる意志を、お願いを聞いた大和は嫌という程思い知る事となった・・・・。

 

sideout




次回予告

ウルトラマンとして、人として、彩加は決断を迫られていた。
文実のメンバー切るか、救うか・・・。

次回やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている

戸塚彩加は人を見る

お楽しみに~。

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