やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている   作:ichika

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比企谷八幡は友を案ずる

side八幡

 

「っという訳で、彩加は実行委員の都合でこっちには参加できそうに無いですね。」

 

放課後、俺は科特部に宛がわれた部室で師匠である一夏先生に、彩加が実行委員になった事を報告する。

 

今日は沙希も家の事で来れないと聞いていたし、それも報告しておいた。

残念だ、なんで初日から部員二人いないんだよ。

 

「そうか・・・、あっちは平塚センセイの管轄だ、俺達は迂闊に出せないな・・・。」

 

それを聞いた先生は表情を顰めてタメ息を吐く。

 

まぁ仕方ない、目にかけている相手が、図らずも自分が嫌う相手の近くにいく事に頭を痛めているんだろう。

 

とは言え、俺もそこに同意するところだから何とも言わんが。

 

雪ノ下や平塚センセイがいる所に行かなきゃいけない事には心配するが、助けて貰った俺が何も言える立場じゃない事は理解している。

 

だけど、心配する事しか出来ない自分も、少し苛立つんだがな・・・。

 

「まぁそれは良い、取り敢えず俺達の方で今日の作業は進めよう、展示品、作らないとな。」

 

「はい、今日は予備校とかも無いんで、最終下校時間まで残れますよ。」

 

それはそうとして、俺も俺が出来る事やらないとな。

 

先生は用意していたカバンから何枚もの写真を取り出し、俺に見せてくる。

 

そこには、これまで俺達が戦った怪獣達の姿があり、ウルトラマンと戦っている時の場面もいくつか見られた。

 

「これは・・・、なんとまぁ懐かしい写真で・・・。」

 

「あぁ、俺達アストレイのメンバーで分担して撮った物だ、よく撮れているだろ?」

 

そこに収められている光景に、俺は苦笑する以外なかった。

ベムラーに光線を放つギンガに、エレキングに蹴りかかるビクトリー、そして、コッヴに殴り掛かるX、俺達の初陣とも呼べる戦いの様子があった。

 

「しっかし、酷いですね・・・、皆腰が引けてる。」

 

その写真に写る、5ヶ月前の俺はまだまだ甘ちゃんだったから、戦い方も知らない状態だから、へっぴり腰になっている状態だ、見ていて恥ずかしくなる。

 

でも、あの時からの覚悟は、何かの為に戦うって覚悟は、今に続く大切な導になっていると思う。

 

「いいや、初めてにしては上出来なぐらいだったよ、俺達なんてもっと酷かった。」

 

褒めてるつもりか、それともおだてているのか、先生は俺を讃えるような言葉を向けてくる。

 

そんなわけないでしょうに、先生たちはウルトラマンになるずっと昔から戦ってるっていうじゃないか。

そんな人たちが、ウルトラマンになったぐらいでへっぴり腰になる訳なんてないだろうに。

 

「冗談やめてくださいよ、先生達は自分達のこと、過小評価しすぎっすよ。」

 

「本当にそう思うか?」

 

俺の言葉に、先生はさらに苦笑の度合いを深めて話した。

 

何か裏がありそうな話が来そうだな・・・、もしかして、先生たちのウルトラマンになった時の話が聞けるとか、そんな感じなのか?

 

続きが気になるあまり、写真の選定を行っていた手は完全に止まり、俺は先生の続く言葉を待った。

 

「聞いて面白い話じゃないが、俺達は元々軍人やそれに近い立場で、同じ人間と戦ってきたんだ、怪獣なんてスケールのでかい奴らとなんて一度もやり合った事なんてないよ。」

 

スケール感が違うのはよく分かる気がする。

俺達はスタートが50mクラスの戦いだったから何とかなったが、先生達は自分も相手も等身大、人型に慣れ切っていたから、戸惑いも俺たちの非じゃなかっただろうな。

 

「それに、俺達は勝手な人間のせいでウルトラマンになったようなもんだからな、最初は戦うことさえ嫌になったもんだよ。」

 

「えっ・・・?」

 

それは、一体どういう・・・?

人間のせいでウルトラマンになった・・・?

 

ウルトラマンに選ばれた訳じゃなく、人に嵌められたみたいな言い方だけど・・・?

 

不審に思った俺に気づいたか、先生は関係の無いことだと言わんばかりに笑い、首を横に振る。

 

まるで、俺は知らなくてもいいと言わんばかりの様子で、逆に気になってしょうがなかった。

 

「まぁ、それよりもなんだ、こっちはこっちで、怪獣の特徴と名前を纏めよう、あの二人に楽させてやろうじゃないか。」

 

先生は苦笑しながらも、他のウルトラマンが写る写真を見せながらも話を逸らした。

 

相変わらず、話を隠すのは上手くても話を逸らすのは下手な人だ・・・。

そう思いながらも、今言及しても答えてはくれないだろうと諦めを付け、写真の選定と怪獣の名前のまとめをノートに纏めていく。

 

先生たちが何を抱えてるかなんて、一年も付き合いのない俺が踏み込める領域じゃないことはわかってる。

 

俺達の何倍、何十倍、いや、もしかしたら何百倍、何千倍も苦しい想いを抱えている先生達の事を、今受け止めるなんて度台無理な話だ。

 

だったら、今聞けなくても、いつか、先生が自分を曝け出せるようになればいい。

 

そう結論付けて、俺は渡された資料の山に目を通し、この町に現れている怪獣についてのレポートを書く。

 

この文化祭を、科特部のお披露目を成功させようと、俺は自分でも今までにないと思えるほどの真剣さで書類に向き合った・・・。

 

noside

 

noside

 

文実が始まってから数日後、彩加は記録、雑務として仕事に勤しんでいた。

 

その日は、主にスローガンや生徒会が行う催し事のタイムスケジュールの確認だった。

 

文化祭まではそこまで日数がある訳でもないため、メンバー達は各々に割り振られた仕事を熟すのに忙しく、ほとんどの者が忙しなく教室から出たり入ったりを繰り返していた。

 

めぐりの呼び掛けにより、文実に集うメンバーの指揮はそれなりに高く、統制も取れているように思われた。

 

だが、当の彩加の表情は冴えず、余裕どころか焦りの色さえ窺うことができた。

 

「(なんで委員長が仕事してないのさ・・・、不信任決議でもしてやろうか・・・。)」

 

彼が焦りを、いや、苛立ちを募らせているのには、大きな理由があった。

 

それは、委員長である相模の存在だった。

最初の1日2日にはしっかりと参加していたものの、その後は遅刻が目立つようになり、文実に来たとしても、違うクラスの委員と談笑しているだけなど、その行動は徐々に目に余る様なものになっていた。

 

今もまた、定例ミーティングが始まろうとしているが、それを無視するように談笑しているなど、委員長としての責任は何処へやらと言った風だった。

 

委員長がこのザマでは、この文化祭はどうなってしまうのかと、彩加は頭を痛めていた。

 

しかし、悲しいかな、その委員長も所詮、お飾りでしかない様だ。

南が実行委員長になったとはいえ、実質的に文実を回しているのは、補佐に回った雪乃の手腕によるものが大きかった。

 

彼女を敵と認識している彩加でさえ、雪乃の優秀さは純粋に認める所であるし、指示がある分、彩加も下級生は同級生に記録として意見出来る環境が作られているのだ。

 

「(最初から立候補してればよかったんだろうけど・・・、良く分からない・・・。)」

 

南に対して良い感情を持ってないのも事実であるが、それ以上に雪乃の行動が解せない事も、彼を苛立たせて仕方が無かった。

 

「それじゃあ、定例ミーティングを行います、委員長の相模さん、お願いします。」

 

そう思っていた時だった、めぐりが定例ミーティングを開始する旨の発言をし、私語を行っていた委員も話す事をやめ、席に着いた。

 

全員が着席し、ミーティングが開ける状況になった所で、南が口を開く。

 

「それじゃあ広報から報告をお願いします。」

 

自分が会議を動かしていると言う優越感があるからか、南は少し弾んだ声で報告を求める。

 

「はい、掲示予定の7割が既に終了し、ポスターも半分ほど完成しています。」

 

「そうなんだ!順調ですね!」

 

特に問題も無く進行していると思ったのだろう、南は報告に歓びの表情を隠す事無く、鷹揚に頷く。

 

だが・・・。

 

「いいえ、少し遅いわ。」

 

その言葉に待ったをかける者がいた。

 

それは他でもない、雪ノ下雪乃だった。

彼女は進捗状況が纏められた資料と、例年の資料を見比べながらも続ける。

 

「来客がスケジュール調整をする時間を考えるなら、この時点で完成していないといけない筈です、掲示箇所の交渉、それにHPの作成はどうなっていますか?」

 

「ま、まだです・・・。」

 

その指摘に、報告を行った委員は渋面を作り、急がねばと言う危機感を持ったのか、手帳を開き、スケジュールを立てていく。

 

「急いでください、受験志望の中学生や保護者は細目にチェックしていますから、相模さん、続けて。」

 

「う、うん、じゃあ有志統制お願いします。」

 

蚊帳の外だった相模だが、雪乃の声掛けに我に返り、次の役職へ問いかける。

 

「はい、現在10団体ほど集まって来ています。」

 

「そっか!この前まで5ぐらいだったし、結構集まって来てるね!地域相のお陰かな?」

 

「それは校内だけですか?」

 

成果が出ている事に笑みを零す南だが、それさえも遮る様に雪乃が言葉を発する。

 

「例年、地域との繋がり、という名目を建てているのだから、参加する地域団体の減少は何としても避けなければ、それから、ステージの割り振りは終わっていますか?すぐにタイムテーブル一覧を提出してください。」

 

「ッ・・・。」

 

南の事などお構いなしに、雪乃はまくし立てるように話を進めていってしまう。

 

「次、記録雑務からは?」

 

「こっちは特にありません。」

 

報告を求められた彩加は、特に報告する事は無かったため、話をさっさと切り上げる。

 

「(なんで仕事を取ってるんだ・・・、それは越権行為じゃないのか・・・?)」

 

彩加はその行動に疑問を抱かざるをえなかった。

補佐の立場である事は重々承知しているが、それでも立場的には口を出すべきでは無い。

 

だが、今のその様子はまるで、委員長は自分だと言っている様なものであり、ある種の傲慢さえ見受けられた。

 

だが、今いう事では無いし、固まったままの南がとても役に立つとは思えないという判断の下で、彼は事の趨勢を見守る事にした。

 

「じ、じゃあ今日は・・・。」

 

「記録雑務は当日のタイムスケジュールと機材申請を出しておくように、それから・・・、来賓の対応は生徒会の方で良いんですか?」

 

「うん、毎年そうだし、それで行こうかなって思ってるよ。」

 

「では、お任せします。」

 

負けじとミーティングを進めようとした南を遮り、雪乃は記録雑務に指示を飛ばし、生徒会とも調整を行う。

 

それは、彼女が南に対し、役に立たないと判断したも同然だった。

 

「では、委員長。」

 

「はい・・・、明日からも引き続きよろしくお願いします、お疲れ様でした。」

 

やる事はすべて終わったと言わんばかりに締め括りの言葉を求める雪乃に応じ、僅かに消沈した南が終了の言葉を発し、今回のミーティングは終わった。

 

メンバー達が其々の仕事に赴く中、南もまた席を立ち、友人たちの下へと向かった。

 

「それにしても、流石は陽さんの妹さんだね!」

 

「いえ、そんな事は・・・。」

 

その時、本当に凄いと言わんばかりに、めぐりが雪乃を褒め称えた。

その言葉に、雪乃はそんな事は無いと、謙遜するように答えた。

 

だが、その言葉は、受け取る者によっては完全に嫌味にしか聞こえない物でもあった。

 

「ホント、スゲェよな雪ノ下さん!」

 

「そうだね~、誰が委員長か分からないわね。」

 

周りの者も、雪乃を讃えるように言葉を交わしている。

噂だけは常々聞いているが、それでも実物を目にすると、その能力の凄まじさに感嘆しても無理はないだろう。

 

「だな、2年の男子に言い負かされたって噂あるけど、なんか嘘っぽく見えるよなぁ。」

 

「ううん、私見てたけど、凄い迫力だったよ、相手の人、結構カッコいい人だったし、彼女持ちみたいだったから忘れる訳ないよ。」

 

「本当かよ~?なんか、信じられないなぁ・・・。」

 

尤も、八幡に負けたと言う噂は既に浸透していたが、見ていない者にとっては眉唾ものだったのだろう、見ていた者の言葉にも、半信半疑と言う状態だった。

 

それを見ていた者には凄まじいインパクトがあっただろうが、彩加にとっては至極どうでも良い事でもあった。

 

それよりも何よりも、彼には気がかりな事が一つあった。

 

「(相模さんの中にある闇が、少し大きくなっている様な気がする・・・。)」

 

完全に御株を奪われてしまっている南の中にある闇の気配が、徐々にだがその深さを、濃さを増している様な感触があったのだ。

 

無論、南の元々の闇を知っている訳では無いが、それでも、何か起こると警戒させるには十分すぎる程だった。

 

しかし、無理も無い。

雪乃の優秀さをまざまざと見せつけられ、自分を顕示する事すら叶わない。

 

プライドの高い彼女からすれば、これ以上にない苦痛でしかない訳だ。

 

「(雪ノ下さんも、こんなやり方じゃあ、奉仕部のやり方、奉仕になってないんじゃないかな・・・?)」

 

だが、その不満の原因を作っているのは、他ならない雪乃自身でもあった。

 

一体どのような依頼があって、どの様な経緯でこうなったかは彩加の与り知る所では無い。

 

だが、それでも奉仕部がするべき領分を超えているとしか言いようが無かった。

 

当然ながら、周りの人間はそんな事など知った事では無いし、雪乃が優秀なのは事実であるため、誰もが雪乃を讃える事しかしていなかった。

 

だが、それでも雪乃の先走りを制止しなければいけないのは事実であり、それを助長しているめぐりなどの人間がいるのも事実だった。

 

しかし、奉仕部と関わりの無い彩加がそれに口出しする義理も無く、ただ、穏便に文化祭が終わって欲しいと願うばかりであった。

 

しかし、この時点での彩加には気付く事が出来なかった。

波乱の種は既に蒔かれており、芽を出す寸前までになっている事に・・・。

 

sideout




次回予告

波乱を孕んだ文化祭まで日数が残り少なくなっていく中、分実に怪しげな影が迫っていた。
しかし、それは彩加も良く知る人物で・・・?

次回やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている

戸塚彩加は合掌する

お楽しみに

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