やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている   作:ichika

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戸塚彩加は憤る

noside

 

「ありがとな彩加、お陰で助かったぜ、でも大丈夫なのか?」

 

HRの後、八幡は委員会の為に教室から出ようとしていた彩加を呼び止め、心からの礼をする。

 

その理由など他に何があると言うのだろうか、先程の立候補の事に他ならなかった。

 

八幡もまた、沙希や彩加同様に、先程のHRの最中、担任である静の意識が自分に向いていた事は気付いていたし、実行委員に推そうと思惑を巡らせていた事にも気付いていた。

 

推される事自体は面倒だと思う以外は特に問題も無いが、相手が相手だ、実行委員の場に行けば、当然ながら犬猿の仲である雪ノ下雪乃もいるだろう事が容易く推測できたため、何が何でも断りたい所だった。

 

故に、彩加の行動に助けられたと分かっており、それが冒頭の礼に繋がるのだ。

 

「良いよ、八幡が傷付くのは嫌だし、これぐらいどうってことないよ。」

 

親友の言葉に微笑みながらも、彩加は頭の中でその結論に至らせた、八幡と一夏の関係を思い浮かべる。

 

一夏と八幡は、教師と生徒と言う垣根を越え、兄弟の様な関係を築いていた。

 

八幡は一夏を兄や父のように想い、一夏もまた八幡を弟のように想っている程に、師弟同士の繋がりは他のアストレイメンバーと彩加達との結びつきよりもより一層強いモノだった。

 

故に、八幡が誰かのくだらない思惑に利用されそうになれば、一夏は躊躇う事なくそれを阻止すべく行動を起こすだろうし、八幡もまた、それに合わせるようにして普段よりも過激な行動をとる事は想像に難くなかった。

 

現に、以前八幡が奉仕部に絡まれた際、一応彩加も八幡を抑えに入ったとはいえ、一夏が奉仕部に対して圧力を掛けた現場を見ているからこそ思える事だった。

 

それが良いか悪いかは別として、それだけ強力な師弟の絆がそこに存在している事だけは確かだった。

 

だが・・・。

 

「(八幡、絶対拒否反応起こしそうだしなぁ・・・。)」

 

これから行く委員会に来そうなメンバーを思い浮かべ、数名程、八幡と敵対する少女の存在に行き当たった彩加は、その場で起きる事を夢想した。

 

八幡は元ボッチの性か、大抵の事はそつなく熟す上、堅実な構成も行える能力を持っている。

更に、最近では人を動かす事に何の抵抗も無くなってきている為、仕事を終わらせる為なら手段だって選ばないだろう。

 

だが、その反面、それを乱すような者に対しては、容赦なく口撃を加える事さえ厭わず、理路整然と、しかし皮肉を交えた正論をぶつけて心を折りにいく事だって有り得た。

 

つまり、誰かがくだらない事で事で彼を怒らせれば、当事者だけでなく、それを見ていた周りの人間の心さえ折りかねないのだ。

 

その誰かに該当する人間に心当たりがあるからこそ、自分が前に出て八幡のストッパーになる、彩加はそう判断したのだろう。

 

「だから、八幡は沙希ちゃんと科特部の展示品造りをしててよ、こっちも手に余ったらサポートお願いするよ。」

 

故に、彩加は八幡に心配いらないと微笑み、彩加は八幡にいざという時のサポートを依頼する。

 

自分には手の余る事が起きるかもしれないが、八幡とならばきっと乗り切れる、その思いと主に、彩加は踵を返して委員会が行われる教室へと足を運ぶ。

 

「おう、こっちは任せとけ。」

 

何時の間にか頼もしいと思えるようになったその背に頷き、八幡もまた科特部に宛がわれた部室を目指す。

 

そこで、各々がやるべき事を成すために・・・。

 

sideout

 

noside

 

八幡と別れた後、実行委員の教室に着いた彩加を待っていたのは、全学年各クラス男女1名ずつの委員が集まる会議だった。

 

人数自体は然程多くは無いが、それでも一堂に会せばそれなりの圧力はあった。

 

無論、その中には特進クラスから選ばれていた雪ノ下雪乃も参加しており、それに気付いた彩加は自分の想像が当たった事に苦笑しつつ、やはり八幡が選ばれなくて良かったと言わんばかりに安堵していた。

 

ケンカするのは結構だが、周りを巻き込むなと言うのは彩加の持論でもあった。

 

八幡と雪乃の関係は水と油、しかも現時点ではどのような石鹸でも中和できぬ程の関係なのだから尚更だ。

 

それに加え、大目付として平塚静の姿もあったため、彩加は自分が来ておいてよかったとしか言えない心持にもなった。

 

こんな所で八幡が悪目立ちすれば、それこそ校内での活動の幅が一気に狭まり、ウルトラマンとして動けなくなりうるのだから、用心するに越した事はないのだ。

 

「え~、それじゃあ全員揃ったところで、文化祭実行委員会の第一回会議を始めたいと思いま~す!」

 

その司会進行を努めるのは現生徒会長である城廻めぐりであった。

緩やかなウエーブが掛かった髪を持つその少女は、全体的にゆるふわっとした雰囲気を身に纏っており、癒し系と形容できるものだった。

 

別段、そう言った事に興味の無い彩加は何とも思わなかったが、めぐりには隠れファンも多く、彼女が取り仕切る生徒会の支持率も非常に高いのだ。

 

だが、それとこれとは話が違う。

今は文化祭の事を、ある意味リーダーとして取り仕切る事になっていた。

 

三年である彼女は、この文化祭が高校生活最後となるため、最高の舞台に仕上げたいのだろう。

 

その覚悟に感化されたか、特に三年の一部からは彼女に賛同するように頷いた。

 

意識の高さだけは、彩加も感じ取れるところだったし、心地良いとも思えるが、彼は取り立ててそこを追求しようとは思わなかった。

 

仕事の説明もそこそこに、重要事項を決める為の内容へと入って行く。

 

「この文化祭を成功させるために、まずは委員長を決めたいと思います、このポストには2年生がなる事になってるんだ~、やりたい人は立候補してねっ。」

 

ほんわかした雰囲気で話すめぐりの言葉に、2年の実行委員たちは一部を除いて全員が苦い顔をする。

 

それも当然だ、そんな大役を任されてしまえばそれに伴う責任だって大きくなる。

 

そんなリスクある役目を誰が好き好んで受けたいだろうかと、彩加はそんな彼等に同意しながらもどこか冷めた様に見ていた。

 

彩加自身はやっても良いが、敵が近くにいる以上トップに立つのは危険だと判断しているのだろう、慎重に事の趨勢を見極めようと押し黙った。

 

「だ、誰もいないのかな~?」

 

その様子に、めぐりは引き攣った様な笑みを浮かべた。

立候補しない理由が、生徒会長になった彼女には分からないのだろう、只々困惑する様な色だけがあった。

 

無理も無い。

彼女は去年の文化祭において、実行委員長を自ら率先して勤め上げており、その流れで生徒会長になった人間だ、そう言ったしがらみとは無縁と言える存在なのだから。

 

だが、それとこれとは話が別だ、決めなければならない事は多いし、何より、トップ不在は些かまずいのだ。

 

せめて誰かいないかと、めぐりが視線を彷徨わせていた時だった、その眼がある生徒の所で止まった。

 

「あ、もしかして雪ノ下さん、かな・・・?」

 

「えぇ・・・。」

 

指名されて、雪乃は普段と変わらない様子で返す。

 

いや、よく見れば、ほんの僅かだがその表情に影が指し、痛みを堪える様な表情になっているが、それに気付く者は誰一人としていなかった。

 

そんな雪乃の言葉に、めぐりの表情がパッと明るくなる。

まるで、天啓を得たと言わんばかりの、勝確と言わんばかりの様子だった。

 

その様子に、ただ知っているだけとは明らかに違う何かを期待していると察した彩加は、興味深げに様子を見守る。

 

「私ね、雪ノ下さんのお姉さん、陽さんが実行委員長してた時の文化祭見て、この学校に決めたんだ~!あの時の文化祭は過去最高に盛り上がったよ~!だからね、良かったら妹の雪ノ下さんが委員長やってくれないかな!?この文化祭を盛り上げたいし!」

 

「(いや、その理屈はおかしい。)」

 

まるでなってくれるよね?と言わんばかりにまくし立てるめぐりの言葉に、彩加は待て待てと突っ込みを心の中で入れる。

 

めぐりが陽乃と関わりがあるのは良い、陽乃が手掛けた文化祭が素晴らしいモノだったのも、彩加は与り知らない所だが、事実だから良しとしよう。

 

だが、だからと言って雪乃にもそれをやらせて、良い文化祭を作ろうと言うのは些か筋違いではないかと思う。

 

凄いのは雪ノ下陽乃であって、雪ノ下雪乃がそう出来る器かと聞かれたら、彩加はないないと首を横に振りたくもなった。

 

何せ、少ない関わりで、彼は雪乃の持つ本質に気付いてしまっていたのだから。

 

「委員として善処します。」

 

「えぇ~・・・?」

 

そんな彩加の不安を他所に、雪乃は素っ気ない言葉でその申し出を断る。

その対応に、期待外れと言わんばかりに、めぐりはそこをなんとかと言わんばかりに上目づかいを送る。

 

「あっ!委員長になると内申点とか結構もらえるよ~?指定校推薦狙ってるならお得じゃない?」

 

「(この人はバカなんだろうか・・・。)」

 

内申点と言う餌を持ち出しためぐりに、彩加は声には出さないが辛辣な感情を抱かずにはいられなかった。

 

ここ数か月で、黒い感情を隠す事なくなった彩加であったが、こればかりは抱いても可笑しくない感想だった。

 

もし、今のめぐりの言葉の後に引き受けると言えば、内申点だけが目的と言う下心を抱いていると受け取られても仕方ない。

 

それは、その人物に対する印象を悪くする物でしかなく、これで受け入れる者がいるなら、それは只の愚者でしかない。

 

それを分かっているからこそ、2年の一部は呆れた様な表情を浮かべ、まるで分かってないと言わんばかりに冷めた目でそのやり取りを見ていた。

 

無論、彩加もその一人だった。

 

「ねぇねぇ、どうかなぁ~?」

 

「(いい加減、きっぱり諦めればいいのに、しっかり断ればいいのに・・・。)」

 

やらないと表面上は宣言している相手を延々と口説こうとするめぐりにも、表面的にはやらないと言っているだけで、しっかりとした拒否を申し出ない雪乃の態度にも、彩加は我慢の堪忍袋が切れようとしていた。

 

煮え切らない、往生際の悪い両名の姿が、彼の目にはこれほどまでにないほど醜く映ったのだろう。

 

故に、これ以上静観しても事が動かないなら、自分が立候補する以外ないと、内心で盛大な溜め息を吐きつつ、彼は両名の次なる出方を見守った。

 

「仕方ありませんね・・・、それじゃあ・・・。」

 

その姿勢に折れたか、雪乃は仕方なしと言わんばかりの表情で立ち上がろうとした。

 

「じゃあ、ウチ、じゃなかった、私がやっても良いですか?」

 

その時だった、その二人以外の声が雪乃の言葉を遮る様に立候補を申し出た。

 

一体誰だと、彩加はその声の主を見る。

 

そこにいたのは、一応彼と同じクラスに属している相模南だった。

 

「ホント!?じゃあ自己紹介いいかな?」

 

その申し出に、めぐりは安堵と諦めを混在させた表情を浮かべる。

 

決まったって良かったが、目当ての相手じゃ無い事に僅かながらも落胆しているのだろう、彩加にはそう感じ取れた。

 

「えっと、2年F組の相模南って言います、こういうのも少し興味あったし、この経験を通して自分も成長できたらなって・・・。」

 

「(葉山君にゴリ押しされるまでそんな気なかったじゃないか・・・、それに、成長ってするもんじゃなくてしてるもんじゃないかな・・・。)」

 

成長したい、興味があった。

クラスでの一部始終を見ていた彩加には、その言葉が白々しく響いて仕方が無かった。

 

しかも、内申点が出るという事が分かった後、そして、雪乃が煮え切らないと言う状況で申し出た訳だ、下心が透けても見える様で、イマイチ信用が湧かなかった。

 

「うんうん!成長したいって気持ち分かるなぁ!それじゃあ、実行委員長は相模さんに決定で良いかな?」

 

つたないながらも、表面上はやる気を見せた南を評価してか、めぐりはその真意を問う事なく、委員たちに同意を求める。

 

その言葉に、委員たちは異議なしと言わんばかりに首肯し、南の委員長就任を認めた。

 

「それじゃあ、本格的な始動は明日からにして、今日は解散します!お疲れ様でしたっ!」

 

『お疲れ様でした!』

 

今日の会議を締めくくる言葉で、その日は終わった。

 

会議が終わった事で残る意味の無くなった委員たちは次々に部屋から辞していく。

 

そんな中、委員長となった南は、教室に入って来た時と変わらぬ調子で、姦しく喋りながらも去って行く。

 

その様子に、まるで気負った様子も無く、何時もと変わらない一コマを見ている様な感覚さえ覚えた。

 

「これは、一波乱ありそう、かな・・・。」

 

誰にも聞こえぬ様、小さく呟きながらも、彩加もまた友の下へ行くために教室から辞する。

 

これから起きる波乱の予感に、頭を悩ませながら・・・。

 

だが、そんな彼にも気付けない事が有った。

 

その日の内に、南が奉仕部の部室に訪れ、雪乃に委員長補佐を依頼していたと言う事を・・・。

 

sideout




次回予告

文化祭への準備に浮かれる学内だったが、彼等の周りから面倒事は簡単には無くなってくれない。
その一つが牙を剥き、彩加へと迫ろうとしていた。

次回やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている

比企谷八幡は友を案ずる

お楽しみに

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