やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている   作:ichika

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比企谷八幡は変わって行く

side八幡

 

これまで経験した事の無い怒涛の展開が目白押しだった夏休みも終わり、2学期の始業式の日がやって来た。

 

何時もなら、休み明けは引き籠り過ぎたのもあって外に出るのも億劫で身体も怠いモノだった。

 

だが、今回の休み明けはそんな事もなく、学校へと向かう俺の足取りはとても軽やかで、そこで待っている展開を心待ちにしていた。

 

「あ、八幡!おはよっ!」

 

後ろから跳び付くような勢いで彩加が俺の肩に手を付いて圧し掛かってくる。

 

「うおぉっ・・・!?おはよう彩加・・・!」

 

いきなりな衝撃にビックリしつつ、倒れ込む事だけは堪えて、一番の親友に笑いかける。

 

家族以外の誰かとこういう風にじゃれあうなんて、半年前じゃ考えられなかったよなぁ。

これも、彩加や沙希、大志に小町、それから先生達とギンガのお陰なんだろうな。

 

そんな事を思いながらも、俺は彩加と横並びになって通学路を進んで行く。

これがまた良いもんで、こんなのが毎日続けばいいと、最近は本気で思える様になっていた。

 

「そう言えば、沙希ちゃんとうまくいったんだってね、おめでとう!」

 

「うぉ・・・、ど、どこでそれを・・・!?」

 

唐突に切り出された話の内容に、俺は少しキョドってしまう。

いや、仕方ないだろ、彩加とは小町の件以降、用事やら修行メニューやらが合わなかったから、報告も出来てない筈なんだが・・・・!?

 

まぁ、情報が漏れる所なんて数人ぐらいしか思いつかないんだけど・・・。

 

因みに、あの花火大会が終わった後、俺と沙希は適当に屋台をぶらついてからアストレイに戻って、着替えてから一緒に帰った。

 

勿論、夜の女の一人歩きは危ないと言う名目で、沙希を家まで送り届けましたとも。

しっかり手を繋いで、いや、腕組んで行きましたよ。

 

もうね、色々凄かったよ、柔らかいし良い匂いするし、

 

途中でコンビニに行ってた大志に見付かった時は、そりゃもうお祭り騒ぎと言わんばかりに喜ばれましたよ。

 

自分の姉ちゃんが男と付き合って喜ぶって、相当だよな。

 

しかもだ、その後は川崎家に御招待され、一家総出で祝われたもんだから、俺も沙希も逆に吹っ切れてましたね。

 

それはさて置き・・・。

 

「小町ちゃんから聞いたよ、大志君達が焚き付けたんだって?」

 

うっ・・・、小町の奴・・・!

彩加もそういう事には食い込んでくるって分かってるだろ、っていうか、何時の間にアドレス交換したの?

 

ホント、若いって凄いわね・・・!!

 

「ま、まぁ・・・、あんな起爆剤が無かったらヘタれてたさ、アイツ等には感謝感謝さ。」

 

それはさて置き、あの微妙な距離感だった時も心地良かったから、下手に動いて壊れちまうのを怖がっていたのも事実だ。

 

それは沙希の気持ちを知っていたとはいえど、俺が進むのを躊躇っていた。

勝手に昔の経験で怖がって、それでいて他の人達もやきもきさせてたと言うのは、少し申し訳ないけどな。

 

「そっか、でも、良かったね、あ、ほら、沙希ちゃん来たよ!」

 

自分の事のように笑う彩加の言葉につられて目線をあげると、そこには俺の彼女、沙希が手を振って駈け寄って来ていた。

 

「おはよう彩加、久しぶりだね。」

 

「おはよう沙希ちゃん!」

 

あれ・・・、そこは俺に真っ先に駆け寄ってきてキスぐらいくれる流れじゃない?

 

き、期待してたとか、そんなんじゃないからな!!

 

「八幡、おはよ。」

 

少し不満そうにしたからか、沙希は苦笑しながら俺に微笑み、俺の左腕に体を寄せてくる。

 

おぅっふ・・・、これすんごい破壊力・・・!

クール系女子がデレたらこんなに可愛いのか!!

 

「おう、歩きにくくないか?」

 

顔がにやけないように気を付けながら、俺は沙希に声をかける。

 

沙希が歩きにくいなら無理はさせたくないが、離れるのももったいなくて離れて欲しくないと言うジレンマ、分かりますぅ?

 

・・・、今、すごいウザい口調になって様な・・・。

 

「ん、大丈夫だよ、それに、恋人っぽいでしょ?」

 

不意打ち気味に、沙希は俺を上目づかいで見つつ満面の笑みを浮かべてくる。

 

それはまるで、目の前に大輪の華が咲いた様な華やかさがあった。

 

「んぐっ・・・!」

 

へ、変な声出ちまった・・・!は、恥ずかしいぃぃ!

 

し、仕方ないじゃん!最高の彼女の最高の笑顔だぞ!?ゼロ距離で見たらドキドキするだろ!?

 

「そ、そうだな・・・!じゃあ、行くぞ!」

 

そんなテンパった想いと照れを隠ししつつ、俺は沙希が歩きづらくないように気を付けながら、再び学校を目指して歩き始める。

 

恋人と親友と一緒に登校する、これってリア充ってやつなんだろうか?

いや、あんな周りの迷惑を考えずに騒ぎまくっているような連中とは違うだろう。

 

そう思いたいところだけどな。

 

「おーい、比企谷くーん!」

 

「大和か。」

 

そんな事を考えていると、またしても後ろから声がかかる。

振り向いた先にいたのは、俺たちともそれなりに付き合いのある男、大和だった。

 

「川崎さんも戸塚君もおはよう!今から登校なんだ。」

 

「おはよ、朝から元気だね。」

 

千葉村の時には気づかなかったが、どこか憑き物が落ちたように晴れやかな笑顔で俺たちに話しかけてくる。

 

こいつ、本当に良い奴なんだよなぁ・・・。

 

「まぁ部活やってるし、体力だけには自信あるからね!」

 

「そうか、まぁ、一緒に行くか。」

 

「おう!」

 

ここで離れるのも変な話だ、こいつなら俺たちの正体も知ってるし、別に拒む理由もないからな。

 

何時もの三人With大和は、総武高までの道を歩いていく。

 

「で、その恰好してるってことは、比企谷君と川崎さんはデキた、ってことなんだ・・・?」

 

「まぁ、前から付き合ってるような感じだったからね、漸くって感じ。」

 

「デキたって言い方はやめろよ、まだキスまでなんだぞ。」

 

まだ17なのに、しっかり養える経済力もないのに無責任なことなんて出来るかよ。

 

「二人ともおめでとう!うまく言えないけど、なんか嬉しいよな。」

 

「嬉しいってなんだよ・・・、おかしなことを言うやつだな・・・。」

 

良い奴なのは分かっているが、手放しで言われるとむず痒い心地になってしまうな。

 

普通なら冷やかしてくるもんだとばかり思ってたから、余計にそう思っちまうんだろうな。

 

「へへっ、恩人二人が幸せになれるなら、俺だって嬉しいよ、前までなら妬んでただろうけど、今は違うさ。」

 

ここまで浄化されてるなんてな・・・。

いや、一度本物を掴んだから、考えが一歩進んだってことか。

 

ま、此奴がいいんなら、それで良いか。

 

「そっか、まぁなんだ・・・、ありがとな。」

 

素直な賛辞を向けられてもまだきちんと受け取れるほど素直になれないのは、これまでのボッチ生活の癖が抜けきっていないからだと許してほしい。

 

「ふふっ、八幡は素直じゃないんだね。」

 

「照れてるだけ、だろうね。」

 

「比企谷君ってば、照屋さん!」

 

「う、うるせぇ!」

 

そんな俺を見て、彩加と沙希はどこかおかしそうに笑い、大和もつられて笑う。

 

その様子に、俺も照れ笑いをすることしかできなかった。

 

だけど、この空気も嫌いになれない辺り、俺も随分変わったものだと思う。

 

だから、護りたいと強く思う、失いたくないと思う。

そのために俺は強くなろう、この大切な人達を護るために。

 

新たに決意し、俺は3人と共に総武高を目指して歩いていく。

 

この力を、正しい方向へ使うために・・・。

 

sideout

 

side沙希

 

「では、今日は文化祭でのクラスの出し物、役員を決めたいと思う、意見がある者は挙手して発言するように。」

 

その日の最初のHRは1か月もしない内に行われるという文化祭の出し物決めるという事に相成った。

 

文化祭、ボッチだった頃のあたしには関係ない行事だったね。

中学の頃は合唱だったりがあったから抜け出すことはできなかったけど、高1の時は展示を作ってあとはほかのクラスの出し物を見るっていう形式だったから、準備期間の間だけは軽く手伝って、当日は開会式の出欠確認の時だけは居て、閉会式までの間は家に帰って自習してたね。

 

そっちの方が身になると思ってたからやってたけど、今年はそうしようとは全く思えなかった。

 

だって、か、彼氏と一緒にいられる文化祭なんて最高じゃないか。

それに、彩加も一緒なんだ、絶対に楽しい時間が送れるに違いないから、今年ばかりは本気でやんないとね。

 

「では、まず実行委員から決めたいと思う、文化祭運営の中心となる役割だ、責任も伴うが、その分成長できるだろう。」

 

担任である平塚センセイが仕事内容の説明をしてるけど、生憎あたしは役員なんてまっぴら御免だ。

 

こっちは家の仕事に予備校にバイト、それからウルトラマンとしての修行に、八幡への奉仕もあるんだから。

 

そんな役員なんかに選ばれてみろ、手が回らなくなるどころか、全部できなくなっちゃう。

だから、立候補なんてしないさ。

 

「自推、他推は問わん、だが、やる気のある者に立候補してもらいたい。」

 

他推、か・・・。

完全にアレだよね、こういうのって・・・。

 

「それなら、由比ヶ浜さんとかどうかな?人気あるみたいだしぃ?」

 

ほら来た。

声のトーンからも分かる、完全に面白おかしく言っている感じだね。

 

その元凶を見てみると、ショートカットの茶髪を持った、何処かいけ好かない雰囲気を纏う女がいた。

 

確か、名前は相模南とか言ったか、一見何の変哲もない女のように見えるけど、根っこは陰湿そうなモンを持ってそうだね。

 

まぁ、標的にされている奴も、個人的にいけ好かないから同情もしないけどね。

 

「えっ・・・!?」

 

いきなり指名された事に驚いたか、由比ヶ浜は面食らった様に声を上げた。

まぁ、内面はともかく、見てくれは良いし、仕事場に居たらそれは良いんだろうって事は分かる気がする。

 

だけど、裏はそうじゃない筈だ。

由比ヶ浜は悪く言えば周りに合わせるせいで、何時も誰かの顔色を窺っている。

 

それは、常に八方美人している様なもので、気に入らない奴もいるだろう。

その気に入らない奴って言うのが、相模と言う女なんだろう。

 

何があったかは知らないけど、嫌な事をするもんだね。

 

「あ、確かに良いかも~、明るいし、ムードメーカー的なあれかな~?」

 

取り巻きと思しき隣の女子生徒と、まるで面白がるように笑いながらも話していた。

 

ホント、いくら嫌ってる相手とはいえ、こういうのを見ると腹が立つ。

 

でも、八幡にした事を忘れた訳じゃ無いから、何もしてやらないけど。

 

「は?何言ってんの、結衣はあーしと一緒に客引きするし、やれるわけないじゃん。」

 

「ッ・・・!」

 

金髪ロールの女、三浦優美子の言葉に、相模とかいう奴は次の言葉が出て来ないか、悔しそうに表情を歪めた。

 

なるほど、このクラスのトップである三浦には口出しできないって事か。

それでも、自己顕示欲はあって、他人を貶めて上になろうとするクチか・・・。

 

見ていて気分が良いもんじゃ、ないね・・・。

 

って言うか、三浦も三浦で、しれっと由比ヶ浜を利用してる様なもんだけど、相模よりは遥かに良心的だろうね。

 

そう思ってた時だった、事を静観していた葉山が立ち上がり、言葉を発した。

 

「それならリーダーシップを発揮できる人が良いんじゃないかな?こういうのって、先頭に立つ人の指揮が物を言うと思うし。」

 

それって、自分以外にその役目を向けようとしてないだろうか?

普通ならこのクラスの実質的なトップのアンタがやるべき事だろうが。

 

「それなら相模さんとか良いんじゃねぇ~?」

 

「そうだな、ちゃんとやってくれそうだし。」

 

戸部とかいうロン毛が言った言葉に便乗するように葉山の奴は言った。

 

無責任な、人を貶めようとしてる奴だぞ、そう都合よく動けるもんかね。

 

「えぇ~!?う、ウチには無理だよ~!」

 

おい、なんだその満更そうでもない中途半端な拒絶は。

人気が高い男子に推されればそりゃ気分はいいだろうね、特に自分を立てたい奴からしてみりゃ余計にね。

 

それに、あの様子じゃ、葉山に上手く誘導された事に気付いてないんだろうか。

何故にそうするのかは意味不明だけど、由比ヶ浜を護るもう一手だとするなら納得はできるか?

 

まぁ、好きにすると良いさ、あたしには何の関係も無い事だ、勝手に自滅しようが成り上がろうが知った事じゃないしね。

 

それに、女子の実行委員が誰になろうと、あたしじゃないなら別にいい。

 

だけど・・・。

 

「それでは、次は男子の方の実行委員を決めたい。」

 

問題は男子の実行委員の方だ。

あの担任は八幡を奉仕部なんかの為に利用する気が透けて見えている。

 

だから、この文化祭でも油断は出来ない。

先生の力を借りてでもフォローしないと、大変な事になる、そんな気がしてならない。

 

アタシの隣の席に座っていた彩加も、何処か固い表情で事の趨勢を見ていた。

 

「あ、じゃあ僕やりたいです、立候補します!」

 

その時だった、立候補者が現れる。

それは、あたしの親友であり、クラスのマスコット的な存在である戸塚彩加だった。

 

「戸塚君か~!良いんじゃない?」

 

「うんうん、戸塚君ならしっかりやってくれるよ。」

 

その立候補に、周囲から賛成の声が上がる。

 

あたしや八幡と違い、クラスのマスコットとして認知されている彩加には一定の信頼もあるし、実はしっかり者と言う評価もあるみたいだから、誰もその立候補に反対する事は無かった。

 

「ッ・・・、他に立候補や推薦はない、か・・・、なら、これで決まったな。」

 

流石にクラスの総意に口は出せないか、センセイは一瞬だけ恨めしそうな表情を見せたけど、公私混同はしない様に努めて締めくくった。

 

思惑が透けて見えるってなもんだけど、どうやら彩加のお陰で今回はなんとかなりそうだ。

 

多分だけど、いや、ほぼ確実にそうだろうけど、彩加も平塚センセイの思惑に気付いて、八幡を庇う為に自分の立場を利用したんだろうね。

 

ホント、立ち回りはあたし達の中でも一番巧いだけはあるね。

 

だけど、フォローだけは出来る様にしておこう、部活もあるし、ウルトラマンとしての活動もあるんだしね。

 

「出し物は君達でアイデアを出して決めると良い、私は職員室にいるから、決まり次第持ってくるように。」

 

それだけ言い残して、センセイは教室から出て行く。

僅かに語気が荒い辺り、腹の内は穏やかでない事が察せた。

 

「・・・?」

 

 

その背中を冷めた目で見送ていたあたしは、センセイが扉に手を掛けた、その一瞬だけ邪気を感じ取った様な気がした。

 

何事かと思ったけど、瞬きをした一瞬でその気配は完全に無くなっていた。

 

気のせい・・・?

いけないいけない、八幡と両想いで結ばれたから舞い上がり過ぎてたんだろうか。

 

何か起こりそうな気もするし、気を引き締めていかないとね。

 

そんな事を思いながらも、違和感を頭の片隅の更に奥へと追い遣り、進んで行くHRの内容と、八幡達と過ごす放課後の予定に意識を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

だけど、その時のあたしは、目の前の事に対処する事しか考えていなかったのかもしれない。

 

その違和感が何だったのか深く考えていれば・・・。

この時、その正体に気付いておけばと、後のあたしが後悔していた事を、今のあたしが考えられる筈も無かった・・・。

 

sideout

 




次回予告

文化祭に向けて、科特部の展示の準備を進める八幡達だったが、学校内で起きる問題は、彼等を捕えて離そうとはしなかった。

次回やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている

戸塚彩加は訝しむ

お楽しみに

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