やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている   作:ichika

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雪ノ下陽乃は目撃する

noside

 

「光の、巨人・・・!?」

 

その姿を見た陽乃は、驚愕に目を見開いた。

 

目の前で人が光に包まれたと思えばその姿を変え、今や千葉を騒がせている存在になったのだ、自分の目が信じられなくなっても仕方なかった。

 

「コートニー!あぁもう、なんで・・・!?」

 

そんな彼女を尻目に、リーカは何をやっているんだと声を上げた。

 

今の彼等の立場は、この世界における異物でしかないのだ。

故に、その存在を秘匿せねばならない立場にあるのに、わざわざ他人の前で変身するなど、一体何を考えているのだと。

 

そんな彼女の憤りなど知らんと言う様に、彼女達の目の前でネクサスが変わる。

 

右腕をエナジーコアの前にかざし、赤い姿、ジュネッスへとその姿を変えた。

 

『被害を抑える!』

 

此処では戦えないと言う様に、彼はメタフィールドを発生させる動作へと移った。

 

天目掛け突き出された拳から光が放たれ、それは上空で弾けてドーム状に広がって行く。

 

「こ、この光は・・・?」

 

その光の輝きに目を奪われたか、陽乃は呆然とその光景に見入っていた。

 

目の前にある非現実的な光景に、何処か心惹かれる部分があったのだろう。

 

その光がネクサスとノスフェル。そして近くにいた陽乃達を包み切った時、周囲の光景は一変する。

 

郊外のマンションやアパートが散見していた場所が、今や何もない荒野の様な風景に変わり、空の色もまるで霞ががった昼間の曇天の様になっていた。

 

「えっ、えぇぇっ・・・!?」

 

「こ、ここ、どこ・・・!?」

 

一瞬にして変わった世界に、一度もメタフィールドの中に入った事の無い小町と陽乃が驚愕に声を上げた。

 

そう、まるで別世界に紛れ込んだような風景に、思考の理解が着いて来れなかったのだろう。

 

しかし、そんな彼女達を置き去りに、状況はどんどん変わって行く。

 

『シェアッ!!』

 

気合を籠めた掛け声と共に、ネクサスは地を蹴り、宿敵であるノスフェルへと飛び掛る。

 

それに応じるように、ノスフェルも不気味に霞んだ叫びをあげてネクサスへと迫る。

 

振りかぶられる右手の巨爪を身を鎮める事で躱し、タックルを喰らわせて体勢を崩す。

 

『オォォッ!!』

 

その隙を見逃さず、コートニーはすぐさま腰を入れ、肘打ちをノスフェルの腹に叩き込む。

 

一撃一撃の速さはそこまでではないが、どれも強烈な威力を誇っているのだろう、ノスフェルは悲鳴のようなうめき声をあげて地に倒れ伏す。

 

「す、すごい・・・!」

 

あまりにも正確無比、敵が一番苦手とする間合いに一瞬で入り込み、急所と思しき場所に的確に強力な技を叩き込んで行くその手際に、ウルトラマンとしての格の違いを見せ付けられている小町は、只々圧倒されるばかりだった。

 

無理も無い、彼女はつい数日前にウルトラマンとして目覚めたばかりなのだ、戦いの経験も、他のウルトラマンの戦いを間近で見る事など無かったのだから。

 

圧倒的なまでのパワーに慄いている彼女の前で、戦況はネクサスに有利なまま進んでいた。

 

『これで、悪夢を終わらせてやる・・・!!』

 

過去の因縁からか、コートニーの声には凄まじいまでの執念が籠められており、繰り出される技の一撃にも、必殺の意思が籠められていた。

 

正に圧倒的、ノスフェルは手も足も出せずにのた打ち回るばかりだった。

 

『トドメだッ・・・!!』

 

反撃する暇など与えないと言わんばかりに、胸の前で腕を交差させ、必殺光線の発射体勢に入る。

 

その技はコアインパルス、胸のエナジーコアから放つ光線技であり、体力の消費も少ない事から、コートニーがジュネッス形態では一番重宝している技でもあった。

 

エナジーコアより光が放たれようとした、まさにその時だった。

 

『ウァッ!?』

 

背後から放たれた光弾がネクサスの背を襲い、コアインパルスの発射を妨げる。

 

完全に不意打ちを食らう形となったネクサスは小さく悲鳴を上げて倒れ込んだ。

 

「もう一体いた・・・!?」

 

驚愕に目を見開きつつ、彩加は光弾が飛来した方を見る。

 

そこには巨大な闇の穴が開いており、中から三つ首を持つ怪獣が、ゆっくりとその姿を現した。

 

「そんな・・・!ガルべロスまで・・・!?まさか、ザギまで目覚めたというの・・・!?」

 

その怪獣、否、スペースビーストの事を知っていたリーカは歯を食いしばる。

 

そのビースト、ガルべロスは強力な光球を三つの首から吐いて攻撃するだけでなく、幻覚を見せ、相手を操る能力をも持っているおぞましい存在だった。

 

『新手が・・・!』

 

「行こう、X!!」

 

「こ、小町も行きます!!」

 

新たな敵の出現に、彩加とXは真っ先に戦おうと飛び出す。

 

それにつられるように、小町もアグレイターを展開しようと動いた。

 

部外者である陽乃に正体がばれようが構わないと言わんばかりに、その行動に迷いは無かった。

自分達の師であるコートニーでも、流石に多勢に無勢と判断したのだろう、余計な事でも放っては置けないのだ。

 

「待ちなさい!!今の貴方達じゃ操られて敵になるのがオチよ!」

 

だが、その行動はリーカの一喝で制止させられる。

 

彼女の言う通り、ガルべロスの精神攻撃は非常に強力であり、並の精神力では理性を保つ事さえ不可能に近い。

 

それに対抗するためには、何度も精神攻撃を受け、抵抗力を持つ者以外に無いのだ。

 

浄化の力を持つ彩加は兎も角、つい最近闇に取り込まれたばかりの小町には荷が重い相手でもあるのだ。

 

「私が行くわ、夫を護るのも、妻の役目よ!!」

 

「えっ・・・?」

 

リーカの言葉に、陽乃は驚いた様に目を見開く。

コートニーとリーカの間に男女の関係があるとは想像に難くなかった、

 

だが、まさかその先の関係だとは想像も出来なかったのだろう、陽乃の表情はある意味での失恋のショックに彩られていた。

 

しかし、それに構っていられる程状況は優しくは無い。

今もまた、ネクサスを狙い火球と巨爪が襲い掛かり、ネクサスは地を転げまわる事でなんとか回避していた。

 

だが、それもギリギリ感が否めず、コートニー程の手練れでなければ今にも殺られてもおかしくは無かった。

 

「この娘をお願いね!」

 

彩加と小町に陽乃を任せ、リーカはメビウスブレスを左腕に顕現させ、赤い火の玉に包まれながらもその姿を変えた。

 

『コートニー!!』

 

姿を現したメビウスに、ノスフェルが向かって行くが、それは彼女達にとっては好都合だった。

 

『リーカッ!!』

 

最高のパートナーの助太刀を受け、ネクサスはガルべロスの脚を払う事で攻撃を阻止し、間合いから逃れる。

 

メビウスもノスフェルを抑え込む事で動きを封じ、ネクサスの立ち上がる時間を稼ぐ。

 

その隙にネクサスは立ち上がり、メビウスと拮抗していたノスフェルに飛び蹴りを食らわせ、ノスフェルをメビウスから引き離す。

 

『助かった!借りが出来たな!!』

 

『大丈夫!後でキス一回ね!』

 

『お安い御用だ!』

 

軽口を叩き合いながらも背中合わせに立つネクサスとメビウスは、其々ノスフェルとガルべロスに向かい合う。

 

これで条件は対等、コンビネーションならばこちらに負ける道理はないと、二人は駆け出す。

 

『ハァァッ!バーニングブレイブ!!』

 

メビウスは赤き炎の姿、バーニングブレイブへとその姿を変え、ガルべロスに飛び掛る様にして炎を纏った蹴りを繰り出す。

 

以前八幡と共に放った蹴りとは違い、回転は無いが挟み込むように放たれた両の脚が、狼の顎のようにガルべロスの真ん中の頭を捉える。

 

衝撃の逃げ場を与えない強烈な技に、ガルべロスは悲鳴にも似た叫びをあげて悶えた。

 

『流石にやるな!』

 

それを見たコートニーも負けていられないと言わんばかりに、ノスフェルに向かって走る。

 

全てをここで終わらせる、その意思が彼の脚を速めた。

 

仇敵の接近にノスフェルも殺意をむき出しにしたのか、彼に迫りながらもその口から長い舌を突出し、鞭の様にしならせてネクサスを襲う。

 

どうやら、算段としては舌を避けた所に巨爪での一撃を見舞うと言う単純な時間差攻撃のつもりなのだろうが、普通の怪獣ならば出来る筈も無い戦法でもあった。

 

だが、そんな事などコートニーには何の意味も持たなかった。

 

アームドネクサスに発生させたエネルギー刃を用い、舌を容易く切断する。

 

急所に近い器官をやられたからか、ノスフェルは攻撃を中断させられ、あまりの激痛に悶え、のた打ち回った。

 

『リーカ!!』

 

『うん!!』

 

回避を促す様に妻の名を叫ぶコートニーの真意を見抜き、リーカは炎を纏った拳でガルべロスを殴り飛ばしながらもその場から離脱する。

 

『ボードレイ・フェザー!!』

 

両腕のアームド・ネクサスから形成された光の刃が宙を切り裂いて飛び、ガルべロスの左側の頭を斬り飛ばした。

 

『よっし!』

 

『決めちゃおう!コートニー!!』

 

『応!!』

 

上空に飛び上がったメビウスと横並びになったネクサスは、それぞれの必殺光線の発射体勢を取る。

 

ネクサスは両の腕を腹の前で一度交差させ、力を溜めるように胸の前で畳み、直後にV字に上方へと掲げる。

 

メビウスは身体に煌めくファイヤーシンボルを更に輝かせ、炎を円球状に集めていく。

 

『オーバーレイ・シュトロームッ!!』

 

『メビュームバーストッ!!』

 

L字に組まれた腕から放たれる光線はノスフェルを、撃ちだされる火炎球はガルべロスを捉え、その怪物たちを跡形も無く消し飛ばした。

 

「す、すごい・・・!」

 

リーカが加勢してからの展開を見ていた彩加は、一気に決着まで持って行った勢いと、それを維持するだけの実力に戦慄した。

 

その力と速さ、全てが彼を上回っており、先日見たセシリアよりも加減の無い力だったのだから、尚更だろう。

 

『これで終わり、だな・・・。』

 

敵が消えた事を認めたネクサスとメビウスが地に降り立ち、変身を解除してみている事しか出来なかった3人の所へ戻る。

 

ネクサスの変身が解けるとメタフィールドもその役目を終え、泡が弾ける様に消えて行き、周囲の風景も元の住宅街へと戻って行った。

 

「3人とも怪我は無いか?」

 

彼等の前に立ったコートニーは、努めて柔らかな笑みを浮かべながらも3人に問いかける。

 

自分の事よりも護ると決めた他人を優先する、それはある意味でアストレイメンバーに共通する想いなのかもしれない。

 

「だ、大丈夫です・・・!で、でも、良かったんですか・・・?」

 

その言葉に、小町は自分は何ともないと返すが、その表情は晴れない。

 

それも致し方あるまい。

なにせ、ただの一般人にウルトラマンの正体が知られてしまったのだから。

 

だが、彼女の心配を他所に、コートニーは微笑みを湛えて陽乃を見据える。

 

「怪我はないか?」

 

その笑みは、何時ぞや、陽乃を瓦礫から救った時に見せたモノと同じであり、その純粋さに、陽乃はまたしてもトキメキを覚えてしまう。

 

無理も無い、彼女の好みに、コートニーという男は悉く当て嵌まってしまっているのだから・・・。

 

「は、ハイ・・・!何ともないです!」

 

それ故なのかは分からないが、陽乃は表情を朱くして何ともないと答える。

 

「そうか、それは何よりだ。」

 

彼女の答えに安堵したのか、コートニーは笑みを更に深くし、心の底から良かったと言う様な表情を浮かべていた。

 

それを見ていたリーカが何とも言えない渋面を作り、コートニーと陽乃の様子を見ていた。

 

ノスフェルが現れる前までの険しさは無いが、それでも夫を他の女が横取ろうとしているのだ、決して快い事では無いだろう。

 

「だが、さっきので分かってくれた、よな・・・?」

 

しかし、コートニーはそんな陽乃に対して浮かべていた笑みを僅かに硬くし、緊迫した様な声色に変えて尋ねる。

 

その雰囲気に変わり様を察せない程陽乃は愚鈍では無かった。

一気に重くなった雰囲気に、固唾を呑み込んだ。

 

「君が俺に興味を持ってくれる事は嬉しい、だが、これ以上先は命の保証は出来ん、あまり近付かない事をお奨めするよ。」

 

これ以上自分に踏み込めば、さっきのように巻き込まれる程度では済まないと、命の危険すらあると引き留める。

 

それは、ウルトラマンであるが故に危険も多い彼だからこそ出来る、相手との距離の取り方であるのかもしれない。

 

「ッ・・・!」

 

そんな事など、陽乃も承知だった。

 

自分では手も足も出ない圧倒的な暴力と相対する存在、それが自分の目の前にいる。

 

その相手が自分に危害を加えずとも、ただ近くにいるだけで自分に火の粉が降り掛かる。

それがどれだけ危険な事か、考えずとも分かる事だった。

 

普通の人間ならば、そこで退くだろう。

だが、お生憎様、雪ノ下陽乃という女もまた、彼等とベクトルが違うだけで、普通とは言えない精神を持っていたのだ。

 

「だから、諦めろって言うんですか?」

 

それが如何したと言わんばかりに、陽乃はケロッとした表情で問い返す。

 

まさかの返答に、コートニーもリーカも面食らった様な表情になる。

 

今の流れでは、二人の想像の中では、諦めて帰ってくれるとばかり思っていたのだろうが、その目論見は夢に終わった。

 

「お前・・・。」

 

「お前じゃないです!私は雪ノ下陽乃!欲しいモノは何が何でも手に入れたいんだ!」

 

「「えぇ・・・。」」

 

その宣言に、コートニーとリーカは呆れた様に苦笑しつつ、なんとも言えない表情を浮かべていた。

 

本気なのかと言いたげな表情だったが、それはそれで面白いのだろう。

 

「ま、今日の所は引き上げますね!それじゃあコートニーさん!これ私のアドレスなんで、何時でも連絡下さいね~!」

 

そう言いつつ、彼女はドリンクの代金とアドレスが書かれた名刺を渡し、投げキッスと共に走り去って行った。

 

彼女が去った後ん残ったのは静寂と、遠くからかすかに匂う、花火の煙が混じった風の匂いだけだった。

 

「・・・リーカ。」

 

そんな彼女を見て何を思ったか、コートニーは隣に立つ妻に声を掛ける。

 

「なに・・・、ッ・・・!?」

 

今だ少し不満げだったリーカが彼を見上げると、コートニーは有無を言わさずに彼女の唇を奪う。

 

「「わぁぁーーーー!?」」

 

目の前で唐突に展開されたキスシーンに、今だ男女交際の経験の無い二人の青少年少女はどよめく。

 

軽いキスでは無く、完全に舌まで入れ込んだ濃い交わりに免疫が無いのだろう。

 

そんな彼等に、もう遅いから帰れと言わんばかりに、コートニーはリーカから唇を離し、手を振って踵を返す。

 

「若い頃みたいに妬いてくれて嬉しいよ、今晩は激しくしないとな。」

 

「こ、コートニーっ・・・!!」

 

ハッハッハと軽妙に笑いながら店内に戻るコートニーを追い、弟子の前でなんてことしてくれるんだと、リーカは顔を真っ赤にして店内へと戻って行った。

 

「・・・、帰ろっか・・・。」

 

「・・・、はい・・・。」

 

そんな彼等が見えなくなった所で、彩加は心底疲れたと言わんばかりにタメ息を吐き、同じくげんなりした様な表情を浮かべる小町と共に帰路へと就いた。

 

その女、雪ノ下陽乃が齎した嵐が過ぎた後に残されたモノは、彩加達への心労だけだったのかもしれない・・・。

 

sideout

 




次回予告

夏休みが終わり、新学期を迎える八幡達を待っていたのは、文化祭と言う催し事だけではなかった様だ。

次回やはりおれの青春にウルトラマンがいるのはまちがっている

比企谷八幡は変わって行く

お楽しみに

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