やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている   作:ichika

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比企谷八幡は夏に生きる 前編

side沙希

 

「そうか・・・、君までウルトラマンになっていたとはね・・・。」

 

あの戦いの後、アストレイに集まったあたし達は、八幡の妹、小町と、彩加が話す内容を聞いた。

 

今回の件の大まかな事を把握した一夏先生が、大きく溜め息を吐きながらも思案する様な表情を浮かべながらも呟いたのは、そんな一言だった。

 

店内は、歴戦の猛者が醸し出す異様な雰囲気で包まれており、訓練している筈のあたし達ですら震えを止める事が出来なかった。

 

そう、まるで裁判だ。

罪を犯した者を裁く場、その言葉がこの雰囲気には適切だろうね。

 

今、あたし達は小町を囲うように座っていて、全員の表情があたしの席からはよく窺えた

だからかな、そんな印象を強く受けた。

 

その雰囲気に、小町は完全に怯えきってしまっていた。

無理も無い、今の今まで、何も知らない普通の少女がこんな所に放り込まれて、平静を保っていられる方が稀有ってもんだ。

 

「あぁ、別に取って食おうって訳じゃ無い、八幡君に対するアレコレも、俺達の出現が引き金だって分かってるし。」

 

その怯えを感じ取ったんだろうか、先生は苦笑するように宥めに入った。

 

自分達が遠因になってると分かっていて、謝るつもりなのかどうかまでは分からないけど、この人達がこの世界に起きてる事に責任を感じている事は間違いないだろう。

 

ウルトラマンとしての彼等をあたしは何度も見て来た。

だから、それだけは分かった。

 

「まぁ、俺達の話をしても意味は無い、君の今後を、今は話そうじゃないか。」

 

そう言いつつ、先生はブレスのようなモノを懐から取り出し、小町に見せるように掲げる。

 

「君はあのダークルギエルとかいう奴の闇に囚われたとはいえ、彩加君の光でウルトラマンとして覚醒した、こればっかりは如何しようもない。」

 

それは、小町が変身したウルトラマン、アグルと呼ばれた青き光へとなるための変身アイテムだった。

ナイトブレスとは異なって、呼び出すんじゃなくて取り外しができるタイプなんだろうか。

 

それはさて置き、一旦預かった力の行方を、彼は如何しようか決めさせようとしているんだろうか。

 

「だから、決めて貰いたいの、アタシ達が貴女に迫る選択は二つに一つよ。」

 

先生の言葉を引き継いで、玲奈さんが問う。

 

「一つはこの事件を忘れて、今まで通りに過ごす事、状況さえ考えなかったら楽な道よ。」

 

玲奈さんの言葉の意味、それは、今まで通り、兄と離れる生活を送れと言っている様なものだ。

 

今の小町には残酷過ぎる言葉かもしれない。

でも、確かに受け入れず、見ない振りしているのは楽だよ。

 

独りぼっちになるのは、流石に今のあたしは御免被りたいけどね。

 

だから、もう一つは・・・。

 

「もう一つは、八幡君達と一緒に進む事だよ、今の小町ちゃんなら、どっちが良いかな?」

 

シャルロットさんが、意地悪く試す様に尋ねる。

 

今の小町なら、か・・・。

それって、もう答えは出ている様なもんだろうね。

 

「小町は・・・。」

 

小町は、自分の掌を、彩加を、そして八幡を順々に見て行く。

 

自分なんかが戦えるのか、本当にそれで良いのか、そんな不安が見て取れる。

 

だけど、彩加の屈託のない笑みと、八幡のもう一人にさせないっていう顔を見て、徐々にその表情に光が戻って行く。

 

それはまるで、何時かのあたしと八幡の時みたいだ。

失ったと思っていたモノが、何倍も大切な物になって返ってくる、そんな満たされあ気持ち。

 

だから、迷わないだろう。

彼女を見ているのは一人じゃない、八幡も彩加も、そしてあたしと大志もそうなるつもりだから。

 

「小町も、戦います!ウルトラマンとして、彩加さん達と一緒に!!」

 

その瞳は、真っ直ぐ先生の目を見据えていた。

真っ直ぐで強い、これまでとは違った意思を持った瞳は、ウソ偽りない想いだけを伝えていた。

 

「分かった、この力、君に預けようじゃないか。」

 

そう言いつつ、先生は手に持っていたブレスを小町に投げ渡す。

 

あの、ウルトラマンの力ってそんなぞんざいに扱って良いモノなんです・・・?

 

「わわっ・・・!?」

 

小町も慌ててブレスを受け取り、自然な流れで右腕に着けていた。

 

そんな感じだったけど、これで一件落着、なのかなぁ・・・?

 

「これからよろしく頼むよ、ウルトラマンの戦力は多いに越した事はないからな。」

 

宗吾さんが彼女を迎えるように笑い、何時の間に用意していたのやら、全員分のグラスに注がれたソーダ水を渡してくる。

 

これは何時ものアレだよね、歓迎会的なノリなんだろうか・・・。

 

「音頭は、ガイアのシャルロットで良いか、バディ組んでたろ?」

 

「随分昔の話を言うね・・・、まぁ良いけど。」

 

コートニーさんの言葉に、シャルロットさんは苦笑しながらもグラスを持って掲げる。

 

それに倣い、あたし達もグラスを掲げる。

小慣れたもんだね、この雰囲気に慣れて、楽しく思えるなんてさ。

 

「あ、あのっ・・・!」

 

そう思っていた時だった、小町が椅子から勢いよく立ち上がり、声を上げる。

 

いきなりだったから、皆一様に驚いた様に目を丸くしてしまう。

勿論、あたしだって例外じゃない。

 

「あんなことして、ごめんなさい・・・!それから、助けてくれて、受け入れてくれて、ありがとうございます・・・!!」

 

勢いよく頭を下げる小町の目には涙が浮かんでおり、その涙は恐怖から歓びへと変わったような気色を窺う事が出来る。

 

何も見えない暗闇と孤独の恐怖から、仲間と言う光がある場所に出て来れたんだから、そう思うのかな。

 

「謝るのは俺の方だ、蔑ろにして悪かった・・・、今まで傍にいてくれたのに、な・・・。」

 

その言葉に、八幡もまた表情を硬くしたまま小町に詫びた。

後悔、その色だけが窺う事が出来るのは、小町に対しての罪悪感からだろうね。

 

「だから、これからは一緒に戦おう、先生達と、沙希達と一緒に。」

 

だけど、八幡は小町の目を、真剣な目で見据える。

自分にも、小町にも、そしてあたし達にも嘘は吐きたくない、そんな想いだけがあった。

 

「やっと、やっと見てくれた・・・、お兄ちゃん・・・!」

 

八幡の心意気が伝わったか、小町は目元に涙を溜めて笑った。

 

心が通じ合った、その喜びが大きいのか。

 

それを見て、八幡も大志も、そして彩加とあたしも笑った。

 

「勿論だよ!」

 

力強く頷きながら、小町は戦う事をもう一度宣言する。

 

それを見て、アストレイの皆さんも我が意を得たりと頷く。

 

「それじゃあ改めて、アグルの光の帰還に、乾杯!!」

 

『乾杯!!』

 

機を見計らって、シャルロットさんが声を上げて乾杯の音頭を取り、あたし達も声を上げてグラスを掲げ、一気に呷る。

 

仲間を受け入れる儀式の様であり、家族の絆を深める様なやり取りが、あたし達には羨ましくも、心地良かった。

 

考えなければならない事も、やらなくちゃならない事はたくさんある。

 

だけど、今はこの空気を甘受しようじゃないか。

この素敵な人達と過ごせる時間を、心から楽しみたいと思ったから・・・。

 

sideout

 

 

side八幡

 

「「夏祭りぃ?」」

 

ある言葉を聞いた俺と沙希は、その大元である大志を見る。

 

小町がウルトラマンに覚醒して2日後の昼だった。

その日、俺達は小町の起こした事の落とし前という名目でアストレイ店内の大掃除を行っていた。

 

彩加はテニス部の遠征で千葉市外に出ているため来れなかったが、大志と小町が加わっていたお陰で、多いと思われていた掃除量も、最早片付きつつあった。

 

こういう事も悪くないと思うが、今はその夏祭りとやらの話に戻そうか。

 

「そうなんスよ、最近イロイロあって開催が危ぶまれてたんすけど、被害の少ない河川敷に集めて行うみたいッス。」

 

渡されたチラシを見ると、開催地を見ると、これまで偶然怪獣が現れていない地区が指定されていた。

 

そういえば、水辺の近くで戦った事少なかったよななんて思いながらも、俺は掃き掃除を一旦やめて椅子に腰掛けてしっかりと内容に目を通す。

 

30分の間に数万発の花火が打ちあがると言う、千葉県内でも屈指の規模であり、出店の数もそれこそ計り知れない規模でだとの事だ。

 

「へぇ、結構規模があるんだね、そう言えば、夏祭りなんて暫く行ってないね。」

 

俺の後ろにからチラシを見る沙希が、興味あり気に呟く。

 

少しもたれ掛ってくるから、彼女の吐息とぬくもりがうなじに・・・、って、何言ってんだ俺は・・・。

 

「そういやそうだね、京華が生まれてからは一度も行ってないね。」

 

「もうそんなになるんだ、早いもんだね。」

 

川崎姉弟の会話が内輪ネタになって来て、どういう事なのかはサッパリ分からんが、それでも長い間行ってない事は理解出来た。

 

「なら、俺達5人で行くか?彩加も小町も誘えば来てくれるだろうしな。」

 

らしくもなく、俺は自分から沙希達に誘いを掛けてみる。

 

まぁ、彩加と小町は一緒にいた方が良いだろう。

何せ、あの後から小町は彩加の話題が何かと多くなってるし、俺もついつい友達自慢のように彩加の話を小町にしているんだ。

 

それがなんであれ、二人の仲が深まるんなら協力はしてやりたいしな。

 

そんな事は口実でしかない。

本当は俺が沙希とそういう事をしてみたいだけなんだけどさ。

 

3カ月前までの俺なら、そんな事を考えるなんて出来なかったし、出来る様な関係にもなり切れてなかった。

だから、今そういう事が考えられるこの状況が、何よりも嬉しくてたまらなかった。

 

「あたしは賛成だよ、八幡との思い出作りにもなるからさ。」

 

「ちょっ・・・!」

 

俺の頭に身体を預けてくる沙希の言葉に、思わず素っ頓狂な声が出てしまう。

 

御胸が!推定Fカップの御胸が頭にぃぃ!!

沙希さん無防備すぎやしませんかねぇ!?それともお誘いですか!?

 

「姉ちゃん、流石にそれはダメ、男にそれは辛い。」

 

「え、あっ・・・!?」

 

ジト目の大志に指摘されて漸く状況を呑み込めたのか、沙希は顔を赤くして俺から離れる。

 

あぁんもう、その表情も最高!!

 

・・・、変態か俺は・・・。

 

「ご、ごめん・・・!つい・・・!」

 

「い、いや、俺も嬉しかったから・・・、っ!!」

 

何言ってんの俺ー!?

完全にアウトな発言しちゃったよ!!

 

浮かれてるんだな、そうなんだな!?

 

「そ、それなら、良いけど・・・。」

 

「良いんだ・・・、って、話ずれてるよー。」

 

照れる沙希に対して、一つ咳払いしつつ、大志は話を軌道修正に掛かる。

 

「ウチは大丈夫ッスよ、俺が下の弟たちの面倒見るんで、お兄さんは姉ちゃん連れてってください。」

 

コイツ、ホント良い奴だな、今度飯でも奢るか・・・。

 

「ありがとな大志、で、開催日は、今晩・・・!?」

 

大志に礼を言いつつ、改めて開催日に目を向けると、それは今日の日付を指していた。

 

「あちゃぁ・・・、これじゃあ浴衣も用意できないね。」

 

その事に、沙希は残念そうな表情を浮かべながら呟く。

 

夏祭りなら浴衣と花火と林檎飴、これが鉄板だと言われている(俺の中でだけど)から、その一つでも欠けるのは確かに残念ではあるな。

 

それに、沙希の浴衣姿が見れないのは非常に残念極まりない、そうは思いませんか?

 

誰に言ってんだろうね。

 

「その事なら。」

 

「僕達に。」

 

「お任せあれ~!」

 

「「うわ出たっ!?」」

 

唐突に現れた織斑嫁ズと小町に、妖怪でも出たかのような声を揃ってあげてしまう。

 

いや、仕方ないじゃないですか、だって、気配ゼロで這い寄られたらそりゃビビるもん。

 

「なんと都合の良い事に、ここに僕が昔貰った浴衣があります♪」

 

ニッコニコなシャルロットさんが取り出したのは、紺色の地に白いラインや水連の華があしらわれた浴衣を先に手渡し、沙希の左腕をガッチリつかむ。

 

「えっ?」

 

「そして幸運な事に、その浴衣は手直し済みです♪」

 

「えっ?」

 

困惑する沙希の右腕をセシリアさんがガッチリ掴んで店内の奥、つまりは先生達の自室がある方へと連れて行く。

 

「いってらっしゃ~い♪」

 

「小町まで何を・・・!?て言うかホントに何するんです!?」

 

残酷な天使のてー・・・、じゃなかった、残酷な天使の笑みを浮かべた小町が手を振り連れて行かれる沙希を見送る。

 

俺もあまりの事に何が何だか分からなくなってるけど、これ何しようとしてるの・・・?

 

「じゃあ次は八幡君だな。」

 

「えっ?」

 

背後から掛けられた声に振り向くと、そこには嫌に良い笑みを浮かべたコートニーさんと宗吾さんがいた。

 

やっぱりと言うべきか、そこには男物の黒い浴衣があり、サイズも俺にぴったり合うサイズのように見える。

 

「えっ・・・?」

 

「良い女を連れる男が冴えない恰好をしていてはカッコがつかん。」

 

「だから、俺達が君を男にしてあげよう。」

 

何時ぞや、先生が言っていた様な言葉と共に、俺は気付かぬうちに二人に腕をガッチリと組まれ、沙希と同じ様に店の奥へと引きずられる。

 

いや、ちょ、待って・・・!

待って・・・!!

 

「ちょ!?大志!?助けて・・・!」

 

「行ってらっしゃい~!」

 

嫌に爽やかな笑みを浮かべて見送る大志に助けを求めるも、大志は手を振っているだけだった。

 

ま、まさか、最初から仕組まれてたのか・・・!?

大志も小町も、コートニーさん達もやたらと手際が良かったのも、最初っから俺と沙希を祭りに行かせるために打ち合わせでもしてたんだ・・・!

 

俺、どうなっちゃうの・・・!?

 

引き摺られながらも、俺はそんな事を頭の何処かで考えながら、心の何処かで浮かれていた。

 

大好きな人と共に同じ時間を過ごす手伝いを、こんな多くの人達が応援してくれているって事に、何よりの感動を覚えていた。

 

だから、この行為を無駄にしないように、俺は心から楽しむとしよう。

 

一度きりしかない、この夏を、心行くまで・・・。

 

sideout




次回予告

夏の夜に打ちあがる花火のように、八幡と沙希もその花を咲かせるのだろうか。
それが、彼ら以外に何を齎すかも気付かぬままに。

次回やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている

比企谷八幡は夏に生きる 後編

お楽しみに!

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