やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている 作:ichika
noside
『行くぞ、彩加!!』
『うん!!今度こそ助けるんだ!!』
頭部からエクスラッガーを出現させ、アグルセイバーと切り結ぶ。
切り結んだ一瞬の隙に、虹色の光を纏った拳が虹のアーチを描く様に走り、アグルダークの顔面を捉える。
エクシードXになってパワーも上がったか、それともその一撃一撃に浄化の力が籠ったか、コスモスの全開パワーで漸く引かせられる程だったアグルが、まるで苦手なモノを喰らった様にもがく。
『これは・・・、浄化の力・・・!』
『あぁ、闇を祓う、虹の光か・・・!!』
その力の意味を知った彩加とXは、驚愕の声をあげる。
倒す為でない、癒す力、救う力を、彼等が望んだ力が、今手に入ったのだ。
『ウアァァァ!!』
押され始めた事に怒ったか、アグルダークは血を吐く様な叫びをあげながらも飛び掛るようにして向かってくる。
まるで、もう後の無い手負いの獣のように、身を捨てる様な悲壮感すら纏って・・・。
『泣かないで、君の涙を、今こそ拭う!!』
その痛みを受け止めるように、彩加はエクスラッガーを握り直し、アグルダークに向かって行く。
振り下ろされるアグルセイバーを躱しながらも懐に入り、彩加はエクスラッガーのスライドパネルに指を2度滑らせ、技を発動させる。
Xが持つエクスラッガーもそれに呼応し、虹色の輝きを増す。
『『エクシードスラァァァッシュッ!!』』
虹色の斬撃を幾重も叩き込み、アグルに強烈なダメージを与える。
その威力と、苦手とする浄化の力を叩き込まれ、アグルは大きく吹っ飛び、コスモスと戦っていたドラゴリーとルナチクスにぶち当たって倒れ込む。
『見事に使いこなせていますわね、それでこそ、一週間教えた甲斐があると言う物です。』
迷いなく振るわれた剣技に、セシリアもまた感心したように呟いていた。
教え子が力を正しく使い、誰かを救おうとしている事が、何よりも喜ばしい事なのだろう。
『さぁ、彼女を闇から救い出すのです、貴方方の力で!!』
『『はい!!』』
露払いをする様に、二体の超獣の首根っこを掴み、強引にアグルダークから引き離す。
まるで、場は整えてやると言わんばかりのその様子に、彩加とXは勇んで応じ、技を出す体勢を整える。
スライドパネルに3度指を滑らせ、手首を返して柄頭にあるブーストスイッチを押し込む。
エクスラッガーを中心として虹色の光が迸り、アグルダークとXの間を覆って行く。
まるで、絶対に逃げられない空間を作り出し、そこに閉じ込める様な印象を受ける。
『『うぉぉぉぉッ』』
フラフラになりながらも立ち上がるアグルダークに向けて飛び掛り、Xはエクスラッガーを一閃する。
『『エクシード!エクスラッシュ!!』』
一度目の斬撃が身体に滲み付く闇をあぶり出し、二度目の斬撃がその闇を消し去った。
ヤプールの闇も、ルギエルがもたらした闇も全て打ち消した。
『あぁぁ・・・、うぁぁぁ・・・。』
闇が晴れていくと、アグルは元の青い身体に戻り、まるで泣き崩れるように膝を付く。
いや、事実泣いているのだ。
小町の闇は、まだ解決したとは言えないのだから。
『小町ちゃん、僕が分かる?』
アグルの肩に手を置き、彩加は努めて優しく言葉を掛ける。
その心を癒す様に、涙を拭うように。
『君は、八幡が盗られるのが嫌だったんだよね、分かるよ。』
真っ直ぐ、核心を突く言葉を投げかけるのもまた、抉るためでは無く向き合わせるためだった。
『やだ・・・、やだよぉ・・・。』
その言葉に、小町は小さく、すすり泣くように呟く。
その言葉からは寂しさに震える幼子の様な弱さと、心細さの両方が窺い知れた。
『もう、独りぼっちは嫌・・・!誰も、誰も小町を見てくれない・・・!!』
『そんな事は無いよ。』
血を吐く様な言葉を受け止め、彩加はそんな事は無いと首を振る。
『八幡も、今も君の事を見てくれているよ、だって、今まで八幡の傍にいてあげたのは、小町ちゃんでしょ?』
自分達よりも長く、八幡を支えたのは紛れも無く小町だった。
それは何物にも変えようも、否定しようも無い事実なのだ。
八幡が小町を蔑ろにしてしまったのも、初めてできた友人と、両想いの相手と過ごしている事が、彼にとって充実している時間だったから、ついいつでも会える小町を見なかったに過ぎない。
それは、小町を家族だと思っているが故の、ある種の無遠慮が招いた事だった。
『寂しいなら、言葉に出して言わなきゃダメだよ、相手が分かってくれているなんて思わないで、伝えなきゃダメだよ。』
戒めも込めて、彩加は小町に前を向かせた。
きっと誰かが、自分の事を見てくれている。
だから、その相手に想いをしっかり伝えるのだと。
『小町に、出来るの・・・?』
『出来る出来ないじゃないよ、やるんだ、やらなきゃ何も出来ないじゃない。』
出来るのかと不安がる小町に、彩加は微笑みながらもやれと背を押す。
此処で躊躇ってどうする。
やらなければ進めないだろうという、厳しさの中にも優しさを含んだ一言だった。
『だから立って、君も今はウルトラマンなんだ。』
『ウルトラマン・・・?光の巨人の・・・?』
自分の今の姿に気付いたか、小町は掌をかざす様にして自分の身体を見る。
驚いているのか、それともただ感心しているかは分からない。
だが、それでも言える事が一つだけあった。
『小町、戦います・・・!前に進むために!!』
前に進むためにも、ただ待つだけの自分とサヨナラするためにも、小町は立ち上がる。
一時の闇の感情に呑まれ、それに付き合わせてしまったアグルと共に、今度こそ間違えないと決めたから。
『行こう、小町ちゃん!僕も手伝うよ!!』
『はいっ!!』
しっかりと両の脚で立ち、Xとアグルは超獣を相手取るコスモスの方へと目を向けた。
『セシリアさん!!』
『彼女は救いました、その怪獣も私達が倒します。』
この戦いは自分達でケリを着けたい、その想いから敵を譲ってくれと、彼等はセシリアへと言葉を投げる。
『それは何よりです、ですが、私の出番を盗られるのも面白くありませんわね・・・。』
まるで肩を竦めるように、コスモスは蹴り倒したルナチクスを掴み上げ、彩加達の方へと放り投げた。
それはまるで、コイツだけならくれてやると謂わんばかりの様子だった。
『このドラゴリーは私が倒しますわ、ウサギを倒すのは偲び無いのでお任せしましょう。』
ウサギを模した超獣であるルナチクスに思う処があるのか、セシリアはドラゴリーに向き合い、光を纏った正拳でドラゴリーを殴り飛ばす。
その威力は凄まじく、ドラゴリーの腹は凹み、硝煙が上がる程の威力を物語っていた。
『小町ちゃん、行くよ!!』
『はいっ!!』
セシリアの申し出を受けて頷きつつ、彩加はエクスラッガーを構え、アグルセイバーを呼び出した小町と共にルナチクスへと向かって行く。
投げ飛ばされていたルナチクスは何とか立ち上がり、やられてたまるかと言わんばかりに目玉をミサイルのように何発も撃ちだす。
だが・・・。
『この程度で、修行した僕を止められると思わないで!!』
『私達のコンビネーションに、付け入る隙は無い!!』
それと似たような事を、地獄の合宿で既に経験していた彩加とXには無意味だった。
直撃コースは打ち払い、当たらないと判断したモノは走り抜ける事で躱す。
その無駄の無い動きから、彼等のレベルアップの度合いが見て取れる。
『すごっ・・・!こ、小町だって負けないもん!!』
その勢いに驚愕しながらも、後に続く小町も光の剣を構えて走り抜ける。
もう、恐れる事は何も無い。
彼女には今、自分を見てくれる誰かが居た。
喩え、それが兄でなくても、自分の事を思い、救ってくれた人がいた。
それだけで、その足を進めるには十分すぎる理由だった。
『『ハァァァァッ!!』』
振り抜かれた2振りの光の軌跡がルナチクスの腹をX字に切り裂く。
その切れ味は凄まじく、切り口から盛大に血を噴き出させる程であり、耐え切れなかったルナチクスは悲鳴のような叫びをあげて地に倒れ伏した。
『よし!』
『トドメ、行くよ!!』
『はいっ!!』
だが、それで終わりではないと、彩加は必殺技の体勢へと移行する。
一緒に撃てと言わんばかりの彩加の言葉を受け、小町もまた、アグルの必殺光線の構えを取る。
Xはエクスラッガーを頭部に戻し、彩加はそれにならって頭の前にエクスラッガーを構え、スライドパネルを上から下へ1度スライドさせた。
それと同時に、アグルもまた頭の前で腕を組み、右手を真上を挙げて蒼い光の刃を造る。
その輝きは、先程までの、闇に囚われていた時とは異なる、真の光の輝きだった。
『負けては居られませんわね、私も参ります!!』
その光を受け、コスモスもまた必殺光線の型を取る。
胸の前で腕をクロスさせ、太陽の弧を描くように腕を広げて行き、金色の光を右腕に集める。
『『エクスラッガーショットッ!!』』
『フォトンクラッシャー!!』
『コズミューム光線ッ!!』
Xとアグルが放った虹色と蒼の光線がルナチクスを、コスモスが放った金色の光線がドラゴリーを其々捉え、二体の超獣をいとも容易く粉砕した。
その様はまるで、戦いの終わりを告げる、盛大な花火の様でもあった。
『こ、これで終わり・・・?』
『これで一件落着、かな・・・?』
敵の気配が消えた事に、小町と彩加は安堵のタメ息を吐いた。
『御二人とも、この姿は目立ちますわ、元の姿になりなさい。』
だが、セシリアはその姿で話しを続けるなと言わんばかりに、一足先に人間の姿となった。
目立つのは好ましくない、言葉の端々からその思いが感じ取れた。
『ど、どうやって戻るの・・・!?』
だが、偶然ウルトラマンになってしまった小町には、どうやって元の姿に戻れば良いのか、その方法が分からずに取り乱すばかりだった。
無理も無い、ほぼ自我を奪われての変身だったのだ、理性を取り戻してから戻れと言われても難しい事など当然だった。
『こ、小町ちゃん、落ち着いて!洗濯物を小さくたたむイメージで戻れるから!!』
『彩加、君も今までそんなイメージで戻っていたのか・・・。』
なんとか落ち付くように宥める彩加の言葉に、Xはそんなイメージを持たれていたのかと少しショックを受けていた。
洗濯物扱いは止めてくれ、そんな哀愁が漂ってくる様だった。
『こ、こうですか・・・!?』
アグルが腕を胸の前で組み、戻れと念じると蒼い光と共に小さくなって行き、小町の姿となった。
それを見届け、彩加もXとのユナイトを解き、小町とセシリアが待つ場所へと降り立った。
これで、本当に戦いが終わったと呼べるモノだった。
「小町ちゃん、無事でよかった。」
何とも無い小町の様子を見た彩加は、安堵の表情を浮かべていた。
助ける事が出来た、それだけで彼は満足だったのだ。
「あ、あの・・・、貴女は、お兄ちゃんの、彼女さん、ですか・・・?」
そんな彼に、小町はおずおずと尋ねる。
もし、相手が兄を自分から奪った張本人なのだとしたら、自分はどうしていいか分からない。
その相手がたとえ、自分を助けてくれた相手だとしても、だ・・・。
そんな想いが、その言葉からは窺い知れた。
だが・・・。
「か、彼女・・・。」
「彩加さんは、殿方ですわよ。」
その言葉に彩加は意気消沈し、セシリアはそんな二人の温度差に堪え切れずに噴き出しながらも、小町の言葉に訂正をしていた。
「う、嘘・・・!?こんな可愛い人が男の人・・・!?」
そんなセシリアの言葉に、小町は目玉が飛び出さんばかりに目を見開いて驚いた。
無理も無い、彩加の外見は、下手をすれば女であるセシリアや小町以上に可憐そのものなのだから。
「こんな可愛い人が、男の子な訳ありませんっ!!」
混乱でテンパったか、小町は彩加の胸板を、まるで感触を確かめるようにペタペタと触る。
しかしながら、当然と言うべきか、そこに母性の象徴は無く、華奢な身体に似つかわしくない、鍛えられたことが窺える硬い感触があるだけだった。
「お、男の人だ・・・!?」
「君達、ホントに兄妹なんだね・・・!!」
あんまりな扱いに、彩加は少し涙目になりながらも叫んだ。
八幡には触られていないながらも、その驚き方と言い、反応と言い、八幡も小町も良く似ていたのだ。
「ふふっ、どうやら、闇の支配は完全に消えたようですわね。」
小町から彩加を離し、慰めるように抱き締めながらも、セシリアは小町の無事に安堵した様な柔らかい笑みを浮かべていた。
自分達の起こした悲劇の夜の被害から起こった悲劇を、一つでも収められた事を喜んでいるのだろうか。
「ッ・・・!」
ここに来て、漸く自分やってしまった事を思いだし、小町は背後を振り返る。
そこに広がるは、崩れたビルから燃え上がる炎、立ち上る黒煙が覆う、廃墟同然と化した街並みだった。
直接破壊した物もあれば、戦いの余波で被害を被った建物もあり、その被害の凄まじさを物語っていた。
「こ、こんな・・・!こんなこと、小町は・・・!!」
違う、こんな事を望んでいた訳では無い。
ただ、兄を盗られたくなくて、ただ、独りぼっちになりたくなくて。
そんな想いで、彼女は闇に触れてしまった。
それが、大きな間違いだった。
「そう、貴女がやったのです、嫉妬から生まれた闇に呑まれて、壊したのです。」
「ちょ、セシリアさん・・・!?」
否定することなく、事実だけを突き付けるセシリアを咎めるように、彩加は声を上げる。
何もそこまで言わなくても良いではないか、何故追い込む様な事を言うんだと。
そんな彩加に、セシリアは視線だけで黙っていろと言わんばかりに視線を向ける。
「こ、小町はこんな事望んでない・・・!ただ、ただお兄ちゃんを盗られたくなくて・・・!!」
「それで?何を得ました?何か満たされましたか?自分で相手と向き合おうともせずに、勝手に突き進んだ結果がこれですか、笑い話にすらなりませんわ。」
自分がやったんじゃないと言わんばかりに頭を振り、頭を抱える小町に、セシリアはいい加減現実と向き合えと言わんばかりの厳しさがあった。
それは、言外に逃げるなと語っている様であり、逃げた結果、破滅を受け入れてしまった自分達の様になるなと言っている様でもあった。
「これは貴女がやった事です、受け入れなさい、お兄さんが変わった事も、全部受け入れて進みなさい、ここに、共に歩んで下さる人がいらっしゃいましてよ?」
だが、その言葉には厳しさだけでは無く、ある種の優しさも含まれていた。
現実を見せるだけでは無い、それに立ち向かう事で解決できると言う答えもまた与えていた。
ただ慰めるだけならば、それは優しさでは無く、ただ残酷な見放しでしかない。
その事を、セシリアは誰よりも身に染みて知っているからこそ、彼女は小町に真摯に向き合ったのだ。
そして、セシリアは彩加の背を押し、後は任せたと言わんばかりに小さく笑んだ。
その表情は、幼子を見守る母親の様であり、弟妹を見守る姉の様でもある、温かくも強さを感じさせた。
「うん、だから、一緒に歩いて行こう、八幡とも、きっと分かり合えるよ、僕も一緒に謝るよ、八幡にも、君にもね。」
その思いに頷き、彩加は小町の手を取って微笑む。
その笑みは、安心させる様に深い愛と優しさがあり、八幡や沙希の心も癒した強い光が現れていた。
「ッ・・・!はいっ・・・!」
その温かさに、その優しさに、小町は感激に大粒の涙を零す。
もう、何も怖くない。
それだけで、彼女の心は幾分か軽くなったように感じた。
「おーい!彩加ー!」
「セシリアさーん!!」
「大丈夫でしたかー!?」
先に離脱していた八幡と川崎姉弟が、手を振りながら三人の下へと走ってくる。
その表情からは、無事でよかったと言う優しい笑みだけが窺え、誰も怒りなど抱えていない事が窺えた。
「八幡!沙希ちゃん!大志君!」
親友達に向け、彩加もまた笑みを浮かべて手を振った。
それと同時に、左手で小町の手を握る。
まるで、置いて行かないと、一緒だと言わんばかりに、強く、しっかりと握っていた。
小町は一瞬驚くも、しっかりと彩加の手を握り返す。
恐れる事など何もない。
これからは、共に歩む、大切な人達と共に、戦って行けるから・・・。
sideout
次回予告
深まる闇の存在に備えるべく力を着けるウルトラマン達にも、休息の時は必要だった。
夏休みの思い出を作るべく、八幡と沙希は・・・。
次回やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている
比企谷八幡は夏を生きる
お楽しみに