やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている   作:ichika

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戸塚彩加は虹の輝きを掴む 中編

noside

 

『ハァァァッ!!』

 

『ヴァァァァ!!』

 

彩加達の窮地を救ったコスモス、セシリアは何処から出したか分からぬ低い叫びをあげながらも、同じく唸り声と共に向かってくるアグルダークを迎え撃つ。

 

ウルトラマンコスモス、慈愛と力、二つの姿を持つ戦士であり、その赤い姿はその名の通り、燃え盛る太陽の火、コロナを象徴する熱き力に満ちていた。

 

跳躍回し蹴りを放つアグルの脚を掴み、回転による遠心力を着けながらも大きく放り投げた。

 

吹っ飛ばされたアグルが体勢を整える前に追い付き、強烈なエルボーでその身体を地に叩き付ける。

 

あまりのパワーに、アグルが叩き付けられた地面は大きく陥没し、アグルの身体すらめり込ませた。

 

『まだまだ、此処からですわよ!!』

 

呻く様にもがくアグルを立ち上がらせ、コスモスは鳩尾を狙って正拳、手刀、回し蹴りを連続して叩き込む。

 

その圧倒的なパワーの前に、アグルは為すすべなく吹っ飛ばされ、膝を付いた。

 

反撃などさせない、その意思が攻撃の全てから感じ取る事が出来る。

 

『な、なんと言うパワー・・・!』

 

『速さも、僕達の比じゃない・・・!!』

 

その圧倒的なまでの力に、Xと彩加は驚愕に硬直する。

その強さ、その速さ、全てが合宿で見たモノとは大きく異なっていた。

 

訓練であるからこその加減はされていたとはいえ、その攻撃は彩加達新人にとっては一歩間違えれば致死にさえ値するモノであったに違いない。

 

だが、今目の前で振るわれる力はその上を行っている。

邪悪な怪獣や宇宙人相手ならば命を刈り取る事さえ容赦しない、その激しさ故に加減が一切ないのだ。

 

浄化を目的としない、ただ撃退を目的としたその攻撃に、彩加はまだ、己の拳の行く先を決められなかった。

 

何の為の力なのか、その意味を今、彩加は改めて突き付けられている、そんな気がしてならなかった。

 

『グゥゥ・・・!』

 

『おやめなさい、そんな怒りだけの力では、私には勝てませんわよ。』

 

なんとかコスモスを押しのけ、距離を取ったアグルダークは頭部より赤く染まった光を奔らせる。

 

『ダークフォトンクラッシャー。』

 

『まだ抵抗しますかッ!ブレーシングウェーブ!』

 

放たれる赤い奔流を、コスモスはマグマの如き熱を持った光線をぶつけ、それをいとも容易くかき消した。

 

『その程度!!光線はこう使いなさい!!』

 

だが、それだけでは終わらせない。

すぐさまコスモスは次の技の体勢へと移行する。

 

カラータイマーの両サイドに掌をかざし、大きく腕を広げつつ円を描くようにして炎を発生させる。

その炎はコスモスを中心に集まって行き、巨大な球状へと変化を遂げる。

 

『プロミネンスボール!!』

 

コスモスが両手を突出し、火球を押し出す様にして放つ。

それは一直線に突き進み、技を撃った後の体勢で止まったままのアグルに直撃、絶大なダメージを与えて吹き飛ばす。

 

その凄まじさたるや、最早表現できるものでは無かった。

 

だが、それでさえ倒し切るには至らないのか、それとも、変身者にのみダメージが通っているのか、アグルダークはふらつきながらも立ち上がり、唸りをあげて向かってくる。

 

『なんとまぁ・・・、ですが、もう抵抗は出来ないでしょう、決めさせて頂きます。』

 

呆れた様に呟きながらも、これ以上長引かせるのは悪手と判断したのだろう。

セシリアは再度コスモスをルナモードへと変化させた。

 

青い姿のコスモスは、両手を花のように合わせ、それを頭の上で咲かせる様に広げて光を集めて行く。

 

その光は、先程までの苛烈さとは異なった、優しく癒す様な穏やかな光だった。

 

『な、なんと優しい光・・・。』

 

『強さと、優しさ・・・、これが、コスモス・・・。』

 

その温かい光に、Xと彩加は目の前で起きる光景をただただ呆然と見る事しか出来なかった。

 

破壊を目的としない、癒す様に温かい光は迫るアグルダークを包み、その闇を祓わんと作用し始める。

 

『ウァァ・・・!アァァ・・・。』

 

最初はもがくように暴れていたアグルダークだったが、徐々に体色から黒と赤が抜けて行き、元の姿で在る蒼い色が見えてくる。

 

『これで、終わった・・・?』

 

そう思った時だった、空が割け、黒い闇が降り注ぎ、アグルを包む。

 

『あ、アァァァ!!』

 

『なっ・・・!?』

 

『これは・・・、ヤプール!!』

 

その闇に呑まれたアグルはもがきながらも、更に深い闇に取り込まれて行く。

 

予想だにしなかった侵略、それは、ダークルギエルではなない、別の闇が起因していたのだ。

 

『フハッハッハッハッ!!何処の誰かは知らんが、何やら面白い事をやっているではないか!!』

 

『迷惑な事を!!今度こそ浄化します!!』

 

姿を現したヤプールに怒りと闘志を燃やしつつ、もう一度コロナモードへと戻る。

 

『おぉっと!コスモス!ティガとガイアは今日はいないか!ならば好都合!!』

 

コスモスが次の動きをしようとした時だった、まるで牽制するように高笑いをあげたヤプールは、二体の怪獣を呼び出した。

 

ドラゴリーとルナチクス、超獣と呼ばれるヤプール謹製の存在だった。

 

『くっ・・・!』

 

『ウルトラマンコスモスよ!貴様だけはここで葬る!さらばだ!!』

 

『待ちなさい・・・!!』

 

逃げようとするヤプールを追うように飛び上がろうとしたコスモスに、アグルダークが襲い掛かる。

 

首を締めるように掴みかかるが、所詮はその程度、コスモスは苦も無くそれを払いのけ、腹を蹴って退かせる。

 

だが、それだけで終わりでは無かった。

ドラゴリーがミサイルを、ルナチクスが目玉をミサイルのように放ち、強烈な弾丸の嵐がコスモスを襲う。

 

『くっ・・・!!』

 

『セシリアさん!!』

 

なんとかバリアで防ぐが、それで足止めを喰らった形となったコスモスに、体勢を立て直したアグルダークが迫る。

 

事態があまりに大きく動いていたせいで、状況に着いて来れずにいた彩加がここで漸く我に返り、せめてアグルだでもと言えわんばかりに飛び掛る。

 

ここで戦わなければ、全てが嘘になる気がした。

小町を護る事も、セシリアと共に戦う事も出来ない。

 

それだけは、自分の心だけは偽りたくなかった。

 

『小町ちゃん!僕の声が聞こえる!?僕が見える!?』

 

『彩加・・・!?何をする気だ・・・!?』

 

呼びかける彩加の言葉に、Xは疑問の声を上げる。

 

さっきまでの状態を見るに、彼女に彩加の言葉は届いていない。

拒絶し、暴れるばかりだった。

 

その証拠に、アグルダークは今もまたXの首を締め上げる。

執拗に首を狙うあたり、女の執念が垣間見える。

 

『彩加さん・・・!反撃なさい・・・!このままでは・・・!』

 

一方的にヤラレているXの姿に、セシリアは二体の超獣を往なしながらも叫ぶ。

しかし、救援に回れない程相手も厄介なのか、その声に余裕は無かった。

 

だが・・・。

 

『ぐっ・・・!違うよ、X・・・!彼女は泣いているんだ・・・!』

 

なんとか首から腕を引き剥がしつつ、彩加は心苦しそうに話す。

 

まるで、自分の古傷を自分で抉るように、思い出したくも無い過去を思い出す様に。

 

『僕も、そうだった・・・!!』

 

拳を躱し、受け流す様にしながらも彩加は言葉を紡いでいく。

 

『誰からも見て貰えない、そんな恐怖の中に、小町ちゃんは居るんだ・・・!』

 

誰にも自分を見て貰えない。

それは、彩加も嘗て経験していた事だった。

 

その容姿故に可愛がられる事こそすれど、心を許せる友と言う存在は、これまで一人もいなかった。

 

何せ、誰も戸塚彩加と言う少年を、可愛らしい男の娘としか認識せず、その心を理解しようとしなかったのだ。

 

だから、彼は知らず知らずの内に仮面を着けていたのかもしれない。

そうしなければ、何かが壊れてしまいそうで怖かったから。

 

だが、今の彼は違う。

自分を真っ直ぐ見てくれる友が、手を取り、分かり合える仲間がいる。

 

『だから、僕が必ず助ける・・・!だから、目を逸らしたままじゃダメなんだ!!』

 

だから、小町には目を背けてほしくない。

拒絶するのも、現実を受け入れたら、自分は孤独だと突き付けられているに等しいからだ。

 

故に、その事を見ない為に、小町は今、無数の棘で心を覆っているのだ。

だから、彩加にはアグルダークの目元を奔る赤いラインも、涙を流しているようにしか見えなかったのだ、

 

『目を背けないで、小町ちゃん!八幡は、君を待ってるから!!』

 

『ウルサイッ・・・!何が分かるのッ・・・!!』

 

その叫びに、小町は血を吐く様に叫ぶ。

お前なんかに何が分かる、何を知っている、その怒りが現れている様だった。

 

『分からないさ・・・!でも、これだけは分かる、君は、八幡が大好きだって事だけは!!』

 

取っ組み合いになるも、彩加はアグルを背負い投げし、マウントポジションを取る。

これ以上暴れさせない、その想い故に、彩加も遠慮をかなぐり捨てた。

 

『もう一度向き合うんだ・・・!君の心と、八幡と!!』

 

『ウルサイ・・・!皆、消えちゃえっ・・・!!』

 

必死に押さえつけて呼びかける彩加の言葉をかき消すように叫び、小町はブレードを再び振るい、Xの胴を斬りつけて自身の上から跳ね除ける。

 

『うぁっ・・・!』

 

『ジャマだぁぁぁ!!』

 

よろけたXに、立ち上がると同時にもう一閃食らわせ、大きく吹っ飛ばす。

 

痛みに呻くが、身体の痛みなどどうという事は無い。

本当に痛いのは、今も血を流す心なのだと知っているから。

 

『立ちなさい、彩加さん!!』

 

そんな彼の背を押す様に、セシリアはドラゴリーの腹を蹴り、ルナチクスを背負い投げしながらも叫ぶ。

 

その姿はまるで、諦めるなと言う、無言のエールがあった。

 

『止まらない涙も血も、止まない雨もありません!』

 

ドラゴリーが吐く炎を躱し、回し蹴りを頭部に叩き込んで地に倒しながらも、セシリアは言葉を紡いでいく。

 

『何時かは止んで、晴れる時が来ます、その時に現れる虹を、彼女に教えて差し上げるのです!!』

 

叫びながらも、コスモスはもう一段階変身を行う。

 

コロナの赤い身体にルナの青が混ざり、金色のラインが浮き上がる。

 

それは正に皆既日食の様であり、月の陰から零れる太陽の光が、金色に輝いている様でもあった。

 

その姿こそ、ウルトラマンコスモス エクリプスモード。

優しさと強さを一つにした姿だった。

 

『露払いは私が引き受けましょう、この力と共に進みなさい、ウルトラマンX!!』

 

金色に輝く光をXに向けて浴びせ、コスモスは力の一部を授ける。

 

それは、Xが持っていた力と呼び合い、合わさってその形を新たな物へと変えていく。

 

それは彩加の持つXデバイザーに直接的な形として姿を現す。

コスモスの姿を現すサイバーカードと、もう一枚、Xに良く似た虹色の巨人の姿を現すスパークドールズが彩加の手に収まった。

 

『はい・・・!』

 

コスモスのカードを仕舞いつつ、彩加虹色の巨人のスパークドールズを握った。

 

『戦おう、X!小町ちゃんを助けよう!!』

 

『あぁ、勿論だとも!道を切り拓く!!』

 

相棒に、自身の半身とも呼べる存在と共に進む事を誓い、彩加は前を向く。

 

この力で闇を祓い、光を齎す事こそ自分の務め。

その相手が、親友の妹ならば、尚更道を照らしてやりたい。

 

それが、彩加が掴んだ光でもあった。

 

『≪ウルトラマンX、パワーアップ!!≫』

 

デバイザーにスパークドールズを読み込ませると、短剣の様なものが現れ、スパークドールズの代わりに彩加の手に収まる。

 

彩加は迷うことなく虹色のスライドパネルをなぞり、トリガーを引く。

 

『『行くぞ!!エクシード!エェェェェックスッ!!』

 

彩加とXが同時に叫び、短剣、エクスラッガーをX字に振るう。

 

その瞬間、Xの身体が虹色に輝き、その姿を変えていく。

赤と銀主体だった体色が、紺と銀に変わり、頭部にエクスラッガーの待機状態が現れる。

 

その姿こそ、エクシードX、虹色の巨人だった。

 

『これが、虹の輝き・・・!』

 

『未来への水先案内と言う事か・・・!!』

 

溢れんばかりの力と、より互いを近く感じる程のユナイトに、彩加とXは歓喜の声を上げる。

 

これこそ、八幡と沙希、ギンガとビクトリーに追い付きたいと願った自分達が求めた、願いをかなえるための力だった。

 

『ウワァァァッ!!』

 

その姿に、アグルダークは自棄になったように向かってくる。

先程の差異化の言葉がある程度通じたのか、若しくは、闇がその力に怯えているのか・・・。

 

だが、彩加にとっては、そんな事など些末な事でしかなかった。

 

『行こう、X!!』

 

『おう!!』

 

彩加とXは闘志をみなぎらせ、アグルダークへと向かっていく。

 

その力で、闇に囚われた者を救うために。

友との未来を、その手に掴むために。

 

sideout

 

 




次回予告

虹の輝きは闇を払う一筋の光となる。
闇が払われた時、少女は己の気持ちと向き合うこととなるのだ。

次回やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている

戸塚彩加は二次の輝きを掴む 後編

お楽しみに

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