やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている 作:ichika
noside
『やめるんだ小町ちゃん!!』
Xに変身した彩加は、向かってくるアグルダークに止まるよう呼びかける。
こんな事をして何になる、頼むから止まってくれと言わんばかりに、彩加はアグルダークの拳を受けとめ、戦意を削ごうとする。
だが、闇に支配されている小町にとって、そんな事など関係なかった。
『ウルサイ!!』
Xの腕を払いながらも、アグルダークはまるで刈り取るように右フックをXの顔面に叩き込む。
『くっ・・・!小町ちゃんッ・・・!!』
『比企谷さん!!止まって下さいッス!!』
よろけたXをカバーするために、ヒカリは上段蹴りでアグルダークの正拳を相殺しつつ、その動きを封じるべく取っ組み合いになる。
だが、徐々に押し込まれている事が見て取れ、パワーではアグルダークが大きくアドバンテージを取っている事が分かる。
『ヒカリが押し負けてる・・・!?いや、それだけじゃ・・・!?』
この1週間の地獄を切り抜けた大志でさえ押し込む、その邪悪なまでの力に、彩加は戦慄する。
戦闘経験の無い一般人を操り、ここまでの力を出させるなど、一体闇の力はどれほどの力を持っていると言うのだ。
彩加がその光景に呆けている時、遂に拮抗が敗れ、ヒカリが大きく体勢を崩す。
その一瞬の隙を逃さず、アグルダークはヒカリの腹部に蹴りを叩き込み、その巨躯を大きく吹き飛ばした。
『ッ・・・!ダメだ・・・!!』
『彩加!!今の彼女には、君の声は届いていない!!』
追撃を行おうとしたアグルに飛び掛り、彩加はその攻撃を防ぐ。
だが、一向に攻撃がやむ気配が無い事に気付いていたXは、彩加に戦うよう促す。
しかし、戦うとはいっても、ザナディウム光線を使う訳にもいくまい。
あの光線は存在をスパークドールズに閉じ込める技だ、人間が中にいる状態で使ってしまえばどうなるか分かった物では無い。
だが、その躊躇が仇になった。
アグルは右手から血のように赤く染まった光の刃を発生させ、Xとヒカリに斬り掛かってくる。
『彩加さん!!』
剣の技を持たないXをサポートするため、大志はナイトブレスよりナイトブレードを発振して、アグルの剣と切り結ぶ。
力で押し込もうとするアグルに対し、彩加は力点をずらす事で受け流すが、それでやられるほどアグルも素直では無い。
まるで、怒りを反映させたような出鱈目な剣で、大志を押し込んで行く。
『くぅっ・・・!こんな、出鱈目なパワーなんて・・・!』
「大志君!!』
押し込まれ、体勢を崩した大志に迫る光刃を、彩加は2人の間に割り込む事で大志を庇うようにして胴を斬られた。
『彩加さん!このっ・・・!!』
彩加を庇うように前に出たヒカリは、一旦仕切り直す様に大きくナイトブレードを振るう。
当たると直感で察したか、アグルダークもまた大きく距離を取った。
『あ、ありがと・・・!』
『大丈夫ッス・・・!けど、あの力は・・・!!』
大志に助け起こしてもらいながらも、彩加はその力に違和感と恐怖を覚えた。
これまでの様な怪獣の戦い方でも泣ければ、アストレイのウルトラマンのように経験やスキルに基いた戦術を用いた戦い方でもない、人間の醜い感情をそのままぶつけているかのような戦い方。
それは、自分をも含めた全てを破壊し尽くす戦い方だった。
『小町ちゃん・・・!そんな戦い方で、君が望むモノが手に入るとでも言うの!?』
その醜さを知っていながらも、それを人間の本質とは思いたくない彩加は、小町に今の戦いの意味を問う。
そんな事をして、八幡が本当に向き合ってくれるのか、分かってくれるのかと。
『ダマレ・・・!ダマレェッ!!』
だが、その言葉さえ今の彼女にとっては邪魔にしかならない。
只でさえ大きかった心の闇を、闇の力のよって押し広げられているのだから。
禍々しいまでに輝きを増した光の剣で、Xとヒカリを切り裂こうと迫る。
『させるかッ!!』
その時、眩い光の柱と共にギンガとビクトリーが割り込むように現れ、ギンガセイバーとビクトリウムスラッシュでアグルを大きく退かせた。
「は、八幡・・・!』
『ね、姉ちゃん・・・!』
来ると予想していたが、いざ来てしまうとどうしていいか分からない、そんな困惑が彩加と大志にはあった。
沙希はまだいい、事情を話せば何とか分かってくれるかもしれない。
だが、問題は八幡の方だ。
ついさっきの状態を見るからに、小町に対して不信を、怒りを抱いているかもしれない。
そんな状態でアグルの変身者が小町だと言う事を伝えれてしまえば、そのままスパークドールズへ還してもおかしくは無かった。
『遅れてごめん!二人は休んでて!』
『おう!こっからは俺と沙希のステージだ!!』
先に戦っていた彩加と大志をいたわるつもりなのだろうか、八幡と沙希は真っ直ぐアグルへと向かって行く。
『ギンガストリウム!!』
『ビクトリーナイト!!』
強化形態を持つ二人のウルトラマンは、一瞬でその姿を変えてアグルへと向かって行く。
『アァァァァ!!』
それに対抗すべく、アグルダークはウルトラマンと思えぬ叫びをあげながらも、両手から光刃を発振して斬りかかる。
『行くぞ!』
『あいよ!』
ギンガセイバーでアグルの光刃を受け止めたギンガの背後でビクトリーが跳躍し、アグルの背後に回り込む。
ナイトティンバーをソードモードにして振るい、アグルに攻撃を加えようとする。
だが、みすみすやられるほどアグルも雑魚では無い、もう片方の光刃でビクトリーの剣戟を防ぐ。
危機察知の本能のみで動いているとはいえ、その速さだけは一級品だった。
『余所見は禁物だぜ!!』
しかし、それは八幡達も織り込み済みだった。
アグルがビクトリーに気を取られた一瞬の隙で呼び出したギンガスパークランスの柄で、拮抗状態にあるアグルの腹を殴り、その体勢を崩させる。
その一撃を躱す事が出来なかったアグルは、僅かなダメージに怯むように腰が引ける。
『もう一丁!!』
その隙を見逃さず、ナイトティンバーの一撃で足を払う。
背中から倒れ込むアグルの身体を、ギンガは返すギンガスパークランスの一閃で宙に跳ね上げる。
『これも喰らえ!!ギンガサンシャイン!!』
クリスタルを桜色に輝かせて放つ技、ギンガサンシャインをアグルに食らわせる。
その威力は凄まじく、アグルは数百mも吹っ飛ばされ、あまりのダメージに上手く立ち上がる事が出来ずに膝を付いた。
『よっし!』
『ナイスアタック!このままケリを着けるよ!!』
『おう!!』
ハイタッチしつつ横並びになった2体のウルトラマンは、それぞれの技の使用に踏み切る。
『行くぜ!ギンガサンダーボルトォ!!』
『ウルトライブ!キングジョーランチャー!!』
ギンガの右腕に雷の力が迸り、ビクトリーの右腕が巨大な銃の様なものへと変わる。
ギンガは雷を放とうと、ビクトリーは銃口をアグルに向ける。
『『行けぇぇ!!』』
『ま、待って・・・!!』
『Xバリアウォール!!』
その技が放たれる直前、3人の間に割り込んだ彩加が光の壁を広げ、迫り来る雷と銃弾を防ぐ。
『ぐっ・・・!あぁっ・・・!!』
しかし、鍛えられたその技の威力に耐え切れず、光の壁は破れ、幾分か弱まったとはいえ光線がXの身体を襲った。
『彩加・・・!?』
『どうして・・・!?』
何故敵を庇うのかと、八幡と沙希は困惑した様に問う。
何故庇ったか、その意味が分からなかったのだ。
『お兄さん、姉ちゃん・・・!あの黒いウルトラマンは、小町さんなんです・・・!』
よろめきながらも、何とか八幡達の下へとやって来た大志が、彩加がアグルダークを庇った理由を説明する。
何故変身できたかなどは、今は然程重要ではない。
重要なのはただ一つ、八幡の妹が操られ、戦わされていると言う事だけだった。
『小町が・・・!?』
『一体どうして・・・!?』
その言葉にショックを受けた八幡は、信じられないと言わんばかりにアグルを見返す。
その理由が分からないからこそ、どうすれば良いのかも分からないのだろう。
『ウァァァァァ!!』
『あぁぁっ・・・!』
その隙に体勢を立て直したアグルは、呻きの様な叫びをあげながらも、近くで倒れていたXを蹴り飛ばした。
その強烈なまでの負の思念を乗せた蹴りは重く、あまりのダメージに彩加は呻き、立ち上がることさえ出来なかった。
『『彩加!!』』
『彩加さん!!』
仲間がやられていては庇わなければならないと無意識化で考えているのか、三人はXに駆け寄る。
だが、戦場において、それは甘さであり隙でしかない。
『ダークリキデイター。』
何発もの黒い光球が放たれ、4人のウルトラマンに向かって迫り来る。
『しまっ・・・!?』
最初に気付いたギンガが咄嗟に前に出るが、バリアを展開する暇も無く直撃を喰らう。
だが、それだけでは無い。
彼が庇おうとしたビクトリーやヒカリにも襲い掛かる。
その威力は凄まじく、周囲の建造物もろとも爆砕させ、4人を襲った。
『あぁっ・・・!!』
『ぐぅっ・・・!!』
『み、皆・・・!!』
ギンガと同じ様に腕を広げ、倒れているXを庇うビクトリーとヒカリは、より多くの光弾を身に受けていた。
まだ立ち上がる力が戻っていないのだろう、Xは自分を庇う友に手を伸ばす事しか出来なかった。
自分は一体何をやっている?何の為に修行したのだ?
初めて己の全てを賭けてでも護りたいと思った、掛け替えの無い友を、この様な暴力から護るためではないか。
それなのに、自分は結局護られてばかりで、何もする事が出来ない。
何と不甲斐無い事か、それが彩加を苦しめてならなかった。
『キエロ、キエロ・・・!キエテシマエ・・・!!』
だが、そんな想いなど、敵にとっては何の関係も無い。
目の前にいるから、邪魔だから戦う、ただそれだけなのだ。
怒りと闇に呼応するように、光弾は勢いを増して迫り来る。
一撃一撃に怨嗟が籠められた、ただ憎しみだけで敵を殺す光球が、膝を付いたギンガへと迫って行く。
『ぐっ・・・!小町っ・・・!!』
『八幡・・・!!』
『お兄さん!!』
闇に囚われる妹に呼びかける八幡は、逃げる事さえしなかった。
これが、彼女を傷付けた報いだ、そう言っている様にも見える。
一際強い光弾が直撃しようとした、まさにその時だった。
『コスモーーースッ!!』
蒼い月の様な光と共に現れた何者かが、輝くバリアを展開してその光弾を弾き飛ばした。
弾かれた光弾は光弾を撃っていたアグルダークへと突き進み、胸部に突き刺さって盛大に爆ぜる。
その威力に自信が耐えきれなかったか、アグルダークは大きく吹っ飛び、悶絶するように地をのた打ち回った。
『あ、貴女は・・・!』
蒼い光が晴れた時、そこに立っていたのは青い身体を持ったウルトラマン、コスモスだった。
『せ、セシリアさん・・・!』
その変身者は、アストレイメンバーの一人、セシリア・A・織斑であり、この一週間、八幡達を鍛えていた人物でもあった。
『皆さん、御無事で何よりですわ。』
4人の弟子たちの無事を喜びながらも、セシリアは優しい声色で彼等の身を案じた。
死なれては寝覚めが悪いし、他のメンバーにも顔向けできないと言う想いがあるかどうかは分からないが、それでも八幡達にとって、その言葉は何よりも心に滲みた。
『ですが、あの程度の操り人形に何を手こずっているのです?まさか、あの程度の修行でもう精魂尽き果てましたか?』
しかし、〆る所はキッチリ〆る性格は相変わらずなようで、何を無様を晒しているのかと言わんばかりに4人に問いかける。
この程度で修業した者が負ける筈も無い、彼女の叱咤激励が彼等に問うた。
『あのウルトラマンは・・・、八幡の妹さんが変身してるんです・・・!!』
『ッ・・・!!』
なんとか立ち上がった彩加の言葉に、セシリアは絶句する。
まさか、ウルトラマンの身内が闇に取り込まれ、利用されてしまう事になるとは思いもしなかったのだろう、その挙動からは緊張の色が僅かに見て取れた。
闇は物理的な破壊だけでなく、精神も蝕む。
自分達が関わったあの夜の出来事の被害が、人の心にまで及んでいると知り、責任を感じているのだろうか。
『分かりました、私が彼女を止めましょう、この惨禍を引き起こしたのは私達にも責任があります、下がっていなさい。』
傷付いた4人をこれ以上戦わせるわけにはいかない、その判断の下、コスモスは前に出つつ、青い姿、ルナモードから赤い戦士、コロナモードへとその姿を変えた。
浄化の力を得意とするルナモードと異なり、コロナモードは邪悪を粉砕するための姿であり、セシリアはまず、アグルダークを完膚なきまでに打ち倒し、弱らせたところで浄化を行うと決めたのだろう。
『待ってください・・・!僕も、戦います・・・!!』
『彩加・・・!』
よろめきながらも立ち上がったXは、コスモスと並び立つ。
まだ戦える、戦いたいと言う想いがその言葉からは滲んでいた。
『僕だって、彼女を救いたい・・・!目の前で助けられなかったから、今助けたいんです・・・!!』
その言葉には、誰にも負けない程に強い思いがあった。
救いたい、物理的にも精神的にも、目の前で苦しむその姿を見たくなかったのだ。
『・・・、分かりました、八幡さん達は下がりなさい、私達でこの件は預かりましょう。』
その覚悟と想いを受け、セシリアは鷹揚に頷きながらも八幡達3人にここから退くよう指示する。
どうやら、彩加に道を示すため、共に戦う事を選んだのだろう。
『・・・、分かりました、今の俺じゃあ、小町には向き合う事なんて出来ねぇ、だから、頼んだぜ、親友!』
今の自分では向き合うどころか、その心を開いてやる事は出来ない。
だから、戸塚彩加と言う親友の持つ、優しさと強さ、そして温かさに代わりを任せると決めたのだろう。
ギンガは光の粒子となって消え、ビクトリーとヒカリもまた、妨げとならぬ様に彼を追って消えた。
遺されたのは黒と赤と銀、三体のウルトラマンだけだった。
『行きますわよ、彩加さん、X!!』
『はい!!』
『勿論です!!』
セシリアの声に応じ、彩加とXも駆け出す。
この意味の無い悲しみを終わらせる、その意思の下に、ウルトラマンは戦う。
それが、自分達がすべき事だと信じて。
sideout
次回予告
圧倒的な力では閉ざされた心は開けない、優しさだけでは身体は救えるモノでは無い。
強さと優しさを持って、彼は少女を救う決意をする。
次回やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている
戸塚彩加は虹の輝きを掴む 中編
お楽しみに