やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている   作:ichika

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比企谷八幡は大和に教わる 後編

noside

 

「うっ・・・?あ、あれ・・・?」

 

ケルビムが吐いた炎に焼かれたと思い、身体を地に伏せていた留美は、灼熱が自分を襲わない事に気付いて顔を上げた。

 

一体何が起きたと言うのだ。

少しでも状況を把握しようと、見上げた先に、それは存在した。

 

「え・・・?」

 

青い光に包まれたそれは、金色に光る光の盾で火炎を防ぎ、まるで背後にいる彼女達を護ろうとするように立っていた。

 

「あれは・・・・、巨人・・・?ほ、本物・・・、なの・・・?」

 

その光が晴れると、そこには本物の光の巨人、ウルトラマンギンガの姿があった。

 

火炎を全て防いだギンガは、倒れるババルウ星人に歩み寄り、緑に輝くクリスタルから光を溢れさせ、ババルウ星人の身体を包む。

 

その温かく、優しい光は留美の下まで届き、包んで行く。

 

「この光は・・・。」

 

それはまるで、留美に何かを語りかけている様にも思えた。

 

数多の言葉の中からただ一つ、彼女に語りかける言葉。

それは只一言・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――諦めるな―――

 

 

 

 

その光からは、彼女の背を押す想いが伝わってくる。

まるで、導くように、護るように・・・。

 

「っ・・・!」

 

そこで吹っ切れたか、留美の瞳に、これまでなかった意志が宿る。

 

冷めた様な想いは何処にも無い、ただ、真っ直ぐに何かを見据えた様な熱だけがあった。

 

「皆、早くこっちに!!」

 

「えっ・・・?」

 

その言葉に、呆然自失から立ち直った隼人が彼女を注視する。

 

それにつられ、その場にいた面々もまた我に返る。

だが、それも完全では無いのだろう、困惑の表情が留美以外の者からは見て取れる。

 

「早く!死にたくないから走って!」

 

「あっ・・・!」

 

それに痺れを切らしたか、留美は一番近くにいた、自分をハブっていたメンバーの中心だった少女の手を引いて、元来た道を一目散に駆け出す。

 

その少女も驚くのも束の間、漸く意味が分かったか、唇を真一文字に結んで只管に走る。

最早、体裁や立場などどうでも良い、今は逃げる事が先と言う考えが身体を支配しているのだろう。

 

「ッ・・・!皆、早く逃げるぞ!!」

 

意味を理解した隼人は出来る限り声を張り上げ、自分の周りにいた者達の背を押して逃げるよう促した。

 

この集団で最も力を持っている人物からの声に、彼等も漸く意味を理解したのだろう、高校生組が小学生たちの手を引いて走り出す。

 

この場に第三者が居れば、虐げられていた者が虐げる立場にあった者を救うと言う、何とも言えない状況に苦笑するだろう事が容易に想像できるほど、滑稽にすら思えた。

 

だが、今はそんな事など関係なかった。

彼等にあったのは只一つの想いだけだった。

 

何としても逃げ延びる。

 

それ以外に、何も必要無かったのだ・・・。

 

sideout

 

noside

 

『ひ、比企谷君・・・。』

 

『大丈夫か大和?待たせちまったな!』

 

ババルウ星人にライブする大和を起こした八幡は、遅参を詫びながらもケルビムの動きを警戒し、睨みを効かせる。

 

これ以上傷付けさせないと言う、無言の圧力もあるのだろうか、ケルビムはその雰囲気に呑まれた様に僅かにたじろいだ。

 

それほどまでに、八幡の覇気がケルビムの本能に揺さぶりをかけているのだろう。

 

『ご、ゴメン・・・、俺、何にもッ・・・!』

 

そんな八幡に、大和は自分が何も出来ていない事を不甲斐無く思い、悔し気に呻いていた。

 

自分は所詮、紛い物でしかなかった。

喩え、ウルトラマンの姿を借りても、結局何も出来はしなかった。

 

それは、彼を悔しがらせるには十分すぎる結果でしかなかった。

 

『そんな事ねぇ!お前はウルトラマンじゃないのに、俺達と同じぐらい戦ってくれたじゃねぇか!』

 

だが、八幡にとって、そんな事など些末な事でしかなかった。

 

本気で、死に物狂いで目の前の悪意にぶつかって行く姿、それが見えただけで十分だった。

 

『それに、お前が戦っていなかったら、あいつ等はもうこの世にはいなかっただろうぜ、あいつ等はお前が護ったんだ!』

 

八幡の言葉に大和が目を向けると、隼人や留美たちが漸く近くから逃げていく姿が見て取れた。

 

目もくれず逃げ去るその姿は、誰も大きな怪我をした様子が無い事を如実に表していた。

 

『俺が、護った・・・。』

 

自分でもやれたことがある。

それは、これまで何も出来なかった彼にとって、何よりも誇らしく、何よりも心に滲み渡る喜びだった。

 

それが力になったか、大和は八幡の手を借りずに立ち、ケルビムと向かい合った。

 

『あぁ、胸張れよ!俺でもやった事ない位デケェ事やってるんだからな!!』

 

『比企谷君・・・!あ、ありがとう・・・!!』

 

その言葉が余程嬉しかったのか、大和は感極まったように涙を滲ませて頷いた。

 

人から、本当の意味で認められる事、称えられる事の悦びを、彼は今、自分を救ってくれた友の言葉で理解した。

 

八幡もまた、嘗ての、捻くれるだけで、その想いから逃げていた自分を捨て、前へ進む勇気と切っ掛けをくれた人物達と、隣にいる彼を重ねていた。

 

想いの強さで人は変われる。

それを、改めて信じてみる気になったのだろう。

 

だが、そんな彼等の想いに水を指す様に、ケルビムが吠え、火炎球を吐いてギンガたちを狙う。

 

『ギンガハイパーバリアッ!!』

 

大和を庇うように前に出た八幡は、右手から発した金色のバリアで、吐き出された火炎球を防ぐ。

 

だが、ケルビムも最後の手段と言わんばかりに、バリアを破ろうと次々に火炎を放つ。

 

『大和!これ使え!!』

 

しかし、八幡はそれを意に介す事無く、大和に向けて左手を掲げ、光と共に1体のスパークドールズを手渡す。

 

『これは、ウルトラマンの・・・?』

 

自分の手に収まったそのスパークドールズは、青い目をしたウルトラマンのスパークドールズは、モノ言わず、ただ、彼に彼自身の答えを求めている様でもあった。

 

『よぉし・・・!やってやるっ!!』

 

八幡の意図を理解した大和は、躊躇うことなくそのウルトラマンを読み込ませた。

 

『ウルトライブ!ウルトラマンパワード!!』

 

ババルウ星人の姿が一瞬消え、青い光に包まれたパワードが地に降り立つ。

 

『俺も行くぜ!』

 

『ギンガに力を!ギンガストリウム!!』

 

同じくギンガも力を解放し、ギンガストリウムとなってパワードと並び立つ。

 

『大和、行くぞ!!』

 

『あぁ!!』

 

ケルビムの吐く炎を素手で弾きつつ、二人は全く同じ動きを同時にとる。

 

『ウルトラマンパワードの力よ!!』

 

輝く両の腕を交差させて放つ、その必殺光線の名は・・・。

 

『『メガスペシウム光線ッ!!』』

 

二体のウルトラマンから放たれた二筋の強力な光線は、ケルビムが吐いた炎を消し飛ばし進み、その巨体へと直撃した。

 

あまりにも強力な破壊力に、ケルビムは断末の叫びをあげる間も無く爆散、跡形も無く消え去った。

 

『や、やった・・・!やったよ比企谷君!!俺やったよ・・・!』

 

『ナイスファイト、カッコ良かったぜ。』

 

抱き着かんばかりに喜ぶ大和に苦笑しながらも、八幡は彼を湛えた。

 

素直に喜びを表現できる大和を羨ましく思ったか、それとも、別の何かか・・・。

 

『とりあえず、人間の姿に戻るぞ、何時までもこんな姿でも難だからな。』

 

『OK、これ畳めばいいんだよね?』

 

八幡に促され、大和もまた変身を解除し向かい合う。

 

彩加のXはギンガが加勢に現れた時点で撤退しており、既に沙希や一夏達と合流しているであろうことが予想できた。

 

それはさて置き・・・。

 

「くはぁ~・・・!疲れたぁ・・・!比企谷君たちは何時もこんな大変な事やってるんだな・・・。」

 

緊張と疲労からか、大和は木にもたれ掛かりながらも、八幡や沙希の事を湛えるように呟いていた。

 

無理も無い。

初めてとはいえ、ここまでキツく、苦しい戦いだとは思っても見なかったのだ、感心してもおかしくは無かった。

 

「別に、特別な事じゃないさ、力があるからやってるだけさ、無けりゃアイツ等みたいに逃げてるって。」

 

だが、八幡にとってみれば、自分に与えられた役目としか思えないのも事実であった。

 

やってみれば、身体に降り掛かる痛み以外は大した事は無い。

それに加え、自分が変わるきっかけにもなったのだ、だからこそ、キツく、苦しい中でも輝く何かを見ていられると知っているから、戦う事に意義を見出せているのだ。

 

「そっか・・・。」

 

その事に、大和は羨ましそうに眼を細めた。

まるで、八幡の言葉の裏側にある想いに気付いて、自分もそうでありたいと願う様に。

 

「まぁ、兎に角助けてくれてありがとう、それだけは言わせてよ。」

 

なんとか体力が戻ったのか、大和は礼を言いつつも立ち上がり、キャンプ場の方へと歩く。

 

隼人たちに合流するつもりなのだろうが、今独りで出て行って何が出来る訳でも無いのも事実であった。

 

「礼を言うのは、俺の方だ・・・、学ばせてもらった、からな・・・。」

 

その背に向けて、八幡は小さく感謝の言葉を呟いた。

 

彼も、大和の姿勢を、紛い物であっても本物に並ぼうとする姿勢に感銘を受けていた。

 

欺瞞に塗れ、その中で生きていくだけで息が詰まりそうな関係を維持するだけ維持して、都合が悪くなれば手のひらを返す様に離れていく酷薄な人間よりも、よっぽど眩しく、たくましい在り方を見せてくれたのだ。

 

それは、八幡や沙希が持っている輝きとは異なった、それでいて羨望に値する輝きであった。

 

だから、八幡は紛い物から脱却しようとする大和を羨ましく思えた。

ある意味で、自分は未だに紛い物を避けているだけで抜け出そう解いていないと気付いていたから。

 

「ん?何か言った?」

 

聞き取れなかったのか、大和は首を傾げて八幡を見ていた。

 

「いや、何でもない、それより何もなかった風を演じてくれよ?」

 

その表情に、八幡は誤魔化す様に笑いながらも大和を追い抜く様にして歩き、まだ問題は終わってないと言わんばかりに大和の背を軽く叩く。

 

隼人や小学生たちへの誤魔化しを巧く考えてくれとでも言う様に、その言葉からは大和を試す様な色が窺う事が出来た。

 

「分かってるよ、サポートは任せた。」

 

それを気にした様子も無く、大和も八幡を追って小走りで駆け寄った。

 

こうして誰も知らない、その少年の勇敢な戦いの一幕は、月明かりの闇夜に紛れていくのであった・・・。

 

sideout

 

side沙希

 

怪獣、ケルビムが倒されてから十分後のキャンプ地では、何も無かったようにキャンプファイアの準備が行われていた。

 

彩加と大志は小学生に混じって手伝い始めてるけど、あたしはそれに混じる気にはなれなかった。

 

だってさ、教師たちによる各校の生徒達の安否確認が終わってすぐにこれだよ?

次来るかもしれないと言う危機感とかは無いんだろうか・・・?

 

だけど、仕方ないか、一つ終って立て続けに来るなんて考えられないから・・・。

 

因みに、その際織斑先生が小声で、『キャンプファイア・・・、トシ・・・、豚の丸焼き・・・。』とかボソッと言ってたのは何だったのか・・・?

 

まぁそれはどうでも良いか、どうせ過去に何かあったんだろうから気にしないでおこう。

 

そんな事を考えながらも、あたしは盛大に燃え上がるキャンプファイアを囲む集団の一角にいる、数名の少女たちに目を向けた。

 

遠目から見ていると、彼女達は何も話すことなく、ただ気まずそうに目線を合わそうとして逸らすと言う行為を繰り返していた。

 

結論から言えば、留美はケルビムの脅威から多くの同級生たちと高校生を救った形となっていた。

だから、虐めを行っていた少女たちは礼をいう事も、留美を悪くいう事も出来ず、どうすれば良いか分からないという状況になっていた。

 

この状況は、八幡や先生が当初予定していた、関係を崩すと言う事に偶然ながら当て嵌まっている。

いや、偶然という言葉は留美の決意にケチを着ける様なモノだ、訂正しよう、彼女の頑張りが今の状況を作ったんだ。

 

「ミッションコンプリート、だな、ヤプールにも今回ばかりは感謝しないとな。」

 

そんな事を考えていると、八幡があたしの隣に腰掛けてくる。

 

大和のフォローは終わったのか、彼とは別れているようだ。

 

「あっちは大丈夫なの?」

 

「あぁ、腹壊してずっとトイレに居たって事にしたみたいだから。」

 

あんなに頑張ったのに言い訳は普通というか、悲しくなるぐらい小さいね・・・。

いや、それぐらいの方が常識的だよね・・・?

 

「一応先生が、宇宙人が化けてたって事を仄めかしてたなぁ、あの人が言えばウソでも真実味が一気に増すからスゲェよな。」

 

それについては完全に同意だ。

あの人が醸し出す雰囲気に何度丸め込まれたか分かったもんじゃない。

 

それは置いといて・・・

 

「でも、あれで良かったのかな・・・?」

 

今の状況が悪いと言ってる訳じゃ無い。

留美からの依頼は、虐めを失くして安寧に過ごせることだったから、今の状況はそれに近からず遠からずだと言える。

 

それが最適とは思えても、正しいとは思えなかった。

だから、今更になってこれで良いのかなんて迷いが・・・。

 

「良いんじゃないか?今はこれで。」

 

「え・・・?」

 

八幡から返って来た思いも寄らない返答に、あたしは思わず声を上げてしまう。

 

欺瞞を受け入れない八幡らしくも無い、歪さを認める様な事を言うなんてね・・・?

 

「大和の姿から教わったんだ、偽物でも、紛い物でも、本物になろうとしてる奴等もいるって事をさ。」

 

「それは・・・。」

 

言いたい事は分かる。

欺瞞を抱えても、それ以上の存在になろうと歩き続けている奴がいると。

 

「だから、本物だとか偽物だとかで分けなくても、本物になろうとするだけで、それはもう本物の気持ちを持ってるって事なんじゃないかってさ・・・。」

 

なるほどね。

本物へ変わろうとする事も、また本物であると感じたんだろうね・・・。

 

あたしにも分かる気がする。

今が本物だとすれば、本当に分かり合うまでの期間も、本物になろうとした本物って事か・・・。

 

「そっか、そうだよね・・・。」

 

「だから、俺達は信じようぜ、あいつ等が掴む、本物の未来ってヤツをさ?」

 

八幡の言葉に、あたしは頷いて少女たちをもう一度だけ見る。

 

これから先、もう会う事は無いかもしれない。

だけど、この夜の経験が、彼女達に良い未来をしてくれると祈って、あたしは小さくエールを送った。

 

「それは良い、だが、少し良くない状況かもしれない。」

 

「「うわっ・・・!?」」

 

何時来たんですか先生・・・!?

全く気付かなかった・・・!

 

それより、良くない状況ってどういう事・・・?

この問題は解決したはずじゃあ・・・?

 

「ケルビムが呼び出された時、俺達はヤプールの気配を感じなかった、なのに奴は落ちてきた。」

 

先生の言葉には、何処か息苦しくなるような緊迫感があった。

その雰囲気は、今まで見て来たモノとは全く異なっていて、あたしと八幡は息を呑んでその言葉の続きを待った。

 

「ケルビムはヤプールが呼び出した存在じゃない、あれはもっと別の・・・、闇の支配者が呼び出した怪獣かもしれん。」

 

「「ッ・・・!!」」

 

言葉を濁そうとしたけど、隠し事はしたくなかったか、先生はあたし達に事の重大さを話してくれた。

 

闇の支配者って・・・、前に聞いた、先生達が力の消失と引き換えに封印したって言う・・・?

 

そうか・・・!アストレイの皆さんに力が戻ったっていう事は、闇の力もまた目覚めている討て事なのか・・・!

 

「気を付けてくれ、奴の力は強大だ、封印の力はまだ戻っていないみたいだが、呼び出せるようになったとなると話は変わってくる、君達の力の強化も急がねばならんな・・・。」

 

あたし達に警告を残し、先生はコートニーさん達の方へと歩いて行く。

 

だけど、それよりも何よりも、あたし達はその言葉が頭から離れず、その場から動く事すら出来なかった。

 

これから、あたし達はどうなるんだろう・・・?

 

そんな不安が拭えないまま、燃え盛る炎と共に夜は更けていく。

 

あたし達を見る、様々な想いが乗った視線に気付く事も出来ずに・・・。

 

sideout

 




次回予告

千葉村でのヤマを終え、八幡達の修行は佳境へと向かっていく。
闇に対するため、光はその力を着実に増していた。

次回やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている

比企谷八幡は力を着ける

お楽しみに

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