やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている 作:ichika
なんかもう、ichika史上稀にみる位の忙しさでした・・・。
それは兎も角、遅くなりましたが今年もよろしくお願いいたします。
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「あ、ケルビムだ。」
割れた空から落ちてきた怪獣を見て、開口一番にそう呟いたのは誰だったか。
異常事態にも関わらず、怪獣が落ちてきたにもかかわらず、その言葉は何処までも暢気な物だった。
その光景を見て、尚且つそんな暢気に返せるのは、余程の剛の者しかいない。
そして、その剛の者、それは、歴戦のウルトラマンたるアストレイだけだった。
そう、先程の呟きは、そのアストレイメンバーの内、キャンプ場に向かわなかった4人の中の一人、シャルロットが漏らした、『アイツかぁ・・・。』的な感想だったのだ。
「久し振りに見たな、というより、玲奈が倒して以来じゃないか?」
「えぇー・・・、何十年前よそれ・・・、憶えちゃいないわ。」
その呟きに、食事の準備を行っていた宗吾が懐かしむ様な呟きを零していた
まるで、自分達の軌跡の中にいるモノと、再び合間見えるなど、滅多に無いのだからと言わんばかりの想いが籠められているようにも取れた。
大昔の話をしないでくれと言わんばかりにげんなりとした様な表情を見せていた。
それだけ、自分達が人間としての理から外れてしまっていると、再認識してしまう事に嫌気が差しているのだろう。
「確かその時は、まだ30年目位でしたか?早いものですわね。」
「サバ読んでんじゃないわよ、桁違いよ桁違い。」
のほほんと話すセシリアの言葉に突っ込み、否、訂正を入れるように玲奈が返す。
30年目という言葉の意味は推して測るべしだが、桁が違うとは一体どういう事なのだろうか。
常人ならば、そんな疑問を抱かずにはいられないだろうが、生憎この場にはいなかった。
今、この場にいるのは超人しかいないのだから。
「まぁ、沙希ちゃん達に任せときゃ良いでしょ、そのための修行なんだし。」
しかし、その事態にも自分達が関わるべきでないと言う様に、玲奈は大きく欠伸をして、ケルビムの少し手前を指差した。
そのタイミングで、光の柱と共にウルトラマンギンガがその姿を現した。
「ほらね・・・、って、んんっ・・・?」
自分達が出る幕でもないと、ステンレス製のマグカップに入った紅茶に口を付けようとした玲奈だったが、何かがおかしい事に気付いてギンガを二度見する。
「あのギンガ、八幡君じゃないな・・・、誰だ・・・?」
その違和感に気付いたのか、宗吾が変身者の正体を探るようにギンガを注視する。
宗吾を含め、アストレイのメンバーは皆、一度姿を見た相手ならば、顔を隠そうが変えようが、立ち姿と纏う雰囲気を見るだけでその人物を特定できるほどの領域にいる。
それは、永きに渡って戦い続けてきた彼等が得た、極みの一つでもあったが、今は関係の無い事だった。
「八幡君でも沙希ちゃんでも、彩加君でも無ければ一夏でも無い、でも、会った事あるわね、あの感じは。」
「さっき会ったばっかりな気もするが・・・、まさか、な・・・。」
その相手に大まかな目星を付けた玲奈と宗吾は、何処か不思議そうに呟いていた。
自分達の想像通りの相手がこれをやっているとするなら、状況がどうなっているか分からないにしろ、その思惑が気になるのだろう。
「ですが、今は様子見と行きましょう、この光の成長をあるがままに見届けるのも、私達の役目ですから。」
だからこそ、自分達は手を出さず、ギリギリまで様子を見守ると決めた様に、セシリアは微笑みと共にギンガへと目を向けた。
干渉しすぎる事が、正しい事では無いと知っているからこそ、見守ってみたくなったのだろう。
光を持たぬ、光になろうとする者の心意気というものを・・・。
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「光の、巨人・・・?」
「まさか、大和が・・・?」
その言葉を漏らしたのは誰だったか、誰もが皆目の前で起きた事が信じられずにいた。
これまで目の前にいた人間が消えたかと思えば、そこに現れたのが、千葉に降り立つ赤い巨人、驚かない方が無理があった。
だが、故に彼らは気付かないであろう、それが、紛い物か本物かどうかなど、考える事もしないだろう。
『よっし・・・、姿は完璧だよな・・・?』
それに変身した当の大和本人は、自分が変身した姿を確かめるように腕を振ったりしていた。
彼が何故ギンガと同じ姿になれたのか、それには理由があったのだ。
彼が一夏から渡されたダミースパークと、ババルウ星人のスパークドールズの力によるものだ。
ババルウ星人は自らの姿を何者にでも変えられる力を持っている。
それが例えウルトラマンであろうとも、姿を模す程度ならば造作も無かった。
元のババルウ星人はその力を悪用し、ウルトラマンを悪意に突き落とす事を得意としていた。
だが、今は違った。
大和の心は、それを正しい事の為に使おうとしていた。
『みんなは早く逃げろ!コイツは俺が止める!』
足元にいる隼人たちに向けて逃げるように促しながらも、彼は本物のギンガが普段とっている構えを見様見真似で取る。
『よぉぉし!行くぞぉぉ!!』
雄叫びを上げながらも、彼は怪獣、ケルビムへ向かって行く。
助走をつけた勢いそのままに、彼は殴打をケルビムの腹に叩き込む。
だが、ケルビムはびくともしないどころか、不気味な叫びと共に、右腕の巨大な爪で反撃、大和の胸を薙いだ。
『ぐぁぁぁっ・・・!!』
経験した事の無い痛みに、大和は絶叫しながらも大きく吹き飛ばされ、地に倒れ込んで呻いた。
無理も無い、本来ならば彼は彼の足元にいる人間たちと変わらぬ、力を持たない人間であるのだ、いきなり戦いに放り込まれてちゃんと戦えと言う方が無茶でしかない。
『くっ・・!それでもっ・・・!』
だが、大和は屈しなかった。
激痛に震える全身に鞭打ちながらも、しっかりと地を踏みしめて立ち上がった。
『今は・・・、今は俺がウルトラマンなんだッ!!』
八幡達は離れていてすぐには駆けつけられないだろう。
だから、紛いものでも力を持った自分が少しでも時間を稼ぐ。
たとえ僅かでさえも時間を稼げたならば、必ず本物が現れると信じて。
『おぉぉっ!!』
拳を振り上げ、彼は果敢に立ち向かっていく。
逃げない事、向き合う事。
八幡から教わったその全てで、彼は目の前の悪意に立ち向かう。
それが、彼が掴んだ、本物なのだ。
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「あれは、怪獣・・・!?」
小学生と葉山のグループに見付からないように別ルートを通っていた時だった、突如として空が割れ、血の池の様な空間からいかにもワルそうな怪獣が墜ちて来た。
あの現象から推察するに、ヤプールが呼び寄せた事に間違いはないだろう。
本当に悪質な奴だ、千葉以外の場所にまで怪獣呼び寄せるなんて・・・!
「マズイ・・・!これじゃあ計画が・・・!」
だが、それは些末な事だ、気付かれない内に倒してしまえば済む事だからな。
問題はソコじゃない、今、あの近くには恐らく大和たちがいる・・・!
暴れられたら、下にいる大和たちは一貫の終わりだ・・・!
「くっ・・・!待ってろ、今っ・・・!」
折角分かり合えたって言うのに、こんな所でおさらばなんて冗談じゃない。
友達かどうかはまだ分からないけど、少しでも近い位置にいるなら護ってやらねぇと!!
そう思いながらも、俺はギンガスパークを掲げ、何時ものようにギンガになろうとした。
その時だった。
光の柱と共に、左腕を天高く突き上げてウルトラマンギンガがその姿を現した。
「「「はっ・・・!?」」」
全く意味が分からないその光景に、驚くよりも先に気の抜けた様な声しか出て来なかった。
そんな俺達の目の前で、ギンガは大きく構え、怪獣に向かって行く。
もっとも、その動きは矢鱈と大振りで、子供が駄々をこねているような感じにも見受けられた。
「ギンガスパークは、ある。」
「ギンガのスパークドールズも、あるよね?」
周りから見ればなんと間の抜けた事か、俺と彩加はギンガスパークとギンガのスパークドールズを指差し確認する。
勿論、今の今まで変身しようとしていたのだから、俺の手の内にあって当然なんだけどな。
「と言う事は・・・、あれは、まさか・・・!?」
俺以外にギンガの姿になれる奴が、この近くにもう一人だけいた。
俺が、何とでも成れるようにと渡した、ババルウ星人のスパークドールズとダミースパークを持つ、ソイツが・・・!
「大和の奴・・・!なんて無茶を・・・!!」
その姿を真似したって、所詮は紛い物でしかない姿だ。
大和の力がどんなものかは知らないが、怪獣に勝てる筈も無い・・・!
「今、助けに・・・!」
「待ちたまえ八幡君、君は行くな。」
ウルトライブしようとする俺の腕を掴む腕があった。
何時の間に現れたのだろうか、先生が行くなと言う様に首を横に振った。
「彩加君、君一人で行ってくれ、ウルトラマンギンガを助けにな。」
「えっ・・・?」
「せ、先生・・・?」
先生の言葉に戸惑ったのは、俺だけでは無かった。
沙希も彩加も、その真意を測れずにいた。
先生だって分かってる筈じゃないのか?
計画はおじゃん、今にも潰されそうになってる奴がいる、やられそうになっている奴がいる。
それを黙ってみている事が正しいって言うのか!?
「大和君は今、君達と同じ様に戦おうとしている、喩え力が紛い物であっても、君達にも負けない心で戦おうとしている、その覚悟に水を指すつもりか?」
「「っ・・・!」」
その言葉に、俺達は何も言えなくなってしまう。
覚悟、たった一言である筈のその言葉は、何よりも重く、何よりも俺の心に響いた。
大和が、自分が戦わなくちゃならないと感じたのなら、俺はそれを尊重しなければならない。
それが、本物ってやつだと思うから。
「分かりました、行くよX!!」
『待ちわびたぞ彩加!いざ尋常にユナイト!!』
先生の指示通り、彩加はXの光に包まれてユナイトし、その巨体へと向かって行く。
彩加だけでカバーできるのだろうか?
やっぱり俺も・・・。
「危なくなったら助けてやれ、それが、本当の仲間ってもんだからな。」
俺の心情を見透かしたように、先生は諌めるように笑った。
俺の事、本当によく分かっているよ、この先生は。
「勿論です、仲間、なんですから。」
だから、俺も今は耐える時だ。
手を出すだけが本物じゃないんだ。
信じよう、俺の事を想ってくれた、大和って言う男を。
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『ぐぁぁぁっ・・・!!』
ケルビムに独り果敢に挑み、何度も巨大な爪にやられた大和は、大きなダメージに倒れ込み、身体を捩った。
まだ戦闘を初めて2分と経っていない状況だが、彼は最早、戦える状態では無かった。
「き、巨人が勝てないなんて・・・!」
「ど、どうすんだべ・・・!?」
彼が本物であると信じて疑わない優美子や戸部は、あまりにも強大な怪獣の存在に恐怖した。
もし、巨人が倒されれば次は自分達があの巨大な爪に引き裂かれる。
理屈では無く、本能からくる恐怖心がそれを悟らせていた。
逃げなければと、頭では理解している。
だが、恐怖で足がすくみ、思う様に動いてくれないのだ。
『くっそぉぉ・・・!お、俺は、まだっ・・・!』
負けられない、ただそれだけの想いで立ち上がった大和もまた、最早戦える状態では無かった。
それでも逃げないのは、一重に信じてくれた者達と、自分の後ろにいる者達の為に戦うと決めたから。
そんな覚悟を嗤う様に、ケルビムは不気味な叫びと共に彼に迫る。
トドメを刺してやる、その一動作からは禍々しいまでの気が伝わって来た。
間合いがどんどん縮まり、ケルビムはその爪を突き立てようと大きく振りかぶった。
その時だった。
『エェェックス!クロスキィィィック!!』
光の流星となって現れたXが、カウンター気味にケルビムの頭部を蹴り飛ばした。
加速による勢いが着いた蹴りの威力は尋常では無く、ケルビムは大きく仰け反って吹っ飛んだ。
「ま、また巨人が・・・!」
「た、助けに来てくれた・・・?」
その光景は、下にいる者達にとっては救いの神のようにも映るだろう。
当の本人達の意思が何処にあるかも知らず、自分達の都合の良い様に受け取るのもまた、人間にとっての本能の一つなのかもしれない。
危機的状況ならば、尚更だろう。
『大和君、大丈夫!?』
『怪我はないか!?』
『と、戸塚君・・・。』
自身の前に降り立った巨人、ウルトラマンXに差し出された手を取り、残った力を振り絞って立ち上がった。
だが、その心情は決して穏やかな物では無い。
自分で何とかしようと動いたが、結局は誰かに助けられてしまう。
以前と何も変わらない、弱いままではないかと・・・。
『遅れてごめんね!でも、これからは一緒に戦うよ、今は、君がウルトラマンギンガなんだから!』
『ッ・・・!!』
だが、彩加の言葉は彼をなじる事も、責める事も無かった。
ただ、加勢が遅れた事を詫び、ただ共に戦う事を約束するように強く声を掛けてくる。
それは、気の置けない友人に向ける、エールにも等しいモノだった。
『行くよ、ウルトラマンギンガ!』
『応っ!!俺だって、やってやるんだッ!!』
その意気を受け取った大和は、ウルトラマンギンガとして、もう一度戦う事に決意を燃やす。
今度こそ間違えない、今こそあの時の借りを返す時だと。
『行くよ戸塚君!!』
『勿論だよ!』
二体のウルトラマンは構えを取り、悪魔の如き怪獣へと向かって行く。戦い慣れている彩加がケルビムの腕を抑え込み、その隙に大和が全体重を乗せたタックルを喰らわせる。
さっきよりは効いているのだろうか、ケルビムは大きく後ろへ仰け反り、そこへXが追撃として後ろ回し蹴りを叩き込む。
連撃には耐えられなかったか、ケルビムはその巨体を地に倒す。
だが、それでも足掻くように口から火炎球を発射、タックルの後で体勢が崩れていたギンガの胸部に突き刺さった。
『ぐぁぁぁぁっ・・・!!』
『大和君!!』
身体を焼く炎に悶絶し、大和の意識が一瞬飛ぶ。
カバーに入れなかった彩加が叫ぶが時すでに遅し、ギンガの輪郭が崩れ、本来の姿へ、ババルウ星人の姿へと戻った。
「巨人が、変わった・・・?」
「本物じゃ、なかったのか・・・!?」
その姿が変わった事に、真下にいた者達は愕然とした様な表情を浮かべた。
本物だと信じていたモノが偽物だった。
それを知った彼等の心境は、裏切りに合ったにも等しいものだった。
だが、今は非常事態だと言う事も衝撃で消し飛んでいた。
その裏切りに打ちひしがれる彼等に、その魔の手は迫って行く。
『大和君!皆!早く逃げて・・・!!』
ケルビムが起きないよう、マウントポジションで動きを抑えていた彩加が逃げるように呼びかける。
だが、一瞬でも気を外した事があだとなった。
ケルビムの放った最大火球がXの胸部を直撃、大きく吹き飛ばしてしまう。
『うわぁぁぁっ・・・!!』
防御もままならなかったXは大きく吹き飛ばされ、大和とも、隼人たちとも違う方向へと倒れ込む。
起き上がったケルビムは追撃と言わんばかりにXに二発火球を叩き込み、動きを封じた事を確認し、ケルビムはゆっくりと隼人たちの方へと向かって行く。
「ッ・・・!」
「こ、こっちに来る・・・!?」
漸く気付き、慌てて逃げようと動くが、
その暴力は何の力も持たない人間に向けられつつあった。
その彼等に向けて、ケルビムは火球を放とうとチャージ体勢に入った。
『み、みんな・・・!危ない』
発射される直前、大和は痛みに軋む身体を無理矢理動かし、ケルビムと隼人達の間に割り込んだ。
『何があっても、護るっ・・・!』
腕を広げて、背後にいる者達を護ろうとした。
傷付けさせはしない、その姿からは覚悟が見て取れた。
だが、ケルビムにはそんなものなど関係ない。
その想いを嘲笑うように、炎は突き進み、遂には大和の姿を包んだ。
『や、大和君ーーーっ・・・!!』
彩加の叫びも、炎に飲まれてかき消されていくのであった・・・。
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次回予告
窮地に立たされた彩加と大和、絶体絶命に追いやられた時、光は輝くのだ。
次回、やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている
比企谷八幡は大和に教わる 後編
お楽しみに