やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている   作:ichika

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川崎沙希はその少女を案ずる

side沙希

 

大和に案内されて森を進む事十分ほどで、あたし達は千葉村の中心部に辿り着いた。

 

そこは宿泊施設の様なコテージも、飯盒用の竈も用意されている本格的な場所で、あたし達がいた所とは大違いな雰囲気だった。

まぁ、こっちにはシャワーが無いって言うのが少しネックかもしれないね。

 

因みに、あたし達が利用する方には、どこから用意したのか、アストレイの皆さんが簡易シャワー室を用意してくれたんだよね。

 

二日ぐらいなら確かにシャワー浴びずに過ごせるだろうけど、流石に1週間も特訓続きの中で浴びれないのはキツイ。

 

八幡や彩加だっているのに、女としてそこは身なりに気を遣いたくもなるさ。

 

「あ、皆ただいま~。」

 

そんな事を頭の片隅で考えていた時だった、大和が元いたグループを見付けて声を掛ける。

 

コイツ・・・、あたし達が苦手な奴に声掛けに行くんだから・・・。

 

まぁ、仕方ない。

アイツにとっては話しかけに行くのが自然なんだし。

 

「大和・・・!大丈夫だったのか!?」

 

「何ともないさ!心配かけて悪いな。」

 

「心配したべー!何ともなくて良かったわ~!」

 

大和を見付けたいけ好かないヤツ、葉山が茶髪ロン毛のチャラ男と一緒にこっちに走ってくる。

 

あぁ、逃げたい。

逃げたいけどここで立ち去ったら不自然すぎる。

 

「騒がしいな、怪獣出た訳でも無いんだからはしゃぐなよ。」

 

そんな彼等の様子に、八幡も何処か疲れた様にタメ息を吐いた。

 

分かるわ、その気持ち。

先生と八幡の、恩を売っておこうって言う魂胆さえなきゃ、こんな所に来る義理も無いってもんだ。

 

「ヒキタニ君に川崎さん・・・、戸塚君まで、どうして・・・?」

 

あたし達三人に漸く気付いた葉山が、驚いた様に声を掛けてくる。

 

「科特部の初仕事に来ただけだ、それと、ヒキタニじゃなくて比企谷だ。」

 

「す、すまない・・・!」

 

八幡の苛立ちを受けて、葉山の奴は少し引いた様に詫びた。

そりゃ、迫力が違うよね、死地を切り抜けてきたあたし達と一般人じゃ、凄まれただけで怯むのも無理はない。

 

「まぁいい、取り敢えず明日まで厄介になる、後は勝手にしな。」

 

「厄介って・・・、君達もこのキャンプに参加すると言うのかい?」

 

「まぁ、正式な参加じゃないから内申点にはならないけどね。」

 

興味が無かったから深くは聞いてなかったけど、このキャンプには内申点の加点が着くらしい。

でもまぁ、もらえても雀の涙程度だし、面倒事に関わる位なら学力の方を底上げすればいいだけの話だしね。

 

「ま、あの女教師が土下座までして頼んで来たんだ、面白いよな、普段は俺を目の仇にしているのにさぁ?」

 

「ッ・・・。」

 

あたし達の様子を窺っていた先生が、平塚先生を嘲笑うように言葉を紡ぐ。

いや、事実嘲笑ってるんだろうね。

 

普段いがみ合っているのに、いざという時に自分に頭を下げなくちゃいけない相手を見ると、そりゃもう気分爽快だろうね。

 

その気持ちはよく分かる。

 

それはさて置き・・・。

 

「まぁ、たかがキャンプだ、俺達は俺達で参加させてもらう、何かあったら手伝いはするさ。」

 

「もうすぐお昼だし、ご飯でも作ろうよ、向こうにいる大志君達には連絡してるし、材料位なら持って来てくれるよ。」

 

八幡と彩加はもはや関わる気も無いのか、さっさと窯のある方へ行ってしまう。

 

それにならって、あたしと先生もその方向へと歩く。

 

葉山たちはまだ何か言いたそうだったけど、取り合う必要なんて無い。

やる事は大和に大体聞いておいたし、取り立ててどうこう確認しなきゃいけない事は無い。

 

食材が届くまでは取り敢えず、火でも起こして待ってようか・・・?

 

そう思ってた時だった、不意に八幡と彩加が立ち止まり、何かを見付けた様に難しい顔をした。

 

まさか、奉仕部の二人でも見付けたのか・・・?

だとすれば、面倒な事この上ないね。

 

「八幡、彩加、どうしたの?」

 

とはいえ確定ではないから、念のために聞いてみる。

間違った判断で動くとロクな事にならないからね。

 

「沙希、あの黒髪の女の子、見てみろよ。」

 

「え・・・?」

 

八幡が顎で指す場所を見ると、そこには数名の小学生たち、特に女子のグループがワイワイと談笑しながら調理をしている様子が窺えた。

 

それだけを見るなら、別に特筆するようなことはない筈だ。

それを分かっているから、あたしも気付けた。

 

その光景の歪さに・・・。

 

そう、独りの少女が、まるで除け者にされるように、数メートル離れた流し場で米を一人で砥いでいた。

 

元ボッチのあたしと八幡が、今の彼女の置かれている状況を見抜けない訳が無かった。

 

「アイツ、間違いなく虐めに遭ってるな、それもかなり陰湿な奴に。」

 

八幡の目が細められる先で、その少女はグループの方へ洗い終わった米を持って行く。

 

だけど、他の少女たちは彼女に構う事なく、米が入った器だけを受け取るだけ受け取って後は無視していた。

 

その当人が離れるや否や、彼女の方を指しながらも小声でひそひそ話をしていた。

 

その調子からももう分かる、陰湿にハブってるんだろうね。

 

「もう、気付いたのか・・・?」

 

何時の間に来たのか、葉山は渋面を作ってあたし達に話しかけてくる。

 

どうやら、コイツも気付いてるんだろうね。

コイツがどれほどの奴かは知ったこっちゃないけど、それでもこの状況に気付いただけ良しとしよう。

他の連中を軽んじる訳じゃないけど、たった一日二日程度しか関わらない相手の置かれている状況に気付ける奴がどれほどいるだろうか?

 

ま、そういう周りの状況を見る目だけは評価しようじゃないか。

それがあたし達のマイナスにならない限りは・・・。

 

「あんだけ歪んでるのに、見抜けない方がどうかしてらぁ。」

 

八幡、流石にそれは注文が高すぎる様な気がするよ。

 

まぁ、分からなくはない。

八幡やあたしのような元ボッチや、周りのアレコレを受けて過ごしてる奴からしてみれば、流れを見ていないと周囲から浮いて望まない厄介を抱え込む事になりかねない。

 

だから、ボッチは何よりも周囲を見て、浮かないように細心の注意を払っている。

それをしない奴は只のバカか、それか変わり者としか言いようがない。

 

「だが、今は何もすんな、お前の事だ、どうせハブるのをやめろってあのガキ共に言うつもりだろうが。」

 

八幡が何もするなと釘を刺すと、葉山は僅かにたじろぐ。

そこまで威圧してない筈だから、恐らくは考えを見透かされた事を驚いてるんだろうね。

 

「そ、そのつもりだったけど、何故だい・・・?」

 

思った通りの答えが返ってくるとともに、奴は分からないと言う様に尋ねてくる。

 

前言撤回。

コイツは只の能天気だ、関わるだけ面倒って事が分かるよ。

 

「お前、本当に学年2位の頭持ってんのかよ、頭悪いな。」

 

「なにっ・・・!?」

 

八幡、それは言い過ぎなんじゃないかな?

まぁ、察していない葉山には悪いけど、同意する以外ないね。

 

「考えてみろ、お前が言ってその場は仲良く振舞えるさ、特に小学生なんてそんなもんだよ。」

 

「その場って・・・、まさか・・。」

 

「自分達より強い立場の歳上から言われりゃ黙りはするさ、だが、その目上が居なくなった日常に戻ってみろ、あの子はどうなる?」

 

「ッ・・・!」

 

考えるまでも無い。

年上に苛められてると告げ口した事が明るみになって、更に後ろ盾も何も無くなる。

 

単純に考えて、更にいじめが激化するのは火を見るよりも明らかだ。

 

そこから先に責任を持てるのならば止めはしないけど、所詮は今日明日までの付き合いだ、そんな事に責任を持てよう筈も無い。

 

「皆仲良くが持論みたいだけど、やめといた方が良い、人間同士合う合わないはあるんだ。」

 

「わ、分かった・・・、じゃあ、俺は何をすればいい・・・?」

 

驚いたね、散々やめとけと言われて、それでも何かしようとするんだ。

 

諦めが悪いのか、それとも・・・。

 

まぁ、答えは決まっているけどね。

 

「何もするな、下手を起こせば立場ないぞ。」

 

そう、如何にいじめが起こっているとはいえ、部外者且つ高校生のあたし達が下手にいじめを止めようと躍起になって、いじめの下手人に当たると、それだけで高校生による小学生に対する虐めと取られしまう事は想像に難くない。

 

そうなれば、学校側からそれ相応の処分が待っているだろう事も解る。

だから、当事者達に何も出来ないと言うのが歯痒いトコロだけど、何もしないのが最適解である事には変わりない。

 

「それは・・・、分かった・・・。」

 

それを理解出来ない程葉山も愚鈍では無いみたいだ。

良い事だ、大人しくしておいてくれればこっちはこっちでやり易いからね。

 

「それで良い、沙希、頼む。」

 

その言葉を受けて、八幡はあたしに頼みごとをしてきた。

自分が行くより、あたしが行く方が良いと判断したからだろうか・・・?

 

「分かった、ここで待っててよ。」

 

だけどそれはあたしも同感だ。

という事で、あたしは調理場から離れていくその少女を追った。

 

捨て置けない、それだけで動けるようになれるなんてね・・・。

 

sideout

 

noside

 

「ちょっといい?」

 

「・・・?」

 

黒髪の少女に追い付いた沙希は、彼女にしか聞こえない声色で話しかけた。

 

それに気付き、少女は沙希に向き直った。

 

「貴女は・・・?総武の人達の中には居なかったような・・・?」

 

だが、少女の表情に浮かんでいたのは困惑以外の何物でもなかった。

どうやら、集合時のオリエンテーションの時に、沙希がいなかった事に気付いていたのだろう。

 

「へぇ、アンタ、良く見てるじゃない、確かにその時、あたしはいなかったよ、つい10分前にここに来たばかりだよ。」

 

小学生にしては良くやる、そんな色が沙希の表情からは見受けられた。

 

思ったより、期待しても良いかもしれない。

そんな打算的な想いが一瞬浮かぶが、そんな事をするために近付いた訳じゃ無いと頭を振った。

 

「あたしは川崎沙希、総武高校2年で科学特捜部副部長だよ、アンタは?」

 

「鶴見留美・・・、科学特捜部って、何・・・?」

 

名乗らないのもおかしいと思ったか、沙希と少女、留美は互いに名を名乗っていた。

 

留美は聞き覚えのない部の名を疑問に思ったか、一体何の部活か尋ねた。

 

彼女の反応は尤もであった。

文科系の部活とは言え、全く聞かない名なのだ、確かめたくもなるのだろう。

 

「最近、化け物とかよく出るでしょ?あれの特徴を調べて、同じ様な怪獣が現れた時の避難に有効利用してもらうための記事でも書く部だよ。」

 

「ピンポイント過ぎる様な・・・、高校生ってそんな事もするの・・・?」

 

部の目的が怪獣と言うポイントに集中しすぎているからか、それともやる事が狭すぎるからかは分からないが、留美は沙希の説明に僅かに戸惑った様な表情を見せた。

 

いや、事実困っているのだろう。

何せ、それだけ聞けば胡散臭さが尋常ではないのだから・・・。

 

「まぁ、そんな話するために来たんじゃないんだ、アンタの今の状況について聞きに来た。」

 

「ッ・・・。」

 

だが、そんな事をしていても話が進まないと言わんばかりに切り出された言葉に、留美は表情を硬くする。

 

何かするつもりか、そんな警戒の色が見て取れる。

 

「アンタが何もしてほしくないなら何もしないよ、そこまで面倒見れるほどあたし達も御人好しじゃないからね。」

 

「何が言いたいの・・・?」

 

沙希の意味深な言葉に痺れを切らしたか、彼女は苛立ちを籠めた声で返した。

 

「別に大したことを聞いてる訳じゃ無いよ、今の状況から逃げたいか逃げたくないか、それを聞いときたいの。」

 

「な、なんで・・・。」

 

何故そんな事を聞く。

その表情は警戒から怯えへと変わった。

 

それを見た沙希は確信してしまった。

彼女が置かれている状況が、思ったより深刻だと言う事に。

 

「あの輪の中に加わりたいならそれでもいいけど、アンタが求めるのはそうじゃないみたいだね、ならそのためにどうにかするのが、センパイとしての役目ってもんだよ。」

 

「先輩って・・・。」

 

「アタシも、ちょっと前までボッチだったから、まぁ、今のアンタと一緒ってヤツ?」

 

自分の置かれている状態を見抜いた上に、自身の昏い過去さえあっさりと、まるで何ともない風に語ってみせる沙希の姿に、留美は目を丸くした。

 

なぜ、こうも平然としていられるのか。

なぜこうも、笑っていられるのか、その答えが知りたかった。

 

「今が楽しくて笑えるなら、それぐらい充実してるなら、ボッチだった頃も笑えるさ、でも、アンタは今、笑えるかい?」

 

真っ直ぐ見据える沙希の目に、留美は静かに首を横に振った。

 

笑える訳がない。

今、自分は虐めに遭って、誰とも関われない状態だ。

 

それをどうして笑えばいいと言うのだ。

 

「そっか、で、どうしたい?あのグループと笑って話したいかい?」

 

「それは、いや・・・、だって、こんな、子供みたいな真似する人たちの近くなんて、楽しくない・・・。」

 

「ふぅん・・・。」

 

子供っぽい。

 

その言葉に、沙希はいよいよかつての自分と同じ様な境遇かとアタリを付けた。

 

周りの幼稚な乗りに付いて行けず、それで独りになった。

まるで、嘗ての自分ではないか。

 

まるで過去の自分を鏡で見ている様な気分になり、沙希は苦笑を禁じ得なかった。

 

「じゃあ、静かに、独りで居れるようにしてあげようか?あんな中途半端な無視や、陰口が無くなるようにね?」

 

だから見捨てられなかった。

この状況を軽く出来る力を、もしかしたら自分は持っているかもしれない。

 

いや、自分一人でできなくとも、八幡や彩加も力を貸してくれる事は確実だった。

 

彼等もまた、卑劣な行為には怒り心頭だと、先程までの会話で気付いていたのだから。

 

「そんな事、出来るの・・・?」

 

不安げに尋ねる少女の頭を撫でつつ、沙希は強く頷く。

負けるなと、希望を持てと言う様に。

 

「アンタ次第だ、アンタが望むなら力を貸そうじゃないか。」

 

だが、結局は留美が望むか望まないか、踏み出すか踏み出さないかの選択に委ねる事にしたのだ。

 

ヒトから押し付けられた結果は、何も生まない。

ボッチの道を歩むからには、信じられる相手が出てくるまでは独りで歩まねばならないのだから。

 

「ッ・・・!お願い・・・!私を・・・、ここから助けてッ・・・!」

 

その想いを受けた留美は涙を零し、沙希の身体に抱きついた。

 

もう一杯一杯の状況から踏み出した勇気、それ故の行動だった。

 

「任された、やってやろうじゃない。」

 

そんな彼女の身体を優しく抱き締め、沙希は決心した。

 

人として、元ボッチの川崎沙希として、この少女を救うと。

卑劣な行為には、決して負けないと・・・。

 

sideout




次回予告

留美のSOSを受け、沙希は八幡達と共に動く。
彼女を救う方法とは・・・?

次回やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている

川崎沙希は動き出す

お楽しみに~。

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