やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている   作:ichika

48 / 160
比企谷八幡は人の光に触れる 後編

side八幡

 

「ぐっ・・・!」

 

身体に走る鈍痛に叩き起こされるように、俺の意識は覚醒する。

 

重い瞼をゆっくりと開けると、飛び込んで来たのはテントの屋根だった。

なんで、こんな所に・・・?

 

あぁ、そういえば、俺、コートニーさんに負けて、腹に強烈な一撃貰って気絶したんだっけ・・・?

 

手加減してくれたおかげと考えるべきだろうか、もう体力は回復していた。

 

悔しいが、今の俺の力じゃあの人には勝てなかったんだよな・・・。

 

「イッテェ・・・、けど、身体はちゃんとあるな・・・。」

 

手加減してくれたからか、身体に痛みは残っててもそれ以上のダメージはなかった。

 

こうやって手を横に伸ばしても・・・。

 

――ムニッ――

 

「・・・、ムニッ・・・?」

 

伸ばした肘が、とってもとっても柔らかいものに当たる。

 

何だこれ・・・?枕や掛布団にしては柔らかすぎる様な・・・?

 

「んっ・・・、あっ・・・。」

 

「ッ・・・!?」

 

もう一回動かすと、何とも悩ましい声が聞こえてくる。

そこで俺の意識は一気に覚醒へと向かう。

 

飛び起きてその方を向くと、沙希が俺の隣に横たわって眠っていた。

 

こ、これはあかんでぇ・・・!

無意識に関西弁を口走る程のショックを受けた。

 

この危険の感じ方はアレだな、ウルトラマンになった時と同じだ。

 

「んんっ・・・、はちまん・・・?」

 

目が覚めたか、まだはっきりしない意識のまま俺と同じ目線の高さにまで顔を起こしてくる。

 

だが、場所が悪かった、最早、お互いの鼻が触れ合う距離にあった。

 

家族の誰よりも間近で見ていたと思っていたが、そうじゃなかったな、沙希ってまつ毛長いんだな・・・。

 

って、今そんな事考えてる場合じゃなかった・・・!?

 

「おはよ・・・、っ・・・!?

 

「お、おう、もうこんにちはだ・・・。」

 

寝ぼけた様な蕩けた表情から、驚愕の表情へとゆっくり変わって行く過程ってこんな感じなのかなぁって思考の片隅で考えていた。

 

「ご、ごめ・・・!?」

 

「沙希・・・!?」

 

沙希は勢いよく離れようとしたけど、狭い簡易ベッドだったせいでバランスを崩して落ちそうになっていた。

 

「わわっ・・・!?」

 

「危ない!!」

 

落ちかけた沙希の腕を掴んで引っ張り、こっちに引き寄せる。

だけど、力を入れ過ぎたせいか、彼女を抱き寄せる形になってしまう。

 

「「あっ・・・。」」

 

勢いが良すぎて、俺もベッドに倒れ込み、沙希を抱き締める様な形になってしまった。

 

彼女の温かさと優しい香りが、何時もより間近に感じられて、らしくも無く鼓動が早まっている。

 

「ご、ゴメン・・・、あ、ありがと・・・。」

 

「お、おう・・・、き、気にすんな・・・。」

 

顔を赤くした沙希と同じ様に、俺も顔を真っ赤にしてるんだろうな・・・。

そんな、周りから見ればどうでも良い様な事を思いながらも、俺達はどっちも離れようとはしなかった。

 

まるで、このままでいたいと、お互いが想っているように・・・。

 

「「・・・、はっ・・・!?」」

 

からかいを含んだ視線にようやく気付いて、俺と沙希は慌てて身体を離して服の乱れを整えた。

 

「よう八幡君、良い夢見れたか?」

 

「コートニーさん・・・!貴方って人はっ・・・!!」

 

絶対俺と沙希を同じベッドに寝かせたの、この人だッ・・・!

この人がやらずしてだれがやる・・・!?

 

ここにいる全員がやりそうですね、ハイ。

 

「比企谷君って、川崎さんとやっぱりそういう関係なんだな・・・。」

 

「えっ・・・?」

 

羞恥に震えていた俺に、どこか恨めしそうな声が届く。

 

聞き覚えはあるんだが、一体誰だったか・・・。

 

その記憶を辿るよりも早く、そいつは姿を見せた。

 

「こ、こんにちは、比企谷君、川崎さん・・・。」

 

「「や、大和・・・!?」」

 

その男の事を、俺達は良く知っていた。

かつて、レイビーク星人コルネイユに操られ、怪獣にライブさせられた男だ。

 

ギンガコンフォートである程度の邪気は払ったつもりではいた。

だが、実際は分かったもんじゃない。

 

表に出た悪意は取り払えても、奥底に住み着く悪意まで払う事は出来ない。

 

では、彼がここに来た理由は・・・?

 

「なに、しに来たんだ・・・?」

 

「そんな怖い顔で睨まないでくれよ・・・、俺はお礼を言いに来たんだ。」

 

お礼・・・?

何の事だ?

 

そう問う前に、彼は重い口を開いた。

 

「助けてくれてありがとう、光の巨人。」

 

「「っ・・・!?」」

 

なに・・・!?

どうして、俺達がウルトラマンだと気付いているんだ・・・!?

 

慌てて彩加や大志、他の皆さんを見るけど、誰も答えを教えていないと言わんばかりに首を横に振った。

 

おいおい、ウソだろ・・・?

まさか、まさかコイツは・・・!?

 

「助けられたあの時から薄々おかしいとは思っていた、何故あの時、織斑先生や君達があの場所にいた?何故あのカラス頭は君達を傷付けられなかった?ここ最近、その疑問が沸々と大きくなっていたんだ。」

 

「それで、どうやってその答えに辿り着いたの・・・?」

 

俺に応える様に話す大和の言葉は要領を得ないモノだった。

だが、それに痺れを切らした沙希がその先を問う。

 

そうだ、聞くなら聞くで、深いトコまで斬り込む以外ない。

 

「さっき、とても温かい感じがする光が弾けるのを見た、あの時の、俺を包んでくれた優しい光だ。」

 

そこまで言って、彼は一度言葉を区切り、俺達をジッと見据えた。

 

「走って辿り着いた先に、光が消えた場所に君達がいた、普通なら意味も無い事だろうけど、俺は前から疑問に思ってたから、答えに辿り着けた」

 

敵わねぇな・・・、それって勘っていうもんじゃないのか?

 

だとすれば、コイツにはそういう素質が眠っていて、あの事件で覚醒したってことか?

 

面倒な事になったもんだ、コイツは厄介なグループに属してるんだしな。

 

「だからと言って、恩人の君達を売る様な真似をしたくないからなぁ、俺は君達を助ける。」

 

「お前・・・。」

 

「俺だって変われるんだろ?君が言ってくれた事じゃないか、比企谷君。」

 

あの時、俺が言った言葉をアイツは返してくる。

そうだ、誰だって変われる、変わって行く。

 

俺もそれを身を以て味わった。

それと同じ、かどうかは分からないが、大和も本物を見付けられたと信じようじゃないか。

 

「お前、中々に面白いじゃないか、普通近寄らんぜ?」

 

「変わってるんだよ、俺もね。」

 

上手く返された事がおかしくて、俺と大和は笑い合った。

 

沙希や彩加達と笑い合う様な、自然な笑みで、俺達は笑った。

 

こうやって、メンバー以外と笑い合うのも、たまには悪くない、かな・・・?

 

そう思った時だった。

 

『きゃあぁぁぁぁっ!!?』

 

突如として聞こえてくる女の悲鳴に、その時間は中断させられる。

 

「今の声・・・!?」

 

「まさか・・・、出たか・・・!?」

 

俺達が反応するよりも早く、先生とコートニーさんが走り出した。

 

って、速っ・・・!?

もう見えなくなった・・・!?

 

「俺達も追うぞ・・・!」

 

「わ、分かった・・・!」

 

沙希と同時にベッドから飛び降りて、その方向へと走る。

 

嫌な予感がする。

それが拭いきれなかった。

 

「気を付けろ、ヤプールの気配は無いが、どうも嫌な感じだ!」

 

ここを護らなければならないためか、宗吾さんは俺達の後ろから警告を飛ばしてくる。

 

分かってる。

感じた事の無い、途轍もない悪意が近くにいる。

 

彼もまた、ウルトラマンとして感じているのだろう、危険が迫っていると・・・。

 

そんな感覚を拭えないまま、俺達は走り出した。

この目で真実を確かめるためにも・・・。

 

sideout

 

noside

 

足場の悪い森の中を走る事数分、八幡達は先行していた一夏とコートニーに追い付いた。

 

大和がついて来ているため、なるべく速度を合わせていたため、かなり到着が遅れたが、それでも時間的にはすぐという具合だろう。

 

「先生!コートニーさん!」

 

「誰かいたんですか!?」

 

追い付いた八幡と沙希は、そこにいた師達に声を掛ける。

 

「追い付いたか、此処に来るまで、誰かとすれ違わなかったか?」

 

「い、いえ、誰とも会ってませんが・・・、どうしたんですか・・・?」

 

倒れた女を担いだコートニーが問うと、沙希は首を横に振りながらも答えた。

 

森の中とは言え、視界がゼロという訳では無いし、音も問題無く聞こえる。

それなのに、ウルトラマンである彼女が見落とすはずが無かった。

 

故に、コートニーが抱える女を襲った敵と会わなかったと断言できた。

 

「そうか、ならいい。」

 

「そ、それより、その人は・・・?」

 

仕方ないと言わんばかりに、キャンプへの道を戻ろうとするコートニーに、八幡は担いでいる女の事を尋ねる。

 

いや、確認と言うべきだろう。

コートニーの後ろを憮然とした表情で歩く一夏を見れば一目瞭然だった。

 

その様子から察した八幡は、一夏と同じく疲れ切った様な表情になった。

 

「「「置いて行きましょう。」」」

 

沙希と彩加も気付いたのか、八幡と口を揃えて言い放った。

 

「酷いね比企谷君達・・・!?」

 

「分からなくはないが、そう言い方はしない方が良いぞ。」

 

驚く大和と、呆れながらも返すコートニーの言葉もまた平淡であった。

 

一夏から話は聞いているからだろうが、助ける義理も無いと言うのが本音だった。

 

「うっ・・・、ここは・・・、私は・・・?」

 

「起きたか、平塚サン。」

 

朦朧とした意識ながらも目覚めた女、平塚静は担がれたまま瞬いた。

 

そんな彼女に、一夏は舌打ちせんばかりに表情を顰めて話しかけた。

 

本当に嫌っている事が窺えたが、今はそれを気にする場合ではないだろう。

 

「起きたか、降ろすぞ。」

 

「お、お前達は・・・、何故ここに・・・?」

 

意識が戻った事を確かめたコートニーは静を地面に降ろした。

 

状況が分かっていないからか、彼女は彼等と周囲を交互に見渡していた。

 

「何でもいいだろ、プライベートには口を挟まないでもらいたいな、で、何があった?」

 

そんな様子を気にすることなく、あの場所で何があったかだけを一夏は淡々と問うた。

 

彼にとって、静は最早取るに足らない存在であるが、彼等の合宿地の近くまで来ていたのだ、何かを悟られてはいけないとでも考えているのだろう。

 

「わ、分からない・・・、なにか黒いモノがぶつかって来たのは憶えているが、それから後の事は、何も・・・。」

 

「黒いモノ、か・・・。」

 

混乱した様子の静の答えに、一夏はまたしてもタメ息を一つ吐く。

 

具体的な答えを得られなかった落胆か、それとも心当たりがあり過ぎて特定が出来なかった事への憤りなのかは、誰も分からなかったが・・・。

 

「まぁいい、どうせ千葉村の中心から来たんだろ?あの方向に戻れば帰れる、さっさと行け。」

 

だがそれも一瞬の事。

すぐさま表情を引き締め、中心部を指差した。

 

言葉通り、これ以上絡んでほしくないのだろう。

 

「ま、待て・・・、聞かせろ、何故お前達は何故此処に居る・・・?」

 

「言った筈だ、プライベートには干渉するな、アンタの思惑は分かってるぞ。」

 

何かを言おうとする静に、一夏は取り付く島も無いと言わんように切り返す。

 

関わっては碌な事にならない、今までの経験からそれが分かっているのだろう。

 

「どうせ、八幡君を使って厄介事が起きればそれを解決させる、だろ?アンタの周りには厄介事しかないからな。」

 

「くっ・・・!」

 

突き放す様に言い放つ一夏の言葉に、静は歯軋りしながらも彼を睨む。

 

まるで気に入らない。

比企谷八幡から全幅の信頼を得ている者とそうでない者、その差がある故の余裕を見せ付けられている様で癪だった。

 

「それに、今の俺達は部活の合宿中だ、邪魔しないでくださいよ。」

 

慇懃無礼な言葉に、静は更に表情を険しくした。

 

本当に癪に障る。

その余裕に満ち満ちた態度が、彼女を逆なでして成らなかった。

 

だが、歯向かっては彼女の思惑も達成できない事も気付いていた。

 

故に・・・。

 

「・・・、頼む、力を、貸してほしい・・・。」

 

忌むべき相手に頭を下げなければならないと言う、ある種の屈辱を受けながらも、彼女は頭を垂れた。

 

「ふぅん・・・、そこまでする、か・・・?」

 

彼女の悔しげな表情に気を良くしたか、一夏は如何すると言わんばかりに八幡へ目を向ける。

 

お前に全てを預ける、その意思が見て取れた。

 

「恩を売っておくのも悪くないですね、良いでしょう、依頼、受けてみましょうか。」

 

その思惑を理解した八幡は、意地の悪い笑みを浮かべながらも中心部を目指して歩き始めた。

 

その後を追い、沙希や彩加も歩き始める。

八幡と行動を共にすると決めている彼女達からすれば、最早考えるまでも無いだろう。

 

「大志君はコートニーと一緒にキャンプへ戻っていてくれ、飲み物でも買ってくるよ。」

 

「分かりました、気を付けて下さいね?」

 

一夏の指示に従い、大志とコートニーは歩いて行く5人を見送った後、周囲に気を配りながらもキャンプ場へと戻って行った。

 

静もまた、腰掛けていた岩から何事も無く立ち上がり、八幡達一行を追って歩き始める。

 

そう、何事も無かったように・・・。

 

sideout




いつもご愛読ありがとうございます。

個人的な話ですが、11月より仕事の都合で執筆時間が大幅に削られてしまう事が確定しました。
時間を取ってチマチマ書いて行きますが、大幅なペースダウンが見込まれます。
せめて今年中に50話は超えられるように頑張りますが・・・。

誠に勝手ながら、これからも本作をよろしくお願いいたします。

それでは次回予告

千葉村中心部を訪れた八幡達一行の前に、その少女は現れる。
それは、嘗ての八幡と沙希の陰とも呼ぶべき存在だった。

次回やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている

川崎沙希はその少女を案ずる

お楽しみに~。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。