やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている 作:ichika
side八幡
『ウォォォッ!!』
ギンガストリウムになった俺は、上空高く飛び上がって蹴りを叩き込む技、スワローキックを目の前のウルトラマン、ネクサスへと放つ。
もうすでに俺のカラータイマーは点滅しており、もう長くは戦っていられない事を表していた。
コートニーさんの強さは圧倒的に過ぎ、強すぎてギンガストリウムでさえ届かない程だった。
一体どうして、こんなにも力の差が出るんだ・・・!?
だが、この蹴りは回転の捻りも加えてるから威力も高い、避けたところへの追撃も出来る大技だ、これならッ!!
『甘いッ!!』
だけど、ネクサスに変身したコートニーさんはいとも容易くそれを受け止め、大きく空へと投げ飛ばしてくる。
『オォォォ!?』
渾身の一撃が防がれた挙句に投げ飛ばされたせいで、俺は体勢を立て直せずにいた。
これは、マズイッ・・・!?
『ディェェイアァァッ!!』
地面が凹むぐらい強烈に地を蹴ったネクサスが、まるで蒼い流星の如くこっちに突っ込んでくる。
そのまま必殺の技を繰り出してくるに違いない。
『くっ・・・!オォォォッ!!』
冗談じゃない、ネクサスの必殺技は強烈すぎる、メビュームバーストで漸く相殺できるか否かの技なんておかしいったらありゃしない・・・!!
だから、俺は足掻く。
もっと力を得るためにも・・・!負けない為にも・・・!!
『ウルトラマンゼアスの力よ!スペシュッシュラ光線!!』
『クロスレイシュトローム!!』
十字光線同士のぶつかり合いが強烈な閃光を奔らせ、俺達もろとも周囲を包む。
拮抗させるつもりで放ったけど、押し込まれてる感触が伝わってくる。
このままじゃ負けるっ・・・!!
だが、ふとした拍子に拮抗する圧力の様なモノが消え、光線が地面に向かって突き進む。
まさか、これは・・・!?
光線は俺の目を逸らさせるためのフェイク・・・!
本命は・・・!!
『早まったな!アローレイシュトローム!!』
『しまっ・・・!?うぁぁぁっ!?』
気付くのに一瞬遅れた俺の背後に回り込んだネクサスの左腕から光の矢が撃ちだされ、ギンガの背中に直撃する。
その勢いを受け止めきれず、俺は一気に地に落ち、強烈な勢いのまま叩き付けられた。
『くっ・・・!おぉぉっ・・・!まだ、まだっ・・・!!』
カラータイマーの点滅する音が急速に早まり、身体から一気に力が抜けていく事が分かる。
だが、まだだ・・・!
まだ、強さを手に入れちゃいないんだ・・・!こんな所で、膝を付いちゃいられないんだ・・・!!
『ここまでだ、少し休め。』
目の前にまで迫っていたネクサスの、光のエネルギーを溜めこんだ右腕から繰り出されるボディブローをもろに鳩尾に喰らい、今度こそ俺の意識は闇の中へと刈り取られた・・・。
sideout
side沙希
『おぉぉっ!!』
『ふんっ!!』
ビクトリーナイトのナイトティンバーを振るい、宗吾さんが変身した赤い巨人、マックスに斬りかかる。
少し前から剣術の訓練も一緒にしてるから何とかなってるけど、マックスは頭部から出したマクシュウムソードで軽くいなしてしまう。
くそっ・・・!リーチはこっちの方が長いと言うのに、なぜこうも間合いが取れない・・・!?
『甘い!剣を振る時は手首をもっと締めろ!!』
右腕のブレス状のものから光の剣を発生させ、彼は小太刀二刀流であたしを攻め立てる。
負けじとシェパードンセイバーを呼び出して二刀流で戦うけど、やっぱりこっちが押されている事に変わりなかった。
なんて速さ・・・!なんて正確さ・・・!これが、これが歴戦のウルトラマンの力・・・!!
レベルが違いすぎる・・・!勝てない・・・!!
でも、この強さがあたしをもう一つ強くしてくれる・・・!!
『はいっ!!』
衝突の際に手の内を締めるように意識する事で弾かれる事は少なくなった。
けど、力の差は歴然だった。
幾ら攻撃を続けても当たる気配が無い。
読まれているとかそんなレベルじゃない、読まれると言うレベルに達してなんていないんだ。
当たり前の様に力を振るった結果、あたしが勝手に弾かれている、それが真理だった。
そんな事ぐらい分かっているけど、それでも退ける程あたしは諦めが良くなかった。
『負けない・・・!負けたくないっ・・・!!』
マクシュウムソードを受け止めつつ、ポンプアクションを3回行い、力をナイトティンバーに溜め込む。
『スリー!ナイトビクトリュウムシュートォ!!』
左手をナイトティンバーの柄に添え、至近距離で必殺の光線、ナイトビクトリュウムシュートをぶっ放す。
こんな至近距離で撃ったら自分も危ないけど、この一手を使ってでも届かせてみせる・・・!
この強さに迫るためにも、あたしは退いちゃいられないんだッ・・・!!
『ギャラクシーソードッ!!』
だけど、その強烈なエネルギーを更に上回るエネルギーを以て、マックスは光の剣で光線を切り裂いていた。
なんて・・・、なんて強い力・・・!
これが、これが、アストレイの力なの・・・!?
光線が完全に切り裂かれ、光の刃が避ける事の出来ないあたしの身体に叩き込まれる。
『うっ・・・!あぁぁっ・・・!!』
手加減してくれていたからか、大きく吹っ飛ばされるだけで済んだ。
けど、もうカラータイマーが凄まじい勢いで点滅している。
膝はガタガタと震えて、目も霞み、意識を保っている事さえやっとだった。
だけど、ここで倒れたりはしない・・・!
修行の意味を、強さを、手にするまでは・・・!!
『もう良い、一旦休め。』
立ち上がった所へ、マクシュウムソードが鳩尾に叩き込まれる。
その強烈な一撃は、ダメージで避けられないあたしの意識を刈り取る事は容易かった。
闇に沈んで行く意識の中で、あたしは自分の力の足りなさを痛感し、そこから先を考える事が出来なかった・・・。
sideout
noside
「おっ、第一ラウンド終了、ってか?」
ネクサスが展開したメタフィールドの外でキャンプの設置を行っていた一夏が、消えゆくフィールドに気付いて声を上げた。
その声につられ、設営を手伝っていた彩加と大志が顔を上げてその方向を見る。
晴れ行く光の中から、気絶した八幡と沙希を抱えたコートニーと宗吾が出て来た。
満身創痍な八幡と沙希とは異なり、散歩に行ってきたかのような軽い足取りの二人の男に戦慄したか、彩加と大志は無意識に恐怖する。
「なかなかにやるにはやったが、まだまだ力不足は否めなかったな。」
「仕方ないさ、ずっと戦ってた俺達に比べりゃ、この子たちはまだ戦い始めたばかりだからなぁ。」
二人を日陰に作ったテントの中に用意した、一つの簡易ベッドに並んで寝かしながらも呟いた。
その表情には何処か悪戯っぽい笑みが浮かんでおり、彼等二人が起きた時の反応を楽しみにしているのだろう。
「さて、俺とコートニーは暫く休むよ、昼飯時だろうし。」
「それが終わったら彩加君と大志君のトレーニングに取り掛かろう。」
「「(な、なんていやな笑顔・・・!!)」」
その笑みを見ていた彩加と大志は、八幡と沙希が顔を真っ赤にして飛び起きる未来を幻視してしまう。
いや、ほぼ間違いなくそうなるだろうなぁと、憐れみを含んだ表情をしながら合掌していた。
『この二人があの短時間でボロボロになるとは・・・、やはり、レベルの差が大きいのか・・・。』
その様子を見ていたXもまた、その圧倒的な強さを示されて、感嘆と恐怖の声を漏らしていた。
同じウルトラマンでも、Xとアストレイのウルトラマン達では戦闘経験の差が大きく開いている。
パワーアップしたギンガとビクトリーに置いて行かれる形を喰っているXからしてみれば、自身を喪失してもおかしくは無い状況だった。
「X・・・。」
その不安と迷いを察し、自分が置いて行かれるのではと、彩加も不安に感じていた。
置いて行かれる恐怖を、独りになる事の寂しさを知っている彩加だからこそ、Xの不安も解るのだろう。
「パワーアップが何だ、まだまだ使いこなせてない上、俺達にも勝てないんだ、そんなのに嫉妬した所で足元をすくわれるだけさ。」
だが、宗吾はそれを嫉妬と断じ、気にする事は無いと言わんばかりに言葉を紡いだ。
「俺も昔、自分の力よりも手っ取り早く補強出来る様なモノばかりに頼って強くなったと思った事が有る、その方が楽だし、どれだけ強くなれるかって見えてたよ。」
「宗吾さん・・・?」
憂いを帯びた宗吾の言葉の真意を汲み取ろうと、大志は彼に尋ね返した。
後悔か、それとも若さゆえの過ちを嗤っているのか、どちらにしても、彼の過去に話は起因していた。
「でもさ、結局勝てたのは雑魚ばっかりでさ、一夏と戦ってみたら強いのなんの、あいつの本調子じゃない状態で戦ったって言うのに、俺も玲奈も全く勝てなくてさ、笑っちまうよな、結局は強くなんかなってないって思い知らされたよ。」
その表情には負けて清々したと言う想いが滲み出ていた。
強さの本質を見誤った愚かな思考を祓い飛ばしてくれたと言う、ある種の感謝が見て取れた。
「本当の強さを持ってる奴って、何処に力を持ってると思う?ここに力を持ってる奴さ。」
宗吾は挑発する様な笑みを浮かべ、彩加の左の胸に拳を当てた。
心の力を強くし、そこから身体の力を着ければいい、彼の瞳はそう語っていた。
それは、今の彩加にとっては何よりも眩しく、それでいて新たな道を示す言葉だった。
「はい・・・!」
彩加は感激した様に頷き、大志もまた、無言で力強く頷いた。
その本当の強さを、その身に刻み込むように・・・。
「戸塚君?戸塚君じゃないか!!」
その時だった、森林の奥、キャンプ場の中心がある方から一人の少年が手を振りながら走ってくる。
「や、大和君・・・!?」
その少年の事を、彩加は良く知っていた。
彼は大和、嘗てレイビーク星人コルネイユの魔の手により、元々抱えていた心の闇に付け込まれて怪獣とライブさせられた経験を持った少年だった。
彩加はXと繋がる前にその光景を目にしていたが、それ以降クラスで絡む事も滅多になかったため、最早その事も薄れてきた頃合いだった。
そんな彼が、何故この場に現れたのが理解出来ず、彩加は目を白黒させていた。
「ど、どうして大和君がここに・・・!?」
まさか、あの光を見られたのかと思い、彩加は表情を硬くした。
誰にも知られず、密かに動く必要があったが、こんなにも早く見つかってしまうとは思いもしなかったのだろう。
「光が弾けるのが見えたんだ、まさかと思って来てみたけど・・・。」
駆け寄ってきた大和は、彩加に説明するように話しながらも、テントの中を覗き見て、横たわる八幡と沙希を見付けた。
「やっぱり、そうだったんだ・・・。」
「え・・・?」
二人を見た瞬間に、何かを確信したのか、彼は表情を真剣そのものへと変えた。
纏う雰囲気の変化に気付いた彩加もまた、表情を険しくした。
「さっき見た光は、なんだか暖かい感じがしたんだ、まるで、あの時の俺を助けてくれた、光の巨人みたいに。」
「それって・・・。」
大和の言わんとするところが分かったのか、大志がその先を話すように言葉を漏らした。
そう、大和は気付いていたのだ。
自分が光の巨人、ウルトラマンに救われた事に。
そして・・・。
「今、確信が持てたよ、比企谷君が、あの時の赤い巨人なんだよな。」
「「っ・・・!」」
自分の中で生まれた疑問を、今の状況と勘だけで繋げてしまった大和に、彩加と大志だけでなく宗吾やコートニーまでも身構えた。
今迄、自分達から正体を明かさない限り知られなかった秘密を、ウルトラマンに間接的にしか関わっていない少年に知られたのだ、その驚きは推して測るべしだろう。
「それで、大和君、君は何を言いたいのかな?」
だが、それに動じる事無く、大和を見ていた一夏が問いかけた。
脅すようならば口封じをすればいいだけだ、記憶だけでなく、存在を消す術も持っている彼からしてみれば、秘密を隠す事ぐらい容易かった。
しかし・・・。
「織斑先生・・・。」
「わざわざ、そんな事を確かめる為だけに来たわけじゃないだろ?」
教師である一夏の登場に驚いた大和だが、その問い掛けの答えを持っていたために気を取り直し、彼を見る全員に目をやった。
覚悟は出来ている、その表情からはそんな想いが滲み出ていた。
「俺は、比企谷君に言いたいんです、助けてくれてありがとうって・・・。」
「大和、君・・・?」
その表情に曇りない、真の想いを感じ取った彩加は、普段、葉山グループにいる時の彼とは違う事に気付いた。
まるで、自分の本当の想いを見付けた時の八幡の様な表情が、それを感じさせる何よりの証だった。
「気付けなかったけど、だからって言わないでいて良いもんじゃないだろ?だから、俺は俺の心に素直になるよ、あんな間違いからでも、学べる事が有ったんだよ。」
「そっか・・・。」
その答えに、彩加もまた表情が解れ、笑みを浮かべた。
その真の想いを、素直に受け入れる事が出来たのだろう。
「じゃあ、八幡達が起きるまでここに居てね?」
「勿論だよ、そうじゃなきゃ、来た意味が無いさ。」
からかう様に言う彩加の言葉に返し、彼もまたその輪に加わろうとしていた。
一つの過ちを乗り越え、心より欲する何かを見付ける為に・・・。
sideout
次回予告
その少年の変化は、八幡達に新たな風をもたらすか、それとも別の何かをもたらすか・・・。
次回やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている
比企谷八幡は人の光に触れる 後編
お楽しみに