やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている 作：ichika
side沙希
『ハァァっ！！』
ビクトリーナイトとなったあたしはナイトティンバーを構え、吠えるバキシムに向かって行く。
身体から熱く、清い何かが湧きあがってくる感触が止まらない。
だから、あたしは此処から退く事はしない！
鞭のように身体をしならせつつ、その勢いを利用して叩き付ける様にバキシムを切り裂く。
その防御力を突破する事自体は叶わなかったけど、その巨体を押し返す事には成功した。
『まだまだ！！これからだッ！！』
ナイトティンバーを逆手に持ち替えつつも反転、バキシムの頭に着いていた角を斬り飛ばした。
ミサイルとしても撃ってた部位なんだ、相当大事な部分だろうし、狙ってみて正解だ。
とは言え、油断は出来ない、ここから更に追撃を掛けないとね！！
『もう一丁！！』
回転が止まる前に身体を捻って飛びあがり、もう一回転しつつ勢いと体重を乗せた斬撃を叩き付ける。
これでも怯むだけでダメージが通らない、か・・・！
ならば・・・！！
『ウォォォッ！！』
両手に持ち替えたナイトティンバーでメッタ切りにしつつ、最後に回し蹴りでバキシムを大きく蹴り飛ばす事に成功した。
これで、トドメを刺してやる！！
ナイトティンバーのスライド出来る部分で一度ポンプアクションし、剣を構えつつ突進する。
『ナイトビクトリウムフラッシュ！！』
独楽のように回転して斬撃の嵐を叩き込む技に対抗するつもりか、バキシムは腕の爪をガトリングのように飛ばして勢いを殺そうとしてくる。
だけど、そんな事で負けて堪るもんか・・・！！
『切り裂けぇぇぇッ！！』
弾丸を全て弾き、僅かに殺された勢いそのままに、バキシムに連続回転切りを叩き込む。
それは、バキシムの身体に一撃ごとに小さな傷を付け、回転が止まる事には大きな刀傷となっていた。
だけど・・・。
『ちっ・・・！超獣、まったく厄介だね・・・！！』
これだけのパワーを叩き込んで漸く、デカい傷を付ける事はできた。
でも所詮その程度、倒し切るには至っていない。
とはいえ、相当な体力を減らせただろうから、あと一撃、何かを途轍もなく強力な技を叩き込めば勝てる筈だ。
それに、これ以上戦いを伸ばしてしまえば、それこそ勝ち目は無くなるに等しい。
何せ、さっきまでやられっぱなしだったせいでエネルギーも無くなってきているしね・・・！
さて、どうしたものか・・・。
手詰まりになりかけたその時だった。
『ッ・・・！？』
もう一つの、青い怪獣のスパークドールズから、何か意志の様なモノが伝わってくる。
まるで、自分を使えと言っている、そんな感じ・・・。
『分かった、行くよ！！』
『ウルトランス！シェパードンセイバー！！』
その怪獣をウルトランスすると、大地を突き破り、青い刀身を持った剣が現れ、ビクトリーナイトの右手に収まった。
これ、ただのウルトランスじゃない・・・！？
まさか、こんなタイプのウルトランスまであるなんてね・・・！！
おっと、驚いている場合じゃない・・・！
『行くよ、シェパードン！！シェパードンセイバーフラッシュ！！』
V字を描く様に剣を振り、それをバキシム目掛けて一気に飛ばす。
シェパードンのパワーが籠められた斬撃は、よろけていたバキシムに直撃、大きく後方に弾き飛ばして、まるで食らいつくようにしてバキシムを呑み込んだ。
その圧倒的な威力に耐え切れず、バキシムは爆発四散、スパークドールズとなってあたしの手に収まった。
『やったね、姉ちゃん・・・！』
『大志！大丈夫かい・・・！？』
『な、なんとか・・・！』
あたしへの力の譲渡で戦いから離脱していた大志が寄って来たけど、その足取りは覚束無く、今にも倒れ込みそうだったもんだからすかさず支えに入ってしまう。
まったく、あたしもやっぱりブラコンなんだね。
『よもやバキシムを倒すとは・・・、取敢えずは誉めておこう！！』
『ッ・・・！ヤプール・・・！！』
くっ・・・！ここでコイツに追撃されたら、勝ち目は・・・！
『今日の所はここまでにしてやる！だが忘れるな！このヤプールはまだ、貴様たちを狙っているとな！！』
『ま、待てっ・・・！』
捨て台詞と共に割れていた空が元に戻り、ヤプールの嫌な感じも消え失せた。
ここで追撃がなかった事だけが大助かりだけど、そんな悠長に落ち着いていられない。
すぐに、皆に知らせないと・・・！
あたしと大志は変身を解き、互いに支え合いながらアストレイへの道を急いだ。
この嫌な予感を、早く大切な人達に伝えなければと・・・。
sideout
noside
「ヤプール・・・！？そんなまさか・・・！？」
ボロボロになりつつもアストレイに辿り着いた沙希と大志は、そこで店番をしていた玲奈とリーカに先程までの戦闘の事を話していた。
傷の手当てをされながらも、突如現れたヤプールの事を二人に教えると、玲奈とリーカは途轍もない事が起きたと言わんばかりに表情を強張らせた。
「な、何か知ってるんッスか・・・！？」
「何も知らない奇襲で、まずこの程度の傷で済んだことを褒めたいぐらいヤバい奴ね・・・。」
知っているのかという大志の問い掛けに、玲奈は安堵の色を強く浮かべて大志をいたわるように抱きすくめた。
年上の美女に抱すくめられた事による、思春期男子特有の昂ぶりよりも、何故そこまで安堵しているか分からなかった驚愕の方が大きかった。
それと同時に、今この世界に迫っている脅威の巨大さにも気付いた様だ、大志の顔もまた強張った。
「ヤプールは負の思念の集合体、いわば、強烈な怨念其のモノよ、怪獣を改造する術も持ってるし、本当に厄介な相手なの。」
「アタシ等も何度も苦しめられたもんだわさ、前兆無しで現れるわ、精神操って来るわ、あーもう！！思い出しただけで腹立ってきた・・・！！」
げんなりとした様な、それでいて明確な災いが出現した事に対して危機感を募らせたリーカが頭を抱え、余程酷い目に遭わされたのか、玲奈が腹を立てる様に髪の毛を掻きむしった。
どうやら、アストレイメンバーは嘗て、ヤプールと関わって散々な目に合わされている事が窺えた。
「皆さんが苦戦するって・・・、あたし達に勝ち目なんて・・・。」
その二人の反応に、沙希は深く沈み込んでしまう。
だが、その反応はある意味正しい。
何せ、自分達よりも遥かに戦闘経験の多い、圧倒的な戦力であるアストレイのウルトラマン達でさえ苦戦は必至。
それよりも劣る自分達が勝てる相手では無い、そう感じてしまっているのだ。
「独りじゃ、今のアタシ等だって勝てやしないわ、勝てるとしたら道連れ覚悟の相打ちね。」
「そん、な・・・。」
そこへ玲奈の無意識な追い打ちが掛かり、大志は愕然としたように項垂れてしまう。
自分達が勝てない事を、事実上告げられている事が受け入れきれないのだろう・・・。
「ま、そんな事より、リーカ。」
「もう呼んでるよ、あと二時間で全員揃うよ。」
「「えっ・・・？」」
唐突な話題変換に付いて行けず戸惑う川崎姉弟を尻目に、玲奈とリーカは手早く窓の外に向かって手を伸ばす。
すると、その指先より光の球を空に向けて放った。
「い、今のは・・・？」
「あ、一夏のやつ、ウルトラサイン教えてないんだ。」
見た事の無い技を使った玲奈たちに驚く沙希だったが、玲奈たちはそう言えば知らないのも当たり前かと言わんばかりに目を細めた。
「今のはウルトラサインって言う、ウルトラマンが用いる通信手段の一つよ、何光年離れていても意思が通じるメールみたいなもんよ。」
「便利よね～、買い出しのメニュー忘れてもすぐに伝えられるからね～。」
「「（力の使い方間違えてるーーー！？）」」
玲奈の説明に対してのほほ～んと返すリーカに、沙希と大志は心の中で盛大な突っ込みの声を上げていた。
だが、そこでツッコミを入れても話が進まないと思ったか、沙希は咳払いを一つし、今のウルトラサインの意味を尋ねた。
「と、ところで、今のウルトラサインの意味は・・・？」
「ん？聞かなくても分かるでしょ？」
その問いを、玲奈は薄く微笑んで返した。
分かっているだろうと、どうすべきか知っているだろうと言わんばかりに・・・。
「あなた達4人を鍛えるための策を、アタシ達7人で練る、ヤプールに対抗するためにもね。」
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noside
「異次元人ヤプールとは、これまた厄介な奴が蘇ったもんだ・・・。」
日も傾き、地平線へと沈もうとしていたころ、ウルトラマンを持つ者全員がアストレイに集結した。
沙希から聞いていた事を先にウルトラサインで伝えておいたからか、八幡と彩加を除いたアストレイメンバーは一様に重苦しい表情を浮かべながらも店に入って来たのだった。
無論、八幡と彩加とて愚鈍では無い、その雰囲気だけで、途轍もなく大きな事が起こりかけていると気付いたのだろう、表情を引き締めて話に耳を傾けていた。
「だが、幸いにして唯一対抗できる札はある、が、そればかりに頼り切る訳にもいかん。」
一夏はタメ息を吐きつつ、隣に控えるセシリアを見た。
彼女のウルトラマンは闇の力を祓う、浄化の技を得意とし、それに特化した姿も持っている。
このメンバーの中では、精神汚染や闇による侵略をしてくる敵にとっては有効な戦力であると言えるだろう。
だが・・・。
「乱発すれば、それこそヤプールに研究されかねませんわ、あの時は、一撃で倒せたから良かったものの・・・、果たして二度目は上手くいくか・・・。」
ヤプールは策略に長けた存在だ。
一度負けた相手の事は侮る事こそすれど研究は怠る事が無い。
故に、以前有効だった技を無効化、或いは半減できても可笑しくは無いのだ。
下手に乱発させてしまえば、それこそ敗北を招く一因となるのだ。
「で、でも、そんな奴相手にどう戦うんです・・・？どう倒すんですか・・・？」
『彩加・・・。』
不安げに尋ねる彩加の恐怖を感じ取り、Xは気遣わしげに彼の名を呼んだ。
無理も無い。
パワーアップを果たした八幡や沙希とは異なり、彩加は未だ戦闘経験も浅く、尚且つ強化形態もない。
一番戦力として心許無いと感じてしまっているが故の不安と恐怖に押し潰されそうなのだろう。
「心配いらない、もうすでに算段は着いているさ。」
「それは、一体・・・？」
だが、その不安を吹き飛ばす様に笑う一夏は、用意していたプリントを全員に配って行く。
そこには、スケジュールの様なモノがびっしりと書き綴られており、それぞれが行うべきトレーニングの内容が記されていた。
「明後日から1週間ほど、千葉村と言うキャンプ場で俺達7人と君達でトレーニングを行う、勿論、ウルトラマンに変身してな。」
「な、何言ってんすか・・・！？目立ちますって・・・！！」
一夏の言葉に、嘗ての悪夢の再来を予見した八幡は止めるべきだと声を上げる。
確かに、50M近いウルトラマンが、模擬戦とはいえ争っているのだ、とてもではないが、隠れる事など不可能に近い。
その場面を想像し、周囲への被害を考慮すると、とてもではないがその様な訓練内容は受け入れられないのだ。
「ハッハッハ、そういや、教えてなかったっけ、シャル。」
「人使い荒いねー、ガイア！」
その不安をまたも大丈夫と言わんばかりに笑い飛ばし、一夏は傍らに居たシャルロットに目配せする。
その真意に気付いたシャルロットもまた、小言を垂れつつも変身アイテム、エスプレンダーを取り出し、変身のプロセスに入った。
直後、赤と青の混ざり合った光がシャルロットを包み、その姿をウルトラマンガイアの姿へと変えた。
「えっ・・・！？」
その姿に、沙希は驚いた様に声を上げた。
無論、シャルロットがウルトラマンになった事ではない。
ウルトラマンガイアの背格好が、シャルロットの時の姿と全く変わっていない事に驚いているのだ。
『驚いた？ウルトラマンって、サイズも自由自在なんだ。』
「と言っても、パワーダウンするのは否めないけどさ。」
ウルトラマンの質量保存の法則をガン無視した光景を見せ付けられた八幡達新人4人に説明するように、シャルロットと宗吾は軽いスパーリングの真似事をしながらも話す。
ふざけているのか真面目なのか、それとも、この摩訶不思議な光景を見せて何かを試しているのか、全く見当も付かないが・・・。
「まぁ、そんな所だ、これで光線さえ使わなかったらバレないだろ、いざとなったらコートニーにフィールド作らせるから。」
「冗談やめろ、俺が過労死する事間違いなしだ。」
「大丈夫ですわ、私が何度でも回復して差し上げますわ。」
「・・・。」
一夏の言葉に眉間に皺を寄せるコートニーだったが、セシリアの言葉に米神をひくつかせた。
織斑夫妻の畜生っぷりに呆れているのか、それとも慣れているから何も言えない自分がいる事を自覚しているからかは分からなかったが・・・。
「ま、少し早いかもしれんが、君達4人にウルトラマンとしての戦いの極意を伝授させてもらおう、一週間で、見違えるほどにしてやるさ。」
いや、それ死ににいくと同じなんじゃ・・・。
4人はそう感じたが口を噤んだ。
彼等とて、強くなる事の必要性は強く感じている。
故に、一気にレベルアップを果たすいい機会だとでも思っているのだろう。
「さぁ、楽しい時間の幕開けだ、覚悟しておけ、俺達は本気になった時は厳しいぞ。」
その言葉に、八幡達は息を呑む以外なかった。
だが、それでもその瞳の光は強く、その輝きを増していた。
勝利への道筋が、今示されたのだから・・・。
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次回予告
合宿と言う名の死地に赴いた八幡達は、6人のウルトラマンによる過酷な特訓を受ける事になる。
だが、時を同じく、千葉村では・・・。
次回やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている
比企谷八幡は苛立つ
お楽しみに