やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている   作:ichika

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川崎沙希は勝利のメロディーを奏でる 前編

side沙希

 

「ハァッ!!」

 

「でゃっ!!」

 

夏休みも残すところ半分ぐらいになったある昼下がりの事。

 

あたしと大志は河原で軽い組手で身体を動かしていた。

 

その日は一日休みになってて、八幡と彩加はそれぞれ自主練と言う事で各自で千葉の各所にスパークドールズを探しに行ってしまった。

 

あたしと大志は家の用事があったから、今日は千葉市に残って昼の暑い時間から自主練に勤しむ事になった。

 

べ、別に置いて行かれて寂しい訳じゃ無いぞ!寂しくなんて無いんだからな・・・!!

 

それはさて置き、ひとしきり準備していたメニューを熟しつつ、あたしは大志の体捌きに感服していた。

 

八幡や彩加とも違う柔らかさとしなやかさを持っていて、攻撃を巧く捌いてあたしの裏を掻こうとする戦い方で攻めてくる。

 

だけど、純粋にパワー不足は否めないみたいで、何とか反応できたあたしのカウンターに弾かれてふらつく場面も多々見られていた。

 

それも仕方ないか。

大志がウルトラマンに目覚めたのはつい最近、それも夏休みに入ってからだし、鍛え方も戦闘経験もあたし達にはまだまだ及ばないのが現実なんだよね。

 

だけど、あたし達にも負けない強い意志があるから、飲まれない様に気を付けないと押し込まれちゃうよ。

 

「せいっ!!」

 

「うおっ・・・!?」

 

一瞬の隙を突いて、あたしはハイキックを避けて軸足を払って大志の体勢を崩す。

 

避ける事も体勢を立て直す事も出来なかった大志は背中から倒れ込んで呻いた。

 

だけど、追撃を忘れる事は無い、あたしは大志に馬乗りになって手刀を首筋に添える。

 

「チェックメイト!!」

 

「くっ・・・!お、俺の負けだよ・・・!」

 

あたしの勝ちで、この組手は幕を閉じた。

 

反撃が無い事を確かめて、あたしは大志の上から退いて戦意を解いた。

 

「ふぅ・・・、やっぱ姉ちゃん強いよね、俺なんかじゃ勝てないや。」

 

「何言ってんだい、男なら強くなんな。」

 

誰かの為に強くなるのは、あたし達のモットーだよね。

 

大志の誰かは、多分八幡の妹なんだろうなぁとか思って見る。

 

現に、あいつの妹経由であたしの件が八幡に入ったんだろうし、そう考えると人の繋がりって分からないもんだね。

 

「うーん・・・、確かに護る対象には居るんだろうけどさ、なんか最近変な感じすんだよね。」

 

「どういうこと?」

 

八幡の妹の事は詳しくは知らないから何も言えやしないけど、何か匂うね・・・。

 

八幡から聞いた話だと、八幡がいる事である程度寂しさが紛れている筈だけど?

 

「最近、なんか影があるって言うか、時々怖い顔すんだよね、思い詰めてるというか・・・。」

 

ふぅん・・・。

よく分からないけど、八幡との間柄があんまりよくないのか、それとも別の何かか・・・。

 

それは兎も角・・・。

さっきまでの体勢って色々と勘違いされる要素大アリだよね?

姉弟だし、やましい事は一切無いけどね・・・!

 

「というか、姉ちゃんこそさっきの体勢、やるならお兄さんにやってあげなよ、喜ばれるよ?」

 

「な、なにいってんだい・・・!?」

 

まさか反撃喰らうとは思わなかったから、思わず取り乱してしまう。

 

た、確かに八幡の事は好きだよ!?

でもさ、今はそんな事言ってる場合じゃないんだよ!?

 

って、なんで独りで取り乱してんのあたし!?

 

「まぁ、お兄さんの事、お義兄さんって呼びたいってのもあるからさ、頑張りなよ。」

 

「ちょっ・・・!?」

 

ぐ、ぐぬぬ・・・!

この弟、かなりタフになっているッ・・・!!

 

い、いや、これ以上狼狽えていると、姉としての威厳が・・・!

 

そう思って口を開こうとした時だった、何か嫌な感触があたし達を撫ぜた。

 

「「ッ・・・!?」」

 

怪獣が現れる時に感じる地響きとは違う、精神に直接響く嫌な思念の塊をぶつけられた気分だ・・・!

 

こんな嫌な感じ、味わったことが無いね・・・!

 

その時、空が歪み、ガラスが割れる様にして崩れ落ち、その向こう側には血の色の様な空間が広がっていた。

 

「あれは・・・!?」

 

「なんだ・・・!?」

 

どう考えても普通の現象じゃないのは丸分かりだ。

何処の世界に空が割れて血の池見れる場所があるって言うんだい。

 

そして、その空間に、ソイツは現れた。

 

『フハッハッハッハッ!聞けぃ!この世界に住む人間共よ!』

 

真っ赤な棘が幾つもある身体を持ち、手は三日月のナイフのようなモノになった怪人が、哄笑と共にあたし達を見下ろしてくる。

 

直感的に、あの怪人は、ただの怪人や異星人なんて括りにいないだろうというあたりを着ける事が出来た。

 

何でかは分からないけど、途轍もなく厄介な存在で在る事は間違いなかった。

 

『我が名は異次元人ヤプール!この世を支配する者だ!!』

 

「ヤプール・・・!?」

 

なんだ・・・!この恨みや悪意の塊みたいな、本当に嫌な感じ・・・!!

 

これが、本物の侵略者だとでも言うのかい・・・!?

 

『貴様等は恐怖と絶望に沈み、その絶望が新たな災いを齎すのだ!!』

 

その宣言と同時に、その空間から一体の怪獣が飛び出してきた。

 

オレンジと青のツートンカラーを持った、ザ怪獣と言わんばかりの風体が印象に残る奴。

 

『行けバキシム!!手始めにこの街から破壊し尽くせ!!』

 

ヤプールの命令を受けた怪獣、バキシムは吠えながらも都市部へと向かって行く。

 

マズイ・・・!行かせちゃったらまた被害が・・・!

只でさえ、最近の怪獣騒ぎのせいで千葉はかなり疲弊してるって言うのに、これ以上暴れられたら堪ったもんじゃない・・・!

 

「大志!」

 

「分かってる!!」

 

これ以上あたし達の街を壊されてたまるか!!

 

あたしと大志は変身アイテムを取り出し、街を護るために戦いへ赴く。

 

八幡達がいない、たった二人でこの脅威に立ち向かうべく。

 

sideout

 

noside

 

沙希と大志の変身したビクトリーとウルトラマンヒカリは、進撃するバキシムの前に降り立ち、その行く手を阻む。

 

『これ以上進ませて堪るか!』

 

沙希は着地の反動をバネ代わりと言わんばかりに利用しながらも飛び出し、ウルトランスで呼び出したエレキングテイルでバキシムを攻撃する。

 

だが、バキシムはそれを物ともせずに吠え、強烈な体当たりをビクトリーに喰らわせた。

 

『なっ・・・!?攻撃が効いてない・・・!?』

 

『姉ちゃん!今度は俺が!!』

 

攻撃力と防御力を重視した形態であるハンターナイトツルギとは異なり、スピードとテクニックで戦いを動かす戦士、ヒカリの姿を選んだ大志は、右腕のナイトブレスよりナイトブレードを展開しながらも飛び出し、バキシムの身体を斬り付けた。

 

しかし、やはりその硬い体表は傷一つ付く事無く、ダメージらしいダメージすら見受けられなかった。

 

『コイツ・・・!ただの怪獣じゃない・・・!?』

 

『当たり前だ!コイツは怪獣を超えた存在、超獣だ!!』

 

『超獣・・・!?』

 

聞きなれない呼び名に、沙希と大志は驚愕の表情を浮かべた。

 

無理も無い、一夏から教えられたのは怪獣と言う呼称と、個々の名称と特徴のみ、大きな括りは聞かされていなかったに等しい。

 

超獣とは、異次元人ヤプールが直々に手を加えた、生物と兵器の特徴を兼ね備えた、怪獣を超えた怪獣だった。

 

このバキシムは、ベースとなった宇宙怪獣に芋虫の特徴を合わせ、尚且つ全身に高火力の武器を備えた、まさに化け物と呼ぶにふさわしい存在で在った。

 

『バキシム!邪魔なウルトラマン共を排除しろ!!』

 

主であるヤプールの指示に、バキシムは両腕からガトリングのように弾丸を発射し、頭部のツノも連続してミサイルのように撃ち掛けた。

 

『うわぁぁっ・・・!?』

 

『があぁっ・・・!!』

 

あまりにも数が多い攻撃を、ビクトリーとヒカリは背後にそびえるビル群を護るために避ける事が出来ず、腕を広げ、ただ当たってやり過ごす事しか出来なかった。

 

吹っ飛ばされない様に足を踏ん張り、攻撃が止むまで必死に堪えた。

 

そして、全ての攻撃がやんだ時、沙希はフラフラになって膝を付き、大志はその身体を地に倒した。

 

『ハーッハッハッハッ!貴様等如きが、私の超獣に勝てるわけがないのだ!』

 

勝ち誇ったように嗤うヤプールに呼応し、バキシムもまた勝鬨を上げる様に吠えた。

 

その姿たるや、この世の絶望を体現するかの如し威圧と恐怖を、見る者全てに与えるかの様にそこに存在していた。

 

『バキシムよ!ウルトラマンにトドメを刺せ!!』

 

ヤプールの命令に応じ、バキシムは再度進撃、ビクトリーとヒカリに向けて火炎放射を浴びせかける。

 

『くっ・・・!大志・・・!!』

 

弟をやらせはしないと言わんばかりに、沙希は残った力を振り絞り、ヒカリを庇う様に腕を広げ、炎を身体で防ぐ。

 

『ね、姉ちゃん・・・!』

 

『あんただけでも逃げて、八幡達呼んできな・・・!あたし達だけの力じゃ、勝てない・・・!!』

 

力の差を感じ取り、敗北を悟った沙希は、せめて大志だけでも逃がすつもりなのだ。

 

たとえ負けても、大志さえ逃げ切れば、力を着けた八幡に加え、彩加や他のウルトラマンも呼び寄せ、この侵略者を討てる。

 

そう、沙希もまた、己の身を顧みない、ボッチだった頃の感情が先走っていた。

 

だが・・・。

 

『(だめだ・・・!コイツ等はたとえ逃げても追ってくる・・・!弱ってる獲物を逃がしたりはしない・・・!)」

 

大志は、敵の悪辣な性質を本能的に見抜き、このまま逃げても無意味である事を悟っていた。

 

確かに八幡達を呼び寄せ、戦力を整える事は出来る。

だが、それに気付かない程ヤプールも愚鈍では無い事も理解出来た。

 

故に大志は、この局面を打開するための手を考え抜く。

 

『(考えろ・・・!俺は、もう逃げないって決めたんだ・・・!お兄さんみたいに、強く・・・!)』

 

そこで、大志の脳裏に在る光景がよみがえった。

 

それは、八幡がウルトラマンたちより力を授けられ、新たなる成長を果たした夜の、あの光景だった。

 

『(もし、俺にもそれが出来るなら・・・、いや、やるんだ、今、やらなきゃならないんだッ!!)』

 

覚悟を決め、大志はその両腕をカラータイマーの前でクロスさせ、一気に力を解放した。

 

その刹那、カラータイマーから光が溢れだし、炎を防いでいたビクトリーの身体と溶け合って行く。

 

『大志・・・!?何を・・・!?』

 

『俺の力を・・・!ウルトラマンヒカリの力をビクトリーに!!』

 

炎に呻きながらも驚く沙希にも構わず、大志は自身の残った力の全てを先に渡す。

 

その光が集まり、沙希の手に新たにスパークドールズが二体現れた。

 

一つは、以前大志が見つけた、青く輝く怪獣のスパークドールズ。

そしてもう一つは、青く輝くウルトラマン、ヒカリのスパークドールズだった。

 

だが、力の譲渡はそれだけに留まらなかった。

右腕のブレスにもヒカリの力を示すモノが刻印されていた。

 

『これを、使えって言うんだね・・・!』

 

何かを察した沙希は、意を決した様にビクトリーランサーにヒカリのスパークドールズを読み込ませた。

 

『ウルトライブ!ウルトラマンヒカリ!!ナイトティンバー!!』

 

その刹那、ヒカリのスパークドールズが青い光と変わり、フルートの様な物へと姿を変えた。

 

『これが、ヒカリの力・・・!いや、勝利を掴む、ナイトの力!!』

 

護るために、沙希はナイトティンバーを手に取り、それを奏で始める。

 

『奏でろ、勝利のメロディー!!』

 

その瞬間、ビクトリーの周囲に蒼いオーラが発生し、バキシムごと炎を弾き飛ばした。

 

その波動は周囲にも燃え広がっていた炎さえ沈下させていく。

 

『バカな・・・!この波動は・・・!?』

 

あまりにも強い輝に、ヤプールすら困惑する。

全くの想定外、それを身を以て示していた。

 

だが、それだけでは終わらない。

 

『響け、勝利のメロディー!!』

 

宣言と共に、彼女はナイトティンバーをティンバーモードからソードモードへと変更し、天に目掛けて突き上げる様に掲げた。

 

その瞬間、幾つものクリスタルがビクトリーの周囲を取り囲み、幾つもの光が乱反射しながらカラータイマーへと殺到する。

 

その光が一気に溢れ出し、ビクトリーの身体を変えていく。

 

その光が晴れた時、ビクトリーの身体は蒼く輝く姿、ビクトリーナイトへと進化を果たしていた。

 

『放て!聖なる力!!』

 

『本当の戦いは、ここからだっ!!』

 

ナイトティンバーを刀のように構えつつ、沙希は再びバキシムへと向かって行く。

 

与えられた力を、目の前の敵を倒すために。

その力を、正しく使う為に・・・。

 

sideout

 

 




次回予告

光り輝く姿を手に入れた沙希の戦いが新たに始まる。
それは、八幡と共に歩むための第一歩、その先の未来の為の・・・。

次回やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている

川崎沙希は勝利の旋律を奏でる 後編

お楽しみに

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