やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている 作:ichika
side八幡
「そうか・・・、大志が、青いウルトラマンだったのか・・・。」
「はい、つい一週間ぐらい前からですけど、たまたま見つけたスパークドールズに導かれたんスよ。」
アストレイの店内に戻って来た沙希と大志の話を聞き、俺と彩加は大志がウルトラマンである事を知った。
それと同時に、大志もまた、俺達がウルトラマンである事を知ったみたいだ、彼の表情には驚愕がただ一つあるのみだった。
なぜこうもウルトラマンがこの街に集まるのかなんていう疑問は、この際置いておくとして、今、俺が解決せねばならないのは、大志との間に横たわる大きな問題だった。
俺は嘗て、まだ一人で戦っていた頃に、沙希と大志と、二人の幼い妹を怪獣との戦いに巻き込んでしまった事が有った。
それが原因で大志は大けがを、沙希は俺と戦ってしまう状況に陥らせてしまった。
元を質せば、それはすべて俺に原因があることだ。
だから、俺は大志に対して謝る必要があるのだ。
「その事なんだが、大志・・・、俺はお前を・・・。」
俺は大志の話を一旦遮り、あの日の事を謝ろうとした。
何と言われても受け入れるつもりでいた。
過去を恥じるつもりなんてないが、それで罪が消える筈も無いんだから。
だが・・・。
「お兄さん、俺、護られてばっかりって言うの、嫌だったんスよ、だから、織斑先生に戦うかどうか聞かれた時も迷いは無かったッス。」
大志の目には、真実を知っても動じない強い色だけが宿っていた。
俺にすら有無を言わせない、強い意志。
「そりゃ、気にしてないって言ったらうそになるッスけど、これから一緒に戦う事と姉ちゃんの件でチャラにしません?」
「ッ・・・!」
気にし過ぎだと言って笑う大志に、俺は何も言えなくなった。
許し許されとは違う次元での話、戦う事で分かり合って行こうと言う物だった。
チラッと沙希の方を見ると、彼女は自分の件を引き合いに出された事と、弟の言葉に苦笑しながらも頷いていた。
それは、多分彼女自身もそれで良いと言う意思表示に他ならなかったんだろう。
だから、俺はもう何も言わずに頷いた。
「分かった、だが、気が済まないから一度だけ謝らせてくれ。」
とは言え、俺の気が済まないのも事実だ。
だから、大志の意志とか関係なしに、俺は詫びるつもりだ。
「傷つけてしまってすまなかった、俺は大切な人達を護りたいからこの力を手に入れたのに・・・。」
「お兄さん・・・、大丈夫っス、俺は恨んじゃいないッスよ。」
頭を下げる俺を制するように、大志は肩を掴んで微笑んだ。
姉である沙希の笑みに良く似た、優しい笑顔で、彼は俺を許してくれた・・・。
「だから、一緒に戦いましょう、正直、独りは心細かったんで。」
「あはは、それ分かるよ。」
大志の言葉に共感してか、彩加はカラカラと笑った。
彩加もまた、俺と沙希が争っている時はずっと独りだったし、俺達の間で苦しんでいた筈だ。
だから、大志とは共感できる部分もあるんだろう。
彼等が俺を受け入れてくれるのならば、俺は彼等にそれ以上の信頼を以て彼等と戦う。
それで良い、それが俺の出来る唯一の事ならば。
「分かった、俺と沙希と彩加、そして大志、この4人で戦って行こう。」
「照れくさい言い方しちゃって、でも、異議なしだね。」
「勿論だよ!」
「勿論ッス!」
俺の言葉に、三人は力強く頷き、俺の手を握ってくる。
それは、俺達がチームとして戦う事を決意した証でもあった。
これで、一つの心残りが消えた様な、そんな気がした。
これから先、どんなことが起きようとも、きっと超えていける。
そんな、訳も無い確信が、俺の中に生まれていく様な気がしていた・・・。
sideout
noside
その夜、その男はただ独り、深夜のハイウェイを愛車である白いバイクで疾走していた。
余程急いでいるのだろう、制限速度など無視し、誰もついて来れない程の速さで目的の場所に急いでいた。
その男はフルフェイスヘルメットの舌で唇を真一文字に結び、その鋭い目付きは先にある何かを見据えて離さなかった。
「(この前から俺に語りかけてくる何か・・・、俺の記憶に間違いが無ければ・・・。)」
その男、織斑一夏は自身を呼ぶ声の正体に心当たりがあった。
だからこそ、深夜であるにもかかわらず、ハイウェイから更に進み、山奥という表現すら生易しい場所まで来ていたのだ。
道も細く、整備されていない獣道をひたすら突き進んで行く。
そして、もうそれ以上進めないと言う場所まで来たところで、彼はバイクを止め、地に足を下ろした。
そんな彼に反応したか、何処からともなく野犬の群れが現れ、彼の周囲を取り囲む。
相当飢えているのだろう、飛び掛らんばかりに距離を詰めている事が分かった。
その内の一匹、群れの中位にいた野犬の口に咥えられていた何かを見付けた一夏は目の色を変えた。
それこそ、彼を呼び、彼が探していた相手なのだから。
「それを置いて行け、さすれば命までは取らん。」
一歩前に踏み出した。
ただそれだけの行為であるにも関わらず、野犬の群れに怯えの色が一気に走った。
特に、何かをくわえていた一匹だけは、動く事すら出来ない様に震えて蹲った。
それ程に一夏の存在が圧倒的に大きく、獣に本能的な恐怖を与えるものだったのだろう。
だが、咥えているモノを離した途端、逃げられる程度までに存在感が緩められた。
その途端、犬どもは蜘蛛の子を散らす様に我先にと逃げて行った。
「・・・、さて、俺を呼んだのが、まさか貴方だったとはね・・・。」
犬の気配が完全に消えたのを確認した彼は地に膝を付き、それを拾い上げて持ってきたタオルで犬の唾液を拭った。
『すまない、ウルトラ念力さえまともに使えない程、中途半端に覚醒してしまった・・・、テレパシーで君に呼びかける事で精一杯だった・・・。」
その何か、ウルトラマンの姿を持った赤いスパークドールズは、一夏に詫びる様に話した。
どうやら、彼もまた、一夏の事を知っていたが故に彼を呼んだと言う事が窺えた。
「いや、貴方だけでもこうして話が出来て何よりです、しかし、事態は一刻を争う、ウルトラマンとして、御力添えを願いたい。」
『ウルトラマンとして、か・・・、分かっている、私に出来る事が有るのならば当然だ。』
一夏の言葉に、そのウルトラマンの意思は分かっているとばかりに返した。
彼も、本物のウルトラマンとしての矜持があり、この世界で起こっている事を見過ごせないのだろう。
『私ともう一人、別のウルトラマンがこの近くにいる・・・、彼も救ってほしい。』
「そうか、了解しました、俺の教え子に力を貸すっていう交換条件で引き受けましょう。」
『分かった、案内しよう。』
そのウルトラマンが誰か分からないが、恐らくと辺りを着け、一夏はその者の案内で山の更に奥へと足を踏み入れた。
それが、自分の為でなく、大切な教え子を生かすための行為だと信じて・・・。
sideout
side八幡
「こんな夜に呼び出しって、一体何がどうしたんだ・・・?」
大志がウルトラマンだと分かった三日後の夜だった。
俺達は織斑先生に呼び出されてアストレイに各自集合する事になった。
俺は詮索してくる小町を適当にあしらって家を出て、真っ直ぐ慣れた道を歩いて行く。
今日の昼間は何時もの場所で、宗吾さんと玲奈さんからウルトラ念力の使い方と、剣を使った戦い方を教えてもらったところで、この街に帰って来たのもつい一時間前だ。
この呼び出しを受けたのも、飯も食わずにシャワーを浴びて、ウルトラマンの情報を集めようとネットを開こうとした矢先だった。
まぁ、先生が俺らを呼び出す案件なんて、ウルトラマンか怪獣関連の事しかないだろうけどな。
「あ、八幡。」
「こんばんわッス!」
「うっす。」
そんな事を考えていると、沙希と大志が俺と合流した。
つい最近知った事なんだけど、俺と沙希の家は、中学校区こそ違っていたが、2㎞も離れてない場所に在って、その気になれば自転車で15分程で会いに行ける位だった。
つまり、時間さえ作ればいつでも会いに行ける距離だ。
って、何考えてんだ俺は・・・。
「しっかし、なんでこんな夜中に呼び出すのかね・・・、俺ら非行少年少女になっちまうぞ。」
「あはは、確かにね。」
「わ、笑いごとじゃ無いッスよ・・・!?」
俺の軽口を笑って受け流す沙希と、真に受けてしまう大志。
姉弟でも対応の違いってあるのね。
まぁ、大志はまだ俺に遠慮があるって考えれば分からなくはないな。
「まぁ、いざとなりゃ走るか飛ぶかして逃げようぜ、折角ウルトラマンの力あるんだし。」
「そのための力じゃ無いッスよ!?」
ホント弄り甲斐のある奴。
まぁ、これ以上道草喰ってる訳にもいかんな。
沙希と一緒に大志を弄っている内に、俺達は目的の場所であるアストレイに到着した。
「こんばんわ~。」
「あ、みんな一緒だったんだね!」
三人で店に入ると、既に彩加が席について俺達を待っていた。
紅茶でも飲んでいたんだろうか、彼の手元にはティーカップと茶菓子であるクッキーがあった。
これが夕暮の窓際だったら映えたんだろうなぁと思いつつ、俺達は彩加と同じくカウンター席に着いた。
「夜遅くにすまないね、ま、これでも飲んでくれたまえ。」
「あ、先生。」
何時からいたのか、織斑先生がカウンターの向こう側に現れ、俺達にグラスを差し出してくる。
大きめの氷が入ったグラスに茶褐色の液体・・・、って!?
「安心しろ、烏龍茶だ。」
「「「紛らわしい!?」」」
弄りのレベルはこの人には敵わない。
改めてそう感じた気がする・・・。
「ま、そんな事はさて置いて、君達に会って欲しいヒトがいる。」
「ヒト・・・?一体誰なんです・・・?」
その相手とは先生の知人なのか、それとも新しいウルトラマンに変身できる人間か・・・。
どちらにしても、知っておいて損は無いか。
とはいえ・・・。
「別に構いませんが、その人は何処にいるんです?」
俺の疑問を代弁するように、沙希がその相手の所在を尋ねた。
この店内に他の人間がいる様な気配は無い。
バックヤードにさえ感じないと言う事は、アストレイメンバーも、今はこの店にいないと言う証左に違いなかった。
では、その人物とやらは一体・・・?
『君達が、この世界を護るウルトラマンか?』
「「「「ッ・・・!?」」」」
そう思っていた時だった、何処からともなく何者かの声が聞こえてくる。
あまりにも突然だったため、俺達四人は変身アイテムを其々取り出すほどに殺気だってしまった。
『驚かせてすまない、私はここだ!』
「ここだよ。」
その言葉と共に、先生は懐から一体のウルトラマンのスパークドールズを取り出した。
なんてトコにスパークドールズを抱えてんだこの人は・・・。
ん・・・?だったらさっきの声って・・・?
「なんだ、先生の腹話術でしたか、ビックリさせないでくださいよ~。」
彩加がエクスデバイザーを仕舞いつつ苦笑いしながら席に戻った。
いや、まぁ俺らもビックリしたけどさ・・・。
『失敬な!私以外誰が喋ると言うんだ!!』
「「「「キィェェァァ!?シャベッタァァァァァ!!?」」」」
スパークドールズが喋るとは露程にも思わず、俺達は驚きのあまり椅子から転げ落ちた。
「くっくっく・・・驚きすぎじゃないか?」
『私だって喋るぞ!そんなに驚く事は無いではないか!!』
お、驚かない筈ないでしょうが・・・!
今の今まで、スパークドールズから直接意思を感じた事なんて無かったんだ。
それに加えて、こうもハッキリ喋られたらそれこそビビるわ!!
「す、すみません・・・!貴方は・・・?」
なんとか驚愕から抜け出して、俺は思いっきりぶつけた臀部をさすりながら席に着いた。
腰がすごく痛いです、ハイ。
『私はタロウ、ウルトラマンタロウだ、M78星雲光の国のウルトラマンだ。』
「ウルトラマン、タロウ・・・?覚醒したんですか・・・?」
確か、Xが光の国、ウルトラマンたちの故郷について話していた時に聞いたな・・・。
M78星雲、光の国・・・。
そこ出身のウルトラマンが今、目の前にいる事自体が驚きだが、その意思と話せるとは思っても見なかった。
『うむ、とは言え、ウルトラ念力も満足に使えぬ、中途半端な覚醒だ、とてもではないが、戦う事すら出来ん・・・。』
「そう、ですか・・・。」
悔しいだろうな。
彼も、いや、彼こそ本当のウルトラマンなんだ。
この地球が、この街が脅威にさらされてるって言うのに、自分は指を咥えて見ているだけ。
自分の力を失っても、まだ動き回れる先生以上に、動くことさえ出来ずにただ見ているだけなのは想像を絶する苦痛以外の何物でもないだろう。
『だが、気落ちしている暇など無い、ギンガ、君に私達封印されたウルトラマンの力を託したい!』
「ウルトラマンの、力・・・?それって、リーカさんが俺達にしてくれた事を?」
嘗て、俺と沙希、そして彩加は一足早く覚醒していたアストレイメンバーのウルトラマンから、それぞれ力を託されていた。
その力があったからこそ、俺達はコルネイユに勝つ事が出来た。
その力の恩恵は大きく、俺達の道筋を照らしてくれたんだ。
だとすれば、封印されているウルトラマンの貸してくれると言う事になる。
それは、これ以上にない心強い手助けに他ならなかった。
『一夏が集めてくれた4人のウルトラマンと、私と共にいたウルトラマン、この6人の力を一つに集中させる!その力で、この世界を救ってくれッ!!』
自分が出来る事を、この偉大な先人もやろうとしている。
なら俺は、それを受け止めて、正しく使う義務がある。
そう思いつつ、俺は両隣にいる心強い仲間達を見た。
沙希、彩加、そして大志。
俺の仲間であり、大切な人達。
俺が力の使い方を間違えたせいで傷付けあった事が有った。
あの時の苦しさは、今も忘れる事が出来ない程だ。
あの経験があったからこそ、俺は大切な物を知れたし、護りたいと思う事も出来た。
だからもう、力の使い方は間違えない、間違えたくない。
もう二度と、大切な人を傷付けてなるモノか!!
その決意を籠めて、俺は三人に頷き返す。
「分かりました、この世界に生きる人達を、俺が、いえ、俺達が護る、ウルトラマンとして!!」
『うむ!良い眼だ!!君にならば託せるだろう!我々の、この世界の未来を!!』
八幡の強い意志を汲み、タロウは見事と言わんばかりに讃えた。
ウルトラマンとしての心構えが、彼に根付いている事を確かめる事が出来た事が何よりも喜ばしかったのだろう。
「八幡君、ギンガスパークを出してくれ、力を与える儀式に入る。」
「はい!」
先生に言われた通り、俺は懐よりギンガスパークを取り出し、カウンターに置いた。
間髪おかず、先生はギンガスパークの周りにスパークドールズを一体ずつ置いていく。
「ウルトラマンタロウ、ウルトラマンネオス、ウルトラセブン21、ウルトラマングレート、ウルトラマンパワード、そして、ウルトラマンゼアス。」
ゆっくりと、一体ずつ名前を呼びながら、彼は仲間を紹介するように置いて行く。
それほどまでに、封印されたと言えど。嘗て共に戦った仲間の事を思っているのだろう事が窺えた。
「沙希ちゃん、彩加君、大志君、君達の力も借りたい、ウルトラ念力を使ってタロウをサポートしてくれ。」
「「「はい!」」」
先生の言葉を受けて、三人はウルトラ念力を使用するための構えを取る。
どうやら、ウルトラマンたちの意識を一時的にでも回復させるには、外部からの刺激が必要なんだろうな。
そうじゃなきゃ、ウルトラ念力なんて使わせんわな。
『ウルトラの勇者たちよ!ギンガに力を!!』
タロウの掛け声と共に、沙希達もウルトラ念力をスパークドールズに向けて発する。
その瞬間、6人のウルトラマンの身体が光に包まれる。
その輝は力強くも温かく、大きな存在を思わせるものだ。
そう、これはまるで太陽の輝き、光の力だった。
その優しくも温かい光の奔流に、俺もまた包まれて行った。
その中に確かに在る、6人の勇者たちの存在を、しっかりと感じながらも・・・。
sideout
次回予告
ウルトラの勇者に託された力と誓いを胸に、八幡の新たな戦いは幕を開ける。
次回やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている
比企谷八幡は太陽の輝きを知る 後編
お楽しみに