やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている   作:ichika

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川崎沙希は光と出会う

side沙希

 

「青い巨人?なにそれ?」

 

その話題が出たのは、夏休み前半のある日の昼の事だった。

 

この日、あたし達はアストレイの店の手伝いをすると言う名目で、店の端の方の席で学校の課題を終わらせるべくシャーペンを走らせていた。

 

文系科目が元から強かった八幡と、理科好きの彩加、それと全科目がそれなりに出来るあたしがいるからか、分からない問題も、三人の内の誰かが解き方を教えてあっさりと片付いちゃうからか、朝イチは手付かずだった課題も半分が終わっているって言う状態だった。

 

今日一日、若しくは明日ぐらいで課題は全部終わるだろうし、残りの夏休みも修行に充てられるね。

 

とは言え、大学進学とかにも関わってくるから、流石に自習とか予備校での勉強もあるけどね。

 

っと、そんな事はどうでも良いか、

 

「初耳だね、何処で聞いたの?」

 

青い巨人って、ウルトラマンの事かな?

だとしたら、あたし達の知らないウルトラマンが現れたって言うのかな?

 

「昨日、ネットサーフィンしてる時にたまたま見つけたんだ。」

 

そう言って、八幡はカバンから印刷したであろう紙を取り出し、あたし達に見せてきた。

 

何処かのニュースサイトなのか、そこには鎧を纏う青い身体を持ったウルトラマンが写された写真が掲載されていた。

 

「この前、雪ノ下のお姉さんと会った日、俺達とは違う場所で戦ってたみたいだ、どんな怪獣と戦ってたかは分からなかったけどな。」

 

「そっか・・・、でも、誰が・・・?」

 

具体的な日付よりも、どんな奴が変身しているのかも気になるね。

だって、そうじゃないと協力できるかどうかも分かったもんじゃないからね。

 

『青いウルトラマンか・・・、そう言えば、聞いた事が有る。』

 

「何か知ってるの?」

 

唐突に口を開いたXに、彩加はエクスデバイザーをあたし達に見える様に置きながらも尋ねた。

 

確かに、同じウルトラマンであるXに聞けば詳しい事だって分かりそうだね。

 

『私を含め、ギンガやビクトリーなど一部の例外を除いて、ウルトラマンの大半がM78星雲に在るウルトラの星の出身なんだ、ウルトラの星にはシルバー族、レッド族、ブルー族の三種族のウルトラマンたちが存在していると聞いた。』

 

「三種族のウルトラマン・・・?どう違うの?」

 

ウルトラマンの故郷って事なのかな・・・?

でも、三つも種族があるなら、それはそれで気になる所だね?

 

人間の肌みたく、外見だけの違いじゃあなさそうだしね。

 

『シルバー族とレッド族は、ウルトラマンとしての戦闘に秀でた種族だ、特にレッド族のパワーは凄まじいものが有る。』

 

「へぇ、じゃあコイツみたいな青い身体のウルトラマンは?」

 

Xの言葉に興味を持ったのか、八幡は印刷してきた紙を見せていた。

 

確かに、このウルトラマンがウルトラの星出身なら、ブルー族に相当するだろうからね。

 

『このウルトラマンがどの星の出身なのかは分からないが、ブルー族は主に人間で言う科学者に相当する、普通ならば直接戦う様な種族では無い筈だが・・・。』

 

「えっ・・・?」

 

科学者って、それって研究職って事だよね?

そんなウルトラマンがいる事にも驚きだけど、そんなウルトラマンが戦うなんて考えられないな・・・。

 

スパークドールズから戻ったのか、それとも、あたし達みたいにウルトラマンに直接選ばれたのかは分からないけどさ。

 

『私もウルトラの星がある宇宙出身じゃないからな・・・、このウルトラマンが実際に戦っている所を見た事は無い、私が会った事が有るウルトラマンは、始まりの巨人、ウルトラマンのみだ。』

 

「始まりの、巨人・・・?」

 

「ウルトラマン・・・?個体名は無いの?」

 

ウルトラマンって、一つの括りだと思ってたけど、実際はどうなんだろ?

Xの話を聞く限りじゃあ、一人の男に行きついちゃうみたいだけど・・・?

 

『さまざまな宇宙に、その伝説は残されている、私も一部しかその伝説を知らないがな・・・。』

 

「ホント、宇宙って無限なんだな・・・。」

 

改めて実感させられるよ。

本当に、こんな地球の片隅で、自分のプライドや学校での立場が如何とかなんて、ちっぽけでくだらない事みたいに思えてくるよ。

 

そう思っていた時だった、店の入り口のドアが開いて誰かが入ってきた。

 

「こんにちは~、って、姉ちゃん?」

 

「大志?」

 

それは、あたしの弟である大志だった。

 

「なんでここに?」

 

「えっ?いや、涼みたくなっちゃってさ~。」

 

はぐらかす様に答えられたからか、あたしはどうしても違和感を拭えなかった。

 

あたしン家からそれなりに離れてるんだけどね、ここ・・・?

 

「あ、お兄さんも一緒なんっスね、御久し振りっす。」

 

「大志・・・、久し振りだな・・・。」

 

声を掛けられた八幡は、どこか目を合わせようとはせずに応じていた。

 

・・・、やっぱり、あの時の事を・・・。

あたしの中ではもう解決したつもりだったけど、やっぱり、当の本人に会っちゃうと何も感じない訳にはいかないよね・・・。

 

「いらっしゃい大志君、これでも飲んでくれたまえ。」

 

何時の間に現れたか、宗吾さんが二人の間に立って、新メニューの特製ミックスジュースを差し出していた。

 

すごく、美味しそうな色ですね・・・。

あたしにもください。

 

「あ、宗吾さん!どうもッス!やっぱ美味しいッスね!」

 

この店のメンバーとも言葉を交わせるぐらいの関係って事は、此処に来るのも初めてじゃないってことか・・・。

 

だとすれば、何時大志はここに・・・?

 

「大志、アンタ・・・。」

 

何しに来たのと問いかけようとした、まさにその時だった・・・。

 

突如として地震の如き揺れが襲いかかってきた。

だけどそれは一瞬で収まり、地震なんかじゃ無い事をあたし達に告げていた。

 

まさか、こんな頻繁に・・・!?

 

「ッ・・・!!」

 

「大志!?」

 

あたしが立ち上がるよりも早く、大志は切羽詰まった様な顔をして店を飛び出して行く。

 

あの感じ、まさか・・・!?

 

嫌な予感がして、あたしは大志を追って外に出た。

 

見ると、街の方に怪獣が現れていた。

平べったい五角形みたいな身体を持ったソイツは、飛び跳ねる様に動きながら街を進行していた。

 

くっ・・・!どうも最近、怪獣があっちこっちに頻出するようになってるね・・・!!

 

やっぱり、例の闇の支配者が蘇りつつある影響なのか・・・!?

 

けど、今はそんな事を気にしちゃいられない!!

今は大志を連れ戻さないと・・・!!

 

大志は店の前の道路の反対側、反り立った崖に面した方にいた。

 

その背中からは、何か覚悟の様な意志が伝わって来て、あたしはまたしても妙な既視感を憶えてしまう。

 

「大志・・・!それは・・・!!」

 

呼びかけようとしたけど、あたしはそこで気付いてしまった。

大志の右腕に、青いブレスの様な物が着いている事に・・・。

 

「アンタ、まさか・・・?」

 

あたしに気付いたか、大志は首だけで振り向き、決意を籠めた目をして頷いてきた。

 

やっぱり、アンタも、ウルトラマンに・・・。

 

大志はもう一度街の方へと向き直り、ブレスの上部を抜刀するように引き上げ、納刀の要領で戻した。

 

するとブレスから青い光が溢れ、大志の身体を包んで行く。

 

それが晴れた時には大志の姿は無く、怪獣の前に立つ青い巨人の姿だけがあった。

 

八幡に見せて貰った記事と同じ、鎧を纏った青い巨人。

彼もまた、あたし達の様に戦ってたんだね・・・!

 

「ハンターナイトツルギ、またの名をウルトラマンヒカリと呼ぶ、M78星雲出身のウルトラマンの一人だ。」

 

「宗吾さん・・・。」

 

「一週間ほど前、大志君がヒカリに選ばれた、それ以来彼は、俺達の所で鍛えながらもずっと戦ってくれてるんだ。」

 

あたしの傍に立った宗吾さんの口から語られる話は頭を素通りしていくばかりだった。

 

どうして大志までウルトラマンになってしまうのか・・・。

どうしてこうも、あたし達の周りには戦いが溢れてしまうのか・・・?

 

理由なんてない筈の憤りが、あたしの中に渦巻いていた。

 

「・・・、あの怪獣はベムスター、腹の口は何でも呑み込む、無論光線もだ、気を付けてな。」

 

でも、呆けている場合じゃないと言わんばかりに、宗吾さんはあたしに耳打ちした。

 

そうだった・・・、あたしにも役目はあるんだ。

この街を、大切な家族を護りたいから戦ってるんだ。

 

今はそんなくだらない理由なんてどうでも良い!!

 

「行きます・・・!!大志ばっかり戦わせるわけにはいかない・・・!!」

 

ビクトリーランサーを取り出し、あたしはウルトラマンへと変身する。

 

大志と共に戦う為に、この街を護るために・・・!!

 

sideout

 

noside

 

『ハッ・・・!』

 

ツルギに変身した大志はその右腕のブレスより光の長剣、ナイトブレードを展開して怪獣、ベムスターへと向かって行く。

 

ベムスターは宇宙大怪獣と呼ばれるほどの怪獣であり、その腹にある第二の口で何でも呑み込んでしまう厄介な怪獣だ。

 

その対象は有機物に限らず、エネルギー体で在る筈の光線すら呑み込んでしまうのだ。

 

それを知ってか知らずか。それとも自身の得意とする戦闘スタイル故なのかは定かではなかったが、ツルギは拳や蹴りを織り交ぜながらも、ナイトブレードで的確にダメージを与えていく。

 

その切れ味は鋭く、ベムスターの強固な皮膚にも傷が付き、ダメージにベムスターものたうちまわていた。

 

『これでっ・・・!!』

 

相手が怯んでいる隙にトドメをと思ったか、彼はナイトブレードに更にエネルギーを集中させ、一気にベムスターへと迫った。

 

しかし、それでやられるほどベムスターも甘くは無い。

頭部に申し訳程度についていたトサカの様なツノからビームの様な光線を連続して発射し、ナイトブレードを巧く弾き飛ばした。

 

『ウっ・・・!?』

 

意表を突かれ、ツルギは大きく吹き飛ばされてしまう。

 

その間にベムスターは体勢を立て直し、今までのお返しと言わんばかりに、腹部の口を開いて彼に迫って行く。

どうやら、邪魔なウルトラマンを先に喰って無力化してやろうという魂胆なのだろう。

 

だが・・・、

 

『でぃぃやっ!!』

 

上空より急降下しながらも、ビクトリウムスラッシュを纏った蹴りをベムスターの頭部に叩き込んだ。

 

『もう一発!!』

 

反動を利用し、空中で一回転し、回し蹴りの要領でもう一発蹴りを叩き込み、大きくベムスターを吹っ飛ばす事に成功した。

 

『ウルトラマン・・・?』

 

自分を庇う様に降り立ったウルトラマンビクトリーに、大志は驚いた様にその背中を見詰めた。

 

『待たせたね、大志!!』

 

『その声・・・!?まさか、姉ちゃん!?』

 

自分に向き直る沙希の声に、大志は驚いた様に立ちあがった。

まさか、姉も自分と同じウルトラマンだとは夢にも思っていなかったのだろう、その驚愕は計り知れなかった。

 

『驚いてる暇が有ったら早く戦いな!後で説明してあげるよ!!』

 

『わ、分かったよ!!』

 

早く戦えと言わんばかりの先に返しつつ、大志はもう一度ナイトブレードを展開した。

 

『ウルトランス!エレキングテイル!!』

 

ウルトランスでエレキングテイルを呼び出した沙希は、一気にベムスターに迫り、首にテイルを巻き付けて拘束、ベムスターの動きを封じた。

 

『今だよ!!』

 

『おう!!』

 

沙希の合図に、大志は一気にベムスターとの距離を詰め、その腹の第二の口を切り裂いた。

 

その切れ味は凄まじく、最早使い物にはならない事が窺えた。

 

『よっし!』

 

『トドメだ!!』

 

ベムスターを蹴り飛ばした二体のウルトラマンは、それぞれ必殺光線の体勢を取った。

 

『ビクトリウムシュートッ!!』

 

『ナイトシュート!!』

 

二条の光線が迸り、ベムスターの切り裂かれた腹部に直撃、吸収される事なく突き刺さり、内側から盛大に爆ぜた。

 

それは、脅威の一つが消えた、何よりの証だった。

 

『戻るよ、大志。』

 

『お、おう・・・!』

 

しかし、喜ぶ間も無く沙希は変身を解き、それを追って大志も変身を解いてアストレイ前まで戻って来た。

 

両者とも、険しい表情で互いに向き合い、言葉を発しようとしなかった。

 

「なんで、ウルトラマンになったかは、もう聞かないよ、あたしとアンタは姉弟なんだ、受け入れるよ。」

 

「姉ちゃん・・・?」

 

諦めた様に、だがそれでいて認める様な言葉に、大志は戸惑った様に姉を呼ぶ。

 

なぜウルトラマンなのか、何故戦っているのか。

聞きたいことが山ほどあって、言葉に表せずにいた。

 

だが、沙希はそれを優しい笑みで制し、その先を告げさせなかった。

 

「説明するよ、あたしの友達も紹介したいところだしね。」

 

「どういう、こと・・・?」

 

その意味深な言葉を訝しみ、大志は言葉に詰まった。

 

意味を知らなければ、聞き返すのも無理はない。

だが、大志は確信していた。

 

姉が、自分よりも何歩も先を言っていると言う事を・・・。

 

「付いて来な、八幡達にも教えときたいしね。」

 

「わ、分かった・・・!」

 

踵を返し、アストレイの店内に入って行く先を追い、彼もまた店内へ脚を踏み入れた。

 

その先に待つ未来を、真実を知るために・・・。

 

sideout




次回予告

川崎大志の正体を知り、動揺する八幡達。
しかし、それは新たな戦いの幕開けに過ぎなかった。

次回やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている

比企谷八幡は太陽の輝きを知る

お楽しみに

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