やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている   作:ichika

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雪ノ下陽乃はその男と出会う

noside

 

「はちまーん!沙希ちゃーん!」

 

夏休み最初の土曜日、八幡達三人は湾岸エリアに在る商業施設まで出かけていた。

 

この日、一夏は部活を休みにすると宣言し、八幡達三人に夏休みを満喫するように通達した。

 

それは、彼が八幡達の仲を気遣った想いの一つでもあったのだから。

 

「はしゃいでる彩加も可愛いな。」

 

「ホントだね、写メ撮らなきゃ。」

 

来て早々にはしゃぐ彩加の様子を微笑ましく見ながらも、八幡と沙希は自身の携帯を取り出してその姿をカメラに収めていた。

 

彩加がはしゃいでいるのは、初めて大好きな友と出掛ける事が叶ったのだ、気分が高揚しないと言えばウソになるのだ。

 

今日は特に用事も無く、ただ気ままにブラブラとショッピングモール内を散策する事にしたようで、三人はゆったりとしたペースで歩いて行く。

 

「もう!ふたりともやめてよ~!」

 

「「ゴメンゴメン!つい可愛くて!!」」

 

『このパターン、何度目だ?』

 

むくれる彩加に頬を綻ばせながら謝る八幡と沙希に呆れるXという様式美が既に彼等の間では完成していた。

 

最早、その関係が出来上がり、それが自然体となっている程に、彼等の仲は深く、掛け替えの無い物になっているのが窺えた。

 

「ふぅ、彩加の輝きも堪能したし、何から見て回る?」

 

「そうだね、服から見て回る?フリッフリのやつ。」

 

「それ僕に着せるつもりなの!?」

 

コロコロと表情を変える彩加の様子に満足したか、八幡と沙希は恍惚の表情を浮かべて先に歩き始める。

 

その背中からは分かり切っているだろと言う色が滲み出ており、彩加もまたそれを感じ取って、仕方ないと言わんばかりに彼等を追った。

 

形だけなどでは無い、心から信頼し合っている、分かり合っていると思わせる何かが、その光景からは窺う事が出来た。

 

だが・・・。

 

「ひゃっはろ~、そこの三人~。」

 

それを邪魔する者も、当然ながらいるのだ。

特に、最近の八幡や沙希は、師である一夏達に似て来たか、恨みを買う事が徐々に増えていたのだから・・・。

 

「「「はい?」」」

 

三人が揃って振り向くと、そこにはミドルヘアーの黒髪を持つ、大学生ぐらいの年齢と思しき女性が彼等を見据えていた。

 

その表情は、並の人間ならば人懐っこい笑みを浮かべていると思えるであろう笑みが張り付いていたが、三人にしてみれば、それすら紛い物にしか見えてこなかったようだ。

 

「・・・、どちら様で?」

 

だが、ハッキリ言ってしまえば、八幡達にとってその女性は全く見知らぬ相手であったし、呼び止められる理由もない筈だ。

 

「キャッチセールスなら間に合ってますよ?何売りつける気なんです?」

 

「あははっ、そんなつもりなんて無いよ、私は見に来ただけだよ、雪乃ちゃんが全く敵わなかった君達をね?」

 

暗に帰れと言われた事を気にもせず、その女は笑って見せた。

 

そして、宣戦布告にも似た何かを、彼女はお返しと言わんばかりに投げ付けたのだ。

 

「「「雪乃・・・!?」」」

 

その女の口から語られた名に三人は・・・。

 

「「って、誰だっけ・・・?」」

 

「えっ。」

 

「ちょっ、二人とも・・・!?」

 

八幡と沙希が全く覚えに無いと言わんばかりに拍子抜けした表情になり、逆に女の方が驚いて、彩加が慌てて諌めに入ると言う摩訶不思議な展開になった。

 

その女にとって、思っても見なかった反応が返って来たのだ。

本来ならば、雪乃の名前を出して相手の思考を驚愕で硬直させ、その反応を見て楽しむつもりだった。

 

だが、今の状況はどうだ?

身に覚えがない、ついでに邪魔だと言わんばかりに返されてしまっているではないか。

 

たかが一介の高校生風情に何をやっているのだと、彼女自身焦りを抑えられなかったのだろう。

 

「ゆ、雪ノ下雪乃を、し、知らないの・・・!?」

 

「「あっ、雪ノ下の事か。」」

 

「今更過ぎるッ!?」

 

本当に知らないのか確かめるように聞くと、八幡と沙希は思い出したようにそう言えばと言う様な表情をし、彩加はそれに突っ込みを入れていた。

 

煽るにしてももっと違うやり方は無いのかと言いたいのか、少し疲れた様な表情をしている事が窺える辺り、彩加も彩加で苦労しているのだろう。

 

「し、知ってるんだね・・・!?知ってるんだね・・・!?」

 

「そりゃ部の備品扱いされりゃ嫌でも・・・、って、なんでそんなに必死なんスか?」

 

涙目になって良かったと言わんばかりに安堵のタメ息を吐くその女に、八幡はしかめっ面ながらも尋ね返した。

 

「はっ・・・!そ、そうだった・・・!きょ、今日は雪乃ちゃんとケンカした君達三人を見に来たんだよ!!」

 

「ケンカって、一方的に向こうが絡んで来てるだけですよ・・・?」

 

「というより、貴女は・・・?」

 

そんな事を言っている場合では無かったと思い出した女性に、八幡は呆れつつも絡んでくる理由を、沙希はその女性の正体を尋ねていた。

 

目的を知るには、まず相手の正体を知る必要がある、それに思い至ったのだろう。

 

「ふ、ふふーん!聞いて驚かないでよ~?私は雪ノ下陽乃!雪乃ちゃんの姉だよ!!」

 

「「「ッ・・・!?」」」

 

漸く話を勧められると言わんばかりに名乗りを上げた女、雪ノ下陽乃の宣言に、八幡達三人は驚いた様に目を丸くした。

 

その様子に気を良くしたか、陽乃は笑みを深くし、言葉を続けようとした。

 

だが・・・。

 

「「「あっ・・・。」」」

 

「へっ・・・?」

 

何かを察した様な三人の表情と間の抜けた声に、彼女はまたしても語りを遮られる形となった。

 

「あ、あの、お姉さん・・・。」

 

「悪い事は言いません、早くあの妹と縁切った方が良いッスよ・・・。」

 

「ファッ・・・!?」

 

遠慮がちに言う彩加と、ばっさり言い切った八幡に、陽乃は何処からそんな声が出るのか分からない様な声を上げた。

 

宣戦布告しに来たつもりが、まさか縁切りを勧められるとは思っても見なかったのだろう。

 

「ちょっ・・・!?な、なんで・・・!?」

 

その理由を尋ねようと、余裕全てが吹っ飛んだ声で尋ねる陽乃に、八幡達は更に憐憫にも似た目を向ける。

 

知らないって残酷なんだなぁ・・・。

自分達の過去の経験と、目の前の彼女を照らし合わせて、救ってやりたいと言う気持ちが出てきているのだろうか・・・。

 

「いや、お姉さんも苦労してるんじゃないですか・・・?」

 

「あんな敵ばかり増やす様な発言、家でもやってるんじゃないんですか・・・?」

 

「そ、そんな事はな・・・、くないか・・・。」

 

八幡と沙希の、現実を見て逃げろと言わんばかりの声色に、否定しようとした陽乃は、雪乃の言動を思い出して、自分のせいだと感じていた。

 

雪乃の周囲にきつく当たる原因を作り上げたのは、紛れも無く姉である陽乃へのコンプレックスが原因である事は気付いていた。

 

だが、雪乃がそれを暴走させて、寧ろ元凶である自分が心配される状況になるとは全く以て想像もしていなかったのだろう。

 

故に、陽乃は頭を抱え、どうしたモノかと悩んでいた。

 

「そういう訳なんで、お姉さんも寝首掻かれない様に気を付けて下さいね?」

 

「それじゃあ、僕達これで失礼します。」

 

「あ、うん、ありがと・・・?」

 

陽乃を気遣う言葉を残して立ち去ろうとする八幡達三人を見送るように手を振るが、何か腑に落ちないように表情を顰めた。

 

その様子は、何処か悩ましげな表情を浮かべる絵画の美女の様な色気を放っていたが、今の彼女を傍から見れば、完全に目的を忘れてしまっている残念な人にしか映らないのだろうが・・・。

 

「って、違う、そうじゃないんだよぉ!待ってっ!!」

 

喧嘩を売りに来たと言う本来の目的を思い出したか、彼女は手を伸ばして三人を呼び止めようとした、まさにその時だった。

 

突如として、ショッピングモールが面していた海より、巨大な何かが海水を巻き上げながらもその姿を現した。

 

その怪獣は、緑色の体皮を持った、何処かイルカやクジラなどの海生哺乳類を二足歩行にすればそうなるであろうと言う印象を受ける怪獣だった。

 

名はレイロンス、動物的な動きとパワーで相手を翻弄するタイプの怪獣だった。

 

「あ、あれは、か、怪獣・・・!?」

 

その怪獣の姿に、陽乃は恐怖に慄いた。

 

自分よりも強大で、制御の利かない暴虐その物。

自分如きでは、為すすべなく蹂躙されるのがオチだった。

 

「あ、あぁ・・・!」

 

逃げなければいけない事は分かっている。

だが、彼女の身体は言う事を聞かないのか、脚が震えて動けなかった。

 

だが、そんな彼女を庇う様に、銀色の巨人が姿を現す。

 

その巨人の名は、ウルトラマンX。

人類を救うために舞い降りた、光の超人だった。

 

「ひっ・・・!」

 

だが、それすらも彼女には恐怖にしか映らない。

何せ、彼女はウルトラマンが争い、周囲を破壊する様子を、彼女は間近で見せられていたのだから。

 

そんな彼女の目の前で、ウルトラマンXとレイロンスは激しい戦いを繰り広げる。

 

身体を大きく使った攻撃を繰り出すXに対して、レイロンスは跳ねるように動きながらもカウンターの様に体当たりを喰らわせる。

 

『ウァァァッ・・・!!』

 

大きく撥ね飛ばされたXは宙を舞い、陽乃より少し離れた場所に落ちる。

 

その衝撃は凄まじい突風を巻き起こし、離れていた筈の陽乃さえ襲った。

 

「きゃあぁぁぁっ・・・!?」

 

その凄まじさに、陽乃は悲鳴を上げた。

巻き上げられた粉塵が、彼女の肌を掠めていく。

 

そんな彼女の事などお構いなしに、Xは再び立ち上がり、レイロンスに向かって行く。

 

右腕に光を集めた攻撃がレイロンスに炸裂し、その威力によってレイロンスは悶える様にのた打ち回る。

 

「あ、あぁ・・・!」

 

自分の事など、まるで蟻のようにしか思っていないその姿に、更に恐怖が湧きあがってくる。

 

まさに、圧倒的な存在。

腹に秘める底知れなさだけで周りを喰っているだけの彼女とはまるでと違う。

 

誰にも逆らえない、圧倒的なまでの暴力。

知略も策略も、その何もかもを一瞬にして無に帰す、それほどまでの圧倒的な破壊がそこにはあった。

 

その圧倒的な暴力に恐怖し、動けずにいる陽乃を尻目に、Xはレイロンスの頭のトサカの様な物を掴み、圧倒的な力にモノを言わせた、豪快に投げ飛ばした。

 

それは運悪く、動けなかった陽乃の近くにあったビルに身体の一部が直撃した。

 

「ッ・・・!!」

 

彼女の目の前で、ビルが大きく崩れ始め、瓦礫が彼女を目掛けて落ちてくる。

 

その大きさたるや、当たればまず助かる事は不可能だった。

 

「き、キャァァァぁっ・・・!?」

 

腰が抜け、へたり込んでいた陽乃が逃げる事が出来ず、ただ、押し潰される未来を待つだけだった。

 

だが・・・。

 

一迅の風が吹き抜けるかの如く、彼女の身体が一瞬にして抱きかかえられ、一気に数十メートル離れた場所まで運ばれていた。

 

「・・・、へっ・・・?」

 

潰される事を覚悟し、目を瞑っていた彼女が間の抜けた声を漏らしつつ目を開けると、そこには短く切りそろえた金髪を持った男性が、彼女を抱きかかえていた。

 

西洋系の出身の容姿を持ち、背も高く、目を見張る程のイケメンと言う訳でも無いが、それでも人目を引く美しさと気高さが同居していた。

 

そんな彼の背後で、墜ちて来た瓦礫が地に落ち、盛大な爆音と地響きを巻き起こしたが、彼女達には全く以てそよ風以外の何物でもなかった。

 

「え、えっ・・・?」

 

「大丈夫か?」

 

困惑する彼女に、その男性はぶっきらぼうながらも大丈夫かどうかを尋ねていた。

 

「は、ハイ・・・、何とも無いです・・・!あ、ありがとうございます・・・!」

 

「そうか、よかった。」

 

「ッ・・・!!」

 

何とも無いと返す陽乃に、その男は柔らかく微笑んだ。

 

その笑みに引き込まれたか、陽乃は顔を赤くして絶句した。

 

その安心させる様に深く、慈愛に満ちた強く、優しい笑みを知らなかったからか、それとも、もっと単純なモノか・・・。

 

そんな彼女を優しく地に降ろした後、その男は微笑みを残して踵を返した。

 

「あっ・・・!ま、待って・・・!せ、せめてお名前を・・・!!」

 

手を伸ばし、せめて名前だけでも知りたいと思ったのか、彼女はその男を呼び止めた。

 

だが、それをした彼女自身が一番驚いているのか、伸ばされた自分の手を驚愕の目で見ていた。

 

「コートニーだ、何かあったらうちの店をよろしく。」

 

だが、彼は振り向く事無く、名刺サイズのカードを彼女の目の前に投げ今度こそ手を振って歩き去った。

 

彼の姿が見えなくなったころには、既に怪獣も倒されていたのだろう、辺りは静寂に包まれていた。

 

だが、彼女にはそんな事などまるで関係なかった。

彼女の頭を支配していたのは、颯爽と現れ、自分を窮地から救った一人の男の存在なのだから。

 

「か、かっこいい・・・!!」

 

その姿が目に焼き付いて離れないか、彼女は赤い顔のまま表情を輝かせた。

 

感じた事の無い胸のトキメキ、気分の高揚、その全てが甘美な果実よりも彼女の五感全てに語りかけていたのだ。

 

「コートニー・・・!素敵な人だったなぁ・・・、よっし、決めた・・・!!」

 

惚けていたのも束の間、彼女の目に強い意志が宿った。

 

「絶対に見つけて見せる!この雪ノ下陽乃に出来ないことはないんだからね!!」

 

絶対にもう一度会って、今日の礼をしたい。

 

それだけでないことに気付いてはいないが、それでも彼女は進んでいく。

 

それが自分がやるべき事だと信じて・・・。

 

sideout




次回予告

青き巨人との邂逅は沙希に新たなる力をもたらした。
それは友と歩むために、仲間と歩むためにあるのだと。

次回やはり俺の青春にウルトラマンがいるのは間違っている

川崎沙希は光と向き合う

お楽しみに!

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