やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている   作:ichika

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比企谷八幡はその女と出会う

side八幡

 

「これで今日の数学Ⅱの授業を終わる、課題は出さないが、しっかりと復習しておくように。」

 

俺が彼、織斑一夏と出会った次の日、数学の授業で彼は教鞭を取っていた。

 

黒のスーツで決めている織斑先生は正にイケメンそのもので、女子生徒の中には彼の容姿に見惚れて授業を聞いてるのかすら怪しい奴まで見受けられた。

 

まぁ、顔だけ見てればマジでカッコいいとは思うけど、その裏で暗躍していると考えると薄ら恐ろしいものが有る。

 

けど、俺に味方してくれると公言してくれているから、信用できるけどな。

 

一応、数学の内申点はくれるとは言われていても、何か有った時に頼れる奴が周りにいないので、ノートだけは真面目に取っておく。

全くもって理解出来ない、訳ではないか・・・。

 

前の里中とかいう先生よりも教え方は上手いと思うし、何より簡略化して分かり易く伝えて来ている。

特に公式は分解して再構築しろって考えは面白いし、何より俺の性に合う。

 

頭の良い人にしか出来ない教え方だなぁと感心させられるもんだよ。

 

イケメンで強くて頭が良いなんて、キライじゃないわ!!

・・・、なに言ってんだ俺は・・・。

 

とはいえ、あまり学内で、人目に付くトコで声かけてくるような真似はしないだろうと予想する。

彼が俺を、というより、俺の性質を見てくれているなら、それも有り得るだろう。

 

ってなわけで、授業も終わったし、俺はスネークさせてもらうぜ!

・・・、購買行ってパンとマッ缶買うだけですけどねー・・・。

 

誰にも気取られずに教室を出て、廊下を小走りで進んで行く。

 

けど、授業終わりウチのクラスより早かったからか、廊下には数名のリア充がいて、訳も無くはしゃいでいる様だった。

 

勝手に騒ぐのは良いが、通行の邪魔になっているのにも気づかないのはどうかと思う。

そこのカップル、少しふくよかな女子生徒二人が凄い目で睨みながら避けて通ってる!

 

まぁでも、分かるぜその気持ち、俺も似た様な状況なら同じ気持ちになる。

 

要するに、リア充爆発しろ!

 

イイね、この決め台詞!!今度から流行らせよう!!

乗ってくれる友達なんていませんけどねー・・・。

 

そんなくだらない事を考えていると、人気の無くなった場所に来ていた。

さて、購買まであと少し、さっさと行ってさっさと離脱だ。

 

足を速めようとしたまさにその時だった、廊下の角から、その男は姿を現した。

 

「やぁ八幡君、昨日はお疲れさん。」

 

「うわっ・・・!?」

 

び、ビビった・・・!全く気配を感じなかった・・・!

それどころか、物音一つ立てずに現れるってどういう事だよ、ゴーストか。

 

「ど、どもっす・・・、ってか、待ち伏せするにしても早すぎません・・・?」

 

なんとか上擦った声のままで挨拶するが、彼は笑顔で頷くだけだった。

 

ここはちょうど、購買まで行く道の間辺りで、そこそこ人通りの少ない場所だけど、教室から来るには他に通路も無い筈なんだけどなぁ・・・。

 

それに、教室出る時、この人まだ教壇にいた様な気が・・・。

 

「気にするな、俺は神出鬼没、何処からでも現れて何処へでも消えれる、まぁ、冗談はさておき、これやるよ。」

 

茶化す様に語る先生は、何処か子供じみていて楽し気だった。

悪戯好きなんだろうか、この人は・・・。

 

というより、冗談に聞こえねぇよ、貴方レベルの人間は何やっても当然みたいに思えちまうよ。

 

そんな事を考えていると、俺の手に弁当箱を入れた包みが手渡された。

結構な量が入っているらしく、それなりにずっしりと重かった。

 

「これ、弁当ですか・・・?」

 

確認するように尋ねると、先生は何処かおかしそうに笑いながらも説明してくれた。

 

「シャルが作ったんだ、彼女もウルトラマンでね、君と話をしてみたかったらしいが、昨日君と会えなかったのがよっぽど悔しかったらしい、挨拶代わりに渡せって言われてな、遠慮せず受け取ってくれ。」

 

マジかぁ・・・、ISキャラの手作り弁当食えるって相当恵まれてるんじゃね俺?普通ねぇぜこんな事?

幸せって何だっけ何だっけ~?

 

ん?でも、なんで先生はシャルロット・デュノアと繋がりがあるんだ?

先生の奥さんはセシリアの筈・・・、他の女と関係持ってたらそれこそヤバい様な・・・?

 

「シャルって・・・、シャルロット・デュノアの事ですよね・・・?先生のなんです・・・?」

 

「嫁だ。」

 

「一夫多妻!?」

 

まさかのハーレム!?いや、二股・・・!?

しかもその二人選んだのかこの人は・・・!凄いセンスしてるな・・・!!

 

驚きに開いた口が塞がらない俺を見て、先生は苦笑とも照れ笑いとも取れる笑みを浮かべながら話し始めた。

 

「まぁ、この世界の一般的な感覚に馴染まないのは知ってるさ、けど、昔っからの関係を今更変えるなんて出来やしない、変えなくて良いトコは変えない、それが俺のモットーなんだ。」

 

これは、苦笑じゃなくて照れ笑いだな・・・、何処か嬉しそうだし。

 

多分この人は、世界がどうとか周りの他人がどうとかじゃなくて、自分とその周りにいる身内を基準に物事を考えている。

だから、周りの流れを見ていても、自分は流されずにやるべき事を見据えられるんだろう。

 

なるほど、凄い人だ、自分に向けられる意志を選んで、その上で行動してるのか、ある意味尊敬出来るよ。

 

「まぁ、それは良いや、放課後に職員室来てくれたらいるから、その時に弁当箱は返してくれたらいいさ。」

 

「え、いや、申し訳ないっすよ・・・、洗って返します。」

 

「良いよ、どうせ俺の弁当箱も一緒に洗うんだ、手間は変わらんさ、何、俺を信じてくれるだけで良いさ。」

 

いやいや、それだから申し訳ないんですって・・・、喰わせてもらうんだったらせめて洗い物ぐらいしねえと・・・。

 

「まっ、その気持ちだけでもうれしいよ、また店によって相手してやってくれ、あぁ、そうだ、これは俺からの差し入れ、気に入らなかったら飲まなくていいよ、じゃ、また放課後に。」

 

そんな俺の手に、黄色い缶がトレードマークの千葉のソウルドリンク、マッ缶を握らせて、何処かで見た様な敬礼の変形版をしながらさっさと歩いて行ってしまった。

 

その背中は、何も言うなと言わんばかりに、俺の二の句を告げさせなかった。

それはまるで、ドラマで見る様な、男の背中・・・。

 

か、カッコいい、なんて思ってないんだからねっ!!

 

誰にむけて言ってんだ俺は・・・。

 

「・・・、まぁ、頂き物は残さず食うか。」

 

思考停止、取り敢えず、今日は屋上で食うか。

 

なんてくだらない事を考えながらも、俺は階段を上って屋上へ向かった。

 

屋上に出ると、四月半ばの暖かい陽だまりと風が俺を出迎えてくれる。

ここは学生が入らない様に施錠されていると見せかけて、実は鍵を外すのは簡単な事を意知っている人間は意外と少ないらしく、屋上には人影一つ見受けられなかった。

 

この屋上には、併設された給水塔に昇るためのハシゴが壁に掛けられてあるが、そこまで高いトコに上がりたいわけじゃないし、今は無視しても良いだろう。

 

腰掛けられる場所を探し、フェンスにもたれ掛らないよう気を付けながら腰掛けて弁当箱を開く。

 

「うぉぉ・・・!な、なんじゃこりゃぁぁ・・・!?」

 

箱を開くとあら仰天、なんとも豪華なラインナップ。

 

唐揚げやサラダは勿論の事、バランスの取れたメニュー構成ながらも、しっかりと腹に溜まる具を入れてくれている。

 

米も冷めているとはいってもしっかりと粒が立っていて、巧く炊き上がっている事を伺わせた。

 

しかも、このコロッケ、もしかして昨日頼もうと思ってやめたやつか?

だとすると、よくそんな所まで見てくれているもんだと感心させられた。

 

「まぁ、御託は良いか、いただきますっと。」

 

箸を手に取り、取り敢えず唐揚げをつまみ上げて口に運ぶ。

 

「うっ、旨っ・・・!?」

 

揚げてから時間が経っている筈なのに、衣が湿気ってない・・・!?

 

「えー?弁当でこのクオリティ・・・?シャルロットの料理テクぱねぇっす・・・。」

 

しかも、サラダには粉ドレッシングで、白飯には鰹節プラス醤油少々、なにこれ、本当にツボを押さえに来てますね!

 

「うまうま・・・、なんか、ウルトラマンになって初めて得した気分。」

 

美味い飯を食べてると、無性に独り言が多くなるよね?

え?俺だけ?

 

そんなくだらない事を考えている内に、すっかり弁当箱は空になっていた。

 

「いやはや、美味かったなぁ・・・、ついついマッ缶飲むの忘れちまったぜ。」

 

弁当箱を片付け、貰い物のマッ缶を開けて口を付ける。

 

この甘さが最高なんだ、苦いのは俺の人生だけで良いってなもんだ。

 

一口飲んで、一息吐く。

親父臭いがこの瞬間は至福だ、他に良い事あんまねぇしな。

 

「そういや、職場見学の希望調査票書いとかねぇとな。」

 

制服のポケットから希望調査票を取り出し、ペンを持って書き込む。

 

そう、俺の将来の目標でもあるその単語を。

 

「希望は、専業主夫、っと・・・、これで良し。」

 

親父や御袋みたく、朝から晩まで社畜のように働かされてたまるもんかと言う想いと、家族以外との人付き合いもしなくて済むから万々歳だ、これ以上のポジションは無いぜ。

 

ペンを懐に仕舞い、調査票を折りたたんで片付けようとした、まさにその時だった。

 

「うぉっ・・・!?」

 

突如として強い風が吹いて、俺の手から調査票を奪って行った。

 

「やべっ・・・!?」

 

手を伸ばしたが既に遅し、紙はもう一度吹き付ける風に乗って高く舞い上がり、給水塔の向こうに消えて行ってしまった。

 

「やっちまったなぁ・・・、仕方ねぇ、新しい紙貰いに行くとするか・・・。」

 

どうせこの調子だと、見付けられても取れない場所に行っちまっているだろうし、探しに行くなんて非生産的な事するよりも、事情説明してもらい直す方が何百倍も楽だ。

 

ッてな訳で、休み時間の内にウチの担任、平塚静先生のトコに行かねぇとな。

 

「・・・、これ、アンタの?」

 

そう思っていた時だった、どこからともなくハスキーな女の声が聞こえてくる。

 

「だ、誰だっ!?ってか、何処にいるっ!?」

 

誰もいなかった筈の所に響いた俺以外の人間の声だ、驚きに声も大きくなる。

 

「ここだよ、顔あげな。」

 

声の主の正体を確かめようと、俺は頭を上げて声がしてきた方へと目をやる。

 

すると、給水塔のハシゴを上り切った所に、青みがかった長い髪を靡かせた、長身の女子生徒の姿があった。

顔だちは整っていて、美人の部類には入っている、だが、目付きが結構キツめだな・・・。

 

そんな彼女の手には、先程俺の手から飛ばされた調査票の紙が有った。

 

どっかで見た事有る様な奴だな・・・、何処で見たかは思い出せないけど。

 

「あー・・・、取ってくれたのか、あんがとな。」

 

「降りるからそこで待ってな。」

 

そう言うと、彼女はハシゴに足を掛けて降り始めてきた。

 

つーか、スカートでそんなトコに昇ってんじゃねぇよ、ほら、風で少しめくれて見えちゃってる。

 

・・・、黒のレースっすか、意外と凄いの履いてらっしゃいますね・・・。

 

そんな邪な事を考えていると、彼女は俺の前に降り立っていた。

 

「ほら、気を付けなよ。」

 

「ありがとさん。」

 

彼女は紙を俺に手渡してくれる。

 

普通のラブコメならここで手が触れてドキドキイベント発生なんだろうが、そんな事は一切なく、俺は彼女から紙を受け取った。

 

・・・、普通のラブコメって何だ・・・?

 

ってか、なんだその呆れた様な軽蔑する様な目は何だよ、俺の顔に何か・・・。

付いてましたね。この腐った目が・・・。

 

「なんだよ・・・?」

 

「専業主夫って、アンタふざけてるの?もっと真面目に考えたら?」

 

俺が目を腐らせながら聞くと、この女はそれを異に介する事なくきっぱりと言い返してきやがった。

 

その声には呆れと、それ以上の苛立ちが籠っていた。

 

「真面目に考えた結果がこれなんだよ、初対面の癖にイチャモン付けんじゃねえ。」

 

俺も少し頭に来て言い返してしまう。

何やってんだ、美味い飯食ってテンションでも上がってんのか?何時もの俺らしくない。

 

「・・・、馬鹿じゃないの?」

 

だが、彼女は興味を失ったと言わんばかりに吐き捨て、さっさと行ってしまった。

 

「なんなんだあの女・・・、愛想ねぇな・・・。」

 

まぁ、愛想ないのは俺も同じだけどな・・・。

いや、眼も腐ってるからアイツよりも印象悪いかも・・・。

 

って、こんな事してる場合じゃなかった、早く戻らねぇと!!

 

休み時間明けの授業に出るべく、俺は小走りで教室へと急いだ。

 

さっきの出会いでのモヤモヤを、胸に抱えたままで・・・。

 

sideout

 

noside

 

翌日の夜、ショットバー≪アストレイ≫にて・・・。

 

「うんうん、履歴書見せて貰ったけど、夜勤に入れるって言うのは嬉しいね。」

 

「あ、ありがとうございます・・・。」

 

履歴書に書かれた内容に目を通しながら、シャルロットは何処か楽しげに言葉を紡いだ。

 

彼女の褒めに、目の前にいる若い女性は少し小声で礼を言っていた。

どうやら、褒められる事には慣れていないのだろう。

 

「それで、大体の雇用条件はその資料にある通りだよ、試用期間は設けてるけど、形式的な物だから気にしないでね、時給は変わらないからさ、料理が得意って事だけど、たまに厨房の方も手伝ってもらえるのはありがたいね。」

 

「えぇ、私達も助かりますわ、都合の良い日から入っていただけますか?主に夜の志望との事ですが、昼のシフトには入れませんか?」

 

雇用条件の説明をするシャルロットの言葉に続いて、同席していたセシリアがシフトに付いて尋ねていた。

 

このバーは、昼間は喫茶店としても営業しており、夜間もそうだが、昼間にも人手が欲しいのは事実であった。

 

「す、すみません・・・、昼間は、こ、講義が・・・。」

 

だが、雇用される側にも事情はある程度付き物であり、バイトの身であるなら尚更だ。

 

講義と言う辺り、学生である事は窺えた。

 

「・・・?そっか、まぁ、夜だけでも全然大丈夫だよ、まぁ、そこまで安っぽいバーじゃないし、変な輩は入ってこないと思うけど、何かあったら全力で守ってあげるから安心してね。」

 

苦い顔をする彼女を安心させる様に、シャルロットはウィンクして笑った。

 

何か裏がある事は感じ取れたが、ここで下手に刺激して折角の人材に逃げられては、自分達の行動にも支障が出る、そう判断したのだろう。

 

そんなシャルロットの想いを知ってか知らずか、セシリアも鷹揚に頷いて大丈夫だと言う様に笑っていた。

 

「はい、これからお世話になります。」

 

「うん、これからよろしくね、川崎沙希ちゃん♪」

 

その女、川崎沙希は頭を下げて、彼女達の言葉を受け入れたのであった・・・。

 

sideout




次回予告

平穏が続く日常も、彼にとっては苛立ちを孕んだ物となる、それは、誰の思惑か・・・。

次回やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている

比企谷八幡はその依頼を受ける

お楽しみに

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