やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている 作:ichika
side八幡
「おはよう八幡!!」
「よぉ彩加!今日も可愛いな!!」
コルネイユを退け、沙希と彩加と本当の意味で和解した翌日の通学路で、俺は俺を追いかけてきた彩加と朝の挨拶を交わす。
あぁんもう、笑顔が最高だね!
「もう八幡たら!僕は男の子だよっ!」
「ははは、悪い悪い、冗談だよ。」
もう膨れっ面までかわいいとか反則じゃね?
ウルトラマン並に輝いてらっしゃるよ。
あ、彩加君もウルトラマンでしたね。
「あっ、おはよう二人とも。」
そんな事を思いながら並んで登校していると、俺達の後ろから沙希が駆け寄ってくる。
その表情には遠慮なんて微塵も無く、気心知れた間柄の友人に向ける笑みが浮かんでいた。
「おはよう沙希ちゃん!」
「おはよう彩加、今日も可愛いね。」
あ、同じ褒め方した。
「沙希ちゃんまで!!酷いよもう!!」
ぷりぷり怒る彩加を見て、沙希もまた表情を綻ばせていた。
そんな沙希の表情もまた、彩加とは違って可愛くて美しくて、ついつい見惚れてしまっている俺ガイル・・・。
「「あっ。」」
そんな時、笑っていた沙希とバッチリ目が合った。
ついつい照れてしまって、思わず同時に顔を背けてしまった。
「っ・・・、よ、よぉ、さ、沙希・・・。」
「お、おはよ・・・、は、八幡・・・。」
二人とも照れていて、ぼそぼそとしか挨拶できなかった。
チクショウ・・・、本物に近い存在になれたってのに、これじゃあ、最初の時と変わらねぇじゃねぇか。
「よぉ、相変わらず初々しいこって、見てるこっちの背中が痒くなってきた。」
「「うわっ・・・!?」」
唐突に背後から掛けられた声に、また最初の時と同じように俺と沙希は驚いて飛び跳ねた。
「せ、先生・・・!」
そこにいたのは、俺達の先達であり、頼れる人、織斑一夏先生が立っていた。
「い、一夏先生・・・!!」
「だ、大丈夫なんですか・・・!?」
なんで先生がここに居るんだよ・・・!?
昨日、あれだけ血を流して、あれだけ満身創痍であったにも関わらず、今もまたバイクに跨って俺達に笑みを向けてくる!?
彼が普通じゃない事は分かってる。
だけど、普通の人間ならもうあの世に行ってても可笑しくないダメージを負っていたのに・・・!?
「前の世界から、いざって時の為に取っておいた、最後のナノマシン治癒剤を使ったのさ・・・。」
「そんな・・・。」
なるほど、異界の放浪者ってわけだ。
この世界よりも何倍も医療技術が進んだ世界から持ち込んだ技術の産物を持っていてもおかしくなかったわけだ。
だが、彼の言葉を信じるならば、その最後の技術を使い果たしてしまったという事に他ならない。
それは、もし今回のコルネイユの事のように彼が命を削る戦い方をして、あれだけ傷付いてしまったら、今度こそ彼の命は無いと言う事だ。
「心配すんな、完治はしてないが、人間サイズでの戦いなら何とかなる、それに、君達がデカい奴等の相手さえしてくれりゃいい、俺にはこっちがまだ残ってるんでね。」
俺の心配をよそに、先生は不敵に笑いつつ自分の頭を指で小突いてみせた。
つまりあれか?
自分には策謀があるから、俺達は気にせず戦えってか?
まぁ、それはそれで良いや。
先生に借りを返す良い機会になりそうだからな。
「わかりました、金輪際、心配はしませんよ。」
「それで良い、さぁ、早く行け、遅刻するぞ。」
俺と彩加の背を押して、先生は行けと笑った。
って、やっべ、マジで遅刻しそうじゃねぇか!!
「最近遅刻してなかったのに!!行くぞ沙希!彩加!!」
「あっ!待ってよ八幡!!」
こうなりゃ全力で走るぜ!!
強化された肉体を全力で使い、一気に学校に向けて走る。
通学路を直走りながらも、俺はとある事を考えていた。
俺の隣に立ってくれる人がこんなにいる。
彼等と共に在りたいと思うと同時に、それをさせてくれそうにない存在が、俺の目の前に立ちはだかっていた事を、綺麗に忘れていた事を思い出したんだ。
最近じゃ絡むことが無かったから、すっかり眼中から消え去ってたけど、あいつ等の事だ、今でも俺の事を目の仇にしている事だろう。
それこそ、顔を出せば罵詈雑言、謂われのない冤罪紛いの言い掛かりだってある事は想像に容易い。
あぁ、考えるだけで本当に腹が立つ。
だが、もうそれも気にする事は無い。
今の俺には、確かに存在する本物がいてくれる。
あんな形だけを保とうとする紛い物なんかじゃ無く、本質を見て寄り添う本物が。
だから、俺はケリを着ける必要がある。
紛い物を捨て、本物と共に在るためにも。
その為にも、俺はもう振り返ってなんていられない!
今いる人達と共に走れるなら、俺は前しか向かねぇぜ!!
sideout
noside
「ッ・・・、はぁ・・・っ!」
ウルトラマンとして超強化された脚力を使って走って行く彩加と八幡を見送った一夏は、堪えていた様に息を吐いた。
どうやら、さっきまで貼り付けた笑みを浮かべていたが、遂に限界が来たか、脂汗を浮かべながらバイクのハンドルに突っ伏した。
「ホント、無茶しいですよね、そんな状態で教壇に立てます?」
「無茶は上等だ・・・、だが、あの舞台から降りる訳にはいかんさ。」
からかう様な沙希の言葉に、彼は激痛に歪む表情のまま笑って見せた。
傷口はかろうじて塞がったとはいえど、まだ全快には程遠い状態なのだろう事が窺知れた。
「それに、敵があれだけで終わるはずが無い、出来る事なら、君達の傍でそれを確かめたくってな。」
「そうですか・・・。」
これからの戦いを危惧する一夏の言葉に頷きつつ、彼女は彼を止める事をやめた。
言っても無駄だと感じたか、それとも味方が減らずに安堵したかは分からなかったが・・・。
「さ、君も早く行きたまえ、俺もすぐに行くさ。」
「はい、気を付けて下さいね?」
早く行けと手を振る一夏に頷き、彼女もまた先に行った八幡達を追って走り出した。
その速さは凄まじいものが有り、一瞬の内にその姿は見えなくなってしまった。
「さて・・・、俺は何時まで、持つ事か・・・。」
それを見送り、一夏は笑みを消して自身の身体に手を当てた。
その表情からは憂いと憤り、そしてある種の覚悟にも似た悲壮感が伝わってくるようでもあった。
無理も無い。
今の彼が、どれ程満足に戦えようか?
力を封じられ、禁じられた技すら使ってしまった。
最早、手元に残っている札など無いに等しかった。
だが、止まれないのだ。
彼に宿命められた呪いは、致命傷に到らない傷如きで止まる事を許してはくれなかった。
「それに、八幡君にはまだ、邪魔してくる存在がある・・・、何としても、俺が防いでやらねぇと・・・。」
それに加え、彼等の敵は何も怪獣や闇の支配者だけでは無い。
彼等の行動を邪魔してくる人間もいると言う事を懸念していたのだ。
その候補となる人物達を数名ほど思い浮かべ、彼は大きく溜め息を吐いた、
ただ、邪魔になるだけならばいい。
その行動の根源に巣食う闇に付け込まれて、最悪の状況に陥ってしまう事が一番の悩み所なのだ。
もしそうなってしまえば、八幡達は自ずと・・・。
「・・・、行く、か・・・。」
その先をにある結果を考えないようにした彼は、再びヘルメットを被り、三人の後を追って愛車を走らせた。
今だ疼く傷を抱えたまま、走るしかないと割り切って・・・。
sideout
side沙希
「それでは帰りのSHRを終わる、期末試験も近いからな、寄り道せずに帰れよ。」
ウチのクラスの担任である平塚先生の号令により、今日の授業が全て終わった事が告げられた。
さて、後は帰って夕食の支度して、それから予備校行って・・・。
まぁ、前みたいに余裕が無いわけじゃないし、ウルトラマンになってから色々楽させてもらってるから少し頑張らないとね。
「おーい、沙希、もう帰るんなら途中まで一緒に帰ろうぜ。」
そんな事を考えていた時だった。
八幡があたしの机の傍まで来て誘ってくれた。
へへっ・・・、嬉し過ぎてニヤけちゃいそ・・・。
前までこんなの考えられなかったしね、なんか、嬉しいなぁ。
「良いよ、あたしから誘おうと思ってたんだ、来てくれてありがと。」
本当に嬉しかったから、ついつい笑顔でお礼まで言っちゃうあたり、あたしは八幡に本気で入れ込んでるんだなって感じるよ。
「な、なに言ってんだよ・・・!お、俺がそうしたかっただけだから、気にすんなよ・・・。」
当の八幡も、あたしの言葉が意外だったか、顔を赤くしてそっぽを向いてしまう。
あぁもう、そんな可愛いトコ見せないでよっ!
あ、あたしだって照れるじゃないか・・・!
「か、帰ろっか・・・!」
「さ、沙希・・・!?」
赤くなった顔を誤魔化して立ち上がり、あたしは八幡の腕を引っ張って走り出した。
周りの奴等が驚いて視線を向けて来るけど、もう関係ないね。
折角掴んだ本物なんだ、何があっても絶対離すもんか!
「待ちなさい、そこの二人!」
暫く走って、もう少しで下駄箱のある場所まで辿り着こうとしてた頃だった、あたし達を呼び止める誰かがいた。
「なんだい?」
折角二人っきりになれると思ったのに、一体どこの誰なんだ・・・?
嫌そうな顔を努めて浮かべながらも、あたしと八幡は揃って後ろを振り向く。
あたし達の視線の先には、人形のように整った顔を台無しにする位に怒りを浮かべる黒髪の女子生徒と、ピンク色の髪を御団子ヘアーに纏めた女子生徒だった。
確か、黒髪の方は特進クラスの雪ノ下って奴で、ピンク色の方はウチのクラスの由比ヶ浜だったか・・・。
なんだって八幡を引き留めるのやら・・・、関わりなんて無いに等しいのにさ。
「貴女には用は無いわ、川崎さん、そこにいる腐った目の男に用があるのよ。」
「なに・・・?」
初対面の癖になんて嫌な態度な女だ。
初見で分かる性格の悪さって、相当だよね。
「八幡の目のどこが腐ってるだって?そう見えるならアンタの目の方がよっぽど腐ってる気がするけど?」
「「なっ・・・!?」」
あたしが名前で呼んで見た事が意外と効いたのか、雪ノ下と由比ヶ浜は驚きに少し仰け反っている様だった。
一体コイツ等は、八幡の事をなんだと思ってるんだ。
そう感じる程に、あたしは無性に腹が立っている事に気付いた。
「気にしてないさ、沙希、コイツ等は俺を貶すためのワードをそれしか持ってないだけだ。」
「ッ・・・!!」
あたしに笑いかけつつも、何処か憐れむ様な色を浮かべた八幡の表情には、何処か怒りや呆れが混じっている様にも見て取れた。
それに対して、雪ノ下の表情には思い通りにならないと言わんばかりの怒りが見て取れた。
どんな因縁があるのか知ったこっちゃないけどさ、あたし達二人の邪魔だけはしないでほしいもんだね。
「で、なんの用だ、奉仕部に出て来いって話なら前も断った筈だ、それに、俺はもう目的は達しているし、行く意味なんてないだろうが。」
「奉仕部・・・?」
名前だけは聞いたことある部活だね。
そう言えば、八幡が所属してたって言ってたか・・・。
しかし、なんと言うか胡散臭い部活だね、一体そんな所で何やってるんだか甚だ疑問だ。
というか、八幡の口ぶりからして、八幡はそこにいる事を嫌がっている様な・・・?
「この学校内で悩みを抱える生徒に奉仕する部活だとさ、ま、体の良い雑用係に他ならんさ。」
吐き捨てる様に言う八幡の言葉には、苛立ちと怒り、そして憤りが混ざり合っていたけど、一体何が彼をそうさせてるんだろうか・・・?
「黙りなさい・・・!奉仕部の備品如きに、奉仕部を批判する権利なんてないわ・・・!!」
「ッ・・・!アンタねぇ・・・!?」
何が備品だ・・・!
曲りなりにも部員なら、それ相応の接し方ってものがあるだろうに・・・!
それをこの女は、八幡の事を部員ではなく、部の備品呼ばわりしやがって・・・!!
頭に血が昇って、無意識の内に目の前の女に殴り掛かろうとしてたのか、あたしの手を強く繋ぎ止め、八幡は首を横に振った。
「ありがとう沙希、俺の為に怒ってくれるのは嬉しい、だが、こんな屑を殴る必要は無いさ。」
「八幡・・・!だけどっ・・・!」
納得出来ないあたしを背後に庇う様にして、八幡はあの女どもと向かい合った。
本当はこんなことさせたくないけど、八幡が何とかしようとしてるんだ、水を指すのは無粋にもほどがあるね。
「雪ノ下、それから由比ヶ浜も、これ以上付き纏われるのも厄介だからここで宣言しておくぞ。」
八幡の声には、怒りと決然とした意志が込められていて、もう変える気の無い事が窺えた。
それが感じ取れなかったか、それとも弁解の言葉を言うのかと思ったんだろうか、雪ノ下は勝ち誇った笑みを浮かべ、由比ヶ浜は安堵した様な笑みを浮かべた。
だけど、その笑みは次の一瞬で、予想もしなかった八幡の言葉によって無残にも打ち砕かれた。
「俺は、今日限りで奉仕部を辞め、織斑先生の下で新しい部活を立ち上げる!!」
sideout
次回予告
相容れぬ者同士の言葉は平行線を辿り、混ざり合う事は無い。
それが例え、どの様な結末に辿り着くとしても・・・。
次回やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている
比企谷八幡は紛い物を捨てる
お楽しみに