やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている 作:ichika
side沙希
「よ、よぉ・・・、勝ったん、だな・・・。」
アストレイの店内に入ると、テーブルとシーツで簡易的に作られたベッドに横たわる先生が、首だけ起こしてあたし達の方を見てくる。
本当に満身創痍って言うのが伝わってくるほどに消耗しているのか、笑顔すら引き攣っていて、身体のあちこちから血が流れ出ているのを無理やり包帯で止めているのが見て取れる。
無理も無い、ボロボロになってまで戦い続けたんだから。
その痛ましいまでの姿は、あたし達の再起を信じて戦った証だと思うと、申し訳なく思うと同時に、そこまであたし達を信じてくれた事への嬉しさもあった。
「せ、先生・・・!その傷・・・!?」
「ん・・・?あぁ、気にするな、無茶やらかしたせいで古傷が開いちまっただけさ・・・。」
八幡の心配を、先生は何ともないという風に笑って上体を起こした。
先生の言葉通り、初めて見たその身体には到る所に傷跡が有って、その内の大きなモノが開いたって言う事が窺えた。
っていうか、どんだけこの人無茶してきたんだろ・・・?
「先生・・・!大丈夫ですか・・・!?」
彩加はその姿を見るなり先生に駆け寄り、身体を揺さぶるようにその身体を揺さぶった。
あ、それ今やっちゃいけない様な・・・。
「ぐふっ・・・!」
圧し掛かる様な感じになったのが不味かった、古傷と思しき胸の辺りからまた血が沢山滲み出してる。
うわ・・・、あれ、死ねる量じゃない・・・?
「わ、わぁぁっ・・・!?」
「せ、先生ーっ!?」
やってしまった彩加と、一番近くにいた八幡が絶叫する。
元からそこそこ白い肌をしてた先生の顔が青白くなってるから、事が深刻だと思っちゃったんだろうね。
なんであたしは冷静でいれるのかって?
色々とテンションあがって、一周したから恐怖よりも頭が冴えてるんだろうね。
って、そんな事考えてる場合じゃなかった・・・!!
「あれ、また傷口開いちゃったの・・・?」
あたしが動こうとしたその時だった。
カウンターの奥から包帯と鋏を持ったリーカさんが呆れた顔をしながら出て来た。
っていうか、エプロン姿似合ってますね、ほんと・・・。
「折角包帯結んだのに、解き直しじゃない!」
「ッ~・・・!?」
少し怒ってるリーカさんによる強引な解き方と沁みに沁みる傷薬を塗り込まれて、先生は声にならない声を上げて悶絶する。
うわ、あれは痛い・・・。
「り、リーカ・・・、俺、超ボロボロ・・・、もうちょっと優しく・・・!」
「はいはい、絶対に使うなって、皆で決めた技使ったんでしょ!自業自得よっ!!」
「うぉぉぉっ・・・・!?」
涙目で呻いていた先生に、リーカさんはざまぁ見ろと言わんばかりに包帯を更にきつく締め上げた。
その強烈さに、先生は咽が張り裂けんばかりの絶叫を上げた。
「ぐ、ぐぅ・・・、ま、三人を助けられて何よりだ・・・、俺の身体なら、何があっても潰れやしないからな・・・!」
「「「っ・・・!」」」
まだ痛みに呻く身体を押して、先生はあたし達に笑いかけた。
その瞳には、彼の話に耳を傾けなかったあたし達への怒りは全く見られなかった。
「それに、感謝しなきゃならないのは俺の方さ、俺のせいで君達はすれ違ってしまった・・・、もっと早く、伝えていれば良かったな・・・。」
「先生・・・。」
「大人として、君達をしっかり導いてやれなかった、だから、すまなかった・・・。」
申し訳なさそうに目を伏せて、先生は頭を下げた。
そんな・・・、謝るのは、謝らなくちゃいけないのはあたし達の方なのに・・・?
「先生、すんませんでした。」
そんな時だった、あたしの傍にいた八幡は、先生に頭を下げていた。
「八幡君・・・?」
あたし達よりも驚いているのか、先生は目を丸くして八幡を見ていた。
蔑まれる事を覚悟していたんだろうか、意外としか形容できない様な表情だね・・・?
「俺、コートニーさんから、貴方の過去を聞きました、誰かと繋がれない苦しさを知ってたから、俺達を止めようとしてくれたのに、俺達はそれを聞かず、自分勝手に戦って、勝手に傷付いて、勝手に貴方に当たって・・・!」
コートニーさんからどんな話を聞いたのかは知らないけど、八幡の言う通り、先生があたし達の事を想ってくれていたのは事実だ。
それを、あたし達が無視して勝手に走って、勝手に傷付いてただけだったのに・・・。
「良いさ、人間は間違いながら生きてく生き物だ、間違った事の無い奴なんていないし、間違いが正しいって事もある。」
その言葉は何処までも優しく、何処までも温かい声色であたし達に沁み込んでくる。
「俺だってそうさ、世間から見たら正しい事をしただろうが、その実、蔑まれるべき過程でそれを成してた、これも、間違いだろうさ。」
「でも、後悔はしてないよ。」
先生の言葉を継ぐ様に、入り口からアストレイのメンバー全員が入ってくる。
多分、避難誘導とかに出てたんだろうね、変身出来なくても、あの人たちはウルトラマンなんだから。
「僕達は間違いを犯してここに居る。」
「ですが、今が間違っているなど、微塵も思いませんわ。」
シャルロットさんとセシリアさんが朗らかな笑みを浮かべながらも続け、あたし達に言葉を送ってくれる。
その言葉には一切の澱みは無く、自分達のこれまでの歩みをしっかりと受け止めている様だった。
「君達は間違いに気づき、立ち上がれた、それは誇るべき事だ。」
「胸張りなさい、アタシ等が肩代わりしないで、自分達で乗り切ったんだからね。」
宗吾さんと玲奈さんがあたし達を褒め、他の皆さんも頷いていた。
褒められるのには慣れてないから、なんか、むず痒いね・・・。
「八幡君、よく立ち直ってくれた、俺達全員から、改めて礼を言わせてくれ、この街を護ってくれて、ありがとう。」
コートニーさんは八幡に近付き、頭を下げていた。
戦えない自分達の代わりに、折れかけた所から立ち直った事を喜んでるんだろうね。
でも、それはあたしも同じだ。
立ち上がってくれたから、許し合う事をさせてくれたから、あたしはまた、こうやって三人でいられるんだから。
「コートニーさん・・・、皆さん・・・。」
八幡の目に、薄らと感激の涙が滲んだのを、あたしは見逃さなかった。
それにつられて、あたしも少し、泣きそうになってしまったのは内緒だけど。
「さぁ、祝杯の準備だ!」
「この街を護ってくれた英雄を持成さないとね!」
先程までの雰囲気は何処へやら、コートニーさんと玲奈さんが音頭を取り、先生を除いた他のメンバーが一斉に何かの準備を始めた。
「「「えっ・・・!?」」」
そのあまりの変わり身の早さに付いて行けず、あたし達三人は困惑して立ち尽くすしか出来なかった。
「ははは・・・、流石、新しい仲間を迎える祝い事、好きだよな・・・。」
先生は何処か呆れた様に呟いて、体力が本当に底を尽いたのか、ゆっくりと身体を横たえた。
「な、何するつもりなんです・・・?」
困惑した声のままで、彩加が先生に尋ねた。
「俺達家族の、仲間への歓迎の証さ、君達が本当に信頼できる相手だと、心の底から認めた証拠だ。」
「仲間・・・?」
「そうだ、本当の意味で対等な関係って事さ。」
家族、仲間・・・。
それって、あたしと八幡が一番欲しがってた、心の拠り所・・・。
「三人とも、悪いけど手伝って!もう夕ご飯の時間過ぎちゃいそうだから!」
厨房からシャルロットさんがあたし達を呼んでくる。
それは、今迄みたいなアルバイトと店主の関係じゃ無く、仲間内に呼びかける様な気安さと親しみが籠められていた。
なんて暖かくて、なんて優しい気遣いなんだろうか・・・。
その想いに触れて、三人で顔を見合わせて笑って・・・。
「「「はい!!」」」
仲間に、家族と認めてくれた人たちに応える為に頷き、厨房へ入って行く。
きっと、今までに犯した間違いを覆い隠せる光を掴めると信じて・・・。
sideout
side八幡
「それじゃあ、新しい仲間と新しい日々の幕開けを祝って!!」
『乾杯ッ!!』
準備する事30分ほどで10人分の料理と飲み物をささっと作ってしまったアストレイメンバーの皆さんに促され、俺達は流されるがままに乾杯を交わした。
勿論、未成年だからソフトドリンクだけど、何処となく酒盛りしてる気分になるのは気のせいだろうか・・・。
因みに、先生はセシリアさんとシャルロットさんに邪魔だからという理由で引き摺って寝室に連れて行かれた。
その時にまた傷口が開いたのか、床が赤く濡れてた気がするけどもう気にしないでおこう。
「ほら、たくさん食べてね!」
「い、いただきます!」
リーカさんの言葉に促され、俺達は出された料理に手を付ける。
唐揚げやポテト、それからピザなど、一つずつ抓めるものを中心に出された事もあって、素手で食べられてありがたいな。
一口頬張れば、しっかりとした味から付けられたことを窺わせる風味と旨みが口の中で主張し、俺の味覚を刺激してくる。
「おいしい~!」
リスのようにポテトを齧ってた彩加だったが、本当にかわいくて女子と見間違えた。
いや、ホント、シャルロットさんと並んでても見劣りしないなんておかしいだろ・・・。
いや、そもそも共通点何気に多くないか、彩加とシャルロットさんって・
片や銀河美少年と、片や貴公子美女だ。
ある意味で近しい存在なんだろうか・・・。
「おしいい・・・、これならいくらでもイケちゃいそう・・・。」
そんな事を考える俺の傍で料理に手を付けていた沙希が、何処か感激した様に呟いていた。
その表情が何とも艶っぽいのと、言い方が妙に色っぽいのも有って、少しドキッとしてしまったのは内緒だ。
ったく、すれ違いで遠ざかったと思ってた所に、一番近いトコでそんなの見せられたらドキドキしちまうよ。
と言っても、沙希がどう感じてるかどうかは知らないけどさ・・・。
『あー、沙希、そのピザのカロリーは一切れあたり約150㎉、ここにある料理と一緒に食べると美容と体重によくな・・・。』
「・・・。」
Xの言葉に、沙希は米神をひくつかせながらも無言でXデバイザーをひっくり返してテーブルに置いた。
『おぉい!沙希!裏返しは止めてくれ!!な、何も見えない!!』
携帯の振動の様なバイブレーションと共に響く何とも情けないXの叫びに、店内が笑いの渦に包まれる。
「っははっ・・・!」
俺も、普段上げ無い様な笑い声で、自然と笑っていた。
何というか、心地いというか、自然体でいれると言うか・・・。
そうか、これが、家族って言う自然なのか・・・。
「こういうのって、なんかいいね・・・。」
そんな中、飲み物を持った沙希が俺の傍に寄って来た。
「あぁ、先生の家族だから、やっぱり自然だよな・・・。」
彼女の言葉に頷きつつ、俺は彼等を見ていた。
俺と沙希が最も大切にしてるものであり、最も欲しがってる、心の底から理解しあえる相手・・・。
それを実現しているのが、ここに居る人達なんだよな・・・。
幾つもの困難を、共に手を取り合い、跳ね除けて来た、心の底から結ばれた強い絆が、こんな光景からでも鮮明に見て取れる。
「俺も、あんな風に笑えたら、な・・・。」
それが羨ましくて、眩しくて、俺はついつい羨望の眼差しでそれを見てしまった。
取り繕う事なく、自分のあるがままを受け入れてくれる人になら、あんな笑顔を浮かべられるんじゃないかと、俺は思ってる。
だけど、本当にあんな風に、俺が本物を手に入れられるかどうかなんて、分かったもんじゃないけど・・・。
「なら、あたし達がそれに近い関係になろうじゃない、家族みたいに、心の底から分かり合える間柄にさ?」
そんな俺に、沙希は柔らかい笑みを向けてくる。
それは、打算や下心なんて無い、真っ直ぐだけど優しい笑みだった。
「沙希・・・。」
その笑顔が凄く綺麗で、凄く可愛くて、俺は見とれてしまうと同時に、その言葉に心を打たれた。
家族同然の間柄になろうと言ってくれるという事は、俺ともっと分かり合いたいと言ってくれている様な物だ・・・。
あんな事が有ったのに、そう言ってくれるのは、本当に俺に近付いて来てくれるって事なんだな。
「あたしだけじゃない、彩加だってそうさ、あんたとあたしにはしっかり見てくれる人達がいてくれるんだ、ゆっくりでいいから、一緒にいようよ・・・?」
沙希の言葉は何処までもまっすぐで、心が籠っていた。
その気持ちが、俺の心には何よりも響いた。
確かに、今、この瞬間にすぐになれる程軽々しい関係じゃないのは分かってる。
「あぁ、勿論だ。」
だけど、俺と沙希と、そして彩加となら、本物と呼ぶにふさわしい関係に慣れる。
どれだけ時間が掛かっても、どれだけ喧嘩しようとも、何時かきっと。
俺達が、それを信じている限り・・・。
sideout
noside
―――御苦労だった・・・―――
闇の中で、蠢く何かが有った。
それは黒いオーラに包まれ、全容を窺い知る事は出来なかった。
だが、その何かの足元には、負けたコルネイユのスパークドールズが転がっており、最早用済みと言わんばかりに打ち捨てられている様に見えた。
いや、実際もう用済みなのだろう。
ウルトラマンに破れたとはいえど、この町に住む人間たちの絶望を集めたのだ。
その結果として、その者の復活は7割方成り、あと少しでこの世に降り立つ事が出来る。
それが、コルネイユを遣わした最大の理由である。
―――あと少しだ・・・、あと少しでこの世は止まるのだ!!―――
だが、それももう終わりだ。
他人任せの行動などという、遅々として成功しない真似はもう終わりだ。
これからは、自分自身で世の中に出て行くのだ。
そして、これから始まるのだ。
この世の絶望が、この世の終わりが、ここから始まるのだ・・・。
sideout
次回予告
新たに始まる八幡達のウルトラマンとしての戦い。
だが、その行く先にはまず、乗り越えるべきヤマがあった。
次回やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている
比企谷八幡は前を向く
お楽しみに