やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている   作:ichika

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比企谷八幡は光の意味を知る 後編

noside

 

『うぉぉぉっ!!』

 

『猪口才なぁぁぁぁ!!』

 

セブン21が繰り出した右ストレート弾き、ファイブキングは超コッヴレッグより光弾を発射、至近距離で浴びせかける。

 

『ぐゥゥゥッ・・・!!』

 

『まだぁぁっ!!』

 

吹っ飛ばされるセブン21の背後から飛び出したビクトリーが、ビクトリウムスラッシュを纏わせた飛び回し蹴りを叩き込む。

 

『ゲェェェッ・・・!?』

 

『行くぞ彩加!!』

 

『分かった!!』

 

頭部に蹴りが直撃し、大きく体勢を崩すコルネイユに、立て続けに攻撃を叩き込もうとXが動く。

 

手刀に光を纏わせ放つ一撃、Xクロスチョップが胴に炸裂した。

 

『ナイスだ・・・!これで決める!!』

 

体勢を立て直した一夏は、セブン21からウルトラマンパワードへと変身した。

 

ウルトラマンパワード

M78星雲光の国に所属する、地球を愛した無敵のウルトラマンである。

 

パワードの名に恥じない力強い攻撃を得意としており、その必殺光線は並の怪獣なら難なく粉砕する程の威力を誇っている。

 

『行くぞ・・・!メガスぺシウム光線!!』

 

腕を十字に組んで発射する大技、メガスペシウム光線が放たれ、周囲の瓦礫や塵芥を巻き上げながらもファイブキングコルネイユに突き進む。

 

『ちぃぃっ!!』

 

『させるかッ!!』

 

崩れた体制のままガンQアイズを掲げようと足掻くコルネイユだったが、それよりも早く、エレキングテイルをウルトランスしたビクトリーが、左腕にテイルを巻き付け、無効化した。

 

正面に向けなければ吸収できない事を見切り、尚且つ一夏を信じて攻撃を任せた沙希と彩加のコンビネーションが功を奏した形だった。

 

だが・・・。

 

『まだあるんだよぉぉぉ!!』

 

ゴルザとメルバが融合したヘッドより合体光線が放たれ、メガスペシウム光線を直前相殺した。

 

あれを喰らえばただでは無いすまないと直感したか、その攻撃は当てる事よりも防ぐ事を念頭に置かれていた。

 

『二段構えっ!!』

 

『ザナディウム光線だっ!!』

 

だが、それが防がれる事を見越して動いているのはウルトラマンたちも同じだった。

 

背後に回り込んだXが必殺の光線、ザナディウム光線の発射体勢に入った。

 

二段構えの策は時間差攻撃と言う単純なものだが、強敵を相手にする時は当然として、慢心している敵には絶大な効力を発揮する。

 

戦い慣れた一夏がそれを狙って行動し、それを直感で察し、動いていた沙希と彩加が為した、絶好のタイミングだった。

 

X字に組まれた腕から光線が迸り、ファイブキングに直撃すると思われた。

 

『おぉぉのぉれぇぇぇっ!!』

 

だが、コルネイユも負けてはいられなかったのだろう、メルバウィングを開き、ビクトリーを巻き付けたまま飛翔した。

 

『なっ・・・!?』

 

『しまった・・・!!』

 

『先生!!』

 

上空に道連れされた沙希が驚愕し、Xが作戦の失敗を痛感、彩加はその光線の進行方向にいる人物へ警告を飛ばした。

 

『ウっ・・・!?おぉぉぉっ・・・!?』

 

バリアを持たないパワードになっていた事が災いし、光線が胸部に直撃、大きく吹き飛ばされた。

 

途中で照射をやめた事が幸いし、パワードが粉砕される事は無かった。

 

だが・・・。

 

『ぐっ・・・!ハァッ・・・!』

 

ウルトラ念力を使い、消耗しきった身体に鞭打って戦い続けた彼には、最早立ち上がる力も尽きてしまったのだろう、パワードは地に倒れ伏した。

 

『『先生・・・!!』』

 

『邪魔だぁ!ビクトリーィ!!』

 

一夏を心配した沙希と彩加が声を上げるが、コルネイユはビクトリーを振り払い、地に叩き落とした。

 

『うぅぅっ・・・!!あぁっ・・・!』

 

『沙希ちゃん・・・!!』

 

『くたばれぇぇ!!』

 

地に落ちて呻く沙希に駆け寄った彩加目掛け、コルネイユはすべての怪獣の部位よりすべての光線、光弾、火球が一斉に放たれる。

 

それは、崩れかけていたビルを破壊し、ウルトラマンたちに迫った。

 

『うわぁぁっ!!』

 

『あぁぁっ・・・!!』

 

その全てを、一夏を庇って喰らったため、二人は大きく吹き飛ばされ、地に叩き付けられた。

 

『ぐ、ぅぅっ・・・!』

 

『あ、ぐぅっ・・・!』

 

そのダメージがあまりにも大きすぎたか、一気に体力を削られた二人のカラータイマーが点滅を始め、戦える時間が無い事を告げていた。

 

『カーッカッカッカッカ!!俺の勝ちだぁぁ!!』

 

三人を見下す様に哄笑しながら、ゆっくりと地に降り立った。

 

それはまさに、地球を支配する悪魔の如し、地獄を表す昏さだった・・・。

 

sideout

 

side八幡

 

「あぁっ・・・!!」

 

コートニーさんが去った後、俺は川岸で街中で行われている戦闘の様子を見ていた。

 

織斑先生が変身したと思われる青い目のウルトラマンが倒れ、ビクトリーとX、いや、川崎と戸塚がコルネイユの攻撃で吹っ飛ばされる所を、俺は只、何もせず見ているだけだった。

 

怪物に目立ったダメージは見られず、もう勝ち誇ったと言わんばかりに高笑いを上げていた。

 

耳障り、あぁ、耳障りな醜い声だ、聴いててイライラする。

 

いや、違うな。

 

「くそっ・・・!俺は、何をやってんだ・・・!!」

 

俺が苛立ってるのは、コルネイユなんかなじゃい。

逃げてばっかりの、俺に対してムカついてるんだ・・・!!

 

この世界が故郷じゃない、ボロボロに傷付いた先生と、精神的にガタついてる川崎と戸塚が、命削って戦ってるのに、俺は何をやってんだ・・・!?

 

戦える力があるって言うのに、見てるだけなのか・・・!?

 

「でも、どうすれば良いんだ・・・!?」

 

川崎と戸塚は良い奴なのは分かってる。

でも、俺を殴っていたのはアイツ等なんだ・・・!

 

そんな奴等を、俺はどうすれば良いんだ・・・!?

 

学校でもそうだった。

虐めや陰湿な嫌がらせをやられて、一度は先公の前では平謝りされた奴等も、その後も俺を虐げる事をやめる事なんて無かった。

 

そこから先、俺は人を信じる事をやめた。

所詮、取り繕って、弱い奴を虐げ、裏切る事しか出来ないと、完全に失望していた・・・。

 

いや、していたつもりだったんだ。

 

心の奥底で、こんな俺を受け入れてくれる人を、俺は欲していたんだ。

裏切られない、本音でぶつかって行けるような本物が、何よりも欲しかったんだ・・・!!

 

それでも、裏切られる事が怖くて、人に近付く事すら出来なかった。

 

でも、そんな俺でも近付いて来てくれて、曇りの無い真っ直ぐな目と想いをぶつけてくれた人たちが、俺の傍には居てくれたじゃないか・・・!!

 

「戸塚・・・!先生・・・!川崎っ・・・!!」

 

俺を真っ直ぐ見てくれた人が、今、目の前で苦しんでいるのを、俺は何もせず見殺しにするのか・・・!?

 

「俺は・・・、本物が欲しい・・・。」

 

その本物は何だ?

今、目の前で戦ってる人たちの事じゃないのか?

 

その本物が、今、かき消されようとしている。

 

今走り出さなきゃ、本物なんて掴めないんじゃないのか・・・!?

 

コートニーさんに護りたい人がいると聞かれて、俺は無意識に護りたい人を思い浮かべて、無意識になかった事にしようとしていた。

 

でも、嘘は吐けなかった。

護りたい人がいたから、俺はウルトラマンとして新しい目的が持てたんだ。

 

「ウダウダ考えてる暇も無いな・・・!!」

 

護りたい人達が、俺を護りたいと思ってくれる事、それだけで、俺は何よりも思われている事に変わりは無いだろう。

 

だったら、俺はその想いに応えたい、そう思った!!

 

「本物を、今から掴みに行くぜ!!」

 

それが正しいんだろ、ギンガ!

俺がやりたいと心の底から思った気持ちで、未来を、本物を掴んでみせるぜ!!

 

「行くぜ、ギンガ!!」

 

今度こそ、自分の勝手な思い込みで間違えない為に、本当に大切な人達を、この手で護るために!!

 

ギンガスパークを展開し、ギンガのスパークドールズを読み込ませて変身する。

 

待ってろよ、絶対そこに行くっ!!

 

「ギンガーーーー!!」

 

sideout

 

noside

 

『カーッカッカッカ!!もう終わりだなぁ!!』

 

三人のウルトラマンを足蹴にし高笑うコルネイユは、勝ちを確信した様に吠えた。

 

いや、客観的に見ても、三体のウルトラマンの内、パワードは最早指一本動かす事すら儘ならず、ビクトリーとXは限界が近いか、立ち上がる事がやっとな状況だ。

現状はコルネイユの圧倒的有利、最早勝ったも同然だろう。

 

『沙希・・・!彩加・・・!に、逃げろ・・・!!』

 

残った力を振り絞り、教え子を逃がそうと一夏が何とか上体を起こし、二人に変身を解く様に叫ぶ。

 

最早これまで、彼の言葉からは、絶望にも似た何かが滲み出ていた。

 

『ま、まだですっ・・・!!』

 

『彩加・・・!君ももう限界だ、私とのユナイトを解け・・・!』

 

立ち上がり、なおも戦おうとする彩加に、Xは逃げる様に進言した。

 

だが、彩加の闘志は折れてはいなかった。

 

『まだ、負けてない・・・!八幡の為にも・・・!僕が戦うんだ・・・!!』

 

『そうさ・・・!比企谷を苦しませたのがあたしなら・・・、あたしがそれを取り払ってやる・・・!』

 

彩加の言葉に呼応し、沙希もまた立ち上がる。

 

大切な家族のため、そして、誰よりも想っている八幡のためにも、彼等は逃げる訳にはいかなかった。

 

八幡は今戦えず、何処かで彼等と対峙してしまった事を悔やんでいるだろう。

だからこそ、今、ここで戦い、この悪魔を倒す。

 

それが、八幡ともう一度向き合うための絶対条件だと、彼等は感じていたのだ。

 

『カッカッカ・・・、イイ友情だこって・・・、だが、来ない奴は来ないんだよぉ、それに、貴様らがギンガに会う事はもうないぜぇ、ここで貴様等はここで死ぬんだからなぁ!!』

 

彼等の想いを嘲笑い、トドメと言わんばかりにコルネイユはファイブキングの各パーツからエネルギーを迸らせる。

 

完全に彼等を消し飛ばすつもりなのか、そのエネルギーはこれまでのモノよりも更に大きく、強烈な物だった。

 

『あたしは・・・!』

 

『僕は・・・!!』

 

『『逃げない!逃げて堪るかぁぁ!!』』

 

その光を睨みながらも、彼等は一歩も退こうとしなかった。

 

倒すまで諦められないと。

初めて心を許せた友の為に、彼等は戦いを続けようとした。

 

だが、逃げられないのも事実、既に体力は底を尽きかけている状態だ、逃げ切れる望みは薄かった。

 

『(比企谷・・・、八幡・・・!)』

 

『(八幡・・・!!)』

 

友の名を心で呼び、彼等は残った力を振り絞り、攻撃を防ごうと動こうとした。

 

『死ねぇぇぇぇぇっ!!』

 

だが、それよりも早く、ファイブキングの各パーツから強烈な熱線、光弾が迸り、周囲の塵芥を巻き上げながらも突き進み、三体のウルトラマンを呑み込もうと迫った。

 

『ッ・・・!!』

 

一夏が手を伸ばすが、それだけでは攻撃を防ぐ事など出来なかった。

 

無慈悲なる光条が三人を捉えようとした、まさにその時だった。

 

『ギンガハイパーバリアっ!!』

 

天より降りてきた何かが三人を庇う様に降り立ち、金色に輝く光の壁を広げた。

 

三人に迫っていた熱線はその光の壁に阻まれ、貫く事すら叶わずに霧散した。

 

『な、なにィィィッ!?』

 

『誰が来ないって?主役は遅れて来るもんだぜ!!』

 

会心の攻撃が防がれた事に驚愕するコルネイユに、赤い巨人は不敵に立ち、光の壁を消した。

 

『ウルトラマンギンガ・・・!!』

 

『八幡っ!!』

 

『比企谷・・・!!』

 

その巨人、ウルトラマンギンガの姿を見たXは驚愕し、彩加は歓喜の声を上げ、沙希は感極まった思いをその声に滲ませた。

 

待ちに待った、その相手がやって来てくれた。

それだけで十分だった。

 

『ギンガコンフォート。』

 

コルネイユをギンガスラッシュで足止めし、三人に向き直ったギンガは、全身のクリスタルを緑色に淡く発光させ、癒しの技、ギンガコンフォートでビクトリーとXの体力を回復させた。

 

パワードは変身を解除され、その場に一夏が倒れ込んでいるだけだった。

 

「は、八幡君・・・。』

 

『先生、今逃がします。』

 

ギンガコンフォートをもう一度発生させ、一夏を離れた場所、正確には現場から離れたアストレイ前へ移動させた。

 

戦えない一夏を巻き込むわけにはいかないと判断した、八幡なりの気遣いなのだろう。

 

『待たせたな、沙希、彩加!』

 

大丈夫かという様な口調で沙希と彩加に手を差し伸べる八幡は、今までにない穏やかな声で二人の名を呼んだ。

 

『八幡・・・!!』

 

彩加は八幡に下の名前で呼んで貰えたことを純粋に喜び、八幡の手を取った。

 

友と本当の意味で近付けた事が、何よりも喜ばしかったのだ。

 

『あたしの名前を、なんで・・・?』

 

だが、沙希は何故八幡がそう呼んでくれるか分からなかったのだろう、その手を取るべきか否か、悩んでいる様でもあった。

 

それもその筈だった。

彼女と八幡は幾度となく戦い、幾度となく傷付け合ったのだ、普通ならば助けに来る事すらおかしいのだから。

 

『なんでって、俺達、友達だろ?なら、見捨てる事なんて出来ねぇよ!』

 

『っ・・・!!』

 

当たり前の事を聞くなと言う八幡の言葉の中にあった、友達と言うワードと、そこに込められた想いに気付いた沙希は、胸を打たれた様に感極まった。

 

やっと、自分が想っていた男から、真っ直ぐ想いを伝えられたのだ、彼女からしてみれば、それは何よりも嬉しい事だった。

 

『立ってくれよ、俺達三人で、あいつを倒そうぜ!!』

 

『うん・・・!うん・・・!!』

 

差し出された手を取り、立ち上がった沙希の頬には歓喜の涙が伝った。

 

漸く、本当の意味で隣に立てる時が来た、そう確信したのだろう。

 

『さぁ、行こうぜ!本当の戦いは、ここからだ!!』

 

三人並んだウルトラマンは構えを取り、戦うべき相手に向き合った。

 

間違えない為に戦うのではない。

今そこにいる本物と向き合う為に戦う。

 

本当の戦いは、ここから始まるのだ。

 

sideout




次回予告

たとえ力が強くても、一人きりでは戦えない。
だが、誰も一人では無い、一人などでは無い。
共に立ち向かう力は、元から自分達の中に在るのだから。

次回やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている

三人は手を取り合う。

お楽しみに

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