やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている 作:ichika
noside
『デェヤッ!!』
『イーッ!サーッ!!』
『嘗めるなぁぁ!!』
ネオスとXが同時に繰り出した打撃を、ファイブキングコルネイユはレイキュバスシザースで弾き、ガンQアイズで薙ぎ払った。
その威力は凄まじく、ネオスとXは大きく吹き飛ばされた。
『ガっ・・・!!』
『うわぁっ・・・!』
その威力に呻く一夏と彩加は、それでも立ち向かおうと、震える膝に鞭打って立ち上がろうとした。
だが・・・。
『ぐっ・・・!!』
ウルトラ念力を使い、尚且つ慣れないネオスでの戦闘が思った以上に身体に負荷を掛けているのだろう、一夏は立ち上がる事が出来ずに膝を付いた。
最早体力も無いのか、カラータイマーも点滅し、変身していられる時間がもう尽きかけている事を物語っていた。
『先生!!』
『変身を解いてください・・・!!このままではあなたの命が・・・!!』
ネオスを庇う様に立つ彩加とXは、一夏に撤退を促す。
これ以上戦えば、一夏の身体が持たない。
それだけは、彼等は見過ごす事の出来ない事実だった。
『は、ははは・・・、嘗めるなよ・・・!!俺がこの程度でくたばるかよ・・・!』
一夏は乾いた笑みを浮かべながらも、彼は再度立ち上がる。
そして、ダミースパークにセブン21のスパークドールズを読み込ませる。
ネオスの変身が一瞬にして解除され、赤い巨人、ウルトラセブン21へとその姿を変える。
ウルトラセブン21。
ウルトラマンネオス同様、勇士司令部に属したウルトラ戦士の一人である。
速さを主体としたネオスとは異なり、パワーで相手を圧倒する戦法を得意とするパワーファイターであった。
だが、それも一夏の本来の力では無い事には変わりなく、今の彼では制御する事がやっとと言える状況だった。
『せ、先生・・・!!待ってください・・・!!』
まだ戦おうとする一夏を制止しようと、彩加は手を伸ばし、彼の肩を掴む。
だが、それは敵に対して隙を見せる行為に他ならなかった。
『もぉらったぁぁぁ!!』
コルネイユの勝ち誇った哄笑と共に、超コッヴレッグより無数の光弾が撃ちだされる。
『あっ・・・!!』
『チッ・・・!21ヴェルザードッ!!』
光弾が迫り来る中、Xを押しのけて前に出たセブン21は頭部より必殺の刃、21ヴェルザードを放ち、光弾を幾つか切り裂いて撃ち落す。
だが、それでも撃ち落せなかった光弾が、二体のウルトラマンに迫って行く。
『『ッ・・・!!』』
避ける事も出来ず、その光弾が炸裂するかに思われた。
『ビクトリウムシュートォ!!』
その時、遥か彼方より光線が飛来し、Xと21に迫っていた光弾を全て撃ち落した。
『ディヤッ!!』
『な、にぃぃぃ!?』
直上より現れたウルトラマンに対処しきれず、ファイブキングコルネイユは頭部に踵落としが直撃し、地面にめり込まんばかりに倒れ伏した。
そして、そのウルトラマンは後方宙返りを決め、土埃を上げて盛大に着地した。
『び、ビクトリー・・・!?』
そのウルトラマン、ビクトリーの姿を見たXは、その姿に困惑し、声の調子を硬くした。
先程まで対立していたウルトラマンが現れれば、それこそ強張りもするだろう。
『戸塚!X!ついでに先生も!大丈夫!?』
『さ、沙希ちゃん・・・!』
すぐさまXに駆け寄り手を伸ばす沙希に、彩加は困惑しながらも、喜色を滲ませながらも手を握り返し、立ち上がった。
信じていた友の帰還、それが彩加にとっては何よりも嬉しかったのだろう。
『俺をついで扱いとは・・・、開き直ったか・・・?』
自分の扱いが二の次程度な事に苦笑しつつ、何とか立ち上がった。
だが、その声にはやはり待っていたと言わんばかりの色が混ざっており、沙希の事を深く想っていた様な想いが滲んでいた。
『・・・、皆には恩がある・・・、いや、違うね・・・、あいつも、比企谷も含めた、大切な皆を護りたいからあたしは戦うんだ!!』
その言葉を受け、セブン21をXと庇うように立つ沙希は、自分が戦う意味を見付けたという様に叫んだ。
その言葉に迷いは無く、ただただ真っ直ぐな想いが滲んでいた。
『分かったよ、沙希ちゃん!僕達で戦おう!!』
その想いを受け止め、彩加は頷きながらも沙希の隣に立った。
過ぎた事を何時までも追及していては戦えない。
だから今は、信じられる友と戦うと、彩加は決めたのだろう。
『勿論だよ!!行くよ!!』
彩加の想いに呼応し、沙希は友と共にファイティングポーズを取った。
『教え子だけを戦わせるわけにはいかないな・・・!俺も戦う・・・!』
二人の覚悟を汲み取った一夏は、ダメージの蓄積する身体に鞭打ち、向かって行かんとばかりに立ち上がった。
自分自身の落とし前は自分で着ける、彼が今も昔も抱く信念の一つが、今の彼を奮い立たせていた。
『護るぞ、この町に住む、大切な人達を・・・!!』
『『『はい!!』』』
一夏の想いに呼応し、沙希、彩加、そしてXが勇んで続く。
漸く立ち上がったファイブキングコルネイユに、三体のウルトラ戦士が立ち向かって行く。
最後のパズルのピースがかみ合い、想いが再び重なると信じて・・・。
sideout
noside
「は・・・、はは・・・、ははは・・・。」
人気のない河川敷の土手を、八幡は虚ろな目をしたまま、昏い笑いを漏らして彷徨っていた。
その表情からは生気が窺えず、心底絶望しきっているように見えた。
無理も無い、やっと掴めたと感じた友たちが、自分を攻撃し、自分も友に対して攻撃していたのだから・・・。
「なんでだよ・・・、なんで、川崎と戸塚を、俺が傷付けたのか・・・?なんで・・・?」
脚を踏み外したか、彼は土手を転げ落ち、落ち切った場所で座り込み、何も見たくない、聞きたくないと言う様にふさぎ込んだ。
その瞳に混ざっていたのは、昏い絶望と無力感のみであり、彼が信じていた何かが打ち砕かれた様な虚無感で満たされていた。
「俺が間違った・・・?この力があるから、間違えた・・・?」
ギンガスパークを握り締めつつ、彼は自問自答する。
間違いを犯す事を、彼は無意識の内に恐れていた。
これまで、彼が迫害を受けて来たのは、彼が踏んで来た間違いによるモノが幾つかあった。
その為、彼は周囲に対して何かを期待する事をやめ、周囲が自分を見てくれないのは自分に原因があると、無意識化で思い込む様になっていた。
故に、彼は自分から友を遠ざけるという選択を採ったのだろう。
人との間に溝を作り、誰とも関わらず、心が壊されない距離をこれまで保ってきたが故に、友人に殴られていた、友人を傷付けていたという事実は、彼の心を砕いていた。
「こんな、こんな力なんてなかったら・・・!俺は・・・!!」
「なかったら、君は死んでいたんじゃないか?」
ギンガの力を拒もうとした彼の耳に、問いかける様な男性の声が届く。
「ッ・・・!?」
誰もいなかった筈の真横から、突如として声が掛けられたのだ、彼でなくとも驚きはするだろう。
隣に見てみれば、そこには短く切りそろえた金髪をした長身の男性が彼を見下ろす様に立っていた。
「比企谷八幡君だな、一夏から話は聞いている。」
そう言うや否や、その男は八幡の傍に腰を下ろした。
彼の口ぶり八幡は察した。
その男もまた、ウルトラマンであった者だと・・・。
「あなたは・・・?」
「俺はコートニー・ヒエロニムス、一夏の友で、ウルトラマンだった者だ。」
八幡の言葉に尋ねる様に、その男、コートニーは名乗りつつも柔らかな笑みを浮かべていた。
その表情は、弟を見守る兄の様な表情で在り、八幡が嘗て見た、一夏と同じ笑みだった。
「俺は君を見に来た、再び立ち上がれるかどうかも含めてな。」
「ッ・・・!?」
彼の言葉に、八幡は表情を硬くした。
コートニーが何かして来ようとしていると直感したのだろう、彼は無意識の内に距離を取った。
「そう身構えるな、別に喧嘩売りに来たわけでも無いからな。」
心に余裕が無い故にいきり立つ八幡に苦笑しつつ、彼は八幡に座るように促す。
一戦交える気が無いと言わんばかりに、彼は手に持っていたヘルメットと、特殊な形状をした銃を地に落とした。
「話を聞かせてくれ、君が今感じている苦しみを取り除けると思ってる訳じゃ無いがな。」
「っ・・・。」
刺激しない様に努められたコートニーの言葉に、八幡は思い出したくないものを思い出したと言わんばかりに表情を歪め、涙を湛えつつも顔を伏せて座り込んだ。
自分が攻撃していたウルトラマンが、大切な、初めて心を通わせる事が出来ると感じた友だった。
そして、知らなかったとはいえ、何度も傷付け合っていた。
知っていてやるよりも、何よりも残酷な、知らず知らずの悪意をぶつけていたのだ。
その悪意を嫌う彼にとって、自分が行った行為は、何よりも耐え難いモノだった。
「俺は、また、裏切られてっ・・・!裏切って・・・!間違えて・・・!!」
血を吐く様な叫びと共に、彼は拳を握り締める。
悔しかったのだ。
護ると誓った者達を傷付けた事が、力を得て尚、間違えてしまった事が・・・。
「何がウルトラマンだ・・・!何が護るだ・・・ッ!!結局俺は、何も出来てないじゃないかッ・・・!!」
「・・・。」
顔を伏せたまま激情の声を発する八幡の言葉を、コートニーは何も言わず、目の前を流れる川を見ながらも聞いていた。
いや、ただ聞いているだけでは無い、コートニーは、嘗ての自分と、今の八幡を重ねあわせていた。
「一つ、昔話をしよう、俺達アストレイメンバーに纏わる、重要な昔話を・・・。」
「え・・・?」
あまりにも唐突なコートニーの言葉に、八幡はつい一寸前まで取り乱していた事も忘れて間抜けな声を漏らした。
一体、こんな状況で何を話したいというのか、皆目見当も付かなかった。
だが、コートニーの神妙な面持ちから何かを感じ取ったのだろう、八幡は黙って耳を傾けた。
「昔、俺達7人はそれぞれ異なった陣営でMSのパイロットをしていた時期がある、俺はMS開発部門のテストパイロットでリーカは同僚、一夏達は他の組織でトップガンを張るエースだった。」
懐かしむ様に、それでいて、何か苦しい物を語る様な表情に、八幡は何か引っ掛かる様な感覚を受けた。
「俺と一夏が初めて出会ったのは戦場だった、呉越同舟の様に共闘してから、一夏と俺は無二の親友になった、だが・・・。」
無二の親友との思い出を懐かしむが、それを区切った彼の言葉には、自分自身の失態を悔やむ様な色が見て取れた。
「俺は、自分が犯した間違いで、一夏を死なせかけてしまった事が有る・・・。」
「ッ・・・!?」
コートニーの口から発せられた言葉に、八幡は絶句した。
互いを家族以上の存在と認め合い、共に生きている間柄であるアストレイメンバーの過去に、互いを傷付けてしまった経験があるとは考えもしなかったのだろう。
「その時の俺は、ある夢を持っていたが故に周りを見れなくなっていた・・・、本当は取っちゃいけない手段すら使って、その夢だけを叶えようとしてしまった、一夏はそんな俺を止めようと戦って・・・、俺は彼に、瀕死の重傷を負わせてしまった・・・。」
コートニーの言葉には後悔の念が滲み出ており、自分が犯した過ちを、間違いを憎んですらいるように思える口ぶりだった。
無理もない。
親友を手に掛けたなど、間違いを通り越した、罪と呼べる物となっているのだから。
「あの時、俺は絶望したよ、何度も酒を酌み交わした友を、死なせてしまったと・・・。」
自分の手が、友を傷付けたと言わんばかりに、コートニーは自分の両手を見詰め、悔し気に拳を握り締めた。
「そこから先は、本当に何もかも諦めて、上に言われるがままに戦い続けた・・・、自分の信念も、夢も、全部失くした気になってな・・・。」
「それ、は・・・。」
全て失くした、その言葉は、今の八幡には自分自身に突き付けられた事実の様に感じられた。
今の自分は、友人だと思っていた者達を攻撃し、傷付け合っていた。
今、目の前でトラウマを語る彼と、どれ程の差があろうか?
「だが、そんな俺の前に、あいつは、一夏は再び立ちはだかった、俺の夢を、自分と仲間達を信じる事を諦めるなと言って、な・・・。」
「先生が・・・?」
その言葉に、八幡は思わず我が耳を疑った。
普通ならば、一夏にとってコートニーは親友である前に、自分を死の淵まで追い遣った、憎んでも良い相手の筈だ。
それなのに、何故助ける様に手を差し伸べられるのか、全く理解出来なかった。
「なんで、自分を死なせかけた俺にそんな事言ってくれるのか、俺には分からなかった、だから聞いてみたさ、何故俺なんかを助けるのかって、そしたらさ、あいつはこういったんだ、『お前は俺の親友で、大切な人だから、裏切られたなんて思っちゃいない』ってな・・・。」
「ッ・・・!」
「驚いたさ、あぁ、驚いた・・・、あいつは自分が傷付けられる事を何とも思っちゃいない、自分が誰かを傷付けるのを極端に嫌っているんだ、今の君と同じ様にな。」
自分が感じていた事を、一夏も感じていた事を知った八幡は、驚愕に目を見開いてコートニーを直視する。
そして、コートニーも何処か呆れた様に笑い、それでも一夏に対する信の深さを窺わせる目をしていた。
「一夏は俺と出会うよりもずっと昔、そう、君と同じぐらいの年齢の時に、セシリアとシャルロット以外のすべての人間を欺き、裏切り、屍の山を築く事で世界を壊して変革させた過去があった、だけど、裏切り続けた事でその手は汚れ、未来を信じられなくなっていた、その事を悔いてるから、彼はあの時の俺を許して、友として共に戦う事を今でも許してくれている。」
「そんな・・・、先生に、そんな苦しい過去が・・・?」
自分の事のように苦しく、痛ましく語るコートニーの言葉に、八幡は一夏が経験してきた裏切りを感じ取って背筋を震わせた。
織斑一夏と言う、その異世界の放浪者が経験した、自身が犯してしまった罪を知り、八幡は肌を震わせた。
「だけど、それは俺を助けるまでだったらしい、なんでか分かるか?」
「え・・・?」
その言葉の意味が分からず、八幡はコートニーに聞き返した。
「そこから先は、俺達7人で家族として生きていくから、自分だけが傷付くのは止めたんだ、俺達全員がな。」
「ッ・・・!!」
一点の曇りも無い笑みと共に発せられた言葉に、八幡はこれまでとは違う衝撃を受けた。
彼が欲してやまなかった本物、答えは違っても確かに掴んだ者達が存在していた。
それが羨ましくも眩し過ぎて、彼には直視できなかった。
「俺独りだったら、ここまで来れなかったさ、誰かと一緒にいられたから、俺はウルトラマンとして戦ってこれたんだ。」
拳を握り締め、ウルトラマンだった頃を思い出して感慨深げに語るも、彼が感じているのは、傍に誰かがいてくれる事の心強さと温かさだろう。
「君には、隣にいてくれる誰かがいるか?」
その想いを伝えたいのか、コートニーは八幡を見て尋ねた。
答えを期待した訳では無い。
だが、立ち上がる理由としては十分なはずだと信じていた。
「いてくれるなら、互いを求め許し合い、想いの全てをぶつけるんだ、自分に負けるな、鋼の様な強い意志を持ってくれ、それが君を光へ導いてくれるだろう。」
その道へと推す一言を残し、コートニーは立ち上がり、自身のバイクへと歩いて行く。
きっと立ち上がってくれると信じて、きっといい方向へ三人の関係が向かう様に信じて。
コートニーが立ち去った後、八幡は伏せていた顔を上げて、街の方を見た。
相変わらず曇天が広がり、その下では三体のウルトラマンと黒い怪獣が戦っていた。
「俺の隣にいてくれる人・・・、そんなのって・・・。」
誰もいないと思っていた隣には、何時も二人がいてくれたと気付いていた。
だが・・・。
「でも・・・、だからって・・・!!」
簡単に言われてもすぐに納得が出来ないのが人間であり、これまで他人と近付けなかった八幡の、純粋な想いだった。
「俺はどうすれば良い・・・?ギンガ・・・、教えてくれよ・・・。」
握り締めていたギンガスパークに、彼は泣きたい想いをぶつける様に問いかける。
ギンガが答えてくれる確証も無く、ただ、自問自答の様に・・・。
sideout
次回予告
きっと誰かが待っている、運命や宿命に向かい合い、輝く想いに誓う未来を共に・・・。
次回やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている
比企谷八幡は光の意味を知る 後編
お楽しみに