やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている   作:ichika

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比企谷八幡は二度戦う

side八幡

 

「待たせたな八幡君、乗ってくれ。」

 

学校を出て、数分歩いたところにある公園のベンチに座って待っていると、約束の時間ピッタリに、バイクに跨った織斑一夏先生が現れた。

 

というより、どう呼べばいいんだろうか・・・。

 

「よろしくお願いします、織斑先生。」

 

「これから行くとこ、嫁さんいるから織斑呼ばわりは止めてくれ、一夏で良いよ。」

 

この人、名字で呼ばれ慣れてないんだろうか・・・、少し勘弁してくれと言わんばかりに苦笑していた。

 

というか、結婚してたんだ・・・。

相手はISヒロインの誰かか?

 

「そんなリア充みたいな真似、出来ませんよ・・・、普通に先生で良いですか・・・?」

 

人のファーストネームを出会ってすぐに呼べるなんて、俺にとっちゃ正気の沙汰ではないレベルだ。

ボッチにとって、馴れ馴れしい態度は相手の反感を買いやすいために、なるべく取っちゃいけない。

 

だから、幾ら先生でもそこは直ぐには変えられない、よな・・・。

 

「なんだよリア充って・・・、まぁ、それでも良いさ、掴まってな。」

 

ヘルメットを手渡され、苦笑する先生の腰に腕を回してしっかりと掴まる。

 

つーか何だよこの人、腹筋メチャクチャ硬いな・・・!

どんだけ鍛えたらこうなれるんだよ、あとで聞いておこう。

 

そんな事を考えている内に、俺達を乗せたバイクが走り出していた。

 

エンジンの振動、身体に吹き付ける風が俺に伝わってくる。

自転車とはまた違う感じ方に、ある意味で戸惑っているだけかもしれないけど、気持ちいいな・・・。

 

「本当はサイドカータイプに乗ってこようと思ったけど、ウチの駐車場は狭いからな、少しでも小回りが利く中型にしといたんだ。」

 

先生の言葉を聞きながら、俺は道案内に専念する。

 

「で、八幡君、君の家はどの辺りだ?送ると言った手前、君の家に行く必要がある。」

 

「あ、二百m先の交差点を右に、そこからは住宅街に入って下さい。」

 

「了解。」

 

俺の案内に応じて、先生はすぐにその道を行く。

しっかし、運転上手いなこの人・・・、バイクなんて乗った事ない俺が乗ってても、バランス崩すどころか、巧い事カーブも曲がってるのが分かる。

 

まぁ、次元は違っても、ISとか乗ってた、あの織斑一夏だしなぁ・・・。

 

「戦闘機も乗れるぞ、ついでにMSも。」

 

「心読まないでください、なんですか?読心術も無いとウルトラマン務まらないんですか?」

 

しかもMSって・・・、ガンダム世界にもいた事有るのかこの人・・・。

 

流石、世界を渡る人だ、部屋の隅、いや、ベッドの中に居たがる俺とは、文字通り次元が違うな・・・。

 

「まぁ、どっちも動かすのはそこまで苦労しないさ、それに、ウルトラマンの方が自分の身体を動かす分、鍛えなきゃならない部分も変わってくる。」

 

「さいで・・・、その時が来たらお願いしますよ。」

 

軽口で返す間にもバイクは進み、気が付けば見慣れた場所まで来ていた。

 

「こっから50m行った所の、青い屋根の家です、家の前で待っててください。」

 

「OK、急がなくていい、俺が誘ったんだ、どっしり構えてろ。」

 

そんな事を言ってる内に、バイクが減速して、俺の家の前で止まった。

 

先生にメットを手渡しし、俺はバイクから降りて玄関へと歩みを進める。

 

「たでーまー・・・。」

 

「あっ!お帰りお兄ちゃん!!」

 

玄関の戸を開けると、リビングからキュートなアホ毛の少女、マイスイートシスター小町が顔を覗かせる。

 

天使!天使が降りてくる!

いや、違った、天使がこっちを覗いてるだ、間違えてはいけない。

 

「遅かったねー!ご飯今から作るけど何が良いー?」

 

「こ・・・、これから外で人と食べてくるから良いよ、着替えてこいって言われたし、待たせるわけにはいかねぇよ。」

 

危ねぇ・・・、ついうっかり小町って言いかけちまった、仕方無いね、千葉の兄妹は皆そんなもんだよね。

 

「えっ・・・?」

 

おい、なんだその信じられない物を見たような目は。

俺が人と飯食いに行く事がそんなに信じられねぇか。

 

あっ、今までそんな人いませんでしたね、ボッチだもの。

 

「うぅぅ・・・!遂ににお兄ちゃんが放課後に小町以外の人と遊びに行くなんて・・・!!小町感激ぃ!あっ、今の小町的にポイント高いねっ!!」

 

「そのポイント制・・・、そろそろやめない?」

 

感涙の表情から一転、決め顔(というよりドヤ顔)で話す小町にウザ可愛さを覚えつつも、俺は自室に戻ってさっさと服を着替える。

 

そういや、ドレスコードがあるか聞いときゃ良かったなぁ・・・、まぁ、大丈夫だろうな。

一応ギンガスパークは持って行くとしよう、怪獣が現れた時に変身できませんなんてシャレにもならん。

 

ジーパンと長袖のシャツに、上着として緑主体のベストを羽織る。

まだ春先だから夜は寒いからな、少し厚着でも大丈夫だろう。

 

二階の自室から降りてくると、玄関先で先生と小町が何か話し込んでいた。

 

「ほぇ~、総武高校の先生なんですか~?いつも兄がお世話になってます!」

 

「いやいや、彼は良い男だ、頼りになるよ。」

 

「兄には勿体無い言葉です!ありがとうございます!」

 

うん、流石俺の妹、コミュ力は俺の数百倍は上だぜ!そこに痺れる憧れるぅ!!

 

いや、別にそうでも無いか。

 

「先生、行けますよ。」

 

「おう、じゃあ小町ちゃん、またご縁があれば会おう。」

 

俺の姿を認めて、先生は小町の手の甲に口づけし、俺にヘルメットを渡してきた。

 

「んじゃ、ちょっくら行ってくら~。」

 

「は~い!いってらっしゃ~い!」

 

ヘルメットを被り、先生のバイクの後ろに跨る。

 

見送りに来た小町に軽く手を振った直後、俺達を乗せたバイクが走り出す。

 

「小町と何話してたんですか?」

 

「自己紹介だけだよ、あんな短い時間で込み入った話なんて出来やしないさ、けど、良い妹さんじゃないか。」

 

何気なく尋ねると、彼は小町を褒める様な発言をしてくれる。

うむ、兄として妹を褒められるのは悪い気はしないな、寧ろ、誇らしいまである。

 

「そりゃそうですよ、日本一、いや、世界一可愛い妹ですから。」

 

「ははは、君は妹が好きなようだな。」

 

「むしろ愛してるまであります。」

 

千葉の兄妹は何処ともそうだ、かの兄上もそう言ってる。

 

「仲が良い事は良い事だ、大切にしろよ。」

 

普通の、今まで俺が出会ってきた人なら、このシスコンに引く筈なんだが・・・。

 

「引かないんですね・・・?」

 

「何処に引く要素がある、兄妹愛、美しいじゃないか、羨ましい位だよ。」

 

な、なんか調子狂うな・・・、今までは散々引かれ貶されの繰り返しだったから、余計にそう思うのかね・・・。

 

「君は・・・、いや、今はまだ分かり切ってないな、またの機会にさせてもらうよ。」

 

何を言おうとしたのか、彼はヘルメットの裏で苦笑しながらも運転を続けた。

 

見透かされた、のか・・・?

 

そんな事を考えていると、住宅街から少し離れた場所にあるマンションの前に着いた。

 

その一階の道路側に、ネオンの看板が躍っていた。

 

「ショットバー≪アストレイ≫・・・?」

 

「王道じゃないって意味の店だ、朝の九時から夕方六時は喫茶店、七時からはバーって形式を取ってる、まぁ、付いて来い。」

 

バイクから降りた俺を連れて、彼は先に扉を開けて店の中に入った。

 

店の中はかなり広々としており、青を基調とした落ち着いた雰囲気を醸し出す佇まいだった。

店内は落ち着いたジャズの音色が響いており、眠気と、ムードを誘う。

 

更に、壁際には少し小さめのピアノも備えてあるなど、どう見ても若造が入って来て騒いで呑むという場でない事は一目瞭然だった。

 

他の客の姿は無かったが、時間も少し早いからだと考えれば煩く無くていいかもしれないな。

 

「あら、お帰りなさいませ、一夏様♪」

 

「あぁ、ただいまセシリア、ノンアルコールで一つ頼む、彼がこの世界に現れたウルトラマンだ。」

 

「まぁ、この方が・・・?」

 

おのぼりさんよろしく店内を見渡す俺を出迎えたのは、カウンターでカクテルを作る、長い金髪をしたバーテンダーの女性だった。

 

すっげぇ美人・・・!ってか、この人・・・!

 

「セシリア・・・オルコット・・・?」

 

「あら、私の事を御存じで?」

 

俺の探る様な言葉に、その女性、ISのヒロインであるセシリア・オルコットは柔らかく微笑んだ。

 

アニメや小説の挿絵とかで見てたけど、現実に見ると恐ろしいほどの美女だ、これで落ちない原作一夏どうなってんだよ・・・。

俺なら微笑まれただけで勘違いして、すぐに告白して振られちまうトコだぜ。

 

あれ、振られる事確定なのか・・・?いや、俺だから当然か?

 

「小説のヒロインなのに、憶えてないわけありませんよ・・・。」

 

「ふふっ♪可愛らしいお答えです事、将来への投資に一杯奢りますわ♪」

 

俺よりもいくらか年上だろうと想像できたが、その笑顔は凄い子供じみていて、それでも可憐であり妖艶で、見ている者を惹きつけてやまない魅力に満ち満ちていた。

 

「ウチの嫁だ、八幡君、彼女もウルトラマンだった女だよ。」

 

「セシリア・A・織斑です、御見知りおきを♪」

 

「比企谷八幡です・・・、貴女も、ウルトラマン・・・?」

 

どっちかって言うと、ウルトラウーマンの方が良いんじゃないかなとは思うが、別段気にする事ではない所だ。

 

というより、ウチの嫁って事は、一夏先生はセシリアを選んだって事なのか・・・?

 

「そう言えば、シャルは如何した?今日はコートニーとリーカの当番の筈だけど?」

 

「先程休憩に入られましたわ、すぐに戻って来られるでしょうけど。」

 

シャルって・・・、もしかしてシャルロット・デュノアの事なんだろうか・・・?

コートニーとリーカって名前には聞き覚えはないけど、身内なんだろうなとは理解出来る。

 

「あぁ、そうそう、八幡君はこの世界に現れたウルトラマンと融合している。」

 

「まぁ、先日は大変でしたわね、労いにも成りませんが、これをどうぞ♪」

 

何時の間に作り終えたのか、俺と先生の前に透き通った緑色の呑みモノが差し出される。

 

アルコールは入ってないだろうけどこれは・・・。

 

「サラトガクーラーか、セシリアにしては珍しいな。」

 

「ノンアルコールですし、ジンジャーエールベースですから♪」

 

なるほど、漸く液体の正体が分かった気がする。

 

先生に倣って、俺もグラスに口を付ける。

 

ジンジャーエールの酸味とガムシロップとライムの風味が口いっぱいに広がり、口に残る後味も爽やかだ。

こりゃ、美味いな・・・。

 

「さて、何でも好きなモン頼めよ八幡君、俺の奢りだ。」

 

俺が一息つくと、先生は食事のメニューを手渡してくる。

 

パスタなどの麺料理やカレーが多いが、中にはオムライスやピザなどのそれなりに手間の掛かるモノまで置いてある。

 

原価取れてるのかなぁとか考えてみたけど、ドリンクの値段が微妙に高めだ、つまみを安くする代わりに本命を高くするとは恐れ入る・・・。

 

「んじゃ・・・、ペペロンチーノ一つで。」

 

取り敢えず、シンプルな料理から頼んでみよう。

そうすればこの店の味が分かる筈だし。

 

「かしこまりました♪」

 

セシリアさんはそう言うと、厨房に声を掛けていた。

 

どうやら、別の人が作るんだろうと想像できる。

 

「しかし、八幡君が俺達を知っててくれたのは僥倖だったよ、知らない相手に一々説明するのは骨が折れるからね。」

 

「それもそうっすね、知らない人間からしたら、偶然の一致でそれまでっすよ。」

 

実際、俺も最初はそうだった、信じろという方が無茶な要求だ。

 

まぁ、ウルトラマンとか怪獣とか言う、非現実的な存在がいたからこそ、すんなりとパラレルワールドの人間て言う突拍子も無い話を受け入れられるってなもんだ。

 

そういえば、ギンガになったのは良いけど、ベムラー以外の怪獣も出てくるかもしれないんだよな・・・、そこん所聞いとかないと。

 

「そう言えば、怪獣ってどんな種類がいるんですか?」

 

「ほう、そこを聞いて来るとは面白い。」

 

カクテルグラスを置いて、先生は楽しげに俺を見てくる。

 

やる気を見せたから面白げに見て来るのか、他の事なのかは分からないけど・・・。

 

「ギンガの力を持ってる以上、怪獣と戦わなきゃならない事も多い筈、だったら、戦う怪獣の性質さえ知っておけば何かと有利でしょう?」

 

目立たず生きていきたかったけど、怪獣が現れたとなると下手すりゃそもそもの生活すら送れやしない。

 

だったら、自分の生活護るためにも戦わなくちゃならないんだ。

その手段と知識は多いに越した事はない。

 

「その通りだ、良いだろう、君の力を利用させてもらう為に教えるとしよう。」

 

彼もその意図が伝わったか、懐からメモ帳を取り出して、タイプを書き表す。

 

「君がこの前倒したベムラー、あれは怪獣の中の怪獣、つまりは地球の動物がデカくなって暴れてる様な存在だ、明確な攻撃な意識は無いが、邪魔をされるとそれに向かってくる性質がある。」

 

「つまり、そういう奴等は、ただ自分のテリトリーに邪魔があるから暴れている様なもんですか・・・。」

 

「ご名答。」

 

なんてこった、それってたまに市街地に出る熊や猿みたいなもんじゃねぇか。

倒しておいて何だけど、罪悪感が・・・。

 

「ま、自衛のためには仕方ない、とは言い切れんが、割り切らないといけない部分は有るだろう、もう一つが厄介だ、明確な攻撃の意思と殺意、そして、悪意を持っているタイプの怪獣だ。」

 

「つまり、人間殺しに掛かる種類って事ですか・・・?」

 

なんて性質が悪いんだ・・・、それってつまり、ウルトラマンに対しても適用されるんだろうなぁ・・・。

 

「そいつ等は強大なパワーを持っているタイプと、悪知恵を持っているタイプに分かれる、悪知恵を持っている奴に限って、精神攻撃仕掛けてくる奴が多い、周囲の人間を巻き込んででもな。」

 

もっと性質が悪いのがいるのかよ・・・、しかも精神攻撃系って厄介な・・・。

 

「まぁ、一口に怪獣って言っても、属性やら戦い方が変わってくる、ロボット怪獣なんていう奴等もいるんだ、コイツは厄介だぜ。」

 

「幅広いっすね、一々覚えてられなさそうだ・・・。」

 

性質の種類は分かっても、個体ごとに対処法が変わってくるとなると、行き当たりばったりで戦っても意味無いな・・・。

 

そこは、先達に教えて貰わないと・・・。

 

「まぁ、そこは俺が出来るだけフォローするさ、君だけに苦労を背負い込ませやしないさ。」

 

俺の表情に自信が無いとでも出ていたのか、先生は申し訳なさそうな顔で呟いた。

 

なるほど、俺を巻き込みたくないって口か、自分が戦えない事を悔やんでいるか・・・。

どっちにしても、俺に対して思う処があるみたいだ、そこら辺にいる大人達に比べりゃ、信じても良いって気にはなるな。

 

「ささっ、ウルトラマンのお話は後に致しましょう?出来ましたわよ。」

 

その気持ちに応えようとする前に、料理が運ばれてきた。

 

少しニンニクの香りが強いけど、それ以外は特に何の変哲もない、如何にもパスタ的なペペロンチーノだ。

 

「本格的なイタリアンの店で出すほどではありませんが、お召し上がりくださいな♪」

 

「あっ、すみません、いただきます。」

 

セシリアさんからフォークを受け取りつつ、俺は合掌、その後にフォークにパスタを絡める。

 

オイルがしっかり絡んだそれを口に含む。

 

「う・・・!美味いっ・・・!!」

 

麺のコシは勿論の事、ニンニクの香りと赤トウガラシの絶妙なハーモニー・・・!

だけど、しつこくない味付けだ・・・!これは、出来る人の料理だっ・・・!!

 

「なんですかこれっ・・・!普通にレストランで出せるレベル・・・!えぇー・・・?」

 

「これ、作ったの玲奈か・・・?随分腕が上がったもんだ。」

 

あまりの旨さに震える俺の隣で、喰い慣れている織斑先生は誰が作っているのかをあっさり見抜いている様だった。

 

まぁ、一緒に暮らしてる仲間内だったら分かるよなぁ・・・。

 

しかし、今は詮索しないでおこう。

この人達は、話して良い事なら自分達から話してくれる筈だから・・・。

 

 

 

おい

 

 

待て、俺は今何を考えた?

向こうからどうにかしてくれるとか考えただろ?

 

昔決めたじゃないか、他人は、信用しないって・・・。

 

だったら、手札揃えるためにも、自分で動かなきゃダメだろ・・・!

 

「あの・・・。」

 

その先の言葉は、急に襲い掛かった揺れによって遮られた。

 

地震・・・、いや、違う、これは・・・!!

 

「早速二体目のお出ましだ、どうやら、ベムラーの登場で、封印されていた怪獣たちが目覚めつつあるみたいだ。」

 

先生は食べていたパスタを置き、口元を拭って外へと出て行く。

やっぱり、これは・・・!!

 

「怪獣・・・!こんなところで暴れたらどれ程の被害が・・・!!」

 

住宅街から外れてるったって、ここも街中だ、それなりにビルもマンションもある。

 

そんな中で暴れやがったら・・・!!

 

「俺が、やるしかないのか・・・!!」

 

出来る事があるなら、手段がどうこう言えないなら、それをやるしかねぇじゃねぇか・・・!!

 

フォークを置き、代わりにギンガスパークを懐から取り出しつつ表に走る。

 

外に出ると、はるか五百メートル先に巨大な影が動いていた。

 

ずんぐりした、首の無い身体をした妙な怪獣・・・、あれは・・・。

 

「髑髏怪獣レッドキング、赤くないのは突っ込むな、まぁ、分類的にはザ・怪獣だ、ベムラーよりパワーがある、気を付けろ。」

 

その怪獣の名を言いつつ、サラッと突っ込みどころまで指摘するのは感服に値する。

 

「他に気を付けるべき点はあります?」

 

「特にない、だが、女のヒステリーみたいにモノ投げてくるかもしれんからそれだけは気を付けろ。」

 

案外酷い事言うんだなこの人・・・。

まぁ、言いたい事は分からなくもないから良いけどさ。

 

「分かりました、行きます!!」

 

ギンガスパークの両サイドに有る出っ張り、スパークブレードを跳ね上げる。

すると、ギンガスパークの先端からギンガのスパークドールズが現れた。

 

なるほど、これで変身するんだな・・・!!

 

ギンガを掴み、そのままギンガスパークの先端を右脚の裏にあるライブサインに押し付ける。

 

「行くぜ、ギンガーーーー!!」

 

ギンガスパークを天に掲げると、俺は暖かな光に包まれて行く。

 

そして、その光が晴れた時、俺は光の巨人へと変身していた。

 

「うぉぉ・・・!また変身できた・・・!!」

 

一度変身したとしても、あれは所詮ギンガの意思が先行していた。

俺の意思で変身できたのは、今回が初めてだからある種の感慨もある。

 

っと、今はそんなことを考えてる場合じゃない・・・!!

 

ギンガに気付いたか、レッドキングはこっちに向き直った。

敵を見付けた事に自分自身で驚いているのか、手足をばたつかせてその場ではしゃぐ様にジタバタしていた。

 

なんというか、コミカルな怪獣だな・・・、小さかったらどっかのゆるきゃらにでも居そうなもんだが・・・。

 

まぁ、そんな事はどうだっていい、俺は俺がやる事をするだけだ。

 

「行くぜギンガ!!」

 

構えを一瞬取った後、俺は名前だけ赤い奴に向けて走り、飛び蹴りを叩き込む。

 

直撃を喰らったレッドキングはやたら大袈裟に身体を揺らして後退り、怒ったとでも言わんばかりにこっちに向かってくる。

 

手足が短いから掴まらなければ問題はなさそうだけど、油断は出来ないな・・・!!

 

そう思っていると、レッドキングは足元に転がっていたビルの瓦礫を拾い上げ、俺に投げ付けようとしてくる。

 

「そんなもん投げんじゃねぇ!!」

 

距離を詰めつつ投げられた瓦礫をキャッチ、跳躍して口に突っ込んでやる。

 

まさか口に入れられるとは思わなかったのか、奴は咽をベチベチ叩いて悶えていた。

 

「しぇぃやぁっ!!」

 

その隙を見逃さずに身を屈めつつ、左ストレートをレッドキングの腹に叩き込む。

そして、怯んだ所に我武者羅に連続パンチを浴びせかける。

 

喧嘩みたいな型がないやり方だけど、それがどうした、倒せればそれで良い・・・!!

 

レッドキングは悶える様に身体を仰け反らせて後ずさった。

 

「ショゥラッ!!」

 

そこに追い打ちを掛けるべく、俺は回し蹴りを叩き込んでヤツを蹴り飛ばした。

 

「これで決める!!」

 

両の拳を胸の前で合わせ、右腕を天に掲げる。

 

すると、ギンガの身体にあったクリスタルが黄色く光り、空に雷雲が広がって行く。

 

そして、雷だけがギンガの右腕に集まって行き、円形を形作る。

 

あれ、これなんて気円ざ・・・。

って、それ言っちゃいけない技・・・!!

 

この技は!!

 

「行くぜ!ギンガサンダーボルトォォ!!」

 

その電撃を、俺はふらふらになりながら立ち上がったレッドキング目掛けてぶん投げる。

 

雷撃はレッドキングに直撃、奴は感電した様に痙攣した後、地に倒れ伏して盛大な爆発を上げた。

 

爆煙の中で、青い光が一か所に集まって、その姿をスパークドールズに変化させていた。

 

「これで、一件落着、だな。」

 

タメ息を吐きつつ、胸の前で腕を組んで変身を解除しようと試みる。

それが正しかったのか、俺は再び光に包まれて小さくなり、元の姿に戻っていた。

 

勿論元の場所に意図的に戻ろうと意識して試したから、店の前に戻ってこれた。

 

他に客はいなかったし、今回は夜だったから、紛れ込む程度には誤魔化しは効いてくれているだろう。

 

そういえば、先生の姿が見えない様な・・・?

 

「お疲れ様、上等な戦い方じゃないか、見ていて安心するよ。」

 

「うわっ!?何処にいたんです・・・!?」

 

いきなり俺の真横から掛けられた労いの言葉に、俺は驚いて身体を仰け反らせてしまう。

 

気配や視線に敏感なはずの俺が、全く気配を感じ取れなかった・・・!

やはりこの人は只者じゃない・・・!!

 

「レッドキングのスパークドールズを回収してきた、先回りしてたから時間は掛からなかったよ。」

 

「何故、スパークドールズを集めるんです・・・?」

 

先生がスパークドールズを集める理由が分からず、俺はふとその疑問を口にした。

 

目的を知っておかないと、いざって時に信じられないからな・・・。

 

「スパークドールズに封じたとはいえ、怪獣の意思まで封じられた訳じゃ無い、だから、そのままにしておくより、手元に置いて見張っておいた方が都合が良い。」

 

「はぁ・・・。」

 

分かる様な分からない様な・・・。

まぁ、これを悪用されたら堪ったもんじゃないって事ぐらいは俺にも分かる。

 

「それに、ウルトラマンとして動きにくい局面もあるかもしれない、その時に、怪獣にライブして戦う事も出来るしな、一石二鳥だ。」

 

それって、怪獣狙ってくるような輩もいるって事っすよね・・・。

一石二鳥どころか、余計な厄災抱え込んでる気もするんですけど・・・。

 

まぁ、この人がそんな単純な訳も無いか・・・?

 

「さっ、喰いそびれちまったし、仕切り直して飯でも食おう。」

 

呆然とする俺の背中を叩いて、彼はさっさと店の中に戻って行ってしまう。

 

如何するべきか悩んだけど、腹が減っている事には変わりないので、取り敢えず彼に従う事にした。

 

今だ燻る、戦いの熱と困惑を胸に抱えたままで・・・。

 

sideout

 

noside

 

「御馳走様でした、美味しかったです。」

 

「ふふっ♪またお越しくださいませ♪」

 

食事を終え、一夏の運転するバイクで帰路に就く八幡を見送ったセシリアは、食器を片付けるべくテキパキと動く。

 

その手際は手慣れたものであり、手早く汚れを拭き取って次の客に備えていた。

 

「休憩上がりました~、あれ?一夏は?」

 

「あら、シャルさん、一夏様なら新しいウルトラマンの方を送りに行かれましたわよ。」

 

そんな時だった、スタッフ控室から出てきた濃金髪の美女、シャルロット・D・織斑が自身の夫の姿が見えない事に首を傾げながら尋ねていた。

 

「そうなんだ・・・、僕もその子に挨拶しておきたかったんだけどなぁ・・・。」

 

「ふふっ♪またいずれ来られますわ、それに、彼は一夏様の教え子だそうで、これからもここを使う機会は有りますわ。」

 

「そっか、なら良いけどね。」

 

何気ない、世間話をする様に会話をする中にも、お互いの信頼を窺わせるような温かみが感じ取れる。

 

それほどまでに、彼女達の仲は深いのだ。

 

「そういえば、かなり時間が掛かっておられましたわね?如何されました?」

 

だが、シャルロットの休憩から戻る時間が少し遅かったのを疑問に思ったのか、セシリアは小首を傾げて尋ねた。

 

歳も二十代半ばとは言え、セシリア程の美女が首を傾げればそれだけで画にはなる。

しかし、見慣れているシャルロットにとっては、取り立てて思う処は無かった。

 

「うん、出ようと思ったところに電話かかって来てさ、前から募集してたアルバイト募集の広告をネットで見た子からだったんだ。」

 

「まぁ!それは良かったですわね♪」

 

シャルロットの口から語られた内容に、セシリアは喜色に顔を綻ばせた。

 

そう、彼女達は一夏を除いて六人でこの店を切り盛りしているが、それは所詮表の顔でしかない。

 

二人一組で交代で自分達の力を探しに出ているのだ、正直な話、店の方にもスパークドールズ探しにも手が足りていないのが現状なのだ。

 

そのため、アルバイトが入ってくれるのは非常にありがたい話であった。

 

「明後日ぐらいに面接に来てもらうから、セシリアも会って貰うよ?」

 

「えぇ、構いませんわ、所で、その方のお名前は?」

 

経営者としての顔になったセシリアとシャルロットは、懐に仕舞ってあったメモ帳に予定を書き込んで行く。

 

「うん、たしか、カワサキ サキって名前だったね。」

 

だが、この時の彼女達は知らなかった。

 

この一本の電話が、未来を大きく変えていく事になると・・・。

 

sideout




八幡の小町への態度、及び小町の八幡への態度がまだ掴めてなくて、少し手探り気味です。

ここでお分かりになった方も多いと思いますが、現在同時進行中の機動戦士ガンダムSEEDASTRAYXINFINITYの主人公勢が主に出て来ます。
尤も、最終回後のIFという設定なので、色々とネタバレ的な要素が後々出てくると思いますが、平にご容赦くださいませ

それでは次回予告

ボッチは孤独ではあるが、常に独りである訳では無い、運命とは絶えず、人に働きかけていくのだから・・・。

次回、やはり俺の青春にウルトラマンがいるのは間違っている

比企谷八幡はその女と出会う。

お楽しみに~

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