やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている   作:ichika

28 / 160
三人は間違いを知る

noside

 

「あっ・・・!」

 

三体のウルトラマンがやられ、彼等が落ちた場所に走った一夏は、そこで互いに顔を見合わせ、絶望の表情を浮かべている八幡と沙希、そして彩加の姿があった。

 

「まさか・・・、互いの正体を・・・!?」

 

最悪の事態、敵の襲撃を受け、全く同じタイミングで変身解除されるという想定はしていた。

 

だが、それが現実に起きてしまうとなると、自分がどうしていいか、その時の動き方全てが頭から飛ぶほどに取り乱してしまっていた。

 

「まずい・・・!!今はそんな場合じゃない!!」

 

しかし、今は呆けていられる程穏やかな場合では無い。

今だに黒い巨体、ファイブキングコルネイユがすぐ傍にいる。

 

この状況で立ち止まっている訳にもいかない。

 

故に、彼はその足を無理やりにでも動かした。

 

「三人とも、すぐに逃げろ!!逃げるんだっ!!」

 

声を張り上げ退避を促すが、三人はまだ動こうとしなかった。

 

『死にさらせぇ!ウルトラマン共がぁ!!』

 

それを隙と見たか、コルネイユは哄笑と共に、右腕のレイキュバスシザースより黒炎球を彼等目掛けて撃ち掛けた。

 

「「「ッ・・・!?」」」

 

それに反応したは良いが、もはや逃げられない距離にまでそれは迫っていた。

 

『い、いかん・・・!!』

 

Xも反応したが、それを防ぐ手立ては一切なかった。

 

そのまま無情なる炎が彼等を焼き尽くすかと思われた、まさにその時だった。

 

「ッ・・・!!ウォォォォッ!!」

 

大切な教え子たちを護るため、覚悟を決めた一夏はこれまで使用を禁じていた力の使用を決意した。

 

音速を何倍にも超える速さで走り、三人を庇う様に立ちはだかる。

 

「せ、先生・・・!?」

 

彼が一瞬の内に距離を詰めた事に信じられないのか、彩加が我に返って叫ぶ。

 

ウルトラマンの力の残滓と、彼が元から持っていた身体能力を合わせれば、瞬く間にその距離を詰める事は容易かった。

 

だが、一々取り合っていられないし、それだけでは終わっていられない。

彼は腕を胸の前で交差し、力を籠める。

 

「ウルトラ念力ッ!!」

 

ウルトラマンが共通して持つ超能力、ウルトラ念力は自らの内外関係なく作用する事ができ、その気になれば実体の無い火球さえ跳ね返す事すら可能だった。

 

『な、なにぃィィィッ!?』

 

「う、おぉぉぉぉぉッ・・・!!」

 

コルネイユが驚愕の声を上げたが、そんなものに取り合っている暇は無いと言う様に、一夏は一気に体内の力を解放する。

 

それは黒炎球を押し返し、ファイブキングコルネイユの胴に突き刺さる形となった。

 

『げぇぇぇぇっ!?』

 

思わぬ反撃に面食らったか、それとも自身の攻撃が強すぎたか、ファイブキングは大きく弾き飛ばされ、彼等から離れた場所に叩き付けられた。

 

「ぐ、くっ・・・!!」

 

「せ、先生・・・!?だ、大丈夫ッ・・・!?」

 

呻きながらも地に膝を付き、荒い呼吸を吐いて何かを堪える一夏に、彩加は慌てて駆け寄った。

 

そして、気付いてしまった。

一夏の額から、尋常では無い量の脂汗が滲み出ている事に・・・。

 

「なん、でもない・・・!良いから、早く逃げろぉ・・・ッ!!」

 

駆け寄る彩加の腕を振り払い、一夏は脚を引き摺りながら三人の身体を押して退避を促す。

 

「で、でも・・・!!」

 

「逃げるんだッ・・・!!命を、粗末にするんじゃないッ・・・!!」

 

まだ食い下がろうとする彩加を担ぐ様に持ち上げながらも、一夏は八幡と沙希を押して走り出した。

 

『ガァァァッ・・・!油断したっ!!ウルトラ念力かッ・・・!!』

 

漸くダメージから立ち直ったコルネイユは、頭を振るって立ち上がり、ウルトラマンたちの行く先を見た。

 

先程まで彼等がいた場所には人影は無く、彼等が逃げた事を如実に物語っていた。

 

『チィッ・・・!逃げ足の速い奴等だ・・・!!』

 

地団駄踏む様に地を踏み荒らしながらも、コルネイユは吠えた。

 

息の根を止め損ねた事が純粋に悔しいのだろう。

 

『だが、まぁいい・・・!この力さえあれば俺は無敵だァ!!』

 

しかし、今やるべき事がある。

今は人間どもの絶望を集める、それが先決なのだ。

 

『クックックッ・・・、カーッカッカッカッ!!』

 

カラスの如き醜い声で笑いながらも、コルネイユは街の方へ進撃を開始した。

 

この世を絶望で覆うため、主の完全復活の為に・・・。

 

sideout

 

noside

 

「行った、か・・・。」

 

学校から離れた路地裏に八幡と沙希、そして彩加の三人を逃がした一夏は、疲労困憊と言う様に壁に凭れ、ずり散るようにして腰を地に着けた。

 

肩で息をするほどに疲労が回っているのか、その表情に普段浮かべている穏やかな笑みは無かった。

 

「アイツは五体の怪獣の集合体だ・・・、だが、俺達の戦ったそれより強力になっている、君達が協力しなきゃ勝てないほどにな・・・。」

 

まだ体力が戻っていないのか、震える膝で無理に立つ一夏は、その表情を歪めながらも話した。

 

「・・・、なんで・・・。」

 

「八幡君・・・?」

 

そんな彼を気遣う様子も無く、これまで口を噤んでいた八幡は一夏に詰め寄り、彼の襟首を掴む。

 

「なんで教えてくれなかったんです!?川崎がビクトリーだって!?戸塚がXだって!!なんで黙ってたんですか・・・ッ!?」

 

彼は認めたくなかったのだろう、自分が友人を傷付けていたという事実を。

そして、止まらなかったという間違いを・・・。

 

「俺は止めた筈だ・・・、戦うなと、相手の話を聞けと・・・。」

 

だが、一夏は煩わしそうに腕を払い、目を逸らした。

 

しかし、彼の言葉は正論だった。

もし、八幡と沙希が一夏の話に耳を傾け、ウルトラマン同士の状態でも事情を打ち明けさえすれば、ここまで争う必要は無かった。

 

「ッ・・・!そんなの・・・!そんなのッ・・・!!ただの結果論じゃないかッ!!アンタが打ち明けてれば、こんなことにならなかったのにっ・・・!!」

 

だが、それを受け入れられるほど、八幡は素直でも純粋でもなかった。

間違えたくなかったから、これまで戦ってきた。

 

その覚悟を踏みにじられた心地にもなった。

 

「落ち着け、今はあのバケモノを倒す事だけ考えろ、アイツを野放しには出来ん、君達で倒すんだ。」

 

しかし、一夏にそんな心境を鑑みれる余裕は無かった。

 

今にも破壊されようとしている街がある、奪われようとしている命がある。

元ウルトラマンとして、それを見過ごすわけにはいかなかった。

 

故に、彼等の心情を配慮してやる余地は何処にも無く、ただ、無情にやるべき事を提示する。

 

だが・・・。

 

「ッ・・・!!」

 

八幡は怒りをその瞳に宿し、握り締めた拳で一夏を殴り飛ばした。

 

ウルトラマンと融合した事で上がったパワーも、今の状態では活かす事が出来なかったのだろう。

 

一夏は僅かな痛みを堪える様な表情をしながらも、微動だにしなかった。

 

だが、効いていない訳では無い、口の中でも切ったのか、口の端より赤い血が流れ出る。

 

「アンタに・・・!アンタなんかに俺の気持ちが分かってたまるかッ・・・!!ボッチじゃない、誰からも愛されるアンタなんかにッ・・・!!」

 

そんな一夏の姿は、今の八幡にとっては怒りを駆り立てるモノでしかなかった。

 

織斑一夏という男は、八幡を利用している事は分かっている。

 

だが、それは彼の気持ちを顧みていないから、ボッチの心境など分かる訳も無いから出来る事なのだと感じていたのだ。

 

「八幡・・・!!」

 

教師を殴るべきでないと言いたげな彩加の言葉を無視し、八幡は今にも泣きそうな表情をして走り出した。

 

「八幡・・・!」

 

「ひ、比企谷・・・。」

 

そんな彼を止めようと、彩加は声を張り上げ、沙希は困惑と怯え、そして悲哀が混じった声で彼を呼ぶ。

行かないでくれ、自分達を見てくれとでも言う様に・・・。

 

だが・・・。

 

「来るなッ・・・!!」

 

彼は声を張り上げて、二人を拒絶した。

 

その声には怒りと拒絶、そして、それ以上の苦しみと悲しみが混じっていた。

 

「俺は・・・!俺はもう裏切られたくないっ・・・!!」

 

血を吐く様な叫びの裏には、これまで以上の絶望が籠められていた。

 

彼はこれまで、何でも裏切られ続けてきた。

裏切られ続けてきたからこそ、手に入ったと思っていた本物にも裏切られたにも等しかった。

 

「俺は・・・!本物が欲しかっただけなのにッ・・・!!」

 

八幡は大粒の涙を零しながらも走り去って行った。

 

その背に、誰も声を掛ける事無く・・・。

 

「ッ・・・、何で・・・、なの・・・?」

 

「さ、沙希ちゃん・・・?」

 

絶望に染まった声で呟き、フラフラと何処かへ歩き去ってしまった。

 

「なにが、間違ってたの・・・?何が・・・?」

 

想っていた相手を傷付けていたなど、在る意味で純粋な沙希には耐えきれなかった。

 

その背に、彩加はまた、何も言えずに見送るしか出来なかった。

 

「・・・、また、護れなかったか・・・。」

 

口の端から流れる血を拭う事すらせず、彼はコルネイユが向かった街の方面を睨んでいた。

 

その瞳には後悔と、それ以上に強い決意が宿っていた。

 

「ならば・・・、俺が、戦う・・・!この命・・・!燃やしてやる・・・!!」

 

『ま、待ってください・・・!貴方の身体では・・・!?』

 

呻く一夏の言葉に、Xが制止の声を上げる。

 

「止めるな、X・・・、これは俺のケジメなんだ・・・!」

 

「ど、どういう事・・・?X・・・?」

 

表情を顰めたままの一夏に違和感を感じたのか、彩加はその訳を尋ねた。

 

嫌な予感が過ぎったのだろう、その表情は固かった。

 

『ウルトラ念力は、ウルトラマンですらそう何度も使えない技だ、今の彼はウルトラマンとしての姿を失っている、そんな状態でウルトラ念力を使えば、命すら危ういんだ・・・!!』

 

「そ、そんなッ・・・!?」

 

ウルトラ念力の副作用を知った彩加は、愕然とした様な表情を浮かべ、一夏を凝視した。

 

普通なら動く事すら出来ない状態だと知り、動いてほしくないのだろう。

 

「ハッ・・・、甘く見られたもんだ・・・、この身体がそんなヤワな訳あるまいよ。」

 

「待ってください・・・!先生は、死ぬつもりなんですかッ・・・!?八幡と沙希ちゃんの関係を壊した責任を、それで取るつもりなんですかッ!?」

 

闘いに赴こうとする一夏に、彩加は制止の叫びを投げかける。

 

何の責任を感じているというのだ、一夏がそこまでする必要は無いというのに。

 

何を死に急ぐ真似をしているというのだ。

 

そんな想いが、彼の言葉には滲み出ていた。

 

「あの二人を割いたのは俺の責任だ、だが、そのために命張る程、俺は御人好しじゃあ無い、それに、あの怪物を誰が倒す?あの二人が戦えない以上、代わりの人間が戦う義務がある。」

 

そんな彼の言葉を笑う様に、一夏は強がったような笑みを浮かべる。

心配するなと、大丈夫だと。

 

「でもッ・・・!!」

 

「嘗めるなよ小僧!!」

 

それを見て尚食い下がろうとする彩加に、一夏は圧倒的なプレッシャーを籠めた言葉で封殺する。

 

その圧力は全盛期のモノに加え、何か鬼気迫るものが有った。

 

「俺にはやるべき事が有る、それは君もだ!!」

 

「ッ・・・!」

 

一夏の目は、誰にも覆せない様な決意が籠っており、その意思は、彩加に何かを強く語りかけていた。

 

「リーカ達を呼べ、ウルトラマンとして彼女達は駆けつけてくれるだろう、俺がそれまで時間を稼ぐ、この世界を護るために!!」

 

彼は懐からダミースパークと、ウルトラマンネオスのスパークドールズを取り出し、走り出した。

 

『ウルトライブ!ウルトラマンネオス!!』

 

「ネオォォォスッ!!」

 

闇の存在で在る筈のダミースパークから光が溢れ、一夏の身体を包んで行く。

 

そして、進撃するファイブキングコルネイユの前に、誰にも負けない銀色のウルトラマンが立ちはだかった。

 

「先生・・・!!」

 

そのまま怪物に向かって行くウルトラマンネオスの姿に、彩加は訳も無く焦燥に駆られた。

 

自分自身の本来の力を失っている一夏が、この世界を、この街を護ろうと戦っているのだ。

自身本来の力を持っている自分は、一体何をやっているのだと・・・?

 

『彩加、あの二人を止められなかった責任は私達にある、立ち止まっている場合じゃないぞ!!』

 

「X・・・。」

 

呆然と立ち尽くす彩加に、Xは叱咤するように声を上げる。

自分達はギンガとビクトリーの争いを止め、闇の侵攻を抑える役割を担わねばならなかった。

 

だが、それは失敗に終わり、状況は最悪。

 

それが、今まで止める事すら出来なかった自分達が招いた失策ではないか。

 

『大丈夫だ!彼等だって、君が大好きなあの二人だってウルトラマンなんだ!!必ず立ち上がってくれる!!それまで間、彼等の為に私達が戦うんだ!』

 

「ッ・・・!!」

 

必ず立ち上がってくる。

その言葉に、彩加はこれまでの事を思い返していた。

 

笑顔の八幡と沙希を見ているのが、彼は好きだった。

その二人が、今笑えない状況に在るのなら、笑える様にもう一度状況を整えてやれば良い。

 

なんと単純で分かり易い事か、出来ない、最悪だと諦めるのは早すぎた。

 

今出来る事をする。

それが、ウルトラマンとして、人として出来る事なのだ。

 

「分かったよ、X!!アストレイの皆さんに連絡を!!」

 

『とっくにしている!行くぞ彩加!!』

 

「うん!!」

 

バディの意思を受け、彩加とXは、その想いを再びユナイトさせる。

 

「『ユナイトだ!!』」

 

光に包まれる彩加は、ウルトラマンとしての姿へとなってゆく。

 

護りたい人達を、本当の意味で護るために。

その心の復活を、心の底から信じて・・・。

 

sideout




次回予告。

心折られ、戦う意味を見失った少女は、真なる想いに向き合う。

次回やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている。

川崎沙希は想いに気付く。

お楽しみに

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。