やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている 作:ichika
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「なんだと・・・!?それは、本当か・・・!?」
とある夜、アストレイのバーカウンターに総武高校数学教師の織斑一夏の叫びが木霊した。
彼にしては珍しく、愕然とした、それでいて現実と認められない困惑がその端正な顔に克明に浮き出ていた。
「えぇ、アタシが確かめて来たわ、ビクトリーの正体は沙希ちゃん、100%、間違いないわね。」
その彼の隣で酒を飲んでいた玲奈は、タメ息を吐きながらも、それでいて何処か遣る瀬無い表情を浮かべていた。
彼女自身も信じられなかったのだろう、自分達家族に近かった人物が、ウルトラマンになるなど・・・。
「そんな・・・、なんてことだ・・・。」
だが、一夏の驚きは並では無かった。
それもその筈だ、ビクトリーが見知らぬ人間ならば、或いはギンガである八幡と人間状態でも敵対している様な存在ならば、自分がそれを遠ざけようとするなりなんなりで彼が苦しまない様にしてやれたかもしれない。
だが、現実は何処までも残酷だったのだ。
ギンガである八幡と、ビクトリーである沙希、そして、Xである彩加は、既に友人と呼べる距離感にいる者同士だった。
さらに悪い事に、先日のミーモスの一件では、ギンガとビクトリーは諍いを止めに入ったXに対し、光線技を喰らわせているなど、その関係は最悪な状況にあった。
「どうするつもりだ・・・、俺が言うのも何だが、恐らく、彼等はお前が何と言おうと、互いを敵だと認めないぞ。」
そんな彼等の話をカウンターの反対側でグラスを拭いていた金髪の男性、コートニー・ヒエロニムスが指摘した。
彼の言葉通り、八幡と沙希と彩加、この三人は並みの高校生が築く信頼関係以上のモノを既に築いてはいる。
しかし、だからこそ互いが知らず知らずの内に、隣で笑い合っている友人を傷付けているなど認められる筈もない。
だからといって、このまま放置していても良い問題では無い事は、火を見るより明らかだった。
「どうも出来ないさ・・・、チクショウ・・・!俺が、俺がもっと早く足取りを掴んでいれば、ここまで状況は悪くならなかったのにっ・・・!!」
ヤケ酒の様に、氷で割ってすらいないウォッカを一気に咽に流し込む。
自分の不手際を呪う様に、それでいて、八幡達三人に起こってしまった悲劇を嘆く様に・・・。
「・・・。」
そんな友の姿を、玲奈とコートニーは気遣わし気に見るだけで、何も言う事が出来なかった。
確かに、沙希や彩加はこの店に程度は違えど関わりはある、だが、この店のメンバーからしてみればそれだけだ。
しかし、一夏はそこに八幡も加えた、学校生活での彼等を、教師と言う潜入職になってしまったが故に間近で見続けているのだ。
故に、彼の憤りと後悔の念は、ここに居る誰よりも強かった。
如何に永きに渡って共に戦ってきた、最高の戦友たちも、彼の想いを分かりながらも、結局出来る事は、何一つなかった・・・。
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「呼び出してすまないね、沙希ちゃん。」
「いえ、一体なんの用ですか?」
「何、簡単な質問だけさ、とはいえ、周りに聞かれるのは好ましくないがね。」
翌日の昼休み、一夏は校舎裏に沙希を呼び出していた。
理由など、最早考えるまでも無い。
彼の盟友である玲奈より齎された情報が正しいか、それを確かめる為だった。
彼の言葉の真意を測りあぐねたか、沙希は訝しむ様に首を傾げた。
八幡や一夏の助けが会って以来、特に学業に問題は無く、違法なバイトにも手を出していない。
言ってしまえば、何か言われる様な状態ではないのだ。
「単刀直入に聞こうか、どうしてウルトラマンギンガを攻撃するんだ、ウルトラマンビクトリー?」
「っ・・・!?な、なんで・・・!?」
だが、一夏の口から発せられた言葉に、彼女は首を絞められるような圧迫感と緊張感を覚える。
自分の正体が何処でバレタのか、その原因を突き詰めようにも、焦りで混濁した思考がそれを遮っていた。
「玲奈から話は聞いてる、それに、俺も元々はウルトラマンだった存在だ、尤も、今は力を失っているがな・・・。」
取り乱す沙希を宥める様に、一夏は柔らかく笑みつつも、彼の友人である玲奈から話を聞いた事と、自身も同じ存在だった事を打ち明ける。
「あっ・・・、もしかして・・・、アストレイの皆さんは・・・?」
彼の事をある程度信用していたからか、沙希はすんなりとその言葉を受け入れ、自身が出会ったウルトラマン、神谷玲奈の関係者が、全員ウルトラマンである事に行き着いたようだ。
「あぁ、俺達は全員ウルトラマンだった、殆ど力を失って、変身出来なくなった、だが、徐々に力は戻りつつあるが・・・、まぁ、それは良い、君の話だ。」
憂いを帯びた瞳で話すが、自分の身の上話をするのは今ではないと一息つき、その表情を真剣そのものへと変える。
それは戦士として戦い続けていた時と全く同じものであり、戦う者としてのレベルの差を見せられた沙希は、思わず後ずさった。
「君はウチの店の連中にとっちゃ妹みたいな存在だ、正直言って、俺も出来る事なら味方してやりたい。」
怯えられている事に気付いた一夏は、苦笑を浮かべつつも、味方になりたいと言う様に笑った。
自身とも関係浅からぬ仲なのだ、せめて助力をしたいところだ。
だが、今の状況はそれを許すほど甘くない。
「だが、俺達はギンガに色々と手助けしている、嘘をついては意味は無い、だけど、君はギンガと対立している、それはウルトラマンとして見過ごすわけにはいかないんだ。」
「っ・・・!!」
沙希はギンガを攻撃しているのは何にも代えがたい事実だった。
そして、これ以上想いを寄せ合う者達を争わせたくないのだ。
「答えてくれ、何故ギンガを襲うんだ、その理由は何だ!?」
だからこそ、沙希の答えを知りたかった。
彼も、分かり合えない事の辛さを知っているから・・・。
「・・・、ギンガは、あたしの家族を傷付けたんです・・・!」
「っ・・・!」
奥歯を食いしばり、憎悪を籠めて唸る沙希に、一夏はその表情に絶句した。
いや、沙希が怒っている事では無い、ギンガの活動による被害者が出てしまった事、それが不幸にも川崎沙希という少女の家族だった事、それ以外に何を驚こうか・・・。
「アイツは、足元に誰がいるか分からないんだ・・・!だから、あたしの家族を巻き込んで平気な顔して今も怪獣相手に戦いを楽しんでるんだ・・・!!」
沙希の言葉には、彼女がなによりも大切に思っている家族への想いと、それに危害が及んだ事への怒り、そして、それが友にまで及ぶという恐れが、一夏には手に取るようにわかってしまった。
「違う・・・!彼は、戦いを楽しんでなんかいない!君は一度でも彼の話を、戦う訳を聞いたか!?決めつけるんじゃない!!」
憎しみに彩られた沙希の表情を見かねた一夏は、その言葉を否定する様に叫んだ。
互いの正体を知らないとはいえ、想いを寄せ合う者同士が憎み合って良い筈がない。
自分が甘い事を言ってるのは百も承知、だが、それでも今の状況は見るに堪えなかったのだ。
「だったら、話し合いに応じる様に、ギンガに伝えて下さい、ウルトラマンビクトリーは逃げないと。」
「待て・・・!沙希ちゃん!!」
踵を返し、跳躍して去ってしまった沙希に手を伸ばすが、それは彼女に届く事無く空を切った。
「なんでだ・・・!君は、大切な友達を傷付けようとしてるんだぞ・・・!?なんで止まらないんだよ・・・!」
自分が口下手な所も災いしているだろうが、沙希よりも僅かに八幡を優先させている事が裏目に出たと自覚し、彼は教師としての未熟、不徳を強く悔やみ、校舎の壁を力任せに殴りつけた。
だが、その右手からは血が出ないどころか、壁は僅かに凹み、そこを中心に罅が走っていた。
純粋な力だけならば、誰にも負けぬという自負は勿論ある。
しかし、組織を率いる事こそすれど、誰かを導く事が少なかった彼は、自分の不甲斐無さを悔やみ、唇を噛んだ。
だが、後悔ばかりしている暇では無い、今はまだ、やれる事が有るのだから。
「せめて・・・!ギンガだけでも止めなければ・・・!沙希ちゃんだと分かれば、八幡君だって・・・!」
もう一人のウルトラマンを止める事が出来たなら、必然的に争いは止まる。
故に、彼はまだ立ち止まれなかった。
ウルトラマン同士の争いを止めるために、哀しみを、これ以上増やさないために・・・。
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「ビクトリーからの挑戦状、ですか・・・!?」
「・・・、あぁ・・・。」
その放課後、一夏は八幡を呼び止め、総武高校から少し離れた所に在る公園にて、自分が知り得る情報を八幡に伝えようとしていた。
一夏の発言を聞いた八幡は、その瞳に爛爛とした怒りの炎を湛えていたが、それを見てしまった一夏は、何とも言えない表情を作っていた。
「話し合いをしたいと言っていたよ、挑戦状と言うよりは、意志を確認したいと言っていたよ。」
「話し合いですって・・・?」
なるべく刺激する事の無いように言葉を選んだが、それが不味かった。
八幡は米神を僅かにひくつかせ、一夏に詰め寄った。
「アイツに話し合いが通じる相手じゃない、それは俺が何度もやられて分かってる筈じゃないですか!!」
「っ・・・!!」
八幡の言葉に、彼は激しく後悔した。
最早、話し合いが出来る状況ではないと・・・。
「もう、やる事は一つです・・・!ビクトリーを倒して、俺が本当のウルトラマンだと、証明します!!」
「八幡君、待つんだ・・・!そんなことしても何にもならん・・・!!」
怒りを滲ませる八幡を制止するように、彼は叫ぶ。
それ以上、怒りに任せて進むべきではないと、そして、その先に待つ悲劇を回避してほしいと。
「君は考えた事が有るか!?君が戦えば、関係の無い人間が巻き込まれる!ビクトリーは、それを嫌っているだけだ、君が悪いとは言わん、だが・・・!!」
遠回しに、だが、直情的に想いの丈をぶつける。
友人同士が争うべきでは無い、だから、自分の行動を顧みて、もう一度戦う意義を見出して欲しかった。
「だからなんです・・・!?今、戦ってるのは俺でしょう!?貴方がとやかく言う筋なんて無い!!それに、周りなんて飽きる程見てます!そうじゃないと、ボッチなんてやってられませんよ!!」
「っ・・・!!」
そんな事などどうでも良いと言わんばかりに吐き捨てる八幡の言葉に、一夏は二の句が告げなかった。
お前の事を信じていない、そう言われたような心地だった。
「やってやりますよ、俺が、本当のウルトラマンだ!」
背を向け、ギンガスパークを懐から取り出しつつ走って行ってしまった。
「ダメだ・・・!戦ってはダメだ!!君達は、友達なんだろ・・・!?」
手を虚空に向けて手を伸ばす一夏の表情には悔しさや憤りに彩られており、自分が何も出来ない事を、何よりももどかしい。
「止めなければ・・・!俺の命一つ賭けてでも、彼等を不幸にしない・・・!!」
懐から四体のスパークドールズを取り出し、彼は誓った。
自分の周りに、涙を流させない。
それが、一夏自身が嘗て決めた事だから・・・。
sideout
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『カーッカッカッカッ!!遂に揃ったぁ!!』
闇が支配する空間に、コルネイユは何かを並べて悦に浸っていた。
それは、五体のスパークドールズであり、禍々しい闇に包まれていて全貌はうかがい知れなかった。
『あの御方に捧げる絶望を、遂に満たせる時が来たぁ!!』
だが、その五つのスパークドールズが、彼に何かを齎す事は、コルネイユの様子から察する事が出来る。
それが、この世界に対して良くない事も、同時に分かった事でもあるが・・・。
『行くぜ、手始めに、ウルトラマン共をこの世から消し去ってやる!!』
これまで、コルネイユは何度もウルトラマンに辛酸を嘗めさせられた。
だが、それもここまでだ。
彼が求めたものは三つある。
一つ目は、彼を復活させた悪魔の復活。
二つ目は、彼を傷付けた一夏達ウルトラマンの命。
そして、三つ目は、何よりも強大な怪獣の力だった。」
『ダークライブ・スペシャル!!』
闇の波動が全てを包み、一気に膨れ上がってゆく。
それは、この世を包む悪意の波動だった・・・。
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次回予告
避けられぬウルトラマン同士の対決、その戦いは何を呼び込むのか・・・。
次回やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている
三人は絶望を知る
お楽しみに