やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている 作:ichika
とは言え、次回からも早めに更新できるように頑張ります。
それでは、今話もお楽しみください
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シルバゴンが現れてから数日後、六月を目前とした雨の道を、傘を差しながら歩く人影があった。
総武高校の制服を纏う、小柄な銀髪の美少年は、ソプラノボイスで鼻歌を歌いながら軽やかな足取りで帰路を辿っている様にも見えた。
彼の名は、戸塚彩加。
二年F組に属する生徒であり、比企谷八幡や川崎沙希が唯一遠ざけようとしない存在でもあった。
「~♪」
学校のカバンでは無く、テニスラケットが覗くボストンバッグが肩に提げられている事から、テニス教室の帰りだと推察できる。
どうやら、気分が高揚しているのだろう、その表情は輝いていた。
「今日も八幡と川崎さんとお話しできたっ♪楽しかったなぁ~♪」
テニス教室でも調子が良かったか、若しくは、その数時間前に八幡や沙希と会話したり昼食を共に出来た為に、テンションが上がっているのだろう。
それもその筈だ、八幡は自身を一人の人間として見てくれた、初めて友達と呼べる存在であり、沙希はそんな八幡に好意を抱いている人物であり、彩加を一人の人間として接してくれる人物でもあった。
そんな二人と会話し、尚且つ徐々にだが二人と距離を縮めていける事が、彼にとっては至上の悦びなのだろう。
「でも、二人とは、何か違う気がするんだよね・・・、八幡も川崎さんも、何か隠してる気がする・・・。」
だが、自分が最も信頼を置く二人が、自分に何か隠している様な気がしてならなかった。
それが悔しくてたまらなかった。
二人が自分をまだ信じてくれていないのかと、まだ自分を友達と思ってくれていないのかと・・・。
「でも、あの二人なら、きっと大丈夫だよね、だって、僕を見てくれたんだから。」
だが、そこで止まりたくないと思うのが、戸塚彩加という少年だ。
二人が隠し事をしているなら、暴くよりも話してくれるまで待ち、関係を確固たるものにしたいと、彼は誓った。
「だから、僕はもっと二人を知らないと!頑張るよっ!!」
胸の前で両腕を畳み、頑張るぞっ!と言わんばかりに気合を入れていた。
そんな時だった、暗雲を突きぬけて、彼の前に流星が落ちてくる。
「えっ・・・?あれは、あの時の流星・・・?」
その流星に、彼は見覚えがあった。
八か月ほど前、千葉県一帯で観測された大流星群の夜に落ちた流星に良く似ていたのだ。
輝きは違うが、似た様な気配を纏わせながら落ちて来た。
それは、意志が在るとするなら迷わず真っ直ぐに彩加の方へと向かっている様にも見えた。
「えっ・・・?こっちに来てる・・・!?うわぁっ!?」
気が付くとそれは目前まで迫り、光の尾を引いて落ちてくる。
慌てて逃げようと動くが、それは瞬く間に彩加の方へと近付き、彼の目の前で漂う様に静止した。
「えっ・・・、えぇっ・・・!?」
輝くその物体に、彼は素っ頓狂な声を上げて尻餅をついてしまう。
濡れた地面にお尻を付けてしまったのだ、ズボンはたちまち雨水を吸い込み、すっかり濡れてしまった。
しかし、今の彩加にはそんな些細な事はどうでも良かった。
今、一番気にするべきなのは、目の前を漂う光の物体だった。
「えっと・・・、これは・・・?」
困惑する彼の目の前で光は収まり、光の中から金色の縁取りのデバイスが、まるで拾ってくれと言わんばかりに地面に落ちた。
「な、何・・・?これ・・・?」
何処から墜ちて来たのか分からぬ物を触って良いモノかと彼は悩むが、その手は引き寄せられるようにデバイスへと伸び、それは彼の掌へ収まった。
「空から、落ちて来た・・・?でも、どうして・・・?」
空を飛んでいた何かが落したのか、それとも、地球外から飛来したのか・・・。
いや、そもそも、落ちてきて何故、空中で静止するなどと言う奇天烈な現象が起こったのか、それも理解出来なかったのだ。
「でも・・・、落し物なら、持ち主の人は困ってるかも・・・!」
しかし、そこは純粋を地で行く彩加だ、落ちて来たのなら落し物、落し物なら持ち主が困っていると判断した様だ、その足は交番がある方へと向かっていた。
だが・・・。
『おぉい!待ってくれ!拾って早々手放そうとしないでくれ!!』
「うわぁぁぁっ!?」
突然デバイスからバイブレーションと共に音声が発せられ、それに驚いた彩加は素っ頓狂な声を上げて再び尻餅をついた。
何の前触れも無く、唐突に発せられた音に過敏に反応してしまうのは、生き物として当然なのかもしれない・・・。
「び、ビックリしたぁぁ・・・!あっ、もしかして持ち主の人ですか?このスマートフォン、落し物ですよね?」
しかし、デバイスが携帯電話やその類いだと考えついた彩加は、声の主がこのデバイスの持ち主だと認識したのだろう、早く取りに来てくれと言わんばかりに話しかけていた。
『私は携帯電話じゃない!!頼むから話を聞いてくれ!!』
「えっ?違うんですか?」
『空から落ちて来たんだから、分かってくれ・・・。』
必死の訴えが漸く通じたのか、彩加はキョトンとした表情を浮かべ、そんな彼を見たデバイスの中の人格はヒヤヒヤしたと言わんばかりにため息を漏らした。
「それじゃあ、あなたは何なんですか・・・?」
訝しむ様に尋ねる彩加の表情には、困惑と疑念が入り混じっている様な色が窺えた。
『良く聞いてくれた!!私は・・・。』
質問された事が嬉しかったのか、その人格は嬉しそうな声で答えようとした。
だが、その時だった。
遠くから爆発音と地響きが伝わって来た。
「な、何・・・!?また怪獣・・・!?」
『なんだって・・・!?』
愕然とする彩加の言葉に、その人格は驚いた様に尋ねた。
何かを知っているのか、その言葉には深刻な険があった。
そんな彼等の視界に、のっそりと動く巨大な影が見受けられた。
手には鎌の様なものが見受けられ、全身に金色の突起が存在する怪獣、コッヴだ。
コッヴは何かに引き寄せられるようにしてゆっくりと、だが確実に真っ直ぐ彼等に向かって来ていた。
『こうしちゃいられない!!行こう少年!!』
「行くってどこに!?ダメだよ!逃げるのが一番だっ!!」
行かなくてはとばかりに語気を強めたが、彩加はそれを一蹴、コッヴがいる方向とは逆の方向へ逃走を開始した。
彼は二度にわたり怪獣を至近距離で目撃し、その圧倒的な力をまざまざと見せつけられたのだ。
自分如きが何が出来ると、悔しいながらも思っていた為に、命を一番に逃げる事を選択したのだ。
『おぉい!ちょっと待て!!逃げて何になる!?こっちに来てるんだぞ!?』
「だからって倒せる訳無いでしょ!!他にやる事あるなら教えてよっ!!」
何故逃げると怒鳴る人格を無視し、彩加は必死に走った。
無力で非力な自分が出来る事など皆無、喩えその場に残っていたとしても、怪獣と戦うウルトラマンたちの邪魔にしかならない。
それを理解しているからこそ、彼は必死に直走ったのだ。
『出来る!!私と君が力を合わせれば、必ずあの怪獣を倒す事が出来る!!』
「えっ・・・!?」
デバイスの中にいる人格の言葉に、彩加は思わず足を止めてしまう。
対応できる秘策があるのかとでも尋ねたいのだろう、その表情は驚愕に彩られていた。
『私はウルトラマンX、この地球を護るためにやって来た者だ。』
「ウルトラマン・・・!?貴方も・・・!?」
Xと名乗ったその人格の言葉に、彩加はこれでもかと言うほどに目を見開いて驚いた。
ウルトラマンと言う言葉は、一夏が巨人を見た時に呟いた言葉で知っていた。
まさか、別の巨人が、自分の前に落ちてきたなどとは考え付かなかったのだろう。
『説明している暇は無い!!君の想いと私の力をユナイトさせる!この街を護るんだ!!』
「街を・・・、護る・・・、大切な人達を、護れるんだね・・・!」
護るという言葉に強く惹かれたのか、彩加はその瞳に光を宿しながらも問うた。
彼もまた、力に憧憬を抱いていた。
華奢な身体から女と間違えられ、庇護の対象として見られ、人として見られていなかった。
それがなによりも悔しかった。
男なら、誰かの為に強くなりたかったのだ。
テニスを始めたのも、その一環に過ぎなかったのかもしれない。
だが、憧れを抱いた力が今、手に入ろうとしている。
誰かを見下す為でも虐げる為でも無い、護るために戦える力が・・・。
「分かったよX!僕も戦う!!大好きな人達を護るために!!」
『よし!行くぞ!!ユナイトだ!!デバイスの上を押してくれ!!』
「うん!!」
戦う意思を見せた彩加に応える様に、Xは声を張り上げて指示を出す。
その指示に従い、彩加がデバイス、エクスデバイザーの上部を押し込むと、エクスデバイザーの金色の縁取りがX字に展開し、彼の身体を光が包むと同時にウルトラマンタイプのスパークドールズが出現する。
彼は迷うことなくそれを掴み、右脚裏に在るライブサインをデバイザーで読み込ませる。
『ウルトラマンXとユナイトします!』
女性の電子音声でXとのユナイトを報せられ、彩加はそのままの勢いでデバイザーを天に向けて掲げる。
「エックスーッ!!」
『エックス、ユナイテッド!!』
『イーッ!サーッ!!』
ウルトラマンXとなった彩加は巨大化し、盛大に瓦礫や土ぼこりを巻き上げながら着地し、コッヴに向き合った。
『行こう!エックス!!』
『あぁ!!行くぞ!!』
戦意をむき出しに、二人は一つとなって駆け出した。
新たな戦いの為に、大切な人を護るために・・・。
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「あれは・・・、新たなウルトラマン、なのか・・・?」
怪獣が現れたという報告を聞きつけ、バイクを走らせていた一夏は、路肩に愛車を停車させ、戦闘の様子を窺っていた。
新しいウルトラマンの出現は、彼にとっても想定外のものだった。
一体や二体、未知のウルトラマンや既知のウルトラマンが現れた所で、彼等は驚きはしないだろう。
何せ、それだけの材料は、この世界に既に揃っているのだから。
「まさか・・・、なぜこの世界にはウルトラマンがこうも集まる・・・?」
まるで、ウルトラマンが何かに引き寄せられる様に、一つの世界に集まってるような状態だ、流石の彼でも困惑せざるをえなかった。
そんな彼を置き去りにする様に、ウルトラマンはファイティングポーズを取り、コッヴに向かって行く。
飛び上がりつつ全身を大きく使ってのパンチや、足払いにも似た蹴りなど、ダイナミックかつパワフルな戦闘で攻め立てる。
その連撃は、コッヴに付け入る隙を与えない、まさに一方的な戦闘だったが、何処か殴る事に躊躇している様に一動作が大振りだった。
コッヴもただやられているばかりでは無い、その隙を突き、鎌の様な腕を振り回してウルトラマンの胸部を攻撃する。
その威力はかなり強烈なのだろうか、ウルトラマンは火花を散らして大きく後方へ吹っ飛び、近くにあったビルに突っ込む。
「・・・っ!!」
その光景に、一夏は思わず身を乗り出し、ガードレールに手をついて表情を顰めた。
そんな事など全く知らないであろうコッヴは、立ち上がれないウルトラマンを足蹴にして追い立てていく。
「立て・・・!立ち上がれ、ウルトラマン!!君にだって、護りたい人がいるんだろう!?」
彼は拳を握り締め、ウルトラマンに向けて叫んだ。
誰が変身していたって良い、今はただ、戦う理由を思い出し、その目的の為に戦ってほしいと。
『シェアッ!!』
コッヴが振り降ろした鎌を転がって回避しつつ、全身の力を使って跳ね上がったウルトラマンは、勢いそのままに、光の力を纏わせたチョップをX字に叩き込む。
その威力は高く、コッヴは咆哮をあげながらも地に倒れ伏した。
「今だ!!」
敵を倒すには絶好の好機、それを逃すなと言わんばかりに叫んだ彼の声に呼応するように、ウルトラマンは右腕を掲げ、身体を捻り、腕をX字に交差させた必殺光線を発射した。
それは狙い違わずコッヴの胴に突き刺さり、強固な体表と拮抗する様にぶつかり合った後、盛大な爆発光を上げた。
青い光の粒子が一か所に集まり、スパークドールズの形を形成した後に、コッヴのスパークドールズはウルトラマンのカラータイマーを通って体内へと入った。
「あのウルトラマンも・・・、スパークドールズへ変換できる存在、なのか・・・。」
先に現れていたギンガやビクトリーと同じ、怪獣やウルトラマンをスパークドールズへと変えられる存在であるという事・・・。
それは、この世界に降り注いだスパークドールズが招いた悪夢に対する、希望の光なのだろうか・・・。
彼が見ている前でウルトラマンは変身を解こうと光の粒子へと姿を変え、それはどういう訳か、一夏から数十m離れた所に降り注いだ。
正体を確かめ、接触するべく、一夏は出来る限り気配を消し、その光の収束点へ急ぐ。
そこには、なにやら小型のデバイスの様なものを見る、小柄な銀髪の少年の姿があった。
「あれは・・・、まさか・・・?」
その少年の姿に、一夏は見覚えがあった。
『よくやった!初めてにしては上出来だったじゃないか!』
「そ、そうかな・・・?でも、Xのお陰で護れたよ、大切な人達を。」
ウルトラマンと会話しているのだろう、少年は照れたような笑みを浮かべながらもデバイスに向けて話しかけていた。
『君のその優しい心が、私を呼んだんだ、力添えが出来て良かった、申し訳ないが、これからもこの世界を護るために力を貸してほしい。』
「勿論だよX、僕は戸塚彩加、よろしくね!」
『あぁ!よろしく頼む、彩加!』
これから先も戦う事を決めたのか、彩加はデバイスに向かって強く頷いていた。
それは、ウルトラマンとして戦う者としての覚悟を籠めた、強い瞳だった。
「君も、ウルトラマンになったんだな、彩加君・・・。」
「っ・・・!?」
話しが一段落した所で、一夏は気配を出して彩加に話しかけた。
いきなり現れた事に、彼は驚いて身体を強張らせ、恐る恐る振り向いた。
「お、織斑・・・先生・・・?」
『どうした?知り合いか?』
「ちょっ・・・!X!今は喋っちゃダメ・・・!!」
見られてはいけない所を見られてしまったとでも言う様に、彩加は一気に表情を蒼くした。
しかも、空気を読まずに、デバイスの中のウルトラマン、Xが話すモノだから、彼はもうどうしていいのか分からなくなっていた。
「いや、大丈夫だ、ウルトラマンや怪獣については、俺も良く知っているよ、悪戯にウルトラマンである事を口外する気は無い、それに、思い出せ、俺があのカラス頭とやり合って勝ったの、普通ならおかしくないか?」
「えっ・・・?あっ・・・!」
安心させる様に微笑む一夏の言葉に、少しだけ冷静さを取り戻した彩加は、数日前、一夏とカラス頭の宇宙人、レイビーク星人コルネイユが争う所を目撃していた。
普通の人間ならば、まずそのような事態にはならないだろうし、勝つ事など尚更出来ないだろう。
それをやってのけた一夏の事を、彩加は信じる気になったのか、深呼吸を一つして彼を見た。
「先生は・・・、一体何者なんですか・・・?どうして、ウルトラマンの事を知っていたんですか?」
分かる事は全部教えて欲しいのだろう、彩加は語気を僅かに強めて尋ねていた。
戦うにしても、何も知らないまま戦うよりも、何か情報を得た上で戦うのは訳が違う。
その為にも、分かる情報を全て開示してほしいのだろう。
「それについては、場所を移して話をしよう、ここに居ては、いずれは見つかってしまう。」
「分かりました、僕も連れて行ってください。」
一夏は尤もだと言う様に頷きながらも、場所を移し、騒ぎの喧騒から逃げる事を勧める。
彼もそれに同意し、一夏の乗って来たバイクの後ろに跨る。
彩加がしっかり掴まった事を認めた後、一夏は愛車を走らせ、自分達のアジトへ急いだ。
その後姿に、何処か憂いにも似た何かを滲ませて・・・。
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次回予告
招かれた先で、怪獣出現の真相を知る彩加とX、その裏で、彼等は力を取り戻しつつあった。
次回やはり俺の青春にウルトラマンがいるのは間違っている
戸塚彩加は真相に触れる
お楽しみに