やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている 作:ichika
side沙希
「つーわけで、コイツが犯人と見て間違いないぜ。」
チェーンメール事件の犯人が分かった翌日の放課後、あたし達三人は依頼人である葉山隼人を屋上に呼び出し、チェーンメールの真相と犯人、そして、その動機を報告した。
肝心の大和とかいう奴は、どういう訳か今日一日欠席していて、本人を問い詰めるという事は出来なかった。
「そんな・・・!信じられない・・・!!大和が、そんな事をするはずが・・・!!」
それを聞いた葉山は信じられないと言わんばかりに感情を露わにしていた。
気持ちは分かるけど、これ以上に無い状況証拠を揃えて提示してやったんだ、感謝してほしい位だね。
「だけど、筋は通ってるよ、それに、他のグループがアンタとこのグループメンバー貶しても意味無いでしょ、これは、アンタのグループ内だから通じる手段だって、分かりな。」
「だ、だけど・・・!大和みたいな良い奴が、こんな、友達を貶す様な事をする訳がない!!何かの間違いだ!!」
コイツ、本当に人の話を聞いてないのかい?
呆れる位に物分りが悪すぎるじゃないか。
関わりが無いあたし達の事を信じられないのはよく分かるけどさ、それでも容疑者を庇うだけじゃなくて、自分の身の振り方や周りとの関わり方で判断してみろと言いたいね。
特に、自分のグループの問題なんだ、ここまでお膳立てさせておいて、まだ自分で解決できないとかいうんじゃないだろうね?
だとすれば、コイツは所詮表面は良いだけの男だ、何にも構う必要もなくなるね。
だけど、このまま分かり合えない話を続けても何の生産性も無いのは分かる。
さて、どうするべきか・・・。
そう思った時だった、肌を冷たい手でなぞられる様な、途轍もなく嫌な感触があたし達を襲う。
「な、なんだ・・・!?」
葉山は困惑した様に辺りを見渡していた。
本当に嫌な感触だ、冷や汗がどっと噴き出してくる。
一体なんだっていうんだい・・・!?
その感触が一際強くなった時、屋上の出入り口から一人の男子生徒が現れた。
その男は・・・。
「や、大和・・・!!」
「アイツが・・・?」
どういう事・・・?
あの嫌な感触が、あの大和って奴から発せられてるなんて・・・?
「大和!!お前、今日休みだっただろ・・・!?それにお前、今ここに来たら・・・!!」
友達逃がそうってとこか・・・?一応はそんな気持ちもあるんだ。
もっとも、一応友達だと思ってる奴以外には、興味ないだろうと思うけどさ。
とは言え、果たしてそれが、今の彼に通じるのかね・・・?
「大和・・・?」
薄気味悪い笑みを、その個性の無い表情に張り付けたまま微動だにしない大和に違和感を感じたのか、葉山は引いた様に後ずさる。
やはり、尋常じゃない状況だね・・・。
何か、裏がありそうだ・・・。
『お前は良いな、誰かの中心にいられて・・・。』
あたし達が警戒した直後に、大和の口から言葉が発せられる。
その言葉には何の抑揚も無く、まるでロボットが喋っているみたいな不自然さがあった。
「や、大和・・・?」
「なんだ・・・?様子がおかしい・・・?」
大和の様子に気付いた比企谷が身構えるけど、葉山は友人の変貌ぶりに驚く事しか出来ないみたいだった。
無理も無い、今の奴からは、人間味と言う物が感じられないんだから・・・!
「やっぱり、アンタがチェーンメールの犯人か。」
あたしは震える手を掴みながらも、ヤツを問い質す。
来るところまで来てしまったんだ、尻込みせずに進んでやろうじゃないか。
『あぁ・・・、俺がやった・・・、俺の存在を確かなものにするために・・・。』
「そんな・・・、大和・・・!?どうして・・・!!」
あっさり自白してくれるなんてね・・・、やっぱり普通じゃない。
人間じゃない何かの力に支配されてそうだね。
まるで、ウルトラマンとは真逆の何かに・・・。
『だが、そんな小さい事をしても何も変わらない、人間如きのツールに頼った所で、何も変わりはしなかった。』
人間如き・・・?まるで、自分が人間じゃ無くなったみたいな言い方だね。
まさか、コイツ・・・!?
「お前・・・、何かに操られてるのか・・・!?」
「比企谷・・・?」
あんたも、気付いてるんだ・・・?
でも、どうして・・・?
操られてるって事が分かるのは、多分あたしみたいにウルトラマンの力を持っている様な人間だけだと思う。
だって、力が無かったらただ気が狂っただけにしか見えないしね。
だからこそ、どうしてあんたが気付いてるの・・・?
あのウルトラマンなんかじゃない、人を傷付ける様な人じゃないあんたが・・・?
『操られる、だと・・?違うな、俺は操る側になるのさ、この力を使ってな。』
薄気味悪い笑みを浮かべながら、右手に怪獣を模った人形を、左手に短剣の様な黒い物を握り、見せ付ける様に掲げる。
「それはっ・・・!!」
『ダークライブ!!シルバゴン!!』
あたし達の目の前で、大和は真っ黒な闇に包まれ巨大化し、校庭に怪獣として降り立った。
「か・・・!怪獣・・・!?大和が、怪獣に・・・!?」
葉山は目の前で起きた事が信じられなかったのか、愕然と立ち竦む事しか出来ていなかった。
やっぱり、あたしのビクトリーみたいにあの人形を使って変身できるツールが他にもあったか・・・!!
「うそ・・・!人間が、怪獣に・・・!?」
「・・・!」
戸塚もその光景を信じられなかったのか、完全に動揺しきっていた。
そんな彼等を嘲笑う様に、怪獣は踵を返して街の方へと向かって行く。
まずい・・・!!あっちには、大志の通ってる中学が・・・!!
今すぐ倒さないと・・・!!
だけどどうする・・・!?
今のタイミングじゃ変身出来やしない・・・!!
「ここにいたらマズイ!!戸塚!川崎!お前等逃げろ!!」
比企谷・・・?
コイツを見ても、なんで落ち着いてるんだ・・・!?
「だ、だが・・・!」
葉山が比企谷に食い下がるけど、状況を考えてから発言してほしいもんだ。
今アンタに何が出来るって言うんだい。
「お前がいて何が出来る!!さっさと逃げろ!!」
比企谷もそれを分かっていての発言なんだろうけど、刺があるような、無いような・・・。
まぁいいさ、間違っちゃいないからね。
「っ・・・!!くっ・・・!!」
言われて言い返す言葉も浮かばないのか、奴は忌々しげに表情を歪めながら屋上から出て行った。
「戸塚!川崎も早く行け!!ここに居ても危険なだけだ!!」
「な、なら八幡も・・・!!」
「あんたも行くんだよ!何があるのか見るつもりならやめときな!!」
そんな事をする様な男じゃないだろうけど、どうしてあたし等だけ逃がそうとするんだい!?
あんたは、命が惜しくないのか・・・!?
彼の服を掴んで屋上の扉へ動かそうとした時だった、さっきとはまた違う嫌な感触が襲ってくる。
「カーッカッカッカッ!!チョロいもんだなぁ!人間って奴はよぉ!」
「「「・・・っ!?」」」
給水塔の登りきった所に、黒い人影の様なものが蠢いて、まるで嗤う様に揺れている様子が見てとれた。
その頭は、フードで隠れてよく分からないけど、輪郭から人間の顔の形をしていないのだけは分かった。
「お前が犯人か・・・!!顔見せやがれ!!」
「御望み通り!見せてやるさぁ!!人間がぁ!!」
ソイツは給水塔から飛び降り、あたし達の所に降り立ち、フードを脱いだ。
その顔は、カラスの様な頭をしていて、どこか不気味な印象を受ける人外だった。
「俺の名はレイビーク星人コルネイユ!!この世界を闇に塗り込める破壊の使徒よぉ!!」
コイツ・・・!宇宙人だって言うのかい・・・!?
やはり、怪獣を引き連れて来たのは、コイツだってことかい・・・!?
なんてこった・・・!コイツがいる限り、幾らでも怪獣が出て来るってことか・・・!
「そんな・・・!」
「絶望しろ人間!!お前達の絶望が糧となるのだ!!」
比企谷や戸塚の前じゃ変身出来ない・・・!
すればいいとも思うけど、ばれちゃいけないことなのは本能的に分かるから・・・!!
「くっ・・・!!」
「絶望絶望って、それしか言えないのは今も昔も変わらんのか、コルネイユ。」
囚われるだけで何も出来ないあたしの耳に、呆れた様な声が届く。
屋上の入り口に目を向けると、そこには呆れた様な表情を浮かべた織斑先生がいた。
「きっ・・・!?貴様はぁぁ・・・!?」
「大決戦以来だな、レイビーク星人コルネイユ、その充血した眼、良く似合ってるじゃないか。」
先生を見るなり、カラス擬きは先程までの高笑いをやめて狼狽えていた。
面識があるというの?織斑先生と・・・?
だとすれば、先生は一体何者なの・・・?
「忘れもしない・・・!あの日受けた屈辱!闇の中でも憶えてたぜぇ!!」
「御託は良い、あの日の決着を着けようじゃないか。」
どうやら、相当に深い因縁がありそうだね。
先生がなにを抱えてるか知ったこっちゃないけど、どうして平然としていられるんだ・・・?
「三人とも、ここは俺に預けろ、このカラス頭は俺がカタを着けるべき相手だ、君達は君達しか出来ない事をやりたまえ、それが君達のやるべき事だ!」
「っ・・・!!」
この人・・・、もしかしてあたしの正体に気付いてる・・・?
だけど、悪い気はしない、こんな心強い人がいてくれるなら、あたしは安心して自分のやるべき事をやれるんだ!!
「「はい!!」」
「は、はい・・・!!」」
あたしと比企谷が勇んで返し、戸塚は上擦った声で返した。
ホント、気が合うよねあたし達。
本気で惚れちゃったかもね!!
彼等から背を向け、あたし達は一目散に走り出す。
あたし達がやるべき事の為に、大切な人達を護るために・・・。
sideout
noside
八幡達が去った後、一夏はレイビーク星人コルネイユと対峙していた。
「お前に受けた傷・・・!!あの時受けた傷・・・!!人形になっても疼き!俺を惨めにさせていた・・・!!」
コルネイユは赤く染まった右目を手で押さえながらも、怨嗟の声で呻く。
その憎しみは凄まじく、聞く者の肌を粟立たせる。
「知った事か、お前が傷付けた人達の想いを受けて、俺は戦ったに過ぎん。」
だが、一夏はそれを受けても悠然と立ち、怒りを籠めた目で睨み返した。
かなり深い因縁が、両名の言葉の端々から伝わってくる。
「かかって来い・・・!!ここで殺してやる!!」
コルネイユは何時でも飛び掛れると言わんばかりに構えを取り、それを受けた一夏も、かつての彼が取っていた構えを生身で取り、何時でも戦えると言わんばかりに見据えていた。
彼等の間に緊張が走り、一触即発の空気が空間を支配する。
「どうした・・・?変身しないのか・・・?」
「・・・。」
しかし、一向にウルトラマンへと変身しようとしない一夏に違和感を感じたのか、コルネイユは挑発する様にかかって来いと手招きする。
それはまるで、人間の姿のままの一夏となど、戦う価値も無いと言っているかのように・・・。
「カーッカッカッカ!!貴様!もしや変身出来ないな!?」
だが、その理由に気付いたコルネイユは、まるで勝ち誇ったように高笑いを発する。
彼もまた、悪夢の夜を経験した身だ、その力の行く先にも合点が行ったのだろう。
「力を失った貴様如き、最早相手にならんわ!!目障りだ、さっさと失せな!!」
「ふっ・・・、ソイツはどうかな?」
興味を失ったと言わんばかりに、街の方へと意識を向けたコルネイユの一瞬の隙を見逃さず、一夏は急接近して飛び掛り、両足でコルネイユの首をホールド、そのまま捻り倒した。
「ゲェェェッ!?」
「お前とは何度も殺り合ったんだ、力の差ぐらい憶えてるさ、それに、お前は巨大化出来なかったろうが。」
呻くコルネイユの首を圧し折ろうと脚力を強めながらも言い放つ。
彼、織斑一夏は何度も繰り返した人生の大半を戦いの為に生きてきた事もあり、生身でもその戦闘能力は非常に高い。
故に、喩えウルトラマンの力を失っていても、油断しているコルネイユをいなす事は造作も無かった。
「たとえウルトラマンになれなくても戦う事は出来る、それに、ウルトラマンは独りじゃない!」
その言葉に呼応するように、進撃するシルバゴンの前後に二人のウルトラマン、ギンガとビクトリーが現れる。
シルバゴンは二体のウルトラマンの登場に驚いたか、前後を確認する様にジタバタと動いていた。
だが、それはギンガとビクトリーも同じだった。
数日前に、互いに敵として戦った者同士なのだ、まったく同じタイミングで出てきて、共闘しろと言う方が難しいだろう。
「戦え!!この世界を護るために!!」
上半身の筋力のみで跳ね上がりコルネイユの身体を宙に浮かせた直後、首から脚を離し、その勢いを利用して蹴り飛ばした。
「ガァァァァっ・・・!?憶えてやがれぇぇぇ!!」
コルネイユは屋上の落下防止柵の上を飛び越え、捨て台詞を吐きながらも校庭へ落ちて行った。
「ちっ・・・、相変わらず逃げ脚は早い奴だ・・・。」
体勢を立て直した一夏が校庭を見下ろすが、そこに黒い影は無かった。
取り逃がした事悟った彼は、戦意を緩め、街の方へと意識を向ける。
視線の先には、シルバゴンと戦いながらも、互いを攻撃し合う二人のウルトラマンの姿があった。
「八幡君、ウルトラマン同士で戦う必要なんて無い・・・、ウルトラマンは、力を示すために在る訳じゃ無いんだ・・・、君達だって、そんな事の為に力を得た訳じゃ無い・・・。」
憂いを帯びたその表情と声は、鳴り響く爆発音や悲鳴に紛れてかき消され、彼が想う者達の耳に届く事は無かった・・・。
sideout
次回予告
すれ違ったまま、再び相見える二人のウルトラマンは、戦いの最中に何を思うのか・・・。
次回やはり俺の青春にウルトラマンがいるのは間違っている。
比企谷八幡は戦っている。
お楽しみに