やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている   作:ichika

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比企谷八幡は手掛かりを得る

side八幡

 

「いらっしゃいませ。」

 

戸塚に付いて来た先、喫茶店として営業しているアストレイの店に入るや否や、俺が来る時は大体聞こえるセシリアさんの声じゃなく、別の男性の声が俺達を出迎えた。

 

カウンターでコーヒーのサイフォン機の調子を確かめていたんだろう、サーバーの陰から顔をひょっこりと覗かせたイケメンが姿を見せた。

 

男性にしてはかなり長い黒髪を腰のあたりで一纏めにし、先生とはまた違った、優しそうな顔立ちのイケメンは、俺達の姿を見るなり、少々驚いた様な表情を浮かべた。

 

「あれ、彩加君じゃないか、それに、沙希ちゃんも、それから、君は・・・。」

 

常連に近い戸塚と、この店で働いている川崎は兎も角、初対面の俺の事は分からなかったんだろう、少し訝しむ様に首を傾げていた。

 

そりゃそうか、先生から名前は聞いてても、プライバシーとかあるから顔は分からないんだろうな。

 

「織斑先生にお世話になってます、比企谷八幡です。」

 

だから、取り敢えず名乗っておくが吉だろう、何せ、この店にいる人達は、元ウルトラマンなんだからな。

 

「一夏の教え子・・・、そうか、君が・・・。」

 

先生の名前を出しただけで察してくれるあたり、俺がウルトラマンだって事はオリジナルメンバー間では浸透しているらしい。

 

となれば、やはりあのウルトラマンはこの店の人間じゃないだろうな。

カマ掛けて正解だったね。

 

「俺は神谷宗吾、歳は24だ、一夏から話は聞いているよ、イイ男だって。」

 

「そ、そんな・・・、俺なんて、なにも・・・。」

 

あぁ、やっぱりまだ、手放しに褒められるのはむず痒いな・・・。

 

「そんな事ないさ、俺達は君に色々助けられてるよ、特に、沙希ちゃんの件は、君が居なきゃまずかったよ、本当にありがとう。」

 

「そ、宗吾さん・・・!!」

 

微笑みを湛えながら話される彼の言葉に、川崎は少し顔を赤くしながら制止しようとしている。

 

あれだわ、やっぱりここの店の関係者はナチュラルサドが多いんだね。

と言うよりも、この人も俺達の事を弟妹に見てる部分はあるんだろうか、先生と同じ、優しい目をしてるし。

 

「どういう事?二人の間に何かあったの?」

 

あぁ、そう言えば戸塚はあの件にはノータッチだったな。

 

人の良い戸塚には教えても、特にマイナス方面に物事を持っていくという心配は必要ない。

 

しかしながら、この件は川崎のプライバシーに関わる事だし、不用意に喋るのはあまりよろしくない。

 

チラッと川崎の方を見ると、彼女は少し狼狽えていた後、何かを決心した様に大きく息を吐き、戸塚に説明していた。

 

「ちょっと前まで、予備校に通うための資金稼ぎに、遅い時間から働いてたんだ。」

 

「えっ、それって・・・?」

 

「まぁ、勿論違法バイトだったのは確かだよ、あのままだったら、多分あたしは今頃潰れてたかもね、でも・・・。」

 

戸塚に尋ねられ、彼女は僅かに目を伏せつつ、俺を少し見た後に頬を染めた。

 

何、今の・・・?可愛いじゃないか・・・!!

勘違いして告白してフラれちゃうよ!?それでも良いの!?

 

「比企谷がそうならない道を示してくれたんだ、初対面であれだけ悪印象だったのに、ここに乗り込んで真正面から向き合ってくれたんだ。」

 

「あぁ、あれな、セシリアから話は聞いたよ、カッコいいねぇ、一夏と似たやり方をするもんだと感心したな。」

 

いやぁぁ・・・!や、やめてぇぇぇぇ!!

あのやり方は先生に焚き付けられたからであって、俺はもっと目立たず穏便に済ませたかったんだぁ!

 

いや、まぁ川崎が納得してくれてるならそれで良いけどさ!

 

「へぇ~!凄いね八幡!僕、初めて聞いたよ!」

 

「そ、そうか・・・?ま、まぁ、ペラペラ喋って良い話題じゃないから、言わなかっただけだよ。」

 

と、戸塚に褒められるのは悪い気はしないな、うん、そうだよね。

 

「ははは、まぁ、俺達も八幡君には感謝してるよ、あのままだと、遅かれ早かれ大変な事になってたからね、さ、好きな所に座ってくれよ、三人分、俺が奢るよ。」

 

その男性、神谷さんにこやかな笑みを浮かべながらも、飲み物の準備を始めていた。

 

どうやら、紅茶を出してくれるみたいだ。

 

・・・、あれ、じゃあなんでコーヒーサーバー弄ってたの?修理してたの?

 

そんな事を疑問に思いながらも、取り敢えず人目に付かない席に腰を下ろし、先程まで話し合っていた依頼の件に話を戻す。

 

「でさ・・・、あのチェーンメールって、なんか引っ掛かるよなぁ・・・。」

 

「うん、それは分かる気がする、だって、止めようも無いし、解決策も無いじゃない。」

 

そうなんだ、葉山の話だと、既にクラスのボッチ以外にメールが渡っているらしい。

ここまで行くと、もう噂の域を出てしまいつつあるのは分かる。

 

一番良い手は、犯人を見付ける事が一番なんだが、動機が分からない以上、その尻尾を掴む事も難しいだろう。

 

「だからって、これだけじゃ何の手掛かりも無いよね・・・?」

 

「そこもネックだよねぇ・・・、どうするの?八方塞じゃない。」

 

戸塚も川崎も、事の難しさに頭を悩ませているようだ。

 

まったく、面倒な事を依頼してきやがって・・・。

 

「何やってんの?旅行の算段でも付けてるのか?」

 

そんな時だった、三人分のアイスティーと茶菓子を持った神谷さんが現れ、俺達の手元を覗き込んでくる。

 

ホント、気配隠すの巧いよね、先生にしろこの人にしろ・・・。

 

「い、いや、クラス内で、特定のグループのメンバーを名指ししたチェーンメールが流れてるらしくて、その原因を探ってる所なんです。」

 

少し驚いてる川崎が彼に説明すると、神谷さんは表情を顰めつつアイスティーと茶菓子を俺達の前に置いていく。

 

「どの世界でも、こんな下らないことはあるもんなんだな・・・、まったく・・・。」

 

「えっ・・・?」

 

彼の言葉に、川崎と戸塚は頭上に?マークを浮かべて首を傾げていた。

 

うむ、美人と美少女(美少年)はこれだけで絵になるね!

 

って、違う、そうじゃない。

 

「罪の無い奴の尊厳を踏み躙る最低の行為さ、俺にも、昔こういうヤツが回ってきた事がある、俺には関係ない内容だったが、同じ人間としてよくもまぁ出来ると思ったよ。」

 

「神谷さん・・・。」

 

この人も、先生と同じくらいに理不尽に対する怒りを覚える人らしい、その言葉には熱がこもっていた。

 

「何か協力できる事が有れば言ってくれ、これでも大人なんだ、手助けぐらいはしてやらないとな。」

 

それが伝わった事が気恥ずかしいのか、彼は苦笑しながらも手近な席から椅子を引っ張って来て、俺達の輪の中に加わった。

 

この人も、先生に近い立場だったのかもしれないな・・・、だったら、裏を読む事については長けているんじゃないのか?

 

こりゃ、心強い味方が加わったこって。

 

「これが、そのチェーンメールの内容です、良かったら意見を聞かせてくれませんか?」

 

先生の仲間なら、先生と情報共有はしているだろうし、なにより経験値が俺達なんかとはダンチだろうしな。

 

「ふぅん・・・、これだけじゃ何とも言えないな、取り敢えず、ここに書かれてる三人の事情は無視して、君達のクラス内で最近起きた事や催し事があれば教えてくれ。」

 

彼はそれを見るなり、どういう事か表情を顰めた。

 

まさか、たったこれだけで何か分かったて言うのか?

 

しかし、変わった事なんてあったか?クラスは兎も角、俺の周りで変わった事と言えばウルトラマンになった事と美人に弁当もらえる様になった事と、戸塚と川崎に出会った事ぐらいだよな。

 

それ以外の事はわかんね、ボッチだもの。

 

「そう言えば、再来週辺りに職場見学っていう、校外学習みたいなイベントがありますね。」

 

おぉ、流石は戸塚だ、クラスのリア充ともそれなりに関わっているだけあって、イベント事には敏感だな。

って、これはイベントと言うよりもただの行事だな。

 

そういえば、かなり前に希望調査票書いたっけ?

 

とはいえ、それがこの件に関係有る筈が・・・。

 

「なるほど、やはりそういう事か。」

 

えぇ・・・、今ので一体何が分かったって言うんだよ・・・。

ほら、川崎も戸塚も目を見開いて驚いてる。

 

いったいどこをどうしたらチェーンメールに繋がるのか。

 

「ここに書かれてる三人は、一つの学内グループに所属してるんだよな?だとすれば、イベント事に付き物なのが、人数振り分けって事だ。」

 

「あっ・・・!」

 

えっ、戸塚さん、何に気付いたんですか?

俺にはサッパリだぜ・・・、あ、川崎もまだ分からんみたいだ。

 

「こういうのって、メンバーが多いと、あぶれるヤツも出てくる、特にこのグループは一人の生徒を中心にしてるんだろ?君達の口振りから大体察せるよ。」

 

「なるほど・・・、班決めの結果次第じゃ、友達付き合いにも影響が出ますよね・・・。」

 

あぁ、なるほど・・・。

つまり、葉山+残り三人の内の二人で見学用の班を作ると必然的に誰かがあぶれるって訳か・・・。

 

でも、それがどうしてチェーンメールになるんだ?

 

「その通りだ、もし自分があぶれたりしたら、これからの付き合いが今迄通りに出来るかどうかなんて分かったもんじゃない、特に、学生の間なんてそんなもんだよ。」

 

「「あ・・・。」」

 

それを言われて、俺と川崎は途端に合点が行った。

 

周りと合わせていないと不安になる、だから誰かを攻撃しているやつに合わせる事で、自分の立場を確立しているつもりになる。

それは、俺達が被害を受け続けて痛感している事じゃないのか?

 

それが、今まさに行われているという事は・・・。

 

「俺が考えるに、この中の三人の内の誰かが犯人だ、可能性としては一番デカいだろうぜ。」

 

神谷さんは確信した様に三人の名前が書かれているメモに印を入れた。

 

つまり、戸部、大和、大岡の三人の内、誰かが、他の二人を出し抜いて一番目立つ葉山と組んでリア充になっておきたい、ってことか・・・?

 

なんというか、肩が凝る様な、息が詰まりそうなやり方だこって。

ま、トップカーストに属しておいた方が、何かやらかしても教師の目も甘くなるから間違ってはいない生き方だな。

 

とは言え、俺はそんな生き方なんざ、まっぴら御免だね。

ひとり気楽に生きたいもんさね。

 

「この三人の内の誰か・・・?」

 

「でも、だからって誰が・・・?」

 

そう、ここでもうひとつ問題が浮上してくる。

犯人が三人に一人と分かったとして、それが誰かという問題だ。

 

絞り込もうにも、コイツ等が実際にどんな奴かを知らないから決めつける事も出来ない。

いや、決めつけは良くないけどさ。

 

まぁ、それは兎も角、正直な話、決め手にはなっていないんだよな。

 

これ以上は手詰まりか・・・?

 

「ん・・・?」

 

そう思った時だった、俺はある点に気付いてしまった。

 

確かに、ここに書かれている事は全て、嘘かどうかを知らなければ、許しがたい最低の行為に取れるだろう。

 

だけど、何かがおかしい。

 

「あれ・・・?」

 

「どうしたの二人とも・・・?」

 

俺と川崎が一瞬で不審げな表情を浮かべると、戸塚は俺達にどうしたと言わんばかりに尋ねてきた。

 

どうやら、川崎も気付いたみたいだ。

この、チェーンメールの歪さに。

 

「戸塚、気付かないか?一人だけ、明るみに出ても蔑まれるだけで、他に痛手が無い奴がいるだろ?」

 

「えっ・・・?あっ・・・!」

 

「女の身からしてみれば死に晒せと思うけど、別にただのモテ男でしかないってヤツがね。」

 

「それって・・・。」

 

やはり、川崎も俺と同じ事を考えていたみたいだ。

 

ここに書かれている、戸部と大岡は、本当にやっているならば間違いなく警察沙汰間違いなしの事をやっている。

 

つまりそれは、学校を退学させられるレベルの事をやっていると言うことだ。

 

だが・・・。

 

「残りの大和、どういうわけか、コイツだけ色恋沙汰を書かれてる、やってる事は最低だが、他の二人と違って警察が出てくるようなヤマでも無ければ、退学させられるほど悪質でも無い、とは言え、不純異性交際で色々と言われるかもしれんがな。」

 

「あっ・・・!」

 

そう、二股や三股は確かに不貞行為には違いないが、所詮は結婚する前や学生時代のヤンチャで済ませられるものでしかないし、法的拘束力も無い。

 

つまり、これが意味するところは・・・。

 

「なるほど、よく見てるな、恐らく、犯人は彼が最有力だろう。」

 

俺の推理を肯定する様に、神谷さんはメモに赤ペンで丸を付けた。

 

それは、犯人の最有力候補が見付かったという証であった。

 

「流石だね八幡君、一夏が君に目を掛ける理由が分かった気がするよ、ホント、昔に会えなかった事が残念でならないよ。」

 

「神谷さんまで・・・、先生と同じ事言うんですね・・・。」

 

彼が発した言葉は、初めて先生と会った時に言われた言葉と同じだった。

それだけ俺の能力を買ってくれるのは純粋に嬉しいが、まだまだ慣れないもんだな。

 

「でも、これで依頼が解決できるね!」

 

そんな俺達に戸塚は純粋な瞳を向けて尋ねてくる。

 

その輝きは、最早後光か何かかと錯覚するレベルだ、一点の曇りもない輝きだからな。

 

ホント、純粋で良い奴だよね、戸塚って・・・。

 

「ま、明日葉山の奴に報告してからだな、といっても、アイツの事だ、止めてくるだろうけどな。」

 

ストローでキンキンに冷えたアイスティーに口を付けて、俺は一息つきつつ、明日訪れるであろうその瞬間に頭を痛める様な錯覚を覚えた。

 

グループを大切にする葉山が、グループメンバーが疑われたりしたら黙っていられる筈が無いだろう。

 

どう言い負かすか考えておかないとなぁ・・・。

 

ま、ここまで来たんだ、やってやろうじゃねぇか。

 

覚悟を決めつつ、俺は一気にアイスティーを飲み干した・・・。

 

sideout

 

noside

 

「大分チェーンメールが効いて来たな、これで・・・!」

 

日も暮れかけた住宅街の一角で、その男は携帯の画面を見ながらも、何処か愉悦が滲む声色で呟いた。

 

彼こそ、二年F組で出回っているチェーンメールを流した張本人であり、周囲を顧みようとしない者だった。

 

彼は自分のクラス内での立場を盤石な物とするため、それを成せる者と共に行動したいと考えていた。

 

たとえ、その手段がどれほど卑劣であろうとも、一向に構いはしなかったのだ。

 

「苦労したぜ・・・!これで俺は・・・!!」

 

「カーッカッカッカッ!ご苦労なこった!」

 

その男が歪な笑みを浮かべた瞬間だった、背後から哄笑と共に声が投げかけられる。

 

「だっ、誰だっ!?」

 

彼が驚き振り向くと、そこには漆黒のローブを羽織った謎の存在がいた。

 

背は2M程もあり、その声はカラスの鳴き声を醜くした様な耳触りだった。

 

「目立ちたいんだろぉ?誰よりも、何よりもなぁ?」

 

「お前・・・!?何故それを・・・!?」

 

自分の野心を見抜かれて動揺したのだろう、男は上擦った声で叫んだ。

 

自分の行為が、チェーンメールを回すという手段がバレたとでも思ったのだろうか、その表情は引き攣っていた。

 

「くっくっく・・・、とは言え、もっと目立ちたくないか?こんな地味な事やっていても、器が小さいと思われちまうぜぇ・・・?」

 

「っ・・・!!」

 

彼は、謎の人物の言葉に言い返す事が出来なかった。

その人物の言葉は、悔しいが的を射ていたのだから。

 

「ど、どうすればいいんだ・・・!?どうすれば俺は、もっと注目してもらえるんだ!?」

 

だが、彼はその人物が何か秘策を持っていると言葉の裏側から感じ取ったのだろう、掴みかかる様に如何すれば良いのかと問いかけた。

 

彼にとって、それは正に天使の福音にも取れたのだろう。

 

「カッカッカ・・・、簡単な事だぁ・・・、これを掴むがいい、後はお前が好きに決めるこった・・・。」

 

「こ、これは・・・。」

 

謎の人物は、彼に黒い短剣の様な何かを手渡そうと掲げる。

それは、禍々しいオーラに包まれており、全貌を知る事は出来なかった。

 

一瞬躊躇うが、欲望に抗う事が出来なかったのか、その男は短剣を掴んだ。

 

すると、それに纏わりついていた闇が、彼へと乗り移る。

 

「な、なんだっ!?これっ・・・!?や、やめろっ・・・!? ヤメロォォォォ!!」

 

「カーッカッカッカ!!貴様には俺様の役に立ってもらうぜぇ!せいぜい頑張るんだなぁ、人間!!」

 

もがき苦しむ様に地面を転げ回る男を見下ろしつつ、その人物、レイビーク星人コルネイユは宝かに哄笑していた。

 

それは、これから始まる悪夢の幕開けを告げる合図であった・・・。

 

sideout

 




次回予告

手掛かりを手に犯人を捜す三人だったが、そこには闇の魔の手が迫っていた。

次回やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている

川崎沙希は闇を見る

お楽しみに。

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