やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている   作:ichika

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比企谷八幡は距離が掴めない

side八幡

 

「これで終わりのSHRを終わる、寄り道は極力しないように言っておく、今日は以上だ。」

 

川崎と戸塚と織斑先生とでよく分からない昼食時を過ごした翌日の帰りのSHRが、担任である平塚先生によって締めくくられ、教室からぞろぞろとリア充たちが出て行く。

 

ホント、授業とかよりもはしゃいで楽しめる事の方が好きなんだな。

その実、相手の顔色を窺う様な奴等もチラホラ見受けられるから、そんな事をしてて楽なのかとも聞いてみたいもんだね。

 

っと、話が逸れたな、今日の授業はこれで御終い、後は帰宅するだけ。

予定はナッシング、だってボッチだもの・・・。

 

余談だが、俺はあの口論の後、奉仕部に一度も行っていない。

どうせ行っても、うるさい女どもに絡まれるだけで、良い思いなんて出来よう筈もない。

 

それに、平塚先生も何も言ってこないだろう、一週間に一回ぐらいしか顔出さないし。

 

・・・、そうだ、どうせなら家で身体でも鍛えるか、嫌なウルトラマンも出て来たんだ、何時攻撃されてもいいように備えとかないとな。

 

とはいっても、どうすれば良いんだろうな?

格闘戦は兎も角、光線技なんて人間のままで撃てるはずもない。

 

ギンガは光線技主体のウルトラマンだから、そこまで格闘戦が強い訳じゃ無いんだけど、どう鍛えたらいいんだろうね?

 

まぁ、なるようになるか・・・、どうせ、やり方も先生が教えてくれるだろうしな。

 

そんな事を考えながらも、俺は教室を出ようと席を立った。

 

その際、視線を感じたので少しだけ目線で追うと、そこには表情を曇らせた由比ヶ浜がいた。

葉山グループの女子メンバーと会話しているようだが、その表情は何処か冴えない。

 

俺と目が合うと、表情を更に顰めて、唇を僅かに噛む様な様子も見受けられる。

 

引き摺ってんのかね、一昨日のあれを。

ま、自業自得だろ、自分が乗っかったのが見てくれだけ着飾った泥船だったって事だ、俺は何もしてない。

 

皆仲良くなんて出来っこない、だったら俺は信じられる人の傍にいる方が良いって結論付けた。

 

その方が楽だし、余計な束縛も無くていい。

 

そう思いながら、俺は由比ヶ浜から視線を外し、教室の外を目指した。

 

「「あっ。」」

 

廊下に出た瞬間だった、別の出入り口から同じタイミングで廊下に出た川崎と視線がバッチリ噛み合ってしまう。

 

目と目があう~♪

 

・・・、うっ、頭が・・・。

っと、そんな事考えてる場合じゃない。

 

「よ、よう、帰るの、か・・・?」

 

「う、うん・・・、あ、あんたも・・・?」

 

「ま、まぁな・・・?」

 

何で照れるんですかね川崎さん・・・、白い肌が赤くなって何とも色っぽい・・・ゲフンゲフン。

 

昨日の昼からと言う物、妙に川崎との距離感が近くなりつつある様な気がする。

 

川崎には何かと関わりもあるし、親近感が湧く処も勿論ある。

それ自体に悪い気はしないんだが、お互いボッチなせいもあり、どういう接し方をすればいいのか分からないってのが本音だ

 

え?昨日まともに話せてただろって?

甘いな、あれは先生とか戸塚とかが居てくれたからだ、二人きりになった後は殆ど何も喋れてないっての。

 

それは兎も角話しかけたは良いが、次如何すりゃ良いのってのが本音だ。

話し掛けといて、『じゃ、さよなら。』は変じゃない?じゃない?

 

って、違う、そうじゃない。

今はこの状況をどうにかせねば。

 

「あ、八幡に川崎さん!今から帰るの?」

 

そんな時だった、俺達の間にひょっこりと戸塚が顔を出した。

 

えっ、やっぱりこの子天使なの?どこから現れたの?

テレポートで降臨したの?ウルトラマンなの?

 

いや、そんな事は無いか、戸塚は優しいし、いきなり殴りかかる様な奴じゃないのは分かるしな。

 

「あ、あぁ、特に用事もないし、もう帰ろうかなって・・・。」

 

「あ、あたしもそんなところ・・・、今日は予備校もバイトも無いし・・・?」

 

俺も川崎も、戸塚にはなんでか突っ撥ねる事が出来ない。

 

あれだな、純粋な奴には弱いんだね、俺達。

 

「そっか!僕も今日は部活がおやすみになったから、今から帰るんだけど、良かったら途中まで一緒に帰ろ?」

 

「「えっ・・・?」」

 

マジか・・・?俺、人から一緒に帰ろうなんて言われたの初めてなんだが・・・?

 

ほら、川崎もすげぇ驚いてる!間違いなく予想だにしてなかった事だな!!

 

「う、え・・・。」

 

「え、っと・・・。」

 

ボッチ二人にはなんて答えたらいいのか分からん。

 

俺と川崎は一瞬目を見合わせ、それをした事に気付いて同時に目を逸らした。

な、なんかハズイ・・・!

 

「ダメ・・・?」

 

「「うっ・・・!?」」

 

そ、そんな悲しそうな目をしないでくれよ・・・!?

えっ?俺達が悪いの・・・!?

 

いや、俺達が悪いんだね。

 

「だ、ダメじゃないぞ・・・!帰ろう!今すぐ帰ろう!!」

 

「そ、そうだね!!もう日も暮れちゃうし!遅くなってもいけないからね!」

 

やっぱり拒否れない、だって戸塚だもの。

 

「ありがとっ♪」

 

戸塚は嬉しそうに笑うと、俺達の手を取って歩き始める。

 

俺と川崎は驚くけど、どこか強引なこの行為に呆れているのか、苦笑しか出て来ず、されるがままに歩いて行く。

 

学校の廊下でこんなことしていたら目立つんだが、ま、今日ぐらいは良いか。

 

そんな事を思った時だった、俺達の前にある人物が現れた。

 

短く切りそろえた金髪に、何処かいけ好かない笑みを浮かべたイケメン・・・。

 

それは・・・。

 

「やぁ、戸塚君、川崎さん、それから、ヒキタニ君。」

 

「お前・・・。」

 

二年F組のトップカーストに君臨する男、葉山隼人だった。

 

sideout

 

side沙希

 

「それで、どうすんの?」

 

帰り道を歩きながら、あたしは比企谷に尋ねた。

 

どうするなんて聞くまでもないかもしれない、あの外ッ面だけは良い男からもたらされた依頼についてだ。

 

『二年F組やその周辺で出回っているチェーンメールを止めて欲しい。』

 

こんな依頼、どうしろって言うんだい、何か実害がある訳じゃあるまいし。

 

「分かってる、でもまぁ、ハッキリ言って、ボッチにゃ関係ない依頼だわな。」

 

比企谷は呆れた様にタメ息を吐き、あの男から渡されたメモ用紙に記された内容にもう一度目を通していた。

 

その内容とは・・・。

『戸部は稲毛のカラーギャングで西高狩りをしていた。

 大和は三股かけている最低の屑野郎。

 大岡は相手校のエースを潰しまわっている。』

 

なんだいこの、阿保らしい内容は。

こんだけの事やってたらふつうは明るみにでてるっての。

 

まぁ、確かにあたしと比企谷はボッチだし、クラスメイトの連絡先なんて持ってる訳無いし、こんなくだらないメールが回ってくる事も無い。

 

だから、チェーンメールなんていう何の生産性も無い、全く持って無駄でしかない行為にただただ呆然とする以外なかった。

 

火の無い所に煙は立たないって言うけど、あたし等からしてみればそんなのは戯言でしかない。

何度根も葉もない、くだらない噂を立てられて、何度追いやられてきた事か・・・。

 

って、今はそんな事は良い、もう気にしないって決めたんだ、そんな幼稚な事でしか楽しめない奴等の事なんてね。

 

「だけど・・・、これって、葉山君のグループの人達だよね?どうして、人に依頼してきたのかな?」

 

そんな事を考えていた時だった、比企谷の手元のメモを見た戸塚は何かを疑問に思ったようで、可愛らしく小首を傾げて尋ねてきた。

 

あぁ・・・、癒されるぅ・・・。

って違う、そうじゃない。

 

確かに、彼女、間違えた、彼の言う通り、葉山が比企谷に依頼する道理はない。

 

理由を尋ねてみれば、比企谷が奉仕部とかいう、平塚先生が顧問を務めるという胡散臭い部活に所属しているからだという、何とも理に適わない理由だった。

 

自分とこの問題を他人に持ち込む事自体がおかしいというのに、それを何とも思ってなさそうなのが癪に障る。

もしかして、何か裏があるんじゃないかと勘繰ってしまうのは、あたしが捻くれているからとも思うけど、どうもキナ臭いんだよね。

 

「そうだね、こんな依頼、別に蹴っても良かったんじゃない?」

 

「ま、俺も一応部員だしな、面倒な事この上ないが、やるしかないだろうよ、尤も、あのリア充野郎は気に喰わないけどな。」

 

ホント、この男もあたしと同じで、興味の無い奴とか敵と思える奴には随分と辛辣になるんだね。

でもまぁ、その気持ちはよく分かるし、巻き込まれかけてるあたし達の気持ちも考えて欲しいってもんだ。

 

「あはは・・・、それで、何か分かりそう?」

 

あたしと比企谷の切り捨て具合に苦笑しながらも、戸塚はどうだと言う様に尋ねてくる。

 

「分かるとすれば葉山のグループメンバーがターゲットにされてるってトコだな、後はサッパリだ。」

 

やっぱりね。

 

人との関わりが無いあたしと比企谷にとっちゃ、グループと言う括りの問題は結構な鬼門だね。

戸塚も戸塚で人付き合いはありそうだけど、葉山のグループと絡んだ事は無いという。

 

うーん・・・、これじゃあ八方ふさがりだね。

どうしたもんか・・・。

 

「う~ん・・・、なんだか、暑さと相俟って知恵熱になっちゃいそうだよ。」

 

五月も半ばと言っても、既に初夏と呼ぶに相応しい暑さが襲い掛かってくる。

 

もう長袖では汗が滲んでくるような時期だ、夕方に近くなってるとは言っても、日差しが傾いてるから体感は一層暑く感じるね。

 

「同感だ・・・、あー・・・、なんか冷えたモン飲みながら考えるのもアリだろうな。」

 

比企谷も煩わしげに襟元をパタパタと扇いでいた。

 

確かに、何処かの店で腰を据えておさらいしてみるのもアリかも知れない、歩きながらだとどうしても気が散るしね。

 

それは良いんだけど、ここら辺で周りの目を気にせず、かつ冷たい飲み物を飲みながら話せる場所なんてあったっけ?

住宅街から少し離れてる場所だし、都合よく喫茶店なんて・・・。

 

「あ、それなら僕、良い所知ってるよ!」

 

「「ほへ?」」

 

そんな喫茶店みたいなとこあったっけ?

良いトコの喫茶店だと、値段も少し張るだろうし、財布の中身大丈夫かな・・・?

 

「ついて来て、ここからあんまり離れてないんだ!」

 

「あ、あぁ、分かった。」

 

「道案内お願いするよ。」

 

まぁ、乗りかかった船だ、どこまでやるかは分からないけど、一緒に解決まで行ってみようじゃないか。

 

それに、こういう付き合いもたまには悪くないしね。

 

そんな事を思いながらも、戸塚の後について行くと、どうも見覚えのある道に出た様な気がしてきた。

なんか、こう・・・、通い慣れてるけど、今あんまり行きたくない場所の様なぁ・・・?

 

比企谷もそれを感じたのか、少し表情が引き攣っている。

やっぱりか、やっぱり嫌な予感がするよね・・・!?

 

「あっ!ここだよ!」

 

そんな嫌な予感が次第に大きくなり、最大級に達した時だった、戸塚の足が止まり、最大級の後光を輝かせて微笑みながら指差した。

 

「「お、おおぅ・・・。」」

 

その先には、あたしと比企谷の思い出の場所、昼間の喫茶店営業をしているアストレイだった・・・。

 

「テニス教室の帰りとか、空いてる時間が合ったら良く来るんだ!お店の人も良い人達ばっかりだし、美味しいよ?」

 

えぇ、えぇ良く知ってますとも。

寧ろ、このメンバーの中ではあたしが一番この店の事分かっているまである。

 

それは、この店の人達全員が、織斑先生みたいな人って事もね・・・!!

 

「と、戸塚くぅん・・・!こ、ここはやめようかぁ~・・・。」

 

「そ、そうだね~・・・、も、もう少し探さないかなぁ~・・・?」

 

ここだけは、プライベートでなるべく脚を踏み入れたくない場所だ。

 

しかも、今は比企谷と戸塚も一緒で、そんな状態で入店したら、六人の兄さん姉さんにどうからかわれるかなんて判ったもんじゃない。

 

「ダメ、かな・・・?」

 

くぅぅっ・・・!!

だ、だからその上目遣いは卑怯だって・・・!!

 

こ、断れないぃ・・・!

 

「い、いやぁ・・・、だ、ダメな訳無いぞ!な、なぁ川崎ぃ!」

 

「そ、そうだねっ!は、入ろうか!」

 

もうね、毒を喰らわば皿まで的なテンションになっちゃったのかな、あたしも比企谷も引き攣った笑顔を浮かべて首を横にぶんぶん振った。

 

「よかった~♪それじゃあ行こっか♪」

 

ニパッと笑う戸塚にまたまた胸キュンしつつ、あたし達三人は悪魔の館へ脚を踏み入れた。

 

その後に起こりうる、弄りに恐怖しながらも・・・。

 

sideout




次回予告

三人を出迎える嘗ての戦士は、彼等に何をもたらすか。

次回やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている

比企谷八幡は手掛かりを得る

お楽しみに

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