やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている   作:ichika

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比企谷八幡は走り出す

noside

 

『やったか・・・!?』

 

目の前で吹き上がる爆炎を睨みながらも、Xはエタルガーを仕留めたかと声を上げた。

 

残された体力を振り絞って放った技をまともに受けたのだ、如何に耐久力の高いエタルガーでも仕留められたと確信はあった。

 

『分からない、でも油断は禁物だね。』

 

Xカリバーを構えたままにしつつも、臨戦態勢を解くことは無かった。

 

出てくるならいつでもやれる、そういわんばかりの様子だった。

 

その時、彼等の下に接近してくるいくつもの気配を察知する。

 

良く知った仲間のモノであり、彼の心強い友の鼓動だった。

 

『『お待たせ彩加!』』

 

八幡と沙希の声で、一人のウルトラマンが盛大な土煙を巻き上げながらも降り立った。

 

ギンガとビクトリーの要素を混ぜ合わせ一つにした姿を持つそれを、彩加は驚くこともせず、笑顔で迎えた。

 

『八幡!沙希ちゃん!乗り越えたんだね!』

 

友の帰還を喜ぶ彼の表情からは、純粋な歓喜が見て取れた。

 

『あぁ、彩加達が時間を稼いでくれたお陰だ。』

 

『でも、見たところあたし達来なくても良かった?』

 

ありがとうと言う八幡と、彩加から迸るアストレイの力を感じ取った沙希が、もう決着は着いたのかと軽口をたたく。

 

ここに来るまでの間、Xとエタルガーの戦いの趨勢を感じ取っていたのだろう、彼等の言葉からは、やってくれるよと言わんばかりの、信頼を露わにする感情が伝わってくる。

 

信じていた、たったの一言に籠められる想いの量は、言い表せることは無いだろう。

 

だが・・・。

 

『お、おのれぇぇぇ・・・!!』

 

『『『ッ!!』』』

 

爆炎を掻き消す様に、胸部に大きく傷を作ったエタルガーがその姿を現す。

 

先程の攻撃が相当に堪えているのだろう、いう事をきかない身体を、無理やり動かしているような印象を受けた。

 

その様子に、ギンガビクトリーとXは構えを取り、いつでも戦える態勢を整える。

 

『こ、小賢しい真似をしてくれる・・・!こうなれば、この闇に平伏すが良い・・・!!』

 

傷を庇うように抑えつつ、エタルガーは空いている左腕に闇のオーラを纏わせる。

 

それは、エタルガーの持つ能力である、闇を具現化させるために行われる動作だった。

 

『現れよ・・・!この世界の人間どもの恐怖の象徴よ・・・!!』

 

この世界に住む者達の恐怖の象徴を呼び出すつもりなのだろう、闇なh、その深さを次第に増していった。

 

『がぁぁぁ!!』

 

その闇が最大に集まった時、唸り声を共に闇の波動を宙へと打ち上げる。

 

それは、細胞が分裂するかの如く蠢き、ついには弾けるようにして広がり、恐怖の象徴へと形取られていく。

 

『闇の支配者!その破壊の姿!!アークルギエルよ!!』

 

その闇が収束した時、そこに現れたのは、かつてこの世界を闇に塗り込めようとした、ギンガの影たる者の、狂気たる姿・・・。

 

だが、その巨大さは、一年前に現れ、八幡達の手で屠られた時のそれよりも遥かに巨大であり、最早山と呼べるほどだった。

 

『『ダークルギエル・・・!!』』

 

現れたその姿に、八幡達は表情を硬くする。

 

嘗ての影と、もう一度向き合うときかと・・・。

 

『此奴の相手でもしていろ・・・!!』

 

そういうや否や、エタルガーは戦術的撤退とでも言うつもりなのだろうか、飛翔し、時空城へと戻っていった。

 

『待て・・・!!』

 

『『彩加!それどころじゃない!!』』

 

追いかけようとするXを遮り、ギンガビクトリーは目の前に聳え立つアークルギエルを睨む。

 

アークルギエルの幻影は、今にもやってやろうと言わんばかりに昂っており、闇を迸らせていた。

 

一人のトラウマではない、幾人、幾十人、いや、それ以上の人間の恐怖の心から作り出されたそれは、元のルギエルの何倍もの力で彼等の目の前に存在していた。

 

『此奴をどうにかしないと・・・!!』

 

その姿に歯噛みしながらも、彩加はXカリバーを握り直す。

 

もう一度倒す、その意思を籠めて。

 

『大丈夫、此奴はあたし達に任せて。』

 

『ルギエルの相手は、このギンガビクトリーが引き受けた!!』

 

そんな彼の前に、ギンガビクトリーが立ち、任せてくれと強く頷く。

 

その力強さたるや、以前の彼等には無かった圧もあり、彩加は頼もしく思いつつも、ただただ頷く他なかった。

 

『そこまで言うなら、任せるよ?』

 

『『あぁ!!』』

 

ならば任せると頷く彩加に、八幡と沙希は強く頷き、再びアークルギエルに向き直る。

 

彼等の目の前に聳えるそれは、彼等を睥睨するように見下ろしていた。

 

だが、その視線をモノともせずにギンガビクトリーは地を踏みしめて立つ。

 

嘗ては仲間と共に、師と共に戦う事で漸く倒せた相手であったとしても、今の彼等に負ける道理など、微塵もなかった。

 

『さーて?俺達もいっちょやるか?』

 

『そうだね、準備運動には丁度いいし。』

 

手に入れた力を試す。

それもかねて、八幡と沙希は構えを取る。

 

ギンガの構えとビクトリーの構えを掛け合わせた様な、二人で一つのスタイルを以て。

 

『『二人の力、見せてやる!!」』

 

息を合わせて叫び、二人はゆっくりと歩くようにアークルギエルに向かっていく。

 

それを受け、アークルギエルは咆哮をあげ、闇の光弾を幾つも吐き掛ける。

 

嘗ての攻撃よりも凄まじい破壊力をもったそれを、ギンガビクトリーは避けるまでもないと言わんばかりに、ただ悠然と歩みを進めていく。

 

いや、事実避けるまでもないのだ。

本物ならばともかく、過去の記憶から作り出された程度の存在の放つ攻撃など、当たりはしないと分かっているから。

 

『『ショオォウラッ!!』』

 

間合いに入った瞬間に跳びあがり、撃ち掛けられる光弾を無視して突き進み、アークルギエルの喉元に強烈なアッパーカットを叩き込む。

 

『グォォオォ・・・!?』

 

あまりの勢いと威力に、アークルギエルは大きくその身体を宙に浮かせる。

 

だが、元々の位置関係上、吹っ飛んだとは言えどもアークルギエルをギンガビクトリーが見上げる形にている。

 

ただの一撃で大ダメージを与えることは出来ても、倒しきるには至っていない。

 

このままでは、その巨体が地に落ち、大災害を引き起こす事など明白だった。

 

だが、そうはさせない。

彼等は、トドメの一手を打つ。

 

『ウルトラマンメビウスの力よ!!』

 

『ウルトラマンヒカリの力よ!!』

 

青いブレスがメビウスを、赤いブレスがヒカリを選ぶ。

 

それは不死鳥の絆、消える事のない絆の炎を象徴する技を発動させるためのモノだった。

 

胸の前でぶつけ合う拳の、それぞれのブレスが輝き、腕に光のエネルギーを纏わせてゆく。

 

その腕で、大きく無限を描くように振るい、最終的にL字に組む、その技は・・・。

 

『『メビュームナイトシュートッ!!』』

 

メビュームシュートとナイトシュートを融合させた光線が、アークルギエルの胸を撃ちぬき、空へと打ち上げる。

 

『おぉぉぉぉ・・・!?』

 

呻きをあげ、ルギエルはどんどん押し上げられてゆき、遂には時空城に押し付けられるようにしてぶつかり、しばらくの拮抗の後に盛大に爆散し、闇の炎を巻き上げた。

 

『すごいパワーだ・・・!』

 

『うん・・・!これが、八幡と沙希ちゃんの、新しい力・・・!!』

 

その力に、Xと彩加もまた感嘆の声を洩らした。

 

絆が手繰り寄せ、掴み取った力。

この力が在れば、負けることは無い。

そう確信したのだろう。

 

『よし、大和達の救出に・・・!!』

 

この隙に、アストレイの救出に向かって窮地に陥っている大和達の援護に向かうつもりなのだろう、Xがすぐさま飛び立とうとする。

 

だが、中にいる彩加も、そして、ギンガビクトリーに変身する八幡と沙希もまた、彼等を助けに行こうとする素振りを見せることは無かった。

 

何故?X自身がそう問うよりも早く、時空城の中枢から光が溢れ出る。

 

暖かくも強いその光は、地上にいる彼等にも届き、包み込んでいくような印象を受けるモノだった。

 

『大丈夫、アイツ等もやり切ったみたいだ、自分達のやるべき事を。』

 

信じていたのだ、彼は、彼等がやりとげることを。

そして、新しい道が開ける事を。

 

刹那、光がより一層強く瞬き、その光の中から9つの影が姿を現す。

 

その内の二つはヒカリとアグルのモノだった。

 

残りの7つの影、それは、最強の7人のウルトラマンのものだった。

 

『よ、よっしゃ・・・!!』

 

『戻ってきたんね・・・!!』

 

大ダメージから漸く復帰した翔と優美子が仲間の姿に歓喜の声を上げた。

 

作戦の第一段階は成功したと、これらからがと本番なのだと。

 

彼等の前に、ダイナ、ガイア、コスモス、ネクサス、マックス、メビウス、そしてティガ、7人のウルトラマン達が降り立った。

 

嘗て見た強さそのままに、彼等の目の前に存在していた。

 

『お待たせ皆!!』

 

『これでまずは第一段階達成、だね!』

 

『そ、その声・・・!?まさか・・・!?』

 

ネクサスとガイアから発せられた声に、彩加は驚愕に目を見開いた。

 

元々の変身者であるコートニーやシャルロットではない、彼等が知る若い声だった。

 

『『まさか、大和が・・・?』』

 

僅かに驚いたように、八幡と沙希が声を揃え、確認の意を籠めて尋ねていた。

 

本人たちではなく、まさか変身した大和達の人格が前に出てきているとは・・・。

 

いいやそれ以前に、まさか変身と共に融合しているとは思いもしなかったのだろう。

 

『まさか、こうなるとは思いもしなかったけど・・・・。』

 

『でも、こうなったからには、ウチらもたたかわせてもらうよ?』

 

ティガに変身する大和が苦笑するように話す。

まさか自分達でもこうなるとは思ってもみなかったと。

 

それを受け、メビウスに変身する南がやってやると言わんばかりに構えを取った。

 

散々やられっ放しだったのだ、一矢報いる事ぐらいはしてやりたいのだろう。

 

『でもお前ら・・・、戦えるのか・・・?』

 

だが、問題はそこではない、如何に強大な力を得たとしても所詮は何の鍛錬もしていなかった一般人が戦えるのか?

 

それは、時空城突入前に大和達が抱いた懸念と全く同じものだった。

 

言い換えれば、扱い方の分からない強力な切れ味を持つ刀を渡されていきなり敵と戦えと言われているようなものなのだ、いくら何でも無茶と言うほかないだろうと。

 

だが・・・。

 

『それがさ、どうも先生達がフォローしてくれてる感じがするんだ、自分の身体だけど、自分だけが動かしてる感じがしないっていうか・・・。』

 

その懸念を、大和は苦笑と共に否定する。

 

イマイチ要領を得ない言葉ではあったが、掻い摘んで解釈すると、今の彼等はウルトラマンの力をセミオート、つまりは彼等自身の意志と、表立ってはいないがアストレイ達の意志で動かしているという事になる。

 

アストレイの意志がある程度働いているという事は、彼等の経験に裏打ちされた動きも引き出せるという事に他ならない。

 

ならば、ある程度は戦えるという事・・・。

 

それを悟り、元からウルトラマンの力を持つ者達は、なんとも言い難いような、それでいて頼もしいと言わんばかりの表情を浮かべていた。

 

だが、戦力が増えたことには変わりはない。

一時的とはいえ力を得たなら、今やるべきことはただ一つだ。

 

『よっと!』

 

そんな最中に、遅れちまったぜと言わんばかりのゼロが降り立つ。

 

ギンガビクトリーになるための修行後、あまりの超スピードで飛んでいく彼等において行かれたか、それとも別の何かをしていたか・・・。

 

『俺も、一緒に戦わせてもらうぜ、今回限りの相方も見つけたことだしな。』

 

『相方・・・?』

 

ゼロの言う相方の正体に合点がいかず、八幡は小首を傾げる。

 

戦力として力を貸してくれそうな存在が、果たしてこの世界にいたかと。

 

『私も戦わせてもらう、ウルトラマンゼロと共に・・・。』

 

『その声・・・、アンタ、平塚センセイ・・・?』

 

ゼロの中から聞こえた声に、八幡は僅かながら表情を顰めるとともに、驚愕に目を見開いた。

 

散々敵対してきておいて、今更何がしたい?

以前までならそうストレートに問うていただろうが、今はかつてほどの悪感情は無く、ただ純粋に何故だという想いから問うている様だった。

 

『あの男に、借りを返すだけだ・・・、そのためにも、今は戦う。』

 

一夏に借りを返す、ただそれだけだという言葉には、何よりも強い響きがあった。

 

それを受け、ならばそれ以上何も言うまいとでも言うつもりか、八幡は小さく頷き返し、時空城を睨みつける。

 

そこにいるエタルガーに、首を洗っていろとでも言う、強い意志を叩き付けるかのように。

 

―――小賢しい真似を・・・!!―――

 

その時だった、エタルガーの忌々し気な声が響き渡る。

 

『エタルガー・・・!!』

 

なんともしつこいと、その場にいる者達は皆構えを取る。

これで最後にしてやる、その想いと共に。

 

―――こうなったら、貴様ら自身の闇で・・・!貴様らを滅ぼしてやろう・・・!!―――

 

もう後がないのか、エタルガーもまた切り札ともいえる最後の一手を切る。

 

それは、最後に残った闇。

誰しもが持つ心の闇。

 

ウルトラマンの影とも呼べる存在を呼び出す腹積もりだった。

 

地上に闇が3体降り立ち、その形を巨人のモノへとかたどっていく。

 

『ダイナダーク!』

 

『ガイアダーク!』

 

『アグルダーク!!』

 

その三体は、ダイナ、ガイア、そしてアグルによく似た姿をしていたが、どれもが禍々しく黒と赤に染められている闇の巨人だった。

 

『アグルダーク・・・!なんて嫌がらせ・・・!!』

 

その姿に、アグルに変身する小町は、頭に来たと言わんばかりに声を張り上げる。

 

一度その姿になった自分への当てつけのつもりかと、小町はただただ憤慨するばかりだった。

 

無論、エタルガーとしては今その場にいるウルトラマンに対する闇の巨人を創りあげただけなのだが、最早そんな些末な事など、小町には関係なかった。

 

『頭きた・・・!ぶっ倒してやる・・!!』

 

嫌がらせじみた当てつけをしてきたからには、百倍にして返してやる。

 

そんな意気込みと嫌に汚い言葉と共に、アグルは前に踏み出した。

 

『小町ちゃんだけに戦わせないよ!』

 

『過去の自分と戦う、私達には御誂え向きね。』

 

小町だけを戦わせんと、結衣が変身するダイナと、雪乃が変身するガイアが並び立つ。

 

二人とも、目の前の闇を打ち倒し、物理的にも過去を超えようとしていたのだ。

 

その意気や、誰にも止める事など出来ないほど強く、熱いモノだった。

 

『皆さんはエタルガーを!ここは任せてください!!』

 

『『分かった!!』』

 

その姿勢に、これ以上何かを言うのは無粋だと悟ったのだろう、八幡と沙希は強く頷き、時空城を睨む。

 

自分たちが目指すべきはエタルガー、それ以外に手をやる余裕はどこにもない。

 

ならば、ここは小町達に任せて先に進む、それが最善手だった。

 

『『行くぞ皆!!』』

 

時空城目掛けて飛翔する二人の呼びかけに応え、大和達も追うように飛び上がる。

 

今度こそ決着を着ける、その強い意志と共に。

 

『雪乃さん、結衣さん!小町に着いてきてくださいね!!』

 

『分かった!』

 

『頼りにしてるわよ!!』

 

 

アグルの呼びかけと共に、ダイナとガイアが勇んで応じ構えを取る。

 

それに呼応し、闇の巨人たちも構えを身体を震わせ、三人との距離を一気に詰める。

 

それを受け、三人もまた駆け出し、迎え撃つのであった。

 

ここに、最後の戦いの火ぶたが、切って落とされたのであった・・・。

 

sideout




次回予告

エタルガーより呼び出される過去の残滓、そこに立ち向かうは地球の少年少女達。
彼等が目指す明日に向けて、光は駆ける。

次回やはり俺の青春にウルトラマンがいるのは間違っている

比企谷八幡は負けられない

お楽しみに

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