やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている 作:ichika
今回から、第二部と言うべきか、最近のウルトラシリーズで言うところの劇場版にあたるお話がスタートします!
よろしければまたお付き合いください!
side八幡
「くぁぁぁ・・・、今日も良い天気・・・。」
立て直しが終わった総武高の屋上で、俺は心地良い日差しの下に目覚めた。
ダークルギエルを斃してから、先生達がこの地球から去って一年が経った今日この頃、季節は春の匂いを漂わせて来ていた。
日差しは冬の名残を僅かに残す程の強さだったが、これがまた昼寝には心地いいもので、ついついウトウト微睡んでしまう。
昔はこんな日差しなら、どこにも行く事無くダラダラと惰眠を貪ることを良しとしていたもんだ。
まぁ、今はやることてんこ盛りで寝てる暇なんてないんだけどな。
「何やってんだい、約束の時間まであとちょっとだよ?」
それはさて置いて、今日はとある約束のために来ていたんだ。
寝転がる俺に、沙希が呆れた様に覗き込んで来た。
出会った頃から何も変わることのない、可憐で優しい笑みに、俺の眠気は風と共に何処かへと消えて行ってしまった。
出会ってからおおよそ二年、付き合い初めて一年と数ヶ月という短い間で、彼女は更に美しくなっていくばかりだ。
いつ見ても見惚れるし、より一層惚れていく自分自身がいる事に驚くしかない。
まぁそんなことはさておいて・・・。
「分かってるって、ちょっとした気分転換だっての。」
差し出された彼女の手を取って起き上がり、俺は屋上からの街の眺めを視界に入れる。
一年前までの戦いの爪痕は今だ生々しく残り、復興にはまだまだ時間が掛かる事を理解させられる。
崩れたビルは直せても、失った命は戻らない。
大流星群の夜に連なる一連の怪獣災害によって、少なくともこの街だけでも数百人の命が消えている。
俺達は勝ったには勝った。
だけど、護れない物もあったと言う事だ・・・。
どれだけ月日が流れても変わらない、事実。
それを受け止めて、俺は進む。
何時か、大切なモノを護れるだけの強さを手に入れるためにも。
沙希と共に街並みを眺め、俺は決意を新たにする。
これから先も止まることなく、進んでいくと。
偉大なあの人たちに少しでも近づける様に、何時か本当の仲間として認めてもらうために。
「先生たち・・・、今頃どうしてるかな・・・。」
沙希の言葉に、俺もまた想いを馳せる。
彼方の世界へと飛び立った、俺達の先生・・・。
今、あの人たちはどこにいるのだろうか・・・?
帰るべき場所へ行けたのか、それとも・・・。
いや、彼等には彼等の旅がある。
俺には俺の旅を熟す、それしかできないじゃないか。
でも、置いて行かれるつもりはありませんからね、先生。
どれだけ離れていても、心は通っている筈だから。
「行くか。」
「うん。」
沙希と短く言葉を交わし、待ち合わせの場所に向かう。
そう、今日は俺達にとっても特別な日だった。
先生たちと別れてからも続いた、この生活の一区切り・・・。
それは、俺達が、高校生活に終わりを告げる日。卒業の日だった・・・。
sideout
noside
八幡達の住む宇宙とは別の宇宙。
その何処かで・・・。
「うっ・・・!」
その者は、重い傷を負ったか、痛みに呻きつつも小惑星の影に身を隠していた。
手ひどくやられているのは、その様子から見ても一目瞭然だった。
見つかってはならない、そんな雰囲気だけが伝わってくるようだった。
「くそっ・・・!」
だが、それ以上に、後悔の念が強く滲み出ており、何も出来なかった自分自身を責めている節があった。
「待て・・・!皆を・・・!!」
その者は、ある者たちの名を叫び、宇宙空間のある方向へと手を伸ばす。
彼の伸ばした手の先には、異次元へのワームホールがまるで巨大なブラックホールが如く開き、巨大な何かがその中へと消えていくサマが見て取れた。
一見して、それは城のようなものにも見て取れた。
だが、よく考えてほしい。
ここは宇宙空間、如何な人工的な建造物でも、わざわざそんなものをこんな場所に作る必要はない。
そして何より、それが動いているとなると、最早ただ事ではないことが分かるであろう。
その者も、それが持つ危険性を今の今まで肌身に感じているからこそ、追わねばと、止めねばと思っているのだろう。
「行かねぇと・・・!アイツらに、伝えねぇと・・・!!」
その城がワームホール内に消えた直後に、彼は自身の身体に残された力を使い、異界へと渡る力を発動、彼の者達の下へと飛んだ。
危機を伝えるために、新たなる敵の出現を伝えるために
それは、八幡達の身に降りかかる、新たなる戦いの序章に過ぎなかった・・・。
sideout
noside
「先輩方!ご卒業おめでとうございます!!」
卒業式を終えた総武高校、その一角に在る科特部の部室に、小町の元気な声と拍手が響き渡った。
「姉ちゃん、お兄さんに彩加さん、皆さんにもお世話になりました・・・!」
大志もまた、感激で目を潤わせ、感謝の言葉を口にしていた。
彼ら二人とも、ダークルギエルの脅威が去った後、何とか行われた高校受験に合格、総武高の生徒として、そして、八幡達科特部の新入部員としてこの一年を過ごしていたのだ。
それは、八幡達科特部だけでなく、ダークルギエルが起こした惨禍に巻き込まれた者達ともかかわり続けていたことになる。
教室には、大和や南、翔や優美子のほかにも、隼人や姫菜、旧奉仕部の面々の姿もあった。
皆、卒業という一つの別れを惜しんでいるのだろうか、涙で目が赤くなっており、今もきっかけさえあれば再び零れ落ちんとしている様だった。
「二人を置いてくみたいで、申し訳なく思っちゃうな・・・。」
そう呟いたのは、大和だった。
その声も、何処か悲しげなもので、別れを惜しむものが感じ取れた。
彼は、八幡達と関わっていく中で、ウルトラマンの戦いを見守る中で、大志や小町とも、先輩後輩以上の関係を築いていた。
これで関係が切れる訳ではないにしろ、同じ学び舎で顔を合わせることがないと考えると、寂寞の念を抱いても不思議ではなかった。
「やめてくださいよそんな言い方・・・!」
「そうですよ・・・!小町達も寂しくなっちゃいます・・・!」
大和の言葉に、大志と小町はせっかく堪えていたのにと言いたげに、目を潤ませていた。
比企谷兄妹、川崎姉弟はこれからも交流は、それこそ家族親族として関わり続ける事になるだろうが、彩加を除いた面々と交流を持つ機会は激減する事は間違いなかった。
それに、進学するにしても、先に卒業する彼ら全員が同じ進路というわけではない。
隼人や雪乃は超名門大学へ、姫菜と結衣はそれぞれが目指す分野の専門学校へという様に、バラバラの道を歩もうとしていた。
大和や南、優美子も八幡達と同じく、地元の公立大学へと進学したが、やはりそれぞれ学部学科が違うこともあり、それぞれが行動を共にする頻度も減ることになるだろう。
故に、今回卒業式の後にこうして集まるという事が、彼ら全員で集まれる最後の時になる可能性だってあったのだ。
それを分かっているからこそ、彼らは教師に許可を取るという面倒をしても、こうして集まりを持ったのだ。
「・・・。」
そんな彼らの様子を、科特部の部室の隅の壁に凭れ、微笑ましいのか誇らしいのか、そして、罪悪感を滲ませる、なんとも言えない表情を見せる女性の姿があった。
彼女は、平塚静。
総武校の国語系科目教師で、解体された奉仕部の顧問でもあった女性だ。
彼女は嘗て、八幡を奉仕部に従わせるために奔走したが、八幡の師である織斑一夏の手により悉く妨害され、それを根に持つあまりに心に闇を宿し、ダークルギエルの依り代にされた過去を持つ。
最終的に、自身の中に眠っていた教師としての矜持を光とし、ルギエルの支配から逃れる事に成功していた。
その後、この世界を離れる一夏から、自分の代わりに科特部の顧問を担当しろと依頼、それで一連の件をチャラにするとしていた。
とはいえ、科特部の活動自体はウルトラマンとしての活動が隠されているとはいえ本筋で有り、その辺りは八幡が主体となり運営されていることもあって、彼女自身が何かをすることは少ない。
それに、未だに八幡達との間には蟠りが残っている事もあるが故に、監督として見守る以外、何もできないというのが本音だった。
自分のせいで、何人もの生徒を捻じ曲げてしまうところだった。
それに気付かせてくれた者はもういない。
いるのは、自分よりも真っすぐ生きる若人たちだけ。
ならば、自分に出来るのはただ見守るだけ、それでいいとさえ思っていたのだ。
だから、今日も最後のケジメとして顔を出し、彼らの門出を静かに祝う心づもりだった。
八幡達もそれに気付きながらも、その心情を憚って何も言うことはなかった。
どちらとも、不器用な者達だから・・・。
「まぁ、何はともあれ、乾杯しようぜ、時間もそんなにないしな!」
場を取りまとめるように、八幡が声を上げて紙コップを掲げた。
各自に持ち寄ったであろう菓子類にジュースなどの飲み物、いかにもパーティー用と言わんばかりの用意がされてあった。
彼に倣って、皆が紙コップを手に持ち、胸の高さに掲げた。
「一言だけ言わせてくれ、これが最後になるかもしれないから。」
八幡の宣言に、皆、彼に注目する。
最後になるかもしれない、それは、皆感じている事でもあったから。
「俺にとって、この二年、なんか色んなことが有りすぎて、なんて言っていいのか分かんねぇんだけえど・・・、でも、これだけは言えるか・・・?」
自分でも巧く言い表すことが出来ないのか、ただ単に気恥ずかしいのか、彼は少しだけ頬を掻いて、明後日の方向に目をやっていた。
その様子を、沙希と彩加はおかしそうに微笑みながらも見守っていた。
彼女達には分かっていたのだ。
八幡がそうしたいという事は、彼が変わった証でもあるから。
「皆に会えてよかった、だから、ありがとう。」
もう迷いはないと言わんばかりに、彼は友に、仲間に向かって柔らかい笑みを浮かべながらも告げた。
感謝、そして悲哀、そのすべてを包容する、暖かい感情に満ちた言葉だった。
「よ、よしてくれよ・・・、気恥ずかしいじゃないか・・・。」
少し照れながらも、何処かまんざらでもないのだろう、大和はそれはこっちのセリフだと言わんばかりに笑った。
南も、翔も優美子も、その通りだと、何を今更なことを言うんだと言わんばかりに、柔らかく笑んだ。
皆、今までの日々を、この出会いを本物だと感じ、慈しんでいたのだ。
「ま、らしくていいんじゃない?」
「そうだべ!さすがは比企谷君だべ!」
「さすがでも何でもないよ・・・!」
呆れる優美子と、煽てる翔に、やはり小恥ずかしかった八幡は声を上げた。
友人とのじゃれあい、それも今日が最後だとしたら、と考えると少しだけ寂しさが込み上げてくる。
だが、それを乗り越え、進んでいけると、彼らは知っていたのだ。
「えぇぃ!とにかく!皆卒業おめでとう!それから、今までありがとう!乾杯!!」
『乾杯ー!!』
八幡の照れ隠しの音頭に、皆いいぞいいぞと言わんばかりに声を張り上げて互いに乾杯していく。
そこに遠慮はなく、心の近しい者達が出来る雰囲気を作り上げていたのだった。
それぞれが思い思いに時間を過ごそうとし始めた、正にその時だった。
『―――っ!?』
不快な耳鳴り、いや、脳がそう判断してしまっているが、それ以上に得体の知れぬ圧迫感を伴った何かが彼らを襲う。
「な、なんだ・・・!?」
唐突な感覚に、八幡は驚きの声を上げて周囲を見渡す。
見れば、部室内にいる者全てが側頭部を抑え、顔を顰めていた。
その嫌な感覚に突き動かされるかの如く、彼らは窓の外に目をやる。
「な、なにあれ・・・!?」
結衣が上げたその驚愕の声は、この場に居たすべての者の心を代弁していただろう。
彼等の目線の先にはこの世のものとは思えない光景が広がっていた。
天まで届くような、頂上が見えぬほど巨大な城のような建造物が、まるで重力など存在しないかの如く、そこに聳え立っていたのだから・・・。
この街に存在していたモノでも、この世界に在った物でもない。
その正体は彼らにとって皆目見当もつかないものではあった。
だが、其れが良くないもので有ると察するに時間は掛からなかった。
何せ、それは異様なまでの圧力を以て、そこに存在していたのだから。
「分かんねぇけど・・・!なんかやな感じだ・・・!行こう、皆!!」
危機感を露に、懐からギンガスパークを取り出した八幡は友へ、仲間たちへ呼び掛ける。
こうしてはいられない、何かあるかも知れないなら動く以外ないと。
「勿論!」
「皆、気をつけて!!」
沙希達、ウルトラマンになれる者達は直ぐ様変身プロセスへ、力を持たぬ大和達は巻き込まれて彼等に迷惑をかけぬように避難の準備を始める。
皆、これまでの経験から、自分が何をすべきか、どう動けば良いか理解し、直ぐ様実践出来る様になっていた。
良くも悪くも、戦いの記憶は、彼等に刻み込まれていたのだ。
友を護るために、八幡達は光の巨人となりて飛び出していく。
新たな戦いに向かって、飛翔するのだ・・・。
sideout
次回予告
平和な街に突如として姿を現した謎めいた浮遊城。
その脅威に、若き光達が立ち上がる。
次回やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている
比企谷八幡は瞠目する
お楽しみに