やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている   作:ichika

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比企谷八幡は手を伸ばす

noside

 

「うぉぉっ・・・!?」

 

精神世界から脱した八幡は、何かに弾き飛ばされる様に大きく仰け反り、静が纏っていた闇から距離を取った。

 

まるで追い出される様な感覚だったが、彼は唐突な力に堪える事が出来ずに尻餅をついた。

 

『八幡・・・!!』

 

彼を救うべく清めの音を奏で続けていた沙希は、変身を解く事無く彼を支えようと駆け寄った。

 

既に浄化の光は収まっていたが、それを必要としない程に闇の力も弱まっている様だった。

 

「沙希・・・!」

 

『大丈夫だった・・・!?心配したんだから・・・!』

 

自分が現実世界に戻って来たことを悟った八幡の耳に届いたのは、自身の恋人の不安げな声だった。

 

ウルトラマンの表情からは感情を読み取る事は出来なかったが、それでも八幡には判っていた。

 

沙希が、心の底から自分の事を本気で愛し案じてくれているのだと。

 

「大丈夫だ、あっちでの戦いは勝って来たぜ、ちょっと負けかけたけどな。」

 

「それ、大丈夫って言わないんじゃ・・・?」

 

沙希に続いて彼に駆け寄っていた大和が、八幡の言葉に苦笑しながらも突っ込んでいた。

 

どう聞いても負けかけた時点で大丈夫じゃないだろうと、そう言いたげな雰囲気が伝わって来た。

 

「だけど、皆には助けられたぜ、お陰で帰って来れた。」

 

だが、八幡はそれでも仲間である大和達に笑いかけた。

皆のお陰で帰って来れた、それは、彼の心の底からの感謝の形だった。

 

そんな笑みを見せられては、彼等も何も言えないのだろう、ただただつられて笑みを浮かべるしかなかった。

 

「でも、あの人を連れて帰ってくる事は出来なかったみたいだな・・・。」

 

しかし、八幡はそれと同じぐらい、静を闇の世界から連れて帰れなかった事を後悔している様にも見えた。

 

せめて、彼女の心も一緒に救い出したかった。

幾ら迷惑を被った相手とはいえ、闇に囚われている者を救いたいと言う気持ちは、以前よりも強くなっている様だった。

 

だが、幾ら後悔したとて戻らない物は戻らないのだ。

ならば、早く帰って来れる様にしてやるのも自分達の役目と、八幡は決意を新たにしていた。

 

「沙希、彩加達を助けに行くぜ、最後の決着、着けてやろうじゃないか。」

 

『勿論だよ!』

 

八幡の言葉に頷き、沙希は一足先に巨大化し、ルギエルへと斬りかかって行く、

 

それを追うべく、彼もまた、ギンガスパークを握り直していた、

 

「比企谷君!この世界、頼んだよ!!」

 

「あぁ、皆の想い、受け取ったからよ!!」

 

声援を送る大和に答えつつ、彼は改めて変身プロセスへと入った。

 

現れたギンガのスパークドールズを掴み、それをギンガスパークへと読み込ませる。

 

『ウルトライブ!ウルトラマンギンガ!!』

 

「ギンガーーーっ!!」

 

光に包まれた彼は、その姿を赤き光の巨人、ウルトラマンギンガへと変え、そのままの勢いで飛び蹴りをルギエルに叩き込んだ。

 

『ぬぅぅ・・・!?貴様ぁぁっ・・・!!』

 

『お生憎様、一人楽になるのは嫌なもんでね!』

 

呻く様に叫ぶルギエルに対して、彼は冗談めかした口調ながらもきっぱりと宣言した。

 

一人それを受け入れて楽になるよりも、たとえ苦しくても誰かと共に生きていきたい。

それが、彼が得た答えの一つだったのだ。

 

『何故だ・・・!何故我が理想を理解せぬのだ・・・!誰も苦しまず、傷付け合う事の無い素晴らしい世界を、我が築くと言うのに・・・!?』

 

理解出来ない、何故受け入れられないと言った憤慨と困惑、そして、混乱がその言葉から伝わってくる様だった。

 

この理想が、この幸福が世に満ちれば、それこそ世界は本当の意味で幸福になるのだと、彼は信じて疑わなかったのだろう。

 

『そんなもん、お前しか満足しねぇよ。』

 

だが、それは彼にしか感じ得ぬ幸福でしかなかった。

 

八幡はルギエルに向き合いつつ、それを真っ向から否定する。

彼は、自分で作った人形の箱庭を眺めて幸福に浸れる程歪んではいなかったのだ。

 

彼の周りには、呼べば返してくれるような、心の底から話し合える者達がいてくれた。

それを失って何が幸福か、何が平和なのか。

 

彼には、そんなモノ、只の欺瞞にしか見えなかった。

 

『お前に見えなかったもんが俺には見える、それだけで、今を護るには十分過ぎんだろ!』

 

そう宣言する彼の隣にビクトリーとXが、そのまた隣にヒカリやアグル、ゼノンにジャスティスと、彼の仲間達が並び立った。

 

自分達は独りじゃない、お前の様に、紛い物の兵隊などとは違うと。

 

『来いよルギエル!お前の理想ってもんを叶えるならな、俺達をブッ飛ばしてからやってみやがれ!!』

 

『貴様ッ・・・!!愚か者めがァァァ!!』

 

理想を理解せず、あまつさえその光景を見せ付けられた事に激昂したルギエルは、その手にダークスパークランスを具現化させ、最早怒りに任せて突っ込んでくる事しか出来なかった。

 

目の前にある全てを否定する、これまでそうしてきたように、それしか出来なかったが故に・・・。

 

『なら、コイツは俺が命に代えても抑え込んでおいてやる、さっさとケリを着けろ!』

 

それを認めた一夏は、身体の奥底より光と闇、全ての力を放出し、強化されていたスーパーグランドキングを一人で抑え込む。

 

光と闇のエネルギーを纏った拳を連続で叩き付け、完全にグランドキングの進行を止めていた。

 

決着をお前達が着けろと、俺はその露払い程度なら出来ると。

そう言わんばかりの迫力が、命を賭していると分かる程の凄絶さがそこにはあった。

 

『行くぞッ!!』

 

『応っ!!』

 

八幡の声に、6人は勇んで応じながらもルギエルへと突っ込んで行く。

 

『小癪なぁぁっ!!』

 

『彩加!』

 

『うん!!』

 

得物を持ったビクトリーナイトと、残された力を限界を超えて振り絞ってエクシードの姿となったXが真っ先に突っ込んで行く。

 

突き出される矛先を刀身で逸らす様にして受け、直撃を避けつつ刀による一撃を入れようと試みる。

 

だが、ルギエルは凄まじい槍捌きで近付く暇さえ与えず、寧ろビクトリーとXを圧倒している様にさえ感じられる程だった。

 

しかし、ビクトリーとXは何か勝算でもあるのだろうか、リーチの長い槍を何とか往なす様にして捌きながらも、その矛先を自分達に集中させようとしていた。

 

まるで、誰かの為に隙を作ろうとしているかのように。

 

その隙を突き、光の剣を展開したヒカリとアグルがその脇から攻め込んで行く。

 

『オォォッ!!』

 

『あたれぇぇっ!!』

 

『何っ・・・!?』

 

気付いた時には既に遅かった、小回りの利かない槍の側面に回られたため、ルギエルは避けることさえ出来ずにその光刃の直撃を受けた。

 

『ぬぅぅぅ・・・!?』

 

『『今っ!!』』

 

クリーンヒットに怯んだルギエルの手が一瞬緩んだのを見逃さず、すかさず間合いに入ったビクトリーとXが、ナイトティンバーとエクスラッガーで袈裟斬り、逆袈裟に叩き付ける様に斬りつけた。

 

『ぐゥゥゥッ・・・!?』

 

血飛沫と見まごうような火花が散り、ルギエルは苦悶の唸りをあげながらも後退した。

 

だが、やられたままでは済まさんと言わんばかりに、すぐさま体勢を整え、闇の力を纏った矛先を、ビクトリーとXに向けて突き出した。

 

しかし、二人はそれを予期していたかのごとく身を翻してその切っ先を左右に分かれる事で回避した。

 

空ぶった矛が向かう先に居たのは、ゼノンギャラクシーを装備するゼノンと、クラッシャーモードへとその姿を変えたジャスティスだった。

 

既に技の構えに入っており、何時でも撃てると言わんばかりの様子だった。

 

『ギャラクシーカノンッ!!』

 

『ダクリューム光線ッ!!』

 

二筋の強烈な光線が放たれ、ルギエルに叩き付けられた。

 

『ぬぉぉぉっ・・・!?』

 

咄嗟にダークスパークランスを掲げて直撃は防いだモノの、威力を相殺する事は叶わなかったのか、ランスが弾き飛ばされて宙を舞った。

 

『まだまだっ!!』

 

『アンタが何者でも、小町達が倒すッ!!』

 

追撃はまだ終わらない。

光線が止んだ瞬間にヒカリとアグルが再度飛び出し、目にもとまらぬ速さで次々と蹴りを叩き込んで行く。

 

その一方的なまでの攻勢に、最早ルギエルは防御に回る事しか出来なかった。

 

『小賢しいっ・・・!』

 

だが、意地と言うモノがあるのだろう、ルギエルは何とか右腕に闇の波動を形成し、二人を攻撃しようとした。

 

しかし、それを見越していたのだろうか、二人はすかさずバク転して後退、すぐさま体勢を整えつつ必殺の一撃を見舞う。

 

『ナイトシュートッ!!』

 

『フォトンスクリュー!!』

 

必殺の意思を持った光条と光弾が殺到し、ルギエルに叩き付けられて炸裂する。

 

『ぐぅぅぅ・・・!何故だ・・・!何故ウルトラマン如きが、これほどまでに・・・!!』

 

理解出来ない、なぜこれほどまでの力が出せるのか。

そんな驚愕がルギエルの口からは零れていた。

 

何故自分は此処まで追いつめられる?

たった一人で力を着け、全てを壊してきた自分が、何故このような事になっているのだと。

 

『アンタには判らないだろうね!!』

 

『僕達は、一人じゃない!!』

 

だが、孤独に身を置き続けてきたルギエルには得られなかった力がある。

それが、今の彼等にしっかりと流れる力だった。

 

『その邪気、完全に祓い落してから消えな!!ナイトビクトリウムブレイク!!』

 

『『エクシードエクスラッシュッッ!!』』

 

二振りの浄化の刃が叩き込まれ、ルギエルが纏っていた闇を祓い飛ばした。

 

『おのえ・・・!おのれぇぇっ・・・!我はまだ、斃れる訳にはいかぬのだ・・・!全てを、幸福に包むまで、斃れはせぬ・・・!!』

 

『黙れ、お前の幸福なんて、受け入れられるか!!』

 

苦しみもがくルギエルは、何処かに手を伸ばそうとしていた様だった。

 

何かに縋る様な、何かを掴もうとするような、何処か救いを求めるような仕草にも見えた。

 

だが、そんな事など八幡達が取り合う必要も無かったのだろう。

彼はその言葉をバッサリと切り捨て、拳を握り締める。

 

お前が何を求めてるかなど知った事では無い。

だが、他人に迷惑かけて幸福の押し売りなど堪った物では無い、そんな怒りが見え隠れしている様だった。

 

『ウルトラの諸先輩方!俺に力を!!』

 

そして、彼と共に在るのは人間だけでは無い。

ギンガに力を貸したウルトラマンの力が、彼の中にはあったのだ。

 

ギンガストリウムとなった流れで、ギンガスパークNEOの展開したブレードを一旦閉じ、ターンテーブルを回転させて、これまで使用した事の無かった最後の一つの紋章を選定、その力を解放する。

 

それと同時に、彼の左腕に出現したブレスと交差させ、彼に与えられた先達の力、その全てを解放する。

 

『ギンガに力を!!』

 

その想いに応え、彼の中に居たタロウの力が唸りをあげ、彼の身に力を与えていく。

 

それは、他のウルトラマン達の想いも呼び起こし、力を貸し与えている様だった。

 

『皆!あたし達の残りの力も!!』

 

彼が力を解放しようとしている事に気付いた沙希は、仲間達に残された力を振り絞って届ける様に叫ぶ。

 

『勿論!!』

 

『勝ってくださいよお兄さんっ!!』

 

彩加と大志はその想いを籠め、その後に続く様に小町達もまた彼に光を託す。

 

その光はギンガに集い、その輝と力強さを増して行った。

 

『この力は・・・!この、光はっ・・・!!』

 

ギンガに収束していく光に、ルギエルは恐れおののくばかりだった。

何故その力を持てるのだという、羨望にも似た何かが、そこに在るようだった。

 

『お前が目を背けた、拒んだ力だッ!!』

 

その羨望を、八幡は否定する。

誰だって伸ばせば掴めたものを否定し、あまつさえ得られなかった事を嘆いて周囲に独善を押し付ける、その行為に、異次元同位体とはいえど怒り心頭だったのだ。

 

『俺達の光に呑まれて消えろ!!ルギエルッ!!』

 

『放て!宇宙最強の一撃!!』

 

完全に光が収束しきった時、彼はその最強の一撃を放つためのモーションに入った。

 

嘗てタロウがグランドキングを打ち倒す際に、ウルトラ兄弟5人の力を借り受けて放った技だった。

 

だが、今回はそれだけではない。

彼の周りにいた者達の力も、そこに上乗せされていたのだ。

 

『『コスモミラクル光線ッッ!!』』

 

その強烈な光線の一撃は、真っ直ぐルギエルへと突き進み、その黒き身体を呑み込み砕いて行く。

 

『何故だ・・・!何故ぇぇぇ・・・!!』

 

絶叫とも呻きともつかぬ声と共に吐き出される後悔の様な叫びは、その光の奔流に呑まれて消えていった。

 

それは、八幡達の絆がルギエルの闇に勝ったと言う証左だった。

 

「か、勝った・・・?」

 

それを呟いたのは、当事者である八幡達では無く、それを見届けるべく駆けつけた大和だった。

 

ルギエルが目の前から消えた事で、彼は八幡達、ウルトラマンの勝利を疑わなかった。

 

『勝った・・・!』

 

『勝ったんだ・・・!!』

 

そして、それは徐々に実際に戦っていた小町や優美子にも伝播していった。

 

顔を見合わせ、勝利の確信を深めていくように、ただ頷き合っていた。

 

『勝ったんだべ!うぉっしゃーっ!!』

 

「「やったー!!」」」

 

翔と結衣、そして姫菜はガッツポーズで喜びを表し、隼人と雪乃は顔を見合わせて安堵の表情を浮かべていた。

 

終わった。

悪夢の様な出来事が、今この瞬間に全て終わったのだと・・・。

 

『『いや、まだだ!!』』

 

だが、その雰囲気を打ち破るかの如く、一夏と八幡の怒声交じりの張り詰めた声が飛んだ。

 

そのあまりにも緊迫した雰囲気に、一同は一体何事かと彼等を見た。

 

そして、同時に理解もした。

まだ終わっていないと・・・。

 

一夏が変身したティガアナザーは、依然としてスーパーグランドキングを抑え込んでいた。

 

一見して何も変わらないのだ。

そう、ルギエルが呼び出した怪獣が、ルギエルが倒されても形を保っていたのだ。

 

普通ならば、スパークドールズ化の呪いが解け、何も無くとも実態を維持できるようになったのだと考える所だろうが、生憎、彼等はそうとは考えなかった様だ。

 

何せ、彼等は気付いていたのだ。

この街の上空を覆い尽くす闇が、今だ消えていない事に。

 

今迄の戦いが、只の第一ラウンドでしかないのだと言う事に・・・。

 

sideout

 




次回予告

光がある限り闇が消える事は無い。
闇は、強き光によりその濃さを深めるのだ。

次回やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている

織斑一夏は命を賭ける

お楽しみに

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