やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている 作:ichika
noside
『えぇい・・・!忌々しい・・・!!』
向かってくるXを相手取るルギエルは、そのしつこさに舌打ちしながらも忌々しげに吐き捨てていた。
その声には途轍もない怒りと、何故崇高な理想を理解しないのかという憤りも混じっていた。
だが無理も無い。
理想を実行できる段階となり、最早詰めまで来ているにもかかわらず、それを止めようと躍起になっている彼等が理解出来ないのだ。
そして、自分の目的こそ正しいと信じるルギエルにとっては、その足掻きは何と醜く、無意味なものと映っただろうか。
『生憎、止まっていられる程暇じゃないんでね!』
ルギエルの苛立ちに返しつつ、Xはゴモラアーマーを展開し、ルギエルに立ち向かっていく。
止まっていられる程暇じゃない、それはジョークのつもりで言っていたのだろうが、彩加にとっては紛れもない本心であったに違いない。
止まっている事が幸せだと感じているのならば、自分はこんな苦しい想いをしてまで戦ってなどいない。
進みたいから、大切な人達と明日を見たいから戦っているのだと。
『だから、何処までも抗ってみせる!!』
彩加の意思に呼応し、ゴモラアーマーに紫電が奔る。
それは、必殺の一撃を叩き込まんと、ゴモラの意思と共鳴したXが咆えた瞬間だった。
『『サイバー超振動波ッ!!』』
強烈な振動エネルギーが発生し、ルギエルに叩き込まれんとしていた。
『小賢しい・・・!!』
だが、ルギエルはダークスパークを持っていない左手を前方に掲げ、そのエネルギーを受け止め、あっさりと掻き消してしまった。
その程度掻き消すのに全力は必要ない、言外にそう語っている様だった。
『厄介だな・・・!闇のエネルギーで更に強化されている・・・!!』
『まだだよっ・・・!』
攻撃が通用しない事に歯がみするXを鼓舞するように、彩加は次なる手を打つ。
ゴモラアーマーが解除され、新たなアーマーが装着される。
それは、エレキングを模したサイバーカードより生み出されるアーマー、エレキングアーマーだった。
連撃を掛けるつもりなのだろう、Xはすぐさま攻撃態勢に移っていた。
『『エレキング電撃波!!』』
右腕に装着された銃口の様なものから電撃エネルギーが迸り、ルギエルへと一直線に迫って行く。
だが、それもルギエルが展開した障壁を突破する事は叶わず、幾ばくかの拮抗の後、電撃エネルギーはかき消された。
『無駄な事を・・・、ならば、分からせてやるまでよ!!』
余計な反抗と切り捨て、ルギエルは苛立ちと共にダークスパークより光線の様なものを放ってくる。
『彩加・・・!それをまともに受けるなッ!!』
その闇の光線を見た一夏が、グランドキングを抑え込みながらも叫ぶ。
どうやらそれは、強制的に相手をスパークドールズへと変換する技なのだろう。
初見殺しが通じたならば本当に厄介な事極まりないが、生憎、一夏はその技を一度受けている。
危険を報せる事ぐらい容易い事だった。
『だったら、これで返すぞ!!』
『うん!!』
瞬時にエレキングアーマーを解除し、新たなアーマーを展開する。
左腕に紫の盾を持ったアーマー、ベムスターアーマーが装着され、向かってくる闇のエネルギーをその盾で吸収してしまう。
『何っ!?』
『倍返しだッ!!』
驚愕するルギエルに対して、その闇のエネルギーを増幅し、お返しと言わんばかりに撃ち返した。
ベムスターアーマーは攻撃手段を持たぬ代わりに、防御とカウンターに秀でたアーマーであった事が功を奏したのだ。
『ぬぅぅ・・・!!』
その反撃は想定外の事だったのだろう、ルギエルは慌てて両腕で障壁を展開、その反撃を何とか凌いでいく。
どうやら、ルギエル自身もスパークドールズへ戻される可能性がある攻撃だったのだろう、今迄余裕綽々だった態度は見受けられなくなっていた。
『彩加ッ!!』
『うん!!』
その様子を見たXと彩加は瞬時にベムスターアーマーを解除、すぐさま上空高く飛び上がり、急降下の勢いを付けた蹴り、Xクロスキックをルギエルの手元、ダークスパーク目掛けて叩き込まんとしていた。
『『Xクロスキック!!』』
『ぬぉぉっ・・・!?』
なんとか直撃だけは避けたが、掠めただけでもそれなりのダメージは有ったのだろう、ルギエルはよろめき、大きく後退した。
『僕達は諦めない・・・!』
『未来を掴む、それが本当の幸福だッ!!』
己が思いを胸に、彼等は立ち向かっていく。
それが、未来へと繋がる導だと信じて・・・。
sideout
noside
「ん・・・?」
眩いばかりの光が晴れた時、八幡はきつく閉じていた瞳を開けた。
「ここは、どこだ・・・?」
微睡の中にいたような感覚だったのだろうか、彼はまだはっきりしない意識を覚醒させるべく、周囲を見渡して状況を確かめようとしていた。
一体自分はなぜこのような場所にいるのか、それを思い出さんと・・・。
「そうだ・・・、俺は確か、あの女の・・・。」
しばらく考えた後、彼は思い出したかのように手のひらを打った。
そういえば、自分は静に纏わり着いていた闇に対し、自らのギンガスパークで意識を交錯させ、その根っこたるルギエルの潜む闇を断とうとした事を思い出したのだ。
傍から見れば何とも間抜けかつ、どうしてそんな重要な事を忘れていたようなそぶりだったのかと突っ込みを入れたくなっただろうが、生憎、彼のいる場所は闇と光が混ざり合ったような空間であり、上下左右の概念さえ曖昧な、奇妙な空間だったのだから。
「って、こんなことしてる場合じゃねぇ、さっさと闇の根っこを見つけて・・・。」
だが、やるべきこと自体は忘れていなかったようだ、すぐさま周囲を見渡し、闇の根たる存在を見つけ出すべく動いていた。
ついでに、囚われているであろう静の事も探してやろうと、頭の隅の隅で考えていたのだ。
一刻の猶予も無い。
この空間の外、現実世界では彩加達が自分の帰りを信じて戦っている。
ならば、自分は自分のやるべき事を迅速かつ的確に済ませ、この争いを終わらせる。
その思いを胸に、彼は一歩足を踏み出そうとした。
その時だった。
―――その必要はない―――
「ッ・・・!誰だ・・・!?」
唐突に響き渡る声に、八幡は周囲を見渡しながらも警戒を強めた。
肌が泡立つような気味の悪い声、いや、気味が悪いというよりは、彼の本能がその言葉を聞くのを拒んでいるかのような感触だったのだろう。
―――待っていたぞ、ウルトラマンギンガ―――
彼の叫びを無視し、その声は彼を待ち望んでいたと言わんばかりに、どこか喜悦に歪んだ声を上げるばかりだった。
だが、彼はその正体に気づいていたのだ。
いや、考えるまでも無かったのかもしれない。
何せ、彼はその者を追ってここに足を踏み入れたのだから。
「ルギエル・・・!テメェ・・・!!」
―――どうした、もっと嬉しそうな顔をしたらどうだ?―――
八幡の言葉に、ルギエルはどこか余裕綽綽と言わんばかりに語りかけてくる。
まるで、誘い込んだと言わんばかりに、その声は底知れぬ物を感じ取らせてならなかった。
「待ってたんなら姿を見せやがれ!俺から出向くことなんて、滅多にねぇんだぞ!!」
その言葉に苛立ったか、八幡はジョークのような言い回しながらも、さっさと出て来いと叫んだ。
彼の言葉には怒りが含まれており、今すぐにでも消し去ってやりたいという強い想いが宿っていた。
散々この世界を弄繰り回しておきながら、依然としてその手を緩めていないルギエルのやり方に、最早慈悲など必要としないと感じているのだ。
だが、そんな彼の言葉など届かぬと言わんばかりに、その声、ルギエルは朗々と語り続けた。
―――ならば見せよう、お前が憎む姿を、お前が進むべき姿を―――
その言葉と同時に、八幡の目の前の空間に、突如として人影らしきものが浮かび上がってくる。
その異様さに、八幡は何が起きるのかと身構えた。
いつ攻撃されても対処できるように、その警戒は最大級になっていた。
だが・・・。
「なっ・・・!?」
目の前の陰の輪郭がはっきりとしたものになり、その風貌までハッキリと認識できるようになった時、彼は相手の姿を受け入れられずに絶句する。
何せその顔は・・・。
『やっと会えたな、ウルトラマンギンガ、いや、比企谷八幡・・・?』
「な、なんで・・・、どうして・・・!?」
ルギエルの言葉さえもう耳に届かぬのか、八幡は信じられないと頭を振る。
なぜならば、彼の目の前にいたのは、比企谷八幡、その顔だった。
「お、俺・・・!?俺が、ルギエル・・・!?」
『そうだ、我はお前だ、比企谷八幡・・・。』
目の前の事実が受け入れられず、八幡は只呆然と呟く以外になかった。
何故目の前の怨敵が自分と同じ顔をしているのか。
普通、と言って良いモノかどうかは分からないが、こういう時に目の前に出て来るなら今憑りついている宿主である静の顔をして出て来るべきではないだろうか。
そんな若干ピントがずれている事を想いながらも、彼は感情は目の前のそれに釘付けとなっていた。
「そんな・・・!?なんでだ・・・!?」
目の前の事の意味が解らず、八幡はただただ混乱に叫ぶ事しか出来なかった。
『驚く事も無いだろう、我とギンガは同じ能力を持っている、その事について、お前は考えた事は無いのか?』
「なにを・・・!?」
困惑する八幡に対し、ルギエルは何処か嘲笑うかのように、だが、何処か誑かすかのような、悪意に濡れた声色だった。
考えた事も無いのか。
その言葉に、八幡は息を詰まらせたかのように、喘ぐ様に声を絞り出す事しか出来なかった。
謂われてみれば確かにその通りだった。
ギンガになった当初から一夏に聞かされていた、最大にして重要な事。
それは、大決戦の際に有ったと言う、怪獣やウルトラマンをスパークドールズへ封印してしまう事、そして、逆にスパークドールズの力を利用し、その姿で戦う事ができてしまう事、そのふたつだった。
それを聞かされた当初は、何故その敵がギンガと同じ能力を持っているのかと、手元にある材料からその答えを得ようと頭を悩ませたものだった。
だが、後々になって、ビクトリーとXが、ギンガと同じく怪獣をスパークドールズへと封印し、そのスパークドールズの力を利用できるウルトラマンが二人も現れた事で、次第にその悩みも頭の中からすっかりと抜け落ちていった。
その時の八幡や沙希、そしてアストレイのメンバーでさえも、只の偶然の一致だったと切り捨ててしまったのだろう。
だが、今になって初めて気付く事が出来たのだ。
これは偶然の一致にしてはあまりにも出来過ぎているのではないか。
何せ、ビクトリーもXも、怪獣やウルトラマンの能力を、ウルトランスやサイバーカードを介して使う事は出来ても、ギンガの様にライブする事や、ルギエルやダミースパークの様に召喚する事は出来なかったのだから。
何故初めからその可能性を考慮しなかったのか、八幡は今、動揺の中で自問する事しか出来なかった。
「だからって、なんで俺なんだ・・・!?」
その混乱の中で絞り出せたのは、ただその一言だけだった。
何故自分なのか、何故自分がギンガなのか。
そこにさえ何か真実がある様な気がして、それが余計に混乱を招いてしまっている様だった。
―――その答えを知りたいか?―――
だが、それはルギエルに付け入る隙を与える動揺でしかなかった。
―――ならば教えてやろう、我が貴様である理由、その意味を―――
その言葉を八幡が聞き終えるよりも早く、彼の視界は再び閃光に焼かれ、白く塗りつぶされて行った。
まるで、過去を見るかのように、眩く、それでも苦しい圧力と共に、八幡の意識は更に奥へと進んで行った・・・。
sideout
次回予告
八幡が見せられた過去、それは闇を呼ぶ者の過去なのか、それとも、彼が歩むべきだった物だったのだろうか・・・。
次回やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている
川崎沙希は祈り続ける 前編
お楽しみに