やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている 作:ichika
side沙希
深夜アルバイトから夕方のシフトに切り替えて、スカラシップの申し込みと適用試験を終わらせてから数日が立った。
アイツ、比企谷八幡が教えてくれた通り、あたしは想像以上に安い費用で予備校に通えることになり、尚且つ、バイトも家族や自分の為の時間を作れるようにしてくれた。
少し前までは、自分の生まれの不幸と不公平さを恨んでばっかりで、周りを見る事が出来てなかった。
今思えば、なんて視野が狭くて愚かだったんだろうかと後悔する事も多い。
でも、そんなあたしの曇っていた目を晴らしてくれた男がいた。
比企谷八幡。
目が少し怖い、根は優しい男・・・。
初めて会った時は、アイツの事を全然知らなくて、職業希望の欄に専業主婦とか書く、ふざけた事を言う世間知らずとしか思っていなかった。
でも、それは見当違いだったらしい。
他人に拒絶されてるから関わりたくない、それでも家族だけは悲しませたくないって想いの裏返しだった事を打ち明けられた時、あぁ、コイツも一緒なんだなって感じさせられた。
あたしも周りから弾かれ、虐げられてきて、周りになにかを期待するのを諦めて、家族の事を一番に思って人付き合いを絶って、ボッチの道を選んだ。
似たような立場に似たような経験・・・。
その方向は違っても、家族への愛だけは同じだった。
鏡写しと言うほどじゃないけど、似た者同士って奴なんだろか・・・。
そんなあいつだから、あたしのこと、ちゃんと見てくれたのかな・・・?
って、なに考えてるんだろうね、あたし・・・!
少し赤くなった頬を誤魔化す様に頭を思いっ切り振って、あたしは幼稚園への道を急ぐ。
用があるとすれば一つしかない、可愛い可愛い妹を迎えに行くためだ。
「あっ!さーちゃーん!!」
幼稚園に入った途端、あたしを見付けたか、けーちゃんこと川崎京華がこっちに駆け寄ってくる。
あぁ・・・、天使がこっちに降りてくる、違った、こっちに駆けてくるだった、間違えてはいけない。
「けーちゃん、一緒に帰ろうね、今日は好きなもの作ってあげるよ。」
「やったー!」
夕食を何でも好きなのを作ってあげると言うと、けーちゃんは飛び跳ねんばかりに喜んで、とびっきりの笑顔を浮かべた。
あぁもう・・・、ホント癒される・・・、写真に撮りたいぐらいに最高・・・!
それは兎も角、けーちゃんだけじゃなくて、家族みんなに心配かけてたんだ、少しは皆の為に頑張らないといけないね。
幼稚園から帰る道すがら、そんな事をふと考える。
こういう余裕が持てるのも、やっぱりアイツのお陰なんだろうなぁ・・・。
「あれ、姉ちゃんにけーちゃん、今帰り?」
「あ、たーちゃん!」
そんな事を考えていると、あたし達を見付けた大志がこっちに寄って来る。
「アンタも今帰り?それにしちゃ随分遠回りな気もするけど?」
大志の通う中学は、幼稚園の方向からは別方向にあり、ここに来るまでにはそれなりの時間が掛かる。
まぁ、荷物置いてからこっちに来れば、あたしと同じぐらいの時間には来れるか。
「姉ちゃんに聞いとこうと思ってさ、お兄さんのこと。」
「なぁっ・・・!?」
な、ななな、なんでアイツの事を・・・!?
お、落ち着け、まだ、まだ何もない・・・、なにも無い!!
「な、なんでアイツの事聞いてくるのっ!?」
「いや、お兄さんにお礼言ったのかって聞きたかっただけだけど・・・、姉ちゃん、まさか・・・。」
「うぅっ・・・!」
は、早とちりか・・・!あたしって奴はっ・・・!!
「でも、その様子じゃまだ何も言えてなさそうだよね、ちゃんと言った方が良いよ?」
「わ、分かってるって・・・、で、でも、近付ける口実なんて、ないし・・・。」
言わなきゃいけない事も分かってるし、そうしたいのも山々何だけど・・・。
それをするための勇気と理由が無い・・・。
それに、あたしもアイツも普段はボッチだし、必要以上に人と関わる事をしない。
そんな所に、どうやって話しかけに行けばいいのか分かる訳無いし・・・。
「そんな事言ってると、何時まで経っても話せないよ?なんだったら、織斑先生頼れば良いんじゃない?あの人、お兄さんとも繋がりあるみたいだし。」
ぐぅ・・・、弟にここまで言われては、姉の面目が・・・。
でもまぁ、織斑先生に相談してみるのは、アリかな・・・?
「けーちゃんもさーちゃんの頑張ってるところ見たいよねー?」
「見たーい!」
うぅ・・・、どんどん逃道が封殺されていく・・・。
で、でも、女は度胸って言うし・・・?な、なんとかなるよね?なるよね・・・?
「そ、それより!晩御飯なに食べたい?」
内心の焦りを誤魔化して、大志とけーちゃんに夕食の献立は何が良いか聞いてみた。
朝の内に安売りのチラシを見ておいたから、何がお買い得なのかは頭に入っている。
でもまぁ、少しぐらいなら我儘聞いても良いし、好きな料理作るって言ったから、聞いておうかななんて・・・。
「ハンバーグがいい!!」
「俺は鶏肉系かな、さっぱりいきたい。」
見事にバラけたね、まぁ、両方を少しずつ作るのは然程労力も変わらないし、時間は掛かるけどやってみようかな。
「ん、それじゃあ買い物行こうね、一番近いのは・・・。」
最寄りのスーパーを思い浮かべた時だった、遠くから地響きを上げて何かが近付いてくる。
「な、なに・・・?」
それが聞こえてくる方へと目を向けると、巨大な何かがこっちに向かって来ていた。
オオサンショウウオの様なのっぺりとした体皮を持ち、目が無い顔には触角の様な物が二本生えている、言ってしまえば、二足歩行して腕があるナメクジみたいな・・・。
「か、怪獣・・・!?」
この四月に入ってから数体出現している巨大な生物、それが怪獣・・・。
あたし達人間とは、桁違いの力を持った災害・・・!
「大志!京華!逃げるよ!!」
「う、うん!!」
本能的に恐怖を感じたあたしは大志と京華を先に走らせて、何とか逃げようと進行方向からなるべく外れた場所へ走る。
だけど、その巨獣は身体から放電しながらビルを手当たり次第壊していく。
その光景は、日曜の朝によく見る番組で見るような壊れ方だった。
「早く!早く逃げるよ!!」
京華を担いで走る大志を追いかける様に後ろを走りながらも、アタシは怪獣の動きに気を配った。
ナメクジの化け物は身体から放電現象を起こし、周りの電線や建物から電力を吸い上げている様にも見える。
逃げようと必死なはずなのに、あたしの頭の嫌に冷静な部分が、どんなやつなのか見極めようとしている。
そんな場合じゃないのに・・・!どうしてっ・・・!?
毒づきかけたその時だった、どこからか赤い光の玉が怪獣の目の前に降り立ち、一際輝いたかと思えば、その姿をいつか現れた巨人に変えた。
「光の、巨人・・・?」
怪獣を打ち倒せる唯一の存在、それがあの光の巨人。
その銀色の巨人はファイティングポーズを取り、悠然と怪獣に向かって行く。
飛び掛りながら怪獣の頭を殴り、大きく退かせる。
後ずさる怪獣を追撃し、殴る蹴るの連撃を叩き込み、向かってきたかと思えばバック転をして距離を取り、大きく飛び上がって蹴りを叩きこむ。
なんて力・・・!それに比べて、あたしは無力だ・・・、ただ逃げ回る事しか出来ない、非力な存在・・・!
でも、今やるべきなのは逃げる事、それに尽きる!!
「大志!早く走って!!」
「う、うん!!」
大志を急かして走りだした、まさにその時だった。
『ッ―――――!!』
怪獣が一際大きく吠え、口から光弾を発射する。
巨人はそれを弾きながらも後退するけど、弾かれた光弾はあたし達が進もうとした道の脇にあるビルや地面に直撃し、大きな爆発を引き起こした。
「きゃあぁぁっ!?」
その爆風と瓦礫に吹き飛ばされ、あたしは柄でも無く悲鳴を上げてしまう。
「なにさ・・・!結局、あたし達の事は眼中にないのかっ・・・!?」
呻きながらも立ち上がり、あたしは巨人と怪獣を睨む。
助けてくれたと思ったのに、結局は怪獣退治だけが専門で、あたし達を護るのはついでに過ぎないのか・・・!?
恨み言を吐いて、それでも巻き添えを喰わない様に離れようとして、あたしはある事に気付いた。
「・・・っ!?大志!けーちゃん!?どこっ!?」
いない、いないんだ・・・!
目の前を走っていた筈の大志と、大志に背負われていた京華の姿が・・・!!
道は瓦礫に塞がれて、隙間からかろうじて向こう側が見える位だった。
「大志!!京華!!」
瓦礫の向こう側に向けて叫びながら駆け寄ると、瓦礫の隙間から大志と京華が倒れている様子が見て取れた。
「起きて二人とも!!早く!!」
呼びかけるけど、二人はピクリとも動かない。
まさか・・・!!
最悪の事態が頭を過ぎり、全身から嫌な汗が噴き出してくる。
「大志!!京華っ!!しっかりしな!!今!今助けるからね!!」
逃げなきゃならないという想いは忘却の彼方へ、今はただ、大切な家族を助けたい一心だった。
瓦礫を退かそうにも、それはあたしの背丈より大きく、それでいてあたしの何十倍の重さを持った巨大な鉄やコンクリートの塊だった。
人間の、それも女の力で退かせられる訳がないのは分かっている。
だけど・・・、だけど・・・っ!!
「諦めない・・・!絶対に、絶対に助けるッ・・・!」
大切な・・・!かけがえのない家族なんだ!
あたしが諦めなければ、必ず助けられるっ・・・!!
だけど、そう意気込んでも現実は変わらない。
崩れかけていたビルが、あたしの頭上に落ちてくる。
「こんなところでっ・・・!終わらないっ!!」
もう終わりなら、最後まで足掻いてやる!!
そうしている間にも瓦礫はあたしの頭上に迫ってくる。
でも、あたしは逃げない!
だって、大切な家族を見捨てる位なら、死んだ方が遥かにマシだから!!
覚悟を決めたその時だった。
不意に違和感を感じ、あたしは周囲を見渡す。
「えっ・・・?」
頭上に迫っていた瓦礫は、まるで時が止まったみたいにぴたりと止まり、怪獣や巨人も、全てが停止していた。
「い、一体なにが・・・?」
あまりに奇想天外で、そして常識はずれな現象に、あたしはまたしても混乱してしまう。
まるで、あたし以外のすべての時間が止まった様な・・・。
『強き心を持つ者よ・・・。』
そう思った時だった、どこからともなく声が聞こえてくる。
「だ、誰・・・!?」
辺りを見渡しても、止まった時間と風景があるだけで、他には何もなかった。
だけど、あたしの目の前に突然、強烈な光を放つ何かが舞い降りる。
「これは・・・?」
強い、だけど暖かい光に、あたしは恐れを上回る何かに引き寄せられた。
『手を伸ばせ・・・、さすれば望みは叶うだろう。』
「これを、掴むの・・・?」
望みが叶う、その言葉に妙に惹きつけられたあたしは、一瞬躊躇ったけど手を伸ばし、光を掴んだ。
するとどうした事か、あたしの頭の中に、強烈で鮮明なイメージが流れ込んでくる。
「これはっ・・・!」
水晶の様な青く輝く物体が犇めく空間で、怪獣と戦うVの意匠を持った巨人のイメージ。
それが意味するところは・・・!!
「これで、あたしも戦えるんだね・・・!!」
巨人の力を手にする事、それは、怪獣から家族を護れるという事!!
光は形を変え、銃の様な物へ変わる。
「家族を、大切な人を護れるなら!!あたしは戦う!!」
銃の先端部を回転させ、ナイフのような形へ変えた直後、先端から巨人を模った人形が現れる。
「行くよ!!」
人形を掴み、ビクトリーランサーの真ん中あたりにあるリーダーに読み込ませる。
『ウルトライブ!ウルトラマンビクトリー!!』
「ビクトリーィィィ!!」
天に掲げると同時に、あたしは強烈な光に包まれた・・・。
sideout
noside
『な、なんだ・・・?』
エレキングの光弾を弾き、攻めに転じようとしていたギンガこと八幡は、自身の背後で突如として発生した強烈な光に驚き、動きを止めて振り返る。
そこには、何かを庇う様に膝を付き、安全を確かめる様に覗き込んでいる巨人の姿があった。
『あれは、ウルトラマン・・・?先生の仲間か・・・?』
その姿は、ギンガと同じ光の巨人、ウルトラマンを連想させるに相応しい姿をしていた。
彼の味方である一夏の友人たちは皆、ウルトラマンである事を告げられていたため、八幡は一瞬気を緩める。
自分はもう戦わなくても良い、そう思ったのだろうか・・・。
新たなウルトラマンは、何かを確かめた後に立ち上がり、ギンガとエレキングに向き直る。
『行くよ、ビクトリー!!』
そのウルトラマン、ビクトリーに変身した沙希は、大志と京華を瓦礫の中から助け出して安全な場所に寝かせた直後、ギンガに向けて走り出す。
『ディャッ!!』
『がっ!?』
エネルギーを籠めた蹴り、ビクトリウムスラッシュをもろに受けたギンガは大きく弾き飛ばされ、ビルを押し潰す様に倒れた。
『あんたにも恨みはあるけど、まずはコイツだ!!』
ギンガを蹴り飛ばした後、ビクトリーはエレキングに向き直り、バク宙しながらも飛び蹴りを叩き込む。
『家族を!これ以上危険な目に合わせてられないんだ!!』
怯んだ隙に着地し、再度ビクトリウムスラッシュを発動、回し蹴りの連続でエレキングへ叩き込む。
連続で放たれるその圧倒的な蹴り技の前に、エレキングは為すすべなく体力を削られ、怯んだ所に叩き込まれた強烈なストレートキックに吹きとばされて地に倒れ伏した。
『これで決める!!』
相手に力が残っていないのを認めたビクトリーは、必殺の意思を籠めて右腕と左腕を交互に動かし、Vを模る動きを取る。
それはVを模ったエネルギーオーラを作り上げ、掲げた右腕に集まってゆく。
『ビクトリウムシュート!!』
そのままの勢いで腕をL字に組み、必殺光線、ビクトリュウムシュートを発射する。
それは寸分違わずエレキングの胴部に直撃し、盛大な爆発光を上げる。
そして、爆煙の中で青い光が一か所に集まり、エレキングをスパークドールズへと還し、それはビクトリーのカラータイマーから内部へ入り、沙希の手に収まる。
『これが、怪獣の・・・?でも、これで・・・。』
何故怪獣が人形になったか理解出来なかったが、沙希は一先ず、大切な家族を護れたことに安堵してタメ息を吐いた。
だが・・・。
『て、テメェ・・・!いきなり何しやがる!!』
不意打ちのダメージが漸く引いたか、ギンガが脇腹を抑えながらも吠える。
その声には、何故やられたかという戸惑いよりも、何故攻撃してきたのかと言う怒りが滲み出ていた。
『何しやがるはこっちのセリフだ!人を巻き込んでおいて!!』
それに返すビクトリーの声にもまた、怒りが籠められていた。
それぞれに怒りを抱えたまま、二人のウルトラマンは互いを睨み合った。
その空気は正に一触即発、何時戦いが始まってもおかしくは無かった。
暫しの睨み合いが続いた直後、二人のウルトラマンは同時に動いた。
『ショウラッ!!』
『デヤッ!!』
敵に向かって走り出し、それぞれにパンチとキックを繰り出す。
それはぶつかり合い、二人は相手との距離を取る様に離れる。
『これを喰らえ!!』
ギンガは全身のクリスタルを黄色く発行させ、右腕を天に掲げ、電撃を集めた技、ギンガサンダーボルトの発動体勢に入る。
『あれを喰らったらマズイ・・・!何とかしないと・・・!!』
その技の威力を直感的に感じたのだろう、ビクトリーは身構える。
その時だった、彼女の脳裏にまたしてもビジョンが浮かび上がる。
それは、ビクトリーの腕が怪獣の部位を模したモノとなり、それを用いて敵をなぎ倒す姿だった。
『なるほど、目には目を、ってね・・・!!』
そして、自分が手に入れたモノに気付いた彼女は、すかさずそれを使用する事に決めた。
エレキングのスパークドールズを、ビクトリーランサーのリーダー部で読み込ませる。
『ウルトランス!!エレキングテイル!!』
すると、ビクトリーの右腕が光に包まれ、肩から下がエレキングの尻尾を模したモノへと変化した。
『ギンガサンダーボルトォ!!』
『エレキングウィップ!!』
二人のウルトラマンは全くの同時に技を繰り出し、激突させた。
その強烈な電撃同士のぶつかり合いの衝撃は凄まじく、ギンガとビクトリーは大きく吹き飛ばされた。
『がぁぁっ・・・!?』
『うぁっ・・・!?』
地に倒れ、フラフラになりながらも立ち上がった二人のカラータイマーが点滅を始め、時間が無い事を彼等に告げていた。
既に長時間変身しているギンガと、必殺技で敵を倒していたビクトリーに残されたエネルギーは少なく、次が決め手になる事は予想が出来た。
『タイムリミットか・・・!仕方ねぇ!これで終わりにする!!』
『後が無いってワケ・・・?だったら、次で終わらせる!!』
長期の戦闘続行が不可能と判断した二人は、必殺の光線を放つ体勢を整える。
『ギンガクロス・・・!!』
ギンガは両腕を交差させ、メビウスの輪を描く様に広げる。
『ビクトリウム・・・!!』
ビクトリーは両の腕でVを描き、オーラを右腕に収束させてゆく。
『『シュートォ!!』』
そして、全く同時に両腕をクロスさせ、必殺の一撃をぶつけ合う。
先程の比では無い、凄まじい閃光が周囲を包み込み、その余波で倒壊しかけていたビルが崩れ去る。
『『オォォォォォッ!!』』
残ったすべてのエネルギーをぶつける様に、二人のウルトラマンは光線の威力を高め、撃ち続けた。
そして、更に一際強く瞬き、それが収まった後に、二体のウルトラマンの姿は何処にも無かった・・・。
sideout
次回予告
憎む相手と知らぬまま、二人は近づいて行く、それが今の正しい事だと信じて・・・。
次回やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている。
川崎沙希は比企谷八幡に近付く 前編
お楽しみに