やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている 作:ichika
side沙希
「行くか?」
「勿論。」
葉山のヤツが逃げていった直後、あたしは八幡とアイコンタクトを交わし、屋上から出て行こうとする。
この計画の最後の一押しがまさかアイツとの決着にも繋がるなんてね、思っても見ない僥倖だった。
八幡がどう思ってるかは大体分かる。
多分、あたしと同じ、決着を着けてやるって考えてるんだと思う。
恐らくこの後、いつも通りの展開ならルギエルとかいう奴が現れて、アイツを闇に捉える筈だ。
そこから現れる敵を倒して、最後の一手にする。
それで、最後の戦いへの布石は投了って訳だ。
全てがこの件だけで終わりとは思わないけど、それでも一つの決着なんだ、気合入れて掛からないとね。
「俺も行くべ、隼人君止めねーと。」
「戸部。」
あたし達の後を追って、戸部も走ろうとする。
自分にも責任があると感じているんだろうね、分からなくはないかな。
「俺にも責任があるし、最後の手助けってヤツだべ。」
「頼りにしてるぜ。」
とは言え、戸部も力を持ってるんだ、一緒に来てもらわないといけないんだけどね。
海老名には離れていてもらうとしよう、でないと、下手に巻き込まれる可能性だってあるだろうしね。
「アンタ等・・・、何知ってるん・・・?」
そう思っていた時だった、三浦が思いつめた様な表情で問い掛けてくる。
漸く、あたし達が何かを隠している事に気付いたみたいだ。
なるほど、最初の方のウルトラマン関連の話は聞いてなかったみたいだね。
まぁ好都合っちゃ好都合だけど、このままついて来られるのも些か厄介なんだよね。
「何を知りたいか、教えてくれよ、じゃないと、不確かな事しか言えんぜ。」
そんな三浦に、八幡は探る様に尋ねた。
何を知りたいかじゃなくて、三浦が何に気付いたか、そこが気になる点でもあったんだろうね。
「隼人が何をしようとしたの・・・?雪ノ下さんのためって、どういうこと・・・?」
「聞いた通りだ、アイツは雪ノ下の幼馴染で、ずっと昔から恋焦がれてた、そんな雪ノ下の気を引くために、俺達を利用しようとしてたって事だ。」
三浦の問いに答えたのは、八幡だった。
包み隠す事無く、ただ事実のみを切り出して伝える、常識の通じる相手ならば取り違えない様な言葉を並び立てていく。
とは言え、それは葉山の奴に焦がれていた三浦に取っちゃ、十二分に傷付く事間違い無しなんだよね。
「そっか・・・、やっぱり、そうだったんだ・・・。」
その事実に、三浦はどこか納得した様に呟いて、俯いてしまった。
惚れてる弱みでもっと取り乱すかと思ってたけど、どうやら前々から葉山の立ち振る舞いへの疑念は有ったみたいだね。
それでも、まだヤツの事を信じていて、今回、それが遂に完全に裏切られる形になってしまったってワケか・・・、
少し同情したくもなるよ。
向き合ってもらってすらいないってのは、心にクルからね・・・。
「教える事は教えた、沙希、戸部、行くぞ。」
そんな三浦の事を気にする素振りも無く、八幡はさっさと屋上から出て行ってしまった。
正しい行動なんだけど、ある意味冷たすぎやしないだろうか。
いや、そんな事考えてる場合じゃないって事ぐらい理解しているんだけどね。
「分かったべ。」
戸部は少しだけ三浦の事を気にする様な素振りを見せながらも、状況が状況なのを理解して、八幡の後に続いた。
屋上に残されたあたし達の間に、何とも言えない空気が漂っていた。
三浦をここに連れて来たであろう海老名も、自分自身のした事が本当に正しかったか分からない様な顔をしていて、何とも言えない様子だった。
結果だけを見ると、皆の王子サマの、自分が焦がれていた相手の化けの皮が剥がれる所を見せ付けられた様なモンだもんね、
これだけつらそうな顔してんのに、ほったらかしになんて出来る訳ないじゃないか。
「・・・、アンタこれから如何すんの?」
でも、だからって立ち止まったままでは何も始まらない。
それは、あたしが一番よく分かっていた。
その問いに、三浦は答える事は無い。
当然だ、あたしにそれを聞かれたって何と言えばいいんだって思うのが普通だから。
「立ち止まってるだけ?そこで泣いてるだけ?生憎、慰めてあげる程あたしは暇じゃないよ?」
まったく、アリもしない友情に訴えかけるのは苦手なんだよ。
ホントの情には効くやり方しか知らないからね。
「じゃあ、どうしろって言うん・・・?あーしは、隼人に何とも、思われてない・・・。」
あたしの言葉に、三浦はまだ悩んでいる様に返してくる。
何とも思われて無い事は分かってても、このままじゃいられないってのも解ってる。
だから、何かしたいけどその何かが分からない、そんな思いが雰囲気から伝わってくる様だった。
「なら、ハッキリ言葉で言い返しゃいいんだよ、ウジウジしてる方が良いって言うなら、何も言わないけど?」
だから、そのケツを叩いてでも立ち上がって貰うとしようじゃないか。
それで立ち上がるのもよし、そのまま座って泣いてるままでも良し、どちらにせよ、決めるのは三浦優美子、アンタ自身だよ。
「言って、くれるじゃん・・・!」
その言葉に、三浦は静かな怒りと、確かな決意を籠めた声で返してくる。
「確かに、隼人の事は赦せないけど、なんもしないってのも腹立つんよね!!」
どうやら。覚悟は決まったみたいだね。
その様子に、悟られないように小さく海老名と苦笑し合い、三浦は強いと改めて認識できた。
これなら、どんなことになっても、絶対に負けないだろう。
喩え葉山が闇に呑まれたとしても、近くにいた者として呼びかけられるだろうね。
「そうかい、なら行くよ!」
「仕切ってるんじゃねーし!」
憎まれ口を叩きつつも、あたし達も八幡達を追い掛けて走る。
まちがってしまった者を助けたい、そんな三浦の想いと共に・・・。
sideout
noside
「やべー・・・、また姉ちゃんに怒られる~・・・!」
同じ頃、大志は住宅街の道を、何処か焦った表情で直走っていた。
何故焦っているのか、傍目からは理解出来ない所も有ったが、そんな事は本人には関係なかった。
「またセールに遅れちまう・・・!今度こそヤバいぞぉぉ・・・!」
どうやら、沙希から頼まれたセール品の買い込みに遅れているらしい。
以前にも似た様な事があったが、その時は厳重注意だけで済んでいた様だったが、二度目となればとんでもない事になるのは目に見えていた。
故に、彼はその結末を避ける為に只管に走るだけだった。
「そう言えば、前の時は・・・。」
その最中、彼は以前に出会った、柄の悪い男達に絡まれていた年上の少女の事を思い出していた。
その時は彼が急いでいた事もあり、男達を追い払った後は何もいう事も無く早々に立ち去ったモノだったが、今になってみれば、彼女は大丈夫だったかなぁとか思わずにはいられなかった。
とは言え、その純粋な心配の中に含まれる僅かばかりの、ちょっといい感じのお姉さんと仲良くなってみたかったと言う下心も無かった訳では無い。
が、それは今関係の無い事だった。
だから、彼は頭を振ってその思考を頭の片隅へと追い遣ろうとした。
その時だった・・・。
彼の目の前を、金髪の青年が駆け抜けていった。
結構な勢いで走っていたからだろう、危うく大志とぶつかりそうになっていた。
「うわっ!?あ、危ないッスよ!?」
すんでの所で止まった大志は、ぶつかりそうになった相手に文句の声をあげるが、相手はそれに取り合う事も無く走り去って行く。
これが普通であったならば、大志は文句を言いながらもその場を離れ、自分のミッションに向かっただろう。
だが、彼はその青年が走って行った方向に釘付けになっていた。
「あの人・・・、とんでもない闇の匂いが・・・。」
ウルトラマンと同化した事により、大志もまた、闇の匂いをかぎ分ける事が出来る様になっていた。
だからだろう、目の前を駆けていった青年の内に抱える闇の深さに驚きを禁じ得なかった。
そこから導き出される答えは只一つ。
闇に墜ち、ルギエルに利用されると言うモノのみ・・・。
「っ・・・!あぁもう!!あの人止めねぇとお兄さんに怒られるよなっ!!」
セール品と自分の使命を天秤にかけ、彼は悪態を吐きながらも青年を追いかけて走り出した。
「大志!」
「久々!」
その最中、同じ青年を追いかけて来たと思しき、八幡と翔が合流した。
「お兄さん!翔さん!」
「アイツは?」
「こっちッすよ!」
自分の兄貴分とその友人に合流し、彼はより一層表情を引き締めて事に当たる決意を固めていた。
これ以上、被害者を増やしてなるモノかと、その眼は語っていた・・・。
だが、彼も知らなかったのだろう。
八幡と沙希だけが告げられた、一夏肩の作戦を、その意味を・・・。
sideout
noside
「はぁっ・・・!はぁっ・・・!」
何かから逃げるように、その青年、葉山隼人は直走っていた。
何故こうなった、自分は何がいけなかったのか。
自分でも整理できない感情を吐き出す場所を求めて、ただ走り続けた。
その意気場のない感情は、憤怒へと変わり、それが闇を呼び寄せていた。
「なんでだ・・・!なんでだよっ・・・!!」
転ぶ様に立ち止まったその場所で、彼は怒りに任せて地を殴る。
何故こうなった、自分が一体何をしたと言うんだ。
やり場のない憤りが怒りへと変わり、そのやり場を求めて荒れさかっていた。
「俺は・・・!こんなに頑張って・・・!なのに、アイツ等は・・・!!」
そこに、雪乃の為と言う当初の目的への意気は無く、ただ、自分を貶めた者達への怒りだった。
それが、嘗てのグループメンバーであったとしても、自分のメンツを丸潰しにした事が、何よりも許せなかったのだ。
「くそっ・・・!くそぉぉぉっ・・・!!」
身体の中で暴れ回る激情を吐き出すように、彼は咽が張り裂けんばかりに叫んだ。
「力が欲しい・・・!俺にも、あの力が・・・!!」
故に彼は望む。
八幡達と同じ、巨人の力を。
『力を望むか・・・?』
「ッ・・・!?」
唐突に投げかけられた言葉に、隼人は驚愕と共に顔を上げた。
そこには、自分を見下ろすように、黒いローブを羽織った女がいた。
『力を望むか?誰にも捻じ曲げられぬ、貴様の想いを形にする力が・・・?』
誘う様に、女は隼人に耳打ちするように囁いた。
「っ・・・!」
その言葉に、隼人の意識はみるみる惹かれて行った。
自分の想いを貫ける。
それはどれほど気持ちい事だろうか。
散々邪魔をされて、何も成し遂げられていない彼からしてみれば、それは何よりも甘美な物に思えた事だろう。
「欲しい、欲しいに決まってるだろ・・・!」
故に、悩む事など一切なかった。
その力を手に入れ、自分こそが本当の救世主になるとでも思っていたのだろう。
『ならば受け取ると言い、貴様の想いとやら、見届けてやろうではないか。』
女は薄く笑み、闇に包まれたダミースパークと、一体のスパークドールズを手渡した。
それを受け取り、隼人は生唾を呑みながらも、何処か歪な笑みを浮かべていた。
そこに宿るは狂喜か、それとも・・・。
「待て!!」
それを止めるように、追いかけてきた八幡達と、優美子と姫菜を抱え、闇の気配を探ってテレポートしてきた沙希が現れた。
皆、事の異常さを理解しているのだろう、その表情は緊張一色だった。
『見せておくれよ、貴様が望む、力の形とやらを・・・?』
そう言い残し、女はまたも霞の様に消えていった。
それは、この場から逃げ遂せた、その証左でしかなかったのだ。
「俺は、力を手に入れたんだ、何者にも負けない、強い力を・・・!!」
「は、隼人・・・。」
狂ったように笑いながらも宣う隼人の様子に、優美子は信じられないと言った様な表情で彼の名を呼ぶ。
違うだろと、お前はそんな事なんてしないだろと、自分自身に言い聞かせるように。
「比企谷君、川崎さん・・・!君達が動いてくれないのなら、俺が君達に代わって動いてやるよ・・・!俺の力で、俺の願いを遂げてみせる・・・!!」
八幡達が止める間も無く、彼はスパークドールズをダミースパークに読み込ませ、ライブ状態となった。
『ダークライブ!グローカービジョップ!!』
「ぐ、ぉぉぉぁぁぁぁ!!」
闇に包まれながらも、彼は巨大な戦闘機兵となり、その姿を現した。
そして、真っ先に倒したいと願っていた筈八幡達の事も、救いたいと願っていた少女の事など無かったかのように、市街地に向けて進行を始めた。
「そ、そんな・・・!隼人が、バケモノに・・・?」
目の前で起きた事が信じられず、優美子は只へたり込むしか出来なかった。
だが、それを慰めてやれる状況でも無い事は火を見るより明らかだった。
「海老名、三浦を連れて出来るだけ離れてな!!」
「う、うん!!」
沙希の指示を受け、姫菜は慌てて優美子をひっぱり、距離を取ろうと動き出した。
まだ、その事情に巻き込まれた回数は少ないからか、何処かおっかなびっくりだったが、それをフォローしてやれる人間は此処には居なかった。
力を持つ4人は、それぞれの変身プロセスに入り、闇の侵略に抗するべく立ち上がった。
「ビクトリーッ!!」
「ギンガーーーっ!!」
「ヒカリーーー!」
「ゼノンッ!!」
止める為に、本当に大切な物は何か、それを見失っている者へ伝える為に、彼等は立ち向かう。
それが、今出来る事だと信じて・・・。
sideout
次回予告
焦がれた相手は届かぬ場所にいると悟り、彼女は絶望を知る事となる。
だが、光とは、どれ程昏い絶望の中でも、僅かながらでも差し込むモノなのだ。
次回やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている
三浦優美子は目撃する
お楽しみに