やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている   作:ichika

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川崎沙希は手を伸ばす

noside

 

「彩加!そっち行ったよ!!」

 

「分かった!!こっちで追いつめるよ!!」

 

一夏の指示を受けた沙希達5人は、謎の影を追い詰めようとしていた。

 

その正体が何者かは分からないが、それでも先程までの自分達の会話を聞かれていたり、八幡が変身するところを見られていたらどうなるか分かった物では無い。

 

故に、彼女達は自分達の秘密を護るためにも、それを捕まえようと必死だったのだ。

 

『しつこいな・・・、それほどまでに秘密が大事か?』

 

「やっぱり・・・!ルギエルっ・・・!!性懲りも無くっ・・・!」

 

追われ続ける事にウンザリしているのだろう声が彼女達に届き、惑わす様に尋ねてくる。

 

その声に聞き覚えが有ったか、沙希は表情を歪めながらも吐き捨てる。

 

一体何度姿を見せれば気が済むのか。

何度この街を混乱させれば満足なのか。

 

その理由が見当も付かない事への不気味さが、彼女の苛立ちを掻き立てて仕方が無かった。

 

『ここでとっ捕まえるッスよ!』

 

『仕返してないからねッ!!』

 

逃げるルギエルに、等身大のままヒカリとアグルに変身した大志と小町が、それぞれ光の剣を発生させて斬りかかる。

 

ルギエルは後退しながらも、手からバリアの様なものを展開し、その剣戟を防ぎ、逸らす事でダメージを避けていた。

 

だが、それだけでは済ませるつもりはないのだろう。

防がれた事でヒカリとアグルは距離を取り、それぞれの光線技の体勢を取る。

 

『ナイトシュートッ!!』

 

『フォトンクラッシャー!!』

 

放たれた光線は螺旋を描く様に混ざり合い、合体光線としてルギエルに殺到する。

 

『嘗めるなっ!』

 

しかし、ルギエルは片手だけでそれを防ぎ切り、右手に発生させた波動で二人を薙ぎ払った。

 

『『うわぁぁっ!?』』

 

「大志君!小町ちゃん!!」

 

そんな二人を庇う様に、彩加はフォローに回るが、それは追撃の手が緩まると同義だった。

 

だが、そんな事など関係ないと言わんばかりに、沙希と翔が飛び、そのままの勢いで飛び蹴りを繰り出した。

 

それは狙い違わずルギエルにクリーンヒットし、その身体を大きく吹っ飛ばした。

 

『ぬゥゥゥッ・・・!?』

 

「よっし・・・!」

 

「このまま捕まえて・・・、っ・・・!?」

 

吹っ飛んだルギエルを捉えようと、沙希と翔が身構えたその時だった。

 

遥か遠く、正確には八幡と一夏が居た場所の付近から途轍もない熱が伝わってきたのだ。

 

「あ、熱ッ・・・!?」

 

「一体なんだ・・・!?」

 

自分達まで焼かれそうな熱に耐える為に防御姿勢を取る二人は、呻きながらもその正体を探ろうとしていた。

 

だが、それが大きなミスと、隙となってしまっていた。

 

その一瞬の間に、ルギエルの姿は掻き消えていた。

 

「ッ・・・!しまった・・・!」

 

「また、逃げられたかッ・・・!!」

 

その失態に歯がみしながらも、沙希は周囲を見渡しながらも、どこか油断ならないと言わんばかりに身構えていた。

 

先程感じた熱の正体が分からないのだ、敵と想定しておいて損はない。

 

だが・・・。

 

―――愚かだな・・・、全く以て愚かだ・・・。―――

 

「ルギエルッ・・・!!」

 

沙希の考えを否定するように、ルギエルが嘲笑うかのように語りかけてくる。

 

実に愚かしいと、そう言わんばかりの声色だった。

 

―――ティガの考えも知らぬお前達が、我を捕える事など出来はせぬよ―――

 

「チッ・・・!思わせぶりな言い方だね・・・!アンタが先生達の何を知ってるって言うんだ・・・!!」

 

その声に惑わされない様に、沙希は歯を食いしばりながらも叫んだ。

 

一体何を知っているんだと。

自分も知らない事が多くあるとはいえ、それでも師の事を悪く言われるとなると平静でいられる筈も無かった。

 

何せ、沙希達もまだまだ知らぬ、処刑人としてのアストレイの顔を、そこに至る裏切りの数々を・・・。

 

―――よく知っている・・・、我は・・・、ギンガの事も、な・・・―――

 

「ッ・・・!?ど、どういう意味ッ・・・!?」

 

その言葉を残し、ルギエルの声はその後聞こえなくなった。

 

だが、その言葉に嫌な予感を感じたか、沙希は元いた場所に戻ろうと走り出した。

 

「ど、どうしたの沙希ちゃん・・・!?」

 

彩加も嫌な予感を感じていたのだろう、沙希を追って走り出した。

 

他の3人も、沙希達の焦りを感じ取り、その表情を変えて走り始める。

 

最悪の結末を回避させるために、彼等は仲間の下へと走ったのだった・・・。

 

sideout

 

noside

 

「う、がはっ・・・!!」

 

最後の一撃の後、体力を使い果たした八幡は変身が解除され、元いた場所の地面に叩き付けられる様に転がった。

 

最早身体を激痛で捩るだけの体力も尽きているのだろう、呻くだけで指一本動かす事さえままならなかった。

 

無理も無い。

タロウとメビウスの最後の手段とさえ言われている、ウルトラダイナマイトとメビュームダイナマイトを掛け合わせた技は、確かに強力ではあった。

 

だが、その反動は如何に鍛えられた八幡でさえ耐えられるモノでは無かった。

 

何せ、元の技であるウルトラダイナマイトも、メビュームダイナマイトも使用者の命を削る技として存在している、いわば最後の手段そのものなのだ。

 

それを掛け合わせて使用するとなると、自らの身に返ってくる反動は倍、否、相乗効果も相まって計り知れない程だったに違いない。

 

だが、こうして八幡が生きているのは、一重に彼の鍛錬を重ねた身体の頑丈さと若さゆえのスタミナだった。

 

『アストレイキラーを倒すとは見事なり!だが、貴様はこれで戦えまい!!』

 

それでも動けない程に消耗しきった八幡を嗤う様に、ヤプールは高らかに宣言していた。

 

もう戦えないだろうと、トドメを刺してやると言わんばかりの様子だった。

 

『この場で終わらせてやろう!ティガよ!弟子を目の前で消される苦しみ、味わうが良い!!』

 

「く、くそっ・・・!!」

 

それに返す余裕も無く、八幡は大地に身を投げ出し、身体を動かす事が出来なかった。

 

それほどまでに、身体を苛むダメージがあまりにも大きすぎたのだろう。

 

だが・・・。

 

『ほう、俺の事をよーく知ってる割には、煽り方が下手だな。』

 

その宣言は、悪魔の逆鱗に触れる事になる事を、ヤプールは失念していたのだ。

 

『何っ・・・!?』

 

気付いた時には時既に遅し、闇を纏った影が割れた空まで接近しており、血の池の様な空間からヤプールを引きずり落とした。

 

その黒い影は落下の勢いそのままに、ヤプールを地表に叩き付けた。

 

『き、貴様はぁぁぁ!?』

 

『よぉく知ってるだろう?俺はティガアナザー、お前を倒す者だ。』

 

激昂するヤプールを嘲笑う様に、その黒い巨人、織斑一夏が変身するティガアナザーは宣言していた。

 

「せ、先生・・・!」

 

『八幡、休んでいろ、選手交代ってヤツだ。』

 

自分を呼ぶ弟子の声に返しながらも、その意識は八幡からヤプールへと直ぐに切り替えられていた。

 

ヤプールに向けられた視線には、克明な怒りの炎が燃えており、何時でも焼き尽くしてやると言わんばかりだった。

 

『八幡がアストレイキラーに完勝していたらお前はとっとと逃げただろうが、都合が良い事に彼は今起き上がれない、お前に取っちゃウルトラマンを消せる絶好のチャンスだ、みすみす逃げる訳にもいかなくなっただろ?』

 

『き、貴様・・・!このヤプールを誘き出すためにわざと・・・!?』

 

一夏が語る内容に、ヤプールは完全に呑まれていた。

 

人を弄ぶ事に定評のあるヤプールが、伝説的な戦士とは言え、まさかウルトラマンに嵌められてしまうとは考えもしなかったのだろう。

 

『あの屑共も、こういう手を使ってきたからな、俺も使わない手は無かったよ。』

 

『おのれぇ・・・!弟子さえも利用してまで、それほどまでにこのヤプールを消したいのか!?』

 

何処か憎悪を滲ませる声で朗々と話す一夏に、ヤプールは苦し紛れに叫ぶ。

 

お前も所詮、敵を葬るために弟子を瀕死にまで追い遣ったと、それを嘲笑うようでもあった。

 

だが・・・。

 

『利用だと・・・?ふざけるなよ・・・?』

 

それは、一夏に対する最大の侮辱でしかなかった。

 

『確かにお前を誘き出すために八幡の戦いをきっかけにしたさ、だがな、俺は本当ならコイツ等を戦わせたくなんて無かったんだよ!!』

 

本当ならば、この一件に纏わる全ては自分と、アストレイメンバーでケリを着けるべき問題なのだ。

大決戦に参戦していた、光の勢力の尻拭いをしている様な感触もあったが、それでも参加していた者がケリを着けるべきなのだ。

 

そこに誰かを巻き込むなど本来ならば支度は無い。

それが、自分を師と慕う少年少女ならば尚の事だった。

 

『だからここでお前を消し去ってやる、八幡の敵討ちも兼ねてな!!』

 

完全に消し去ってやる、その宣言と共に、彼はティガアナザーの身体から強烈な闇の力が解放される。

 

その圧力は、邪な存在であるヤプールさえ圧倒してしまうほどだった。

 

『こ、これほどとは・・・!これが、光の戦士でありながら、闇の力を手にしたウルトラマンの力・・・!!』

 

『驚いてる暇なんてねぇ!!』

 

気圧されてしまったヤプールに、彼は一瞬で接近し、闇を纏った拳を叩き付けた。

 

『ぐおぉぉぉっ!?』

 

その凄まじい力に、ヤプールは大きく吹っ飛ばされ、盛大に地に叩き付けられた。

 

嫉みや恨みの力で力を増すヤプールに、一夏はそれを上回る怒りの闇を叩き付け、圧倒してしまっていた。

 

『どうした、異次元人の力はそんなもんか?1000年前にアイツをゴルゴダに磔にした時みたいに暴れてみろよ!!』

 

だが、それで満足など出来なかった、

一夏はヤプールに馬乗りになり、その拳に纏った光と闇のエネルギーを叩き込み続けた。

 

一撃一撃が途轍もない威力なのだろう、ヤプールはティガアナザーを振り払う事さえ敵わず、地震かと錯覚するほどの凄まじい衝撃に襲われていた。

 

『ぬぉぉぉ・・・!!や、やめろぉぉぉ・・・!!』

 

『見苦しい!貴様はやめなかっただろうが!!』

 

命乞いとも取れる足掻きを一蹴し、彼は首を締めるようにヤプールの身体を持ち上げながらも、何度も叩き付ける様に蹴り付けた。

 

その無慈悲なまでの戦い方は、弟子に教えている様な、実戦向きの戦い方では無く、彼自身が培った戦闘方法を怒りに任せて開放している様にも取れた。

 

「せ、先生・・・。」

 

なんとか俯せになり、上半身を起こすだけの体力が戻った八幡は、目の前で振るわれる圧倒的な力に戦慄していた。

 

以前見た時よりも更に、容赦と言うモノをかなぐり捨てた暴力に、恐怖しか感じ取れなかったのだ。

 

あれが本当に、織斑一夏が変身し、戦っているのか。

自分が見て来た師は、あそこまで苛烈だったか。

 

彼は今、自分が何を見て来たか、何を想ってきたか、それさえ分からなくなりつつあった。

 

「八幡・・・!」

 

恐怖に囚われていた八幡の下へ、逃走者の追撃に向かっていた沙希達が駆け寄ってきた。

 

どうやら逃げられた様だったが、今の八幡にはそんな事など考え付く筈も無かった。

 

「さ、沙希・・・!皆・・・!!」

 

「凄い熱・・・!!大丈夫・・・!?」

 

なんとか起き上がろうとしていた八幡を抱き起し、沙希は彼の身体の熱さに驚いていた。

 

一体何をしたのだと、それを問いかけようとした彼女の目に、それは飛び込んでくる。

 

『ウォォッ!!』

 

獣の様な唸りをあげ、ティガアナザーがヤプールを殴りつけ、その巨躯を地に叩き付けていた。

 

「あれは・・・、先生が・・・?」

 

「強い・・・、でも・・・。」

 

その様子に、小町と大志は戦慄し、ただただ呆然と呟く事しか出来なかった。

 

圧倒的なまでのその力は、ただ殺意に満ちた攻撃は、彼等にとって何を思わせるだろうか・・・。

 

『この闇と光で消え去れ、お前の罪と共にな!!』

 

釘付けになる彼等の前で、一夏は何とか起き上がろうとするヤプールに、トドメを刺すべく構えを取った。

 

右腕に闇を、左腕に光を収束させ、それをL字に組んだ腕から一気に解放するように放った。

 

それは、巨大なエネルギーの奔流となって何とか起き上がったヤプールに殺到、その身体にぶち当たった。

 

『ぎぃやァァァァ・・・!!こ、この・・・!あ、悪魔めぇぇぇぇ・・・!!』

 

そのエネルギーに呑まれ、消えゆく最中、ヤプールは捨て台詞を吐き、それを最後に、邪悪なその姿は原型を崩し、盛大な爆発と共に散って行った。

 

『悪魔、か・・・、元より、ヒトである事はとっくにやめているさ・・・。』

 

何処か寂しげに、そして、諦めた様に呟きながらも、彼は組んでいた腕を解き、闇と光の粒子となって元の姿へと戻って行った・・・。

 

「先生・・・。」

 

「八幡、無事か?」

 

沙希に肩を貸されて立っている八幡に駆け寄り、一夏は案ずる様に声を掛けた。

 

実際、彼は八幡の事を実弟の様に気に掛けているのだ。

 

「な、なんとか・・・。」

 

「そうか、辛い役目を押し付けてしまったな・・・。」

 

彼の強がりな笑みを悟り、一夏は苦笑しながらも軽く頭を撫でて踵を返した。

 

これ以上ここに居ても良い事は無いそう言わんばかりの様子だった。

 

そんな彼の、何処か二の句は告げさせないと言わんばかりの様子に、沙希や彩加は兎も角、翔や小町は何処か不安げな様子を浮かべていた、

 

無理も無い。

これほどまでに穏やかな表情を見せている男が、先程までは別人のような激しさで敵を壊していたのだ。

 

そこに恐怖を感じない程、彼等は慣れてはいないのだ。

 

だが、聞けるはずも無かった。

 

何故そこまで冷徹に成れるのか。

何故そこまでして戦うのか。

 

その意味を、彼等に問えるはずも無かったのだ。

 

何せ、彼等もまた、己が脚で戦場に立ち、戦っていたのだから・・・。

 

sideout

 




次回予告

新学期を迎える彼等を待ち受けるのは、戦いの終幕か、それとも新たな災いか・・・。

次回やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている

比企谷八幡は思い起こす

お楽しみに

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