やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている   作:ichika

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比企谷八幡は敵意を示す

side八幡

 

「比企谷君、いい加減に説明してくれないかしら?」

 

川崎の深夜バイトの問題を終わらせてから数日たったある日、部室で数学の参考書を流し読みしながらくつろいでいると、雪ノ下が棘のある言葉で尋ねてきた。

 

その目は殺気を滲ませており、見る者を射殺す様な圧力があったが、ギンガとして戦う俺には気に留めるほどの事じゃないため、無視して参考書に目を通し続ける。

 

織斑先生が教える数学は俺の中にある数学の悪いイメージをかなり覆すぐらいに分かり易いから、今までの数学を軽く解いてみたらあら不思議、どういう訳かあっさり解けてしまった。

 

とどのつまり、俺の性には合ってたが、やり方が分からなかったから理解出来なかっただけという事か?

だとすれば、俺はかなり損をしていた様なもんだな、それが分かっただけでも儲けものだな。

 

お陰でこの前あった中間テストの出来はこれまでよりも一層良い。

私立文系目指してるとは言え、センター利用なら数学も必須科目になるからな。

 

「ヒッキー!説明してよっ!!」

 

うるせぇビッチ、考え事してる横で喚くんじゃねぇよ。

 

タメ息を吐きながら参考書を閉じて声の方を見ると、雪ノ下は俺を鋭い目で睨んでくるわ、由比ヶ浜に到っては怒気すら窺える目をしてこっちを見ているわで、相当険しい様子だった。

 

しかしだ、一体何を説明しろと言うのか、特に何も説明するべき事なんて無い筈だが・・・?

 

「説明?何の事だ?」

 

「恍けないでちょうだい、貴方が独断で行った、川崎さんの件についてよ。」

 

あー・・・、川崎の件か・・・、確かに俺の独断で受け持った件なのは確かだな。

 

だが、あれは依頼達成を確認した後、しっかり報告したはずだがな?

といっても、その報告もつい昨日の事なんだけどな。

 

「しただろ、川崎は深夜バイト辞めて予備校にスカラシップ利用で通う事になった、これが理解できねぇならお前の頭は帽子を乗せる為だけに存在してる様なもんだぜ。」

 

同じことを二度も言う趣味は無い、それに、俺は犯罪を助長する事をしたわけでも無い、寧ろ、それを手前で止めたまである、なんでそんな簡単な事がなんで分からないのか・・・。

 

「そういう事を聞いている訳ではないわ!どうして私達に報告しなかったのかと聞いているの!」

 

「そうだよ!奉仕部の活動なら、アタシ等全員でやるべきじゃん!」

 

俺の態度が気に入らなかった雪ノ下は烈火の如く怒り、由比ヶ浜は便乗する形で共同の必要性を叫んだ。

なるほど、俺独りで依頼を解決した事が気に喰わないという訳か、なんて傲慢な女達だ、吐き気がするぜ。

 

「それが妥当だと判断したからだ、お前らが関わった所で何にもなりやしなかった、それに、お前等じゃ解決できなかっただろうぜ。」

 

嫌気が出てしまうのを抑えつつ、俺は当て付けも込めて深くタメ息を吐きながらも話す。

 

「なんですって・・・?」

 

俺が嘲笑っているとでも感じたのか、雪ノ下は更に鋭い目で睨みつけてくる。

甘い、こんな程度で乗せられている様じゃ、三浦となんの違いも無い。

 

「雪ノ下、お前は恐らく、深夜アルバイトは法に触れるからやめろと言ってだろうな、鉄の女らしい正義の言い方だ、間違っちゃいないわな。」

 

「当然よ、法に触れているからやめる、何も間違ってないはずでしょう?」

 

やはりな・・・、目の前にある事しか見れないのはコイツもか・・・。

 

「違う、そうじゃない、間違ってるからやめろなんて言うだけなら誰だって出来る、そんな程度で解決できるならそれこそ奉仕部なんて必要ないんだ。」

 

所詮法律や制度なんてものは、大まかで一律的な決め事でしかない。

人間それぞれの事情なんて全く考慮していない。

 

だからこそ、その助け網から抜け落ちて、苦悩する人間が後を絶たないんだ。

 

そんな人間のためにボランティアや奉仕なんて概念があるというのに、仮にも奉仕部と言う看板背負ってる部が、人間の事情よりも法律や制度に違反しているから、救えないからと断じてどうすんだと言いたい。

 

奉仕の在り方というものを、織斑先生にも指摘されてたろうに。

 

雪ノ下のやり方考え方を喩えるなら、そう、まるで中世ヨーロッパ貴族が貧民に対してパンを恵んでやっているという上から目線の、優越感に浸るための偽善でしかない。

 

そんなもの、奉仕と呼べるはずもない。

もしも、それを奉仕と呼んでしまえば、そんなものは只の欺瞞に成り果てる。

 

それは、俺が最も嫌うモノでしかない。

 

「アイツの、川崎が抱えてた悩みや苦しみが分からないお前じゃ、アイツは救えなかったさ、だから俺は独断専行で解決した。」

 

尤も、俺も完全に理解していたとは言い難かったのは認めるし、反省もしている。

 

だが、だからといって助けてやる、助けてやったなんてこれっぽっちも思っちゃいない。

 

ただ、見捨てられなかった、救いたいと思ったから、俺は彼女を見詰めたに過ぎない。

 

それなのに、それすら否定するとは・・・。

 

「だ、だからと言って!独断でやる理由にはならないわ!」

 

それに、俺が奉仕部に入れられた時にいなかった由比ヶ浜は兎も角、あの言葉を聞いていた雪ノ下が奉仕部の奉仕における取り決めを覚えてない訳じゃ無いだろうに。

 

それを忘れているとすれば、コイツはただの癇癪持ちのお嬢様如きでしかない。

 

「それに平塚先生も言ってたろ、俺達は他人に奉仕した多さで勝負する、つまりは協力するとか情報を共有し合う事なんかとは無縁だろ。」

 

この条件は言わばバトルロワイヤル、誰がどんな依頼をどんな風に受けても解決しても構わない、兎に角奉仕した数を競えというモノだ。

 

つまり、俺はそれに則って行動しに過ぎず、非難される謂われは無い。

 

漸くそれを思い出したのか、雪ノ下は悔しそうに表情を歪めた。

手柄が欲しいのか、それとも俺が問題解決する事が気に喰わないのか・・・。

 

恐らくは後者か、何となく分かる気がしてしまう辺り、やはり俺は捻くれているな。

 

「で、それを思い出して尚俺を糾弾するつもりなら、それはお門違いも良い所だ、なぁ雪ノ下、お前はそんなに、手柄が欲しいのか?なら、こんな教室に引き籠ってないで、先生に言われた様に依頼人の一人でも探してくるんだな。」

 

これから先、一々口を出されるのも癪なので、きっぱりと言い切ってやる。

 

反論する手を失ったのか、雪ノ下は悔しそうに唇を噛み、俺を睨みつけていた。

 

やれやれ・・・、このお嬢様は俺が相当気に喰わないらしい。

 

由比ヶ浜がどうして俺を敵視するかは知らんが、大方、地味で根暗な俺が手柄を上げている事が気に喰わないんだろう。

 

リア充なんて、中身よりも見てくれ優先なんだ、外面が華々しくて、充実している様に見えればそれで良いんだろうな。

 

なんて欺瞞だ、そんな中で人間関係に気を遣って生きるのが本当に楽しいのか・・・。

 

ま、ボッチの俺が知ったこっちゃないけどな。

 

俺が反発するとは思わなかったのか、由比ヶ浜は俺と雪ノ下の間でおろおろしながら戸惑っている様にも見えた。

 

甘っちょろい、こうなる事ぐらい予想できただろうが。

さて、ここら辺で御暇させてもらうか。

 

「悪いが俺は帰る、ここに居たら冤罪吹っかけられそうだからな。」

 

自分でもムカつくぐらいの嫌味を吐き、俺は参考書を片付けてさっさと奉仕部を後にする。

背後から殺気にも似た何かを感じたが、取り合う必要すらない。

 

ホント、時間の無駄だ、こんな事するぐらいなら部屋の隅で膝を抱えて蹲ってた方が労力も何もないのにな。

 

帰ってマッ缶でも飲むか・・・、いや、今すぐ自販機に行って買うか?

 

「やぁ八幡君、良い言葉だったな。」

 

「うぉっ!?せ、先生!!いきなり現れないでくださいよ・・・。」

 

急に現れた先生にビビりつつ、俺は少し距離を開けようと後ずさる。

 

この人はホント、気配を消すのが異常に巧い、俺の何倍もだ。

 

「奉仕部とは、どうやら上手くやれそうにないらしいな?」

 

「盗み聞きですか?趣味が悪いですよ?」

 

ホントに抜け目のない人だ、何時から聞いてたのか、俺と奉仕部との間にある溝を見抜いてる。

 

向こうは無意識の押しつけを持っていて、俺はそれに気付いて無意識に嫌悪感を抱いてるってとこか?

いや、気付いてるのは俺と先生だけだろうな、じゃなきゃ、アイツ等ももっとまともな判断できるだろうしな。

 

「聞こえちまったんだよ、たまたまな?」

 

「そうですか、なら仕方ないですね。」

 

「ははは、良かったら何か飲みながら話すか?」

 

「是非とも、御供しますよ。」

 

悪びれない彼の姿にある種の親近感を覚えつつ、俺は先生と共に自販機に向けて歩みを進める。

 

気心しれたってほど関係は深くないけど、他人と距離を取り続けた俺が、この学内でただ一人気を許している人物という自覚はある。

 

戸塚は天使だからな、気を許すとかそんな次元にいない、天使だからな!

 

大事な事なので二回言いました。

 

「で、どうしたいんだ?なんなら俺が奉仕部を顧問ごと潰しても良いが?」

 

「どんだけ平塚先生の事嫌いなんですか?」

 

物騒な言葉には時々ビビらされるが、それ以外は俺に対する敵意や理不尽な暴言、暴力は無いから、今までにない新鮮な感覚なのは否定できないぐらいに、俺のぽっかり空いた心の風穴に浸み込んでくる。

 

まぁ、優しくしてくれる事と、利害関係の一致って言う期間が分かってるから、信じていられるんだろうけどな。

 

「彼女自身を良く思ってないのは事実だけど、平塚センセイは姉貴に似てるんだよ、横柄で、人の話をこれっぽっちも聞かない所とかな、まぁ少し、私情を挟んだ大人げない理由かもしれないがな。」

 

「姉・・・、織斑千冬、ですか・・・?」

 

そういえば、この人は、ISの織斑一夏の異次元同位体だったっけ・・・?

なら、姉貴が居たから、俺と川崎、弟妹がいる奴には親近感が湧くのだろうか?

 

「あぁ、見てくれこそ似ちゃいないが、雰囲気が似ててな、昔を思い出して、つい気が立っちまう、そんなに仲が良かった訳じゃなかったんでね。」

 

「そうですか・・・、オリジナルには、俺と同じ様な気があると思いますが・・・?」

 

「さぁな、俺が原作読んだの、体感で何十年も前の話だからな、オリジナルの事なんて憶えてないよ。」

 

・・・?オリジナルの、原作小説を読んだ事ある様な口ぶり、だな・・・?それもかなり昔に・・・?

この人、まさか・・・?

 

「話が逸れたな、まぁ、向こうから君に何かしようものなら、俺が全力で君を護るために動こう、教師として、一人の人間としてな?」

 

俺に追及される事を拒むつもりなのか、彼は少し影が窺える笑みを浮かべて俺の頭を撫でる。

 

子供扱いと言うよりも、弟がいるみたいな感覚なんだろうな、この人にとっては・・・・。

 

ま、話したくない話なんて誰にだってある、今は詮索しないでおこう。

 

そう思った時だった、不意に足元を奇妙な揺れが襲った。

 

地震とは異なった、一定の、それも歩く様なリズムを刻む揺れ、それは・・・。

 

「また、来たか・・・!!」

 

「あぁ!」

 

揺れの中を必死に走り、俺達は屋上に出る。

 

そこで俺達の目に飛び込んで来たのは、街を進撃する巨大な存在だった。

 

オオサンショウオを思わせるヌメッとした体表に長い尻尾、そして、ナメクジを思わせる角・・・。

 

ってか、あれだけ見たら、完全に手足が生えたナメクジじゃねぇか・・・?

そう考えたら怖いな・・・。

 

「エレキングか・・・、電撃を得意とする厄介な怪獣だ、あの尻尾には絶対に掴まるなよ。」

 

まーた尻尾注意系の怪獣かよ・・・!

ゴメスと言いコイツと言い、尻尾が長い怪獣は厄介って事か!!

 

だけど、逃げてられない事は分かってる、今戦えるのは俺だけだ。

 

だから、この町に住む家族のためにも、俺は戦う!!

 

「はい!行きます!!」

 

ギンガスパークを懐から取り出し、四度目の変身プロセスに入る。

 

ギンガのスパークドールズを掴み、ライブサインをギンガスパークの先端で読み込んで天に掲げる。

 

『ウルトライブ!ウルトラマンギンガ!!』

 

「ギンガーーー!!」

 

今、俺がやるべき事はただ一つ、怪獣と戦う事だけ、それが一つの真実だと信じて・・・。

 

sideout




次回予告

愛する者達に危機が迫る時、彼女は戦う道を選ぶ、それが、どのような未来に繋がっていたとしても。

次回やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている

川崎沙希は光の巨人と出会う。

お楽しみに

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